異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま) 作:ニキ/バハちゃん
「まずこれが一般的な風刃ね」
「んー、損傷は五割くらいですかね?」
「ん。で、これが……『錦』」
日は変わって再度の
家庭教師先の生徒たるざくろちゃん
誰でも使える対魔法用魔力障壁(所謂バリア)、その展開を土塊の
一つ目の魔法は前回の授業において、デモンストレーションとして俺の腕を切り刻んだ風の魔法と同じ物。
二人で威力の確認を終えた後、次いで俺が放った魔法……それこそが今回の授業の主題となる。
発射される物の形は一発目とほぼ同じ。技名だけの簡易詠唱で放たれた
「魔法防御をすり抜ける、所謂物理魔法と呼ばれるもの」
「……エグすぎる」
──損傷を負った障壁に傷一つ付けることなく、その奥にあった案山子だけに直撃し切り飛ばす。
そう、これが今回彼女に教えようとしている理論……対人戦必須の厨技、物理魔法だ。
「さっき話した原理の説明は覚えてる?」
「……通常、魔法使いは魔力を遮断するための障壁を作る際、出力を上げるために対物強度を犠牲にする。だから、魔法に似せた魔力の乗らない物理攻撃は一般的な障壁を無抵抗に貫通する……でしたよね?」
「大正解、百点満点!」
「いやでも今のどう見ても魔法だったじゃん!?」
「"一見魔法に見えてしまう、魔法で引き起こした物理現象"がコンセプトだからねこれ」
筆記等の勉強を教える自信もあったが、今日来て早々ざくろちゃんに言い渡されたのは"実力を伸ばすための指導"だった。
前回の授業で彼女に教えた理論は、パパっと実演してサッと有用性を理解して貰うのには向いてるが、習得しようと思ったらシンプルに時間が必要な技術だったりする。
(あと、アレって魔法の基礎出力跳ね上げるだけで、既存技の強化しか出来ないしなぁ)
だからこそ、俺が今回選んだ授業内容は"防御不能な魔法の撃ち方を覚える"という、言わば新技の開発だった。
「例えば魔法で石を作ったとする。まぁ石を魔法で強化するとかでもいいけど……これを投げたとして、魔力を含んでるから障壁に弾かれるよね?」
「……当然ですね」
「じゃあさ、例えばここら辺にあるただの石ころを魔法で作ったレールガンで打ち出したら、それは障壁に弾かれると思う?」
「それは……………そもそも加速に耐えられなくて石が砕けません?」
「うん正解。
「…………障壁で膜だけ割れて、石の衝撃がその内側に貫通、する?」
「大正解! 天才かな?」
原則、魔法使い同士が戦う場合、メインの攻撃手段は当然ながら魔法になる。
物理攻撃をメインに据える者等たかが知れてるが故に、障壁を組んで魔法を防ぐなら『軽減対象を魔法に限定』するのは、誰でも習う基礎中の基礎なのだ。
対物理耐性を切るということはつまり、元々そこに費やされていた分の
(その常識を縫うために、俺が作った)
石ころを一つ拾い、俺の肉体にだけ強化を施して案山子へとぶん投げる。
凄まじい
それを見たざくろは思案顔を悪戯っぽい表情に変え、意味深な目配せを送ってきた。
言いたい事は当然分かっている。再度石ころを一つ拾い、全力で振りかぶって二投目。
軌跡は先程と変わらず、ナイスコントロールで放られた礫はやがて構造を一新された障壁に触れると同時、甲高い音を立てて空へと跳ねた。
まぁ当然、今投げた石ころは対魔法障壁をすり抜けるだけだから、対物理障壁に性質を切り替えたら簡単に防げるんすよね。……てか即座に条件の切り替えが出来るの偉いなぁ。
「ドヤァ……」
「そうすると今度は普通の魔法に弱くなるんだけど」
「あぁっ!?」
適当に魔力を固め、
「ねぇこの二択ズルくない!? せんせの魔法どう防げっての!?」
「一番簡単なのは片側に特化させない物魔混合の障壁で受けること」
「……それ、リソース不足で障壁そのものの強度下がりません? 若しくは莫大な魔力が必要なんじゃ?」
「あまりにも花丸。仮に本当にそう対処されたとして、単純高火力の技叩き込めば強度下がってる分大体抜ける筈だよ」
「え? クソゲー?」
「対人戦は少なくとも大分楽になるね。……て訳で、今日はこれのやり方を教えます」
「お願いしまーす!」
さぁ、この子を殺戮兵器に改造だ!
****
「…………割に合わない!!!」
軽く90分が経過、成果はまぁぼちぼちと言ったところ。
適宜休憩と解説を挟みつつ、簡単な物理魔法を彼女に教えてはみたが……発現には成功しても、式を組む時間が長過ぎる。最初の課題はこれだなぁ。
「こう……頭の普段使わない場所でやったことない魔法の作り方してるから、一つ完成させるだけで脳が滅茶苦茶疲れるんですけど……!」
「慣れるまでの辛抱だねぇ」
「……てか上城せんせって普段からこんなことしてるの? 気持ち悪っ!?」
「そこまで言う?」
対魔法障壁を張らせたまま、物理攻撃を相手に通す。
それを成すために重要なのは、極めて魔法と見分けが付かない物理攻撃を魔法を用いて作ることだ。
「物理という弾以外、射出するための銃身全てを態々魔法で作るって、何食ってたらそんなこと思いつくんですか……!?」
「世界全土を探せばやってる人は他にも居るでしょ」
「反例の存在と希少性は別!!!」
最初に俺が見せた『錦』、あれは言ってしまえば人為的に発生させたカマイタチ擬きである。
やり方は単純、まず実際にそこに在る空気を魔力の膜に閉じ込めた後、滅茶苦茶圧縮させながら刃状に整形する。
次に、縮小させたそれ……便宜上『弾』とするが、その『弾』を飛ばすための別の射出機を手元に別の魔法で作る。
この際、『弾』の膜はあくまで『内部の物を包む性能』にだけ特化させ、射出術式も『物をズレなく正面に高速で飛ばす性能』のみに特化させておく。
で、この二つを組み合わせると……あら不思議! 外見上は100%風の刃な(殺傷性のある)ただの空気砲の完成だ!
撃つ前に外見がクソ似てる低火力の魔法を見せとくと、より初見殺し性能が上がるぞ! うーん我ながらクソ。
「やってることほぼ水風船投げじゃんこれ……!」
「あー、言い得て妙だね」
思い通りに行かなくて大分キレてらっしゃるが、それもそのはず。普通の魔法だと『弾』そのものが銃身だから、出力工程が数十倍ややこしい物理魔法は慣れるまでがかなり
……まぁその分、普段使い出来るようになっちゃえば、大体の魔法使いは二択で轢き殺せるようになるんだけど。
「…………延長っ!」
「今日はだめ。アニメの鑑賞会しなきゃだし」
「えぇー!? ……まぁそれなら仕方ないか」
納得してくれるんだ。理解のあるオタクちゃん愛してる。
最悪LINEでエミに遅れると連絡すれば延長は出来るのだが、生憎と今日は都合が悪い。
なにせ今から君には俺の家に遊びに来てもらわなければいけないからなァ……!
「私の誘いを断るということは、さぞや面白い物を見るのだろうねぇ? ……あ、名作履修?」
「唐突なキャラ変やめてね。いや、この前言ってた異世界の子n──」
「何見せるか決まったの!?」
「顔近」
相も変わらずの
好奇心の前に距離感も羞恥心も働かないのはお兄さん不安だよ、これで行動力があるんだから何時か悪い人に騙されそう。具体的に言うと俺とかに。
「──そう言えばざくろちゃん、前にアニメ初見視聴する際には自分のこと呼んでって言ってたよね?」
「わぁすっごい偶然のタイミングで過去の発言引用しましたね! まるで会話がこうなることを見越して用意してたかのような自然な導入じゃん!」
「自然な導入言うな」
「私風に言い換えると作劇都合」
「Web小説家らしい語彙ですね」
朗報・ざくろちゃん、想像より
あと、地味に
「お家に誘われてる認識で合ってます? 男の子の」
「自分から遊びに来たいって言っといてその言い方は卑怯では? せめて友達って言ってくれない?」
「
悲報・俺氏、女の子を自分から
……地味にエミにもしたこと無くないか? あの子気付いたら一緒に暮らしてたし。
「おっとこっのこに〜♪ お
「じゃあ危機感持って?」
「
「邪気て」
「邪気は邪気だよ。趣味の一つに触れる機会が多いのがあって割と敏感なの。……ま、代わりに打算は偶に感じるけどネ」
図星である。現状この子に関わってるのって俺側の都合でしか無いからね。
もう友達だとは思うけど、根幹にある関係性の名はビジネスだ。仲の良さを語るには、余りにも過ごした時間が無さ過ぎる。
「録画機材ある? カメラとかマイクとか」
「一般家庭にはありません」
「なら持ってくるからちょっと待ってて! ……こんな面白そうなこと、録画しないなんて嘘だし!」
……俺より状況を楽しんでて何よりだけど、逆にざくろちゃんは何でそんな物持ってんだ……?
****
「あら可愛い」
「上城
「脚」
「うーん私に限りギリ正解、事実
自転車を押してとことこ歩く俺と、その隣を肩掛けカバン一つでスタスタ歩くざくろちゃん。授業中は運動用の上下ジャージだったのだが、機材を異次元バッグに詰め込む際に、ついでとばかりに着替えてきた彼女は今や、歩く度にスカートの裾がふりふりと揺れていらっしゃる。
恐らくキャミソールの一種であろう、鎖骨辺りまで露出されたトップスに、薄手のスポーティなパーカーを前開けで羽織り、二段構造のフリルスカートに黒いニーソックスで決めた彼女は、ファッションに疎い俺でも本心から"似合っている"と思える出で立ちだった。
同年代の子と比較した時、ざくろの身長は低い方に分類される。体格も小柄で……言っちゃ悪いがロリ寄りの体型である彼女は、然しながら自信満々に、その個性を活かす服を選んで着ているのが見て取れる。
バッグに付いてるキャラクターバッジの数々すら個性──うん、個性だな、個性としよう──の一つとしてざくろの人間性を表していて、若干のあざとさへの良いアクセントとして作用してる。
──余談だが、ざくろの太ももの肉付きは細い方だった。ただ健康的な範囲ではあるから、本人の言う通り実にニーソックスが似合っている。……これ、本人が言ってるんだからギリセクハラに当たらないよな?
「オタクなんて皆ニーソックスが好きだからねー、自分が似合う側の人間ならじゃんじゃん履き散らして行くべきだよ本当に」
「ざくろちゃんは人類史における宝なのかもしれない」
「上城くんはニーソ好きぃ?」
「ニーソは好きだけど、例えば原作でニーソを履いてないキャラがファンアートとかで原作衣装のままニーソだけ履かされてるの見るとブチ切れそうになる」
「キモイけど凄く分かる」
キモイかぁ。いや実際キモイ拘りかもしれないけどさぁ。
オリジナルキャラクターだとか、或いは全く別のキャラクターの衣装だとか、ただのコスプレとかなら別に気にならないんだけど、衣装の90%前後は原作そのままなのに靴下の丈だけ変えられてるキャラの絵がタイムラインに流れてくると、何とも言えないやるせなさに苛まれるんだよね。
例えばこの
我ながらとても面倒臭い拘りだと思うけど、それを
今まで誰にも話していなかったことだと言うのに、この子には気負いなくネタに出来てるのは何なのだろうか。その上同意までされてるし……まさか生き別れの兄妹か!?
「ねぇねぇ上城くん、これってもしかしてデートかな?」
「クリアチェッカー案件おめでとう」
「雑!」
雑談に花を咲かせながらの帰路にして進路の途中、チェックポイントに着いたので一度自転車を留めて、開く自動ドアの先へといざ道草。
異世界から帰ってきてから二度目のコンビニ、前回との差異は連れてる女の子が違うとこ。わぁいまるでリア充みてぇな生活だぁ(偏ってる貧弱な想像力)…………エミと暮らしてる時点で自認に関わらず相当なリア充か(気付き)
「アニメの鑑賞会するならお菓子とジュースが無いと!」との事で只今物資の補給中な訳ですが、映画見に行く観客気分過ぎるだろコイツ。
これが紛いなりにも(恐らく?)初めて男子の家に行く、会って二回目の女の子の胆力なのだろうか? 人見知りとは無縁かこの子?
「……お菓子もそういや初めてか?」
「え゛……おいそれ早く言ってくれん!? ならいっぱい色々買ってこう!」
「お、なら炭酸もいっとくか。この前ドリンクバーで試す機会はあったんだけど、ワンチャン店の迷惑になるからやめたんだよね」
「よしきた! 微炭酸から強炭酸まで買っていこう! あ、炭酸飲める?」
「キツイのでなければ。内臓が貧弱なの」
「うわぁ、それはお大事に」
一時期栄養失調で消化器官弱ってたからねぇ、それとは別に単なる運動不足なのもありますけど。……腕の細さとかほぼ変わらないからね
ぽいぽいと買い物カゴに商品を突っ込んでいくざくろさんですが、目線の動き的にどうやらこの子値段を見ていないみたい。……思えば家庭教師を自分の意思で頼めたり、謎に潤沢な録画機材を持ってたりと、いいとこのお嬢さんだったりするんだろうか? その割に服装がラフだったり言動がアレだったりと、この子への謎は尽きないなぁ。
「……3892円です」
「「カードで」」
物色の後に着いたレジ。店員さんのお告げに対し、特にコンタクトも無かったので財布を取り出しながら支払い方法を述べれば、綺麗なくらいに言葉がハモった。
無言の目配せの後、俺は財布から二千円を出してざくろに渡す。意図を理解したざくろは受け取ると同時、空いた片手でカード払いを済ませてくれた。実に平和。後ろの人は時間かけてすみませ……居なかったわ、なら良いか?
「ありがとうございましたー」
「「ありがとうございましたー」」
割と重めなレジ袋に詰められた戦利品達。直ぐ無くなる嗜好品としては中々のお値段ではあるけど……まぁ、今日くらいの豪遊は母さんも許してくれるでしょ。
「ふんふふーん♪ 初めて友達と割り勘したー♪ ……そういえば結局何
「それがですねざくろさん、実は決まってないんですよ」
「ずこー!」
るんるん歩きしながら声だけ迫真なの不覚にも笑ってしまう。今日本当テンション高いねぇ君?
「候補は幾つかに絞ったんだけど……まぁ、最終選考は
「リストは?」
「ん」
「……あーね。でも私の予想とちょっと違ったなー」
スマホのメモにまとめておいた例の『スレ』をざくろに見せると、返ってきたのは予想外の言葉だった。
……この子のことだから何かしら考えてきてるのかなぁとは思ってたけど、予想と違う?
「これ決定権貰えるなら多分私、この中のどれでも無いの選ぶけど」
「えー? 自信の程は?」
「マジのガチ。少なくとも過去に覇権と呼ばれてはいる」
「……ほう?」
さらさらの黒髪が風に揺れ、塀から生じる日陰はまるでマスクのように顔半分を/状に切り割いた。
陰影の濃淡。自然が生んだ刹那の光の境界線。
シアンとコバルトブルーに分かたれてしまった美しい色彩はこの一瞬に限り、まるでオッドアイのように煌めいていて……
「そう言えば覇権ヒロインってその年に出た同人誌の数で決まるよね?」
「黙れば?」
……
備考:気軽に吐かれる新君の"可愛い"
人生の経過年数が肉体年齢+7年のため、新くんは同年代の子に対して無意識に『後方腕組み保護者面』から『年下の子に対して言う感じの気軽さで可愛い発言』を繰り出します
自分では気付いていませんが、まぁ傍迷惑でチャラい男ですね
用語:物理魔法
要は『傍目には魔法に見える、実際には拳銃から撃った銃弾』のこと
この作品の世界観(主な防御方式)的に、魔法熟練者程刺さりやすい極めて悪辣な性質を誇ります
用語:自己干渉セーフティ
1-2-B3でカットされた区間に新がざくろに見せた技術
軽くさわりだけ話すと、"なんで魔法使いは手に炎とか出しても手が燃えないの?"を、無意識のセーフティじゃね? で処理したやつ
作者は"勉強を教えるシーンにおいて『ここはこの公式を使って──』『なるほど!』"とかいう描写が極めて嫌いですが、尺の都合で削りました
理屈は用意してるけど、文章量考えたらここで積めねぇ! やるなら二章の方が綺麗か? 書いても書かなくても物語進行に関係するか? で泣く泣く飛ばしました。許し亭許して
用語:人生の
コミカライズか書籍化が私のプラチナトロフィーですかねぇ……メタネタやパロディの墓場過ぎて鬼のようなハードルしてますけど
用語:このすば、及びめぐみん
角川スニーカー文庫発『この素晴らしい世界に祝福を!』の略称、及び作品内に出てくるキャラクターの名前
元はなろうで連載していた作品
ギャグセンスで勝てる気がしねぇけど、いせぬまの目指す方向性はかなり近かったりします
推し? アイリスですが?
用語:覇権ヒロインの条件
酷い暴論ですね(棒読み)
昨今はゲーム(特にソシャゲ系)原作の同人誌がメインとなっていますが、一昔前は艦〇れや〇方プロジェクト等を除けばアニメ作品の同人誌が大半を占めており、その頃であればある程度信頼のおけるデータだったりしません? しないかなぁ?
尚、覇権アニメに主語を変えようとするとポプテピピックと昼メシの流儀とヤニねこがノイズ過ぎるので気をつけましょう