『一章完結』異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま)   作:ニキ/バハちゃん

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1-4-D1:ウォーターベッド(物理)

「ただいまー」

「ただ……い、まぁ……」

 

 家を出てから大体8時間。

 その内、ずっと立っていたって訳じゃないけど、まるで運動(・・・・・)してこなかった(・・・・・・・)この体には、今日程度の活動量でも致命的な疲労と化してしまう。

 

(改めて貧弱過ぎんだよなこの体ァ……疲れて頭回んねぇし……)

 

 足裏の感覚が飛び、息も絶え絶えになりながら帰宅した我が家。

 倒れ込む俺を他所に、世紀のフィジカルモンスター様は涼しい顔で脱いだ靴を揃え、帰りに買ったスリッパに履き替えている。偉い。

 

「……不思議ね? なんだかざくろがいないと落ち着かないわ。こっち来てからの日数で考えると……二割くらいは常に一緒に居たからかしら?」

「足痛ぇ……」

「聞き飽きたわよそれー。だから毎朝運動させてんのよ? 電車の行き帰りとふぁみれす? 休憩でかなり休んでるのに、私より遥かに疲れてんのヤバいわよあんた」

「ぐうの音も出ねぇ……」

 

 移動すら億劫。アホみたいに痛む足を床から浮かせる(・・・・)。

 宙をぷらぷらと浮遊しながら、自室から着替えを魔法で呼び寄せ、一目散に風呂場へ向かう。

 あー……魔法の使える体で良かったー……! 異世界帰還チート『望む時に即座に風呂に入れる』は、やはり禁断の力に違いない。

 

「ご飯作ってるわよー?」

「ありがとー」

「ああ、なんなら先に一緒に入る?」

「えー……? エミ今すぐ入りたい?」

「別に? 歯磨くの二度手間になるじゃん」

「じゃあ結構でーす」

 

 遠慮なんて俺達の間に無い。

 こっちに来た日にしたやり取りを、今度は状況だけ変えて焼き直せば、そこには普通に『一緒に入る』が選択余地として存在する。

 今すぐ入りたいと言われても、譲る気力も元気も無い。その時は仲良く混浴するしかないのだが、現実はちゃんと健全な方向に進んでくれた。

 

「……お゛ぉう」

 

 ──湯船を魔法で張り、さっと体を流した後、変な声を出しながら沈む。

 丁度いい温度のお湯は、大質量の投入によって水嵩を増すが、それが縁から溢れ出ることは無い。

 

「……ほっそぉ」

 

 満タンになるよう作ってはいないけど、俺ってここまで体重軽いの?

 湯気で曇る水面。歪んで見える腕を"ざばぁ……"と持ち上げてみる。

 思い起こすのは、つい一時間前まで会話していた二人の少女。

 ──あの子達とほとんど変わらない、女の子みたいに華奢なそれ(・・)を見る。

 

「…………」

 

 疲れと思考が綯い交ぜになって溶けていく。

 体重も、意思も、感情も、浴槽に全部預けて。

 

 

 ──ちゃんと楽しかった一日を振り返る。

 

 

 ****

 

 

「なにそれ」

「水まんじゅうベッド」

「床濡れは?」

「するわけないじゃない」

 

 エミの作った夕飯を食べ終え、時刻は9時半頃。

 録画データの整理や、動画編集のやり方座学、踊ってみた投稿のためのチャンネル製作etc……

 積み上がるタスクの数々を『……まぁ今日はいいか』と妥協して、寝る準備をしようとしたところに、エミがクソデカイ水の塊をリビングに生み出した。

 

 ふわふわもっちもち、ぷるぷるたゆんたゆん。

 弾力を視覚に伝えながら揺れ続ける、不定形の透明な巨大スライム。

 なにこれすごくきもちよさそう、自分ダイブいいですか?

 

「疲れの癒し方を調べたら、ウォーターベッド? っていうのを見つけたのよ。それを魔法で再現してみたの」

「神かよ」

「という訳で、今日だけなんと特別に〜? このベッドをアランに使わせてあげます!」

「エミがこれまでしてきた全てを許した」

「ちょろお前」

 

 湯上りほかほかな体を放り投げれば、見た目通りの感触が俺を受け止める。

 ぐにぐにと沈み、しかしちゃんと人を受け止める、超巨大な水まんじゅう。

 感想? 至高としか言いようが無い。

 例えるなら干して取り込んだ後の、ふわっふわ毛布の10倍はある幸せ度。

 

 疲労塗れの体を溶かす、人をダメにするスライムベッド。

 

 ──急激に押し寄せる眠気とだるさに、一瞬意識を飛ばされたのか、ふと気付けば俺の隣にエミが寝っ転がっている。

 

「──なぁエミ」

「うん? なぁに?」

 

 多分、ツッコミ待ちなんだろうなぁとか。

 これ、からかいの一手としてしてるんだろうなぁとか。

 長い付き合いから声音で分かる、彼女の思考(目的)。

 

 ──前にもこんな事があった。

 気を張り過ぎた結果体調崩して、エミと一緒に半日以上惰眠を貪った、日本帰還二日目の出来事(昼寝事件)。

 奇しくも同じリビングで、布団(ベッド)に二人転がって。

 窓辺から来る夜風に吹かれながら、落ちかける意識を……今度(・・)は、掴む。

 

「今日、一緒に寝ない?」

「……!?」

 

 別に意地悪で(反撃として)言ったわけじゃ無かった。

 当然ながらえっちな意味で言ったわけでも無くて。

 想定外の返しに"びくぅ!"と驚く、長い付き合いになる相棒。

 言われ慣れない(・・・・・・・)、俺からのお願いに面食らったエミは、やがて……

 

「──いいわよ」

 

 少しの沈黙の後に、どこまでも優しい声でそう言った。

 

 

 ****




※えっちな意味ではない
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