異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま)   作:ニキ/バハちゃん

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1-4-A3: 地方に住んでる人間は現実で生のコスプレイヤーを見ることは普通に生きてたらまず無いです

 別段都会生まれという訳じゃなく、サブカルチャーに触れ始めたのが中三からな俺は、この手のリアルイベントに参加するのが初めてだ。

 誘われるがままに付いてきて、しょうもない会話で気が逸れてはいたのだが……こうして実際に会場に近付いてみると、まるで異世界に迷い込んでしまったかと錯覚するほどの、体験したことの無い非日常がそこに広がっていた。

 

「──ま、街中をコスプレイヤーさんが練り歩いているっ!?」

「〇(タ)フみたいな言い方やめてね」

「わぁー……!」

 

 カンカンカンと鳴る踏切を渡り、ざくろの案内に付いてく俺達が今すれ違ったのは、恐らく原〇(神)のコスプレをしていた談笑中のお姉さん方だった。

 ここが店に並んでいるようなおしゃれな服装の人や、スーツを着た社会人が出歩く普通の街中であるのは間違いない。

 例えば街灯や看板等に飾り付けがしてあるとか、店に特別な垂れ幕や暖簾が出てる訳でも無く。普段と変わらないだろう景色の最中に、その異常は堂々と各所に存在した。

 

(……凄い、生きてて生で初めて見た)

 

 地方在住の遠出をしない人間が現実でコスプレイヤーを目にする機会なんてのは、普通に生きてる限りまず無くて。

 SNSで時たま流れてくる写真くらいでしか見た事の無い、自分の全身で好きを表現している眩しい人達が、今日この場に楽しそうな顔で一堂に会している。

 黒や茶に混じるように、赤や青の髪色の人達がここには何人も歩いていて……今まで燦然と輝いていた絹糸のような銀髪を持つ少女は、ここではよくある個性の一つでしかない。

 

「アラン! ざくろ! 可愛い服を着た人がいっぱいいるわ!」

「〇(プ)ロセカやホヨバー〇(ス)系の人が今回は多いねー……あっ! あの人達暗〇(殺)教室併せしてる!」

「…………待って!? ねぇざくろあの人ってもしかして……!」

「六花たそコスの人が今日ドンピシャで居ることある!?」

「……(元気だなぁ)」

 

 はしゃぐ二人の少女達につられるように、失礼にならない程に周りを観察するが……本当に多種多様なコスプレしてる人がいるなぁ。

 この前のとある事故(1-1-B1参照)で初期化した俺のスマホであるが、あれにソシャゲは(・・・・・・・・)消す瞬間に一つもない(・・・・・・・・・・)。世間で人気と呼ばれるゲームアプリは触りだけ知ってるくらいの知識のため、名前まで分かるキャラクターは少ないのだが、ゲームキャラのコスプレをしてる人達がまず結構な割合で居る。

 分かる範囲で挙げるなら……原〇(神)、スタ〇(レ)、ブル〇(ア)カ、〇(プ)ロセカ、FG〇(O)、〇(ア)イマス辺りだろうか。他には兵器の擬人化系列のキャラっぽい人もいるが、エアプの俺にはあれがNI〇(I)KEかアズ〇(レ)ンかドルフ〇(ロ)か艦〇(こ)れかの判断は付かない。

 

 そして当然ながら漫画やアニメキャラクターのコスプレをしてる人も居て、その中でも漫画なら東〇(リ)べや鬼〇(滅)、アニメならリゼ〇(ロ)や転〇(ス)ラ等の衣装を纏ってる人を特によく見かけた。

 ただ、最近の人気キャラクターに扮する人ばかりかと言えばそういうわけでもなく、なんならソシャゲよりタイトルの母数が馬鹿みたいに多いが故に、俺の知らない作品のコスプレをしてるだろう人が数え切れないくらい居た。

 

(ボカロ組や東方も当然いるけど……Vtuberコスの人も結構いるなぁ)

 

「電車内でコスプレしてる人は見なかったのに、降りた途端こうして急に増えると変な感じね」

「来る時間によっては一緒に乗ってたかもよ? ……本当は今日私も10時入りする予定だったんだけど、それくらい早いと電車内で見かけたりしたかもね」

 

 ……10時入り予定だったなら、何故デッドラインにだけアラームかけてたんだこの子?

 

「あれ? 更衣室があるんじゃないの?」

「……無いイベントも結構あるよ。そういうのは着たまま家出たり、前日入りして宿取ったり、会場近くの別の着替えれる場所借りたりするの」

「思ったより大変!」

「あー、それで会場付近で急に増えたように見えたわけか」

 

 疎(まば)らに歩行者が行き交っていた会場までの道中は、目的地に近付くにつれて明確な人の流れが生まれだす。

 幾つかの屋台が並び始め、明らかに上がっていく人口密度。そこに居る人の内訳は6~7割程が私服の見物客で、残りを占めるのは色彩豊かなコスプレイヤー達だ。

 交通規制された道路が囲むだだっ広い公園のその空き地に、所狭しと押し寄せる人垣を──その中から主張するとある反応を、視界の端に捉えた。

 

「……あらほんと。魔法使いが何人かいるわね」

「衣装も魔法式埋め込まれてるし、あの制服絶対普段使いしてるやつだろ」

「えごめん二人とも、軽く500mは先の滅茶苦茶な人混みから的確に魔法使い見つけるのやめてくれる? 私まるで分からないんですけど?」

「17人?」

「衣装に魔法式まで編まれてるのは14人かな、一人ガチガチの装備で会場遠巻きに見てるけどアレ多分魔導管理局の人だよな?」

「魔法が一般人に曝露されないか監視に来てるってとこかしら? 身体強化すら使ったらえらい目に遭いそうね」

「そこまで分かるともはや怖いって……! あ、ほら二人とも! 更衣室見えてきたから別れるよ! あっ……じゃなくて、上城くんも早く行った行った!」

「あ痛っ!?」

 

 何かを誤魔化すようなざくろから背を勢いよく叩かれ、思わずつんのめる俺に軽く手を振るエミと共に二人が去っていく。

 ワンチャンセクハラになるからと後ろ姿は見送らないが、流石にざくろには恨みがましい目を向けさせて貰っていいか? 今日俺理由不明のじゃれ合い(マイルドな言い換え)に遭いすぎじゃね!?

 ……少し痛いと思ってしまうほど、貧弱なフィジカルが情けないなぁ。

 

 

 

 

「あ、すみませーん」

「いえ゛っ……こちらこそ」

 

 

 ……不注意でぶつかった人の外見がパッと見完全な美少女で変な声が出るなどしたが、声帯はちゃんと男性で落ち着いた、ここは男子更衣室。

 ムキムキタンクトップの兄ちゃんや、少し背の低いロードレーサー乗ってそうな冨岡主将(弱虫ペダルのコス)、女子にしか見えないのに喉仏を持つ男の娘から、髪の中心から左右で色が違う紫パーカーを着たイケメンさんまで。様々なカオスが入り乱れ、受け入れられているこの空間で……俺はどこか居心地の悪さを感じていた。

 

(…………着たくねぇなぁ)

 

 ──出立前エミに持たされた、異世界で俺(アラン)が着ていた制服。

 

 今改めて目にしたそれを前に、どうしようも無く立ち尽くしている。

 

 厨二病的観点から見れば、その服は間違いなくかっこいい代物だった。

 美術的観点から見れば、その服は紛れも無く職人の技巧の粋が込められた、美しい芸術品だった。

 保存状態は完璧で、傷もほつれも何一つ無く、光に当てれば水晶玉のような艶を出す、紛れも無い一級品の戦闘服は……然しながら、絶望的なまでに、今の俺には似合わない(・・・・・・・・・・)。

 

「身長や肩幅も、そうだけど……」

 

 これが仮に、身長も肩幅も合ってないだけの、自分の好きなキャラクターのコスプレ衣装だったのなら、きっと何の葛藤も無く着れていたのだろう。

 数々の作品を視聴し、何百人ものキャラクターの哲学に触れてきて──"好き"だという自身の衝動は何にも、誰にも、邪魔される筋合いはないと、ちゃんと知識として知って(学んで)いる。

 コスプレ衣装を似合ってるから着る、似合ってないから着ない、ではなく。

 好きだから、好きを表現したいから、人の目なんて気にせず似合ってなかろうと着るキャラクターがいた。

 

 そのキャラクターの話を見て、聞いて、知って、学んで、理解して、覚えていて、分かっている。

 

 これはそんな話か? ──答えはNOだ。

 

「……お兄さん、どうかしましたか? もしかしてトラブルだったり、します?」

 

 声をかけられ、振り向けばさっき見たツートンヘアーのイケメンさんが居た。

 少し年上っぽい、けど身長は俺と大差ないその人は、心配そうにそう聞いてきて。

 イベントまであまり時間が無いと言うのに、ああ、いい人だなぁと……彼の伸びた背筋と、ぴしっと自然に前を向いた足を認識しながら、答える。

 

「……いえ、何でも。お気遣いありがとうございます!」

「え? そう……? ほ、本当に大丈夫?」

 

 鏡越しに見える自分の姿。

 染み付いた猫背で、軽度のがに股がデフォルトな、貧相な体の少年が、凡そ似合わないだろう漆黒の服を抱いている。

 その服が似合わないのでは無く、相応しくない少年がそこに居た。

 ネイルまでしていたお兄さんとは大違いな、貧相な少年がそこに居た。

 実質的な遺品であるその服に袖を通すには……その少年の出で立ちは、性根は、生きてきた無気力な軌跡は──

 

 今の俺がこれを着た姿を、俺はアラン(・・・)に誇れ無い。

 

「そうですね……大事な友達(・・・・・)の衣装を間違えて持ってきちゃったみたいです」

 

 あの子の生きた軌跡を穢してしまう気がした。

 やがて決心した答えは……尊重(◼️◼️)。

 澄み切った(割り切れた)笑顔をイケメンさんに返して、彼の服を丁寧に畳んでケースに仕舞う。

 

(……二人には悪いことしちゃうなー)

 

 尚もこちらを気にかける様子のイケメンさんに何でもなさそうに手を振って、カオスの坩堝の出入口へと足を踏み出して。

 

 私服のまま、入った時と同じ姿のまんま、俺は更衣室を後にした。

 

 

 

 ******

 

 

 

「…………あんたさぁ」

「言い訳は特に無し! 強いて言うならやっぱ恥ずかしくて着れなかった! ごめん!」

「………………はぁ(無言のジト目)」

 

 少し露出の激しい、いつもの制服に身を包んだエミに平伏するも、彼女から返ってくるのは心底呆れたため息のみ。

 

 異世界のデフォルト衣装だった特待服。その胸元には赤いデカリボンが通されていて、指はピチピチの黒手袋で包まれている。

 日本に来てから着崩していた、軍服チックな黒制服の完全体は、追加された最大のアクセント(胸元の赤いデカリボン)によって学生感を一気に引き上げていた。

 

(……てか、リップしてる?)

 

 こちらに聞こえないよう何事かをボソリと呟いてるエミは、普段より唇が確実にぷるぷるしてる。

 ざくろにやって貰ったのかな? と考察するのと同時、"あっそうだ!"といった感じでジト目から笑顔に表情を変えた彼女は、横に居た少女の腕に抱き着いて俺の前へ自慢するように引きずり出した!?

 

「てか! そんなことより! ねぇ見なさいよざくろの衣装! 超超超可愛くない!?」

「──うん、それはそう。クソ可愛いねぇざくろちゃん!」

「……ありがと、それはありがとうなんだけどさぁ……」

 

 俺の存在価値(そんなこと)なんざ今はメインじゃねぇ! とばかりにお出しされたざくろのコスプレ姿は、事実俺みてぇなどうでもいいことなんて無視していいくらいには、本当に似合っていて可愛かった。

 普段の肩までの長さのツーサイドアップをどうやって収めたのか不思議なくらい、完璧に隠れてる黒髪に代わるのは透き通る青緑色(シアン)。

 腰まで伸びるツインテールを引っ提げて、どこかいつもより大きく見える瞳は馴染み深い碧眼(カラコン)だ。

 首から下を覗けば着崩された白い学生服に深い青色のパーカーを羽織っており、腕にはふりふり揺れて可愛いリングアクセサリー(オタク無知罪)が装備されている。

 腰から下は黒色のミニスカートとニーソックスに、ふくらはぎ丈の青いラインの入ったこれまた黒いブーツを合わせている。

 

 そこはかとなく低い身長、少しだけ主張する胸元、細い四肢。恐らくオリジナル衣装っぽい学生服に、マジでまんまなコスプレウィッグ。

 

 言っちゃ何だが体型がそもそも近かったのもあって……今の瑞希ざくろは、どっからどう見ても電子の歌姫(・・・・・)・初音ミク(・・・・)さんだった。

 

(……いやマジで似合ってる。衣装も髪も着られてる感が全く無いし……これで自認が『どんな趣味も中途半端』ってなんなんだ?)

 

 だから一切忖度の無い感想を述べたのだが……当のざくろ本人にはさして響いてない様子。

 先程背を押された俺みたいな恨みがましい目をエミに向ける彼女は、やがて俺のした質問に対し、絞り出すかのように……一言。

 

「……なんでそんなにテンション低いの?」

「…………間近で見たエミちゃんとのスタイルの差に、絶望した」

「──ねぇアランこれ私が悪いの!?」

「この手の話題を俺に振るのやめん? ほらそろそろイベント始まるよー」

 

 少なくとも高一の身長と発育と腰の細さしてねぇ大悪魔(モデル体型)に適当に答え、にわかに盛り上がり始めたステージへと歩き出す。

 なんだかんだもう時刻は13時16分で、件の目的(・・)まではあと15分を切っている。まだ会場はイベントとイベントの間の休憩時間で、スピーカーから鳴る音は喧騒のノイズのみ。

 

 近付いて漸く視認できた会場の全貌は……バスケットコートくらいの大きさにラインが引かれてるダンススペースと、正面に位置するDJ&スピーカー&カメラスペースで出来た、屋外に作られたクラブハウスのようなものだった。

 人混みは、まだ疎ら。

 外周に陣取る人もいれば、結構遠くに座ってる人も居て、どっちも大半がタオルを持参していた。

 

「……寧ろコスプレしてる人の割合の方が少なくない?」

「……してる方が楽しくはある」

「あとこれ一応つっこむけど、そのスカートで踊って大丈夫なの?」

「ミニペチ履いてるから大丈夫」

「何それ」

「ドロワーズの亜種みたいなものだったわよ」

「なるほど……あ、あの人……」

 

 辺りを見回していたところ、ふと先程更衣室に居たツートンヘアの優しいイケメンさんを見つけた。

 今は友達っぽい人らと談笑している様子で……あっ目が合った。

 

「……(小さい手の振り振り)」

「……(返すように振り振り)」

「……アラン? 何してるの?」

「たまたま知り合った人に手振られたから振り返してた」

「何それ詳しく」

「いや、大した話じゃ──」

 

 

「あーっ! ざくろちゃんだー!」

 

 

 ──と、エミに説明しようとした刹那。雑踏の中を切り裂くように、とても良く通る綺麗な声が駆け抜けた。

 人名──それ自体は耳を澄ませばこの人混みだ、幾らでも拾うことが出来る。それでもその声を……エミとの会話の最中でも強く認識出来たのは、本当に真隣から聴こえたからだった。

 

 

「……え、M.Mちゃん!?」

 

 

 ──俺に知り合いがこんな簡単に出来るのだから、恐らく何度も参加しているざくろに知り合いがいるのも、まぁ当たり前の話であった。




用語:伏字
数が多過ぎる+作品の詳細解説がストーリー内容にさほど関与しないため、今回は解説しません(工数が死ぬ)
申し訳‎( ꒪ཫ‎꒪)

備考:ツートンヘアのイケメンさん
新くんは彼が何のコスプレをしているか、原作を知らないため(なんか見覚えはあるものの)分かりません。
作者イメージ? 青柳〇弥。

備考:ざくろの衣装
大体ダイダイダイキライのミクさんです、お手製の

再放送:気軽に吐かれる新君の"可愛い"
人生の経過年数が肉体年齢+7年のため、新くんは同年代の子に対して無意識に『後方腕組み保護者面』から『年下の子に対して言う感じの気軽さで可愛い発言』を繰り出します
自分では気付いていませんが、実に傍迷惑ですね
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