異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま)   作:ニキ/バハちゃん

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1-3-S:義理の兄妹関係が出てきたからといってその全てにラブコメ要素がある訳ないだろ

 上城新という子供は、昔から何をするにも遠慮がちで、自分より他人を優先するような子だった。

 まだ母親(妹)が生きていた頃でさえ、自分のためより人のために何かをする時の方が積極的で、人の喜ぶ声や言葉を嬉しそうな顔で受け止めていたのを覚えている。

 そう躾けられたとか、そう教えられたのではなく、きっとそれは生来の気質だったのだろう。

 一つ年下にあたる家(うち)の子と遊べば、知る限りの全てにおいて、彼は彼方(娘)の好きにさせてあげていた。

 砂場で一緒に山を作って、おもちゃのおままごとに楽しそうに付き合って、やったことのないゲームで不器用に対戦して(容赦なくボコられて)。

 他人の──親戚の親目線で語るなら、新君は本当に良い子で助かった。自分の子供と嫌な顔一つせず、何でも楽しそうに遊んでくれるのだから。

 

 ──そんな彼に趣味と呼べるものが無いことを知ったのは、彼を引き取ることになってからだった。

 

「ただいまー」

「──おかえりー」

 

 一年程前に、我が家に新しい家族が出来た。

 クソ野郎に虐待を受けていた少年は、昔見た時の印象から表面上は何も変わってないように見えた。

 少し死んだ目をしてはいたけれど、例えば世界に絶望しているだとか、身体機能に問題が出来ているだとか、そんなよく聞くような被虐待児特有の外傷は何も無く。

 ただ粛々と、申し訳なさそうに、『ご厄介になります』と頭を下げてきたのを覚えている。

 

 趣味(好きな物)を見付けるべき年代を人の都合によって破壊され、されど自分より他者を優先する気質は変わらず生きた少年は、持つ必要性の無い罪悪感を抱きながら家に来た。

 

『自分より辛い目にあっている人なんてこの世界には沢山いるのに、自分だけが悲しい思いをしてるだなんて世界を呪っちゃいられませんよ』

 

 少年は困ったように笑った。

 普通に生きてたら思う筈の無いような、辿り着くことが無いような哲学は──きっと、獄中の彼の父が施した洗脳(遺した呪い)だった。

 

『それは、今、君が! 傷付いて悲しい思いをしているのを堪えなきゃいけない理由にはならないでしょうが!』

 

 少年は表面上、昔から何も変わってないように見えた。

 歪な環境で、それでも昔の性格のまま成長して。出来上がってしまった壊れた子供は、私が事態(虐待)に気付き警察に通報するまで、誰にも一切助けを求めた形跡が無かった。

 私からの干渉に、ただ申し訳無さそうに『手間をかけさせてしまった』と自己嫌悪している節さえある少年は、自分は家族ではなく居候の身分であるという認識を長い間崩すことはなかった。

 

「お兄どんな様子だった? ちゃんと生きてるあの人?」

「元気ぴんぴんではありましたよ、まぁ案の定ご飯はまともに食べてませんでしたけど。ゴミ箱覗いたら大量の飴玉袋とカップ麺の残骸がありました」

「はぁ…………あいつマジで、ただでさえほっそいのにご飯すらまとも食べてないの終わってなーい?」

「あの子に人間の脳はブドウ糖さえあれば機能すると教えたのはかなちゃんですよね?」

「それでその内異世界召喚(アッシェンテ)されそうな生活を実際に送るような兄が出来上がるなんて予想出来るわけないじゃん?」

「なんならされた後でしたけど」

「ママー? ネタ振ってきたのそっちなんだから適当に返すのやめてー?」

 

 ──ソファにぐでーっと寝っ転がってSwitch2を弄る愛娘、彼方(かなた)ちゃん。

 脱色の過程で絶賛プリン頭と化している、私の英才教育(・・・・・・)を受けたこのぐうたらオタクっ子が、そんな義兄の心の壁を溶かしてしまうのだから運命というのは不思議なもので。

 

 これまでごまんと見てきた『再婚や養子縁組等で義理の兄妹となった相方に恋愛感情を持つ展開』……なんていうのが起こったわけじゃない。

 没頭するような趣味も無く、申し訳無さそうな顔を貼り付けて同居してるだけの隣人に、この子がしたのはただの自分の趣味の押し付けだ。

 年を重ねるごとに対人能(コミュ)力が下がっていく彼女をして『見るに見かねる……!』と言わせた新君に、愛娘は有無を言わさず自分の好きだったコンテンツを徹底的に布教した。

 

 

『はいこれ私が好きな曲のプレイリスト。趣味が無いってんなら時間あるでしょ? 全部聴いて』

『この中で知ってるアニメある? ……は? そもそも今までまともにアニメ見た事ないぃ!? なら今から私の好きなアニメの鑑賞会するよ付き合って!』

『お兄動画とかまるで見ないの? なら私のお気にの実況シリーズ渡すから全部観て後日感想会しよ? てかする!』

『ここの本棚にある漫画とラノベ、好きに持ってって読んでいいからね。てか読んで? あ、ついでに整理整頓もしといてくれない?』

『お兄お兄、次は──』

 

 

 何の趣味も無かった少年に、彼方はひたすらに自分の好きを共有し続けた。

 かつて見た光景の延長線上で、昔と変わらない関係のままに、娘は自分の好き勝手に義兄を振り回して……やがて少年は、私達に自分の意思をちゃんと話せるように変わっていく。

 

 どんな曲を好きになったのか、今何に興味があるのか、どのキャラクターが気に入ったのか……押し付けられた物の全てを律儀に制覇した新君は、そうして自分の好きな物を語れるようになったのだ。

 

「新君のことが気になるならかなちゃんも一緒に来れば良かったのに」

「私、ブラコンじゃありませーん。義理の兄の一人暮らしの様子を態々自分の足で見に行く程、お兄に興味持ってないでーす」

「へぇ〜……?」

 

 無理矢理見付けさ(作ら)せた当の本人はこう言うけども、あの子が若干のシスコンを患うレベルで構い倒しといてその言葉はダウトにしか聞こえないのよね。

 

 ゴロゴロとソファで寝返りを打つ愛娘はここ最近いつもより元気が無い。つまらなそうな顔でぽこ〇(ポ)ケをプレイしている思春期真っ只中のかなちゃんの眼前に、私はある写真を映したスマホの画面をズイと差し込んだ。

 

 

「何この『私で童貞捨てたくせに』ってタイトルの同人誌がコミケで絶対出てそうな雰囲気の美少女ちゃんとお兄のツーショ」

「新君が今同棲してる彼女さん(大嘘)」

 

 

「は?????」

 

 

 ──今日も上城家は平和である。




用語:人間の脳はブドウ糖さえあれば機能する
ノーゲーム・ノーライフから抜粋。アッシェンテもそこからのネタ

備考:上城彼方
新君の義理の妹にして、何一つ趣味の無かった"生きているだけ"の新君にオタク文化を叩き込んだ張本人。黒髪の金染めが抜けてきた時特有のプリン頭愛好家
異世界から新君が帰って来れたのは大体この子のお陰だったりする上、今彼がエミに布教している物も彼方から貰った物のため、この子がいなきゃいせぬまは始まらなかったりする

余談:実際私の近辺においてアニソンランダムダンスという文化が通じた人間は一人もいません
悲しいなぁ
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