異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま) 作:ニキ/バハちゃん
「ただいまー」
「ただ……い、まぁ……」
家を出てから大体8時間。
その内、ずっと立っていたって訳じゃないけど、
(改めて貧弱過ぎんだよなこの体ァ……疲れて頭回んねぇし……)
足裏の感覚が飛び、息も絶え絶えになりながら帰宅した我が家。
倒れ込む俺を他所に、世紀のフィジカルモンスター様は涼しい顔で脱いだ靴を揃え、帰りに買ったスリッパに履き替えている。偉い。
「……不思議ね? なんだかざくろがいないと落ち着かないわ。こっち来てからの日数で考えると……二割くらいは常に一緒に居たからかしら?」
「足痛ぇ……」
「聞き飽きたわよそれー。だから毎朝運動させてんのよ? 電車の行き帰りとふぁみれす? 休憩でかなり休んでるのに、私より遥かに疲れてんのヤバいわよあんた」
「ぐうの音も出ねぇ……」
移動すら億劫。アホみたいに痛む足を床から
宙をぷらぷらと浮遊しながら、自室から着替えを魔法で呼び寄せ、一目散に風呂場へ向かう。
あー……魔法の使える体で良かったー……! 異世界帰還チート『望む時に即座に風呂に入れる』は、やはり禁断の力に違いない。
「ご飯作ってるわよー?」
「ありがとー」
「ああ、なんなら先に一緒に入る?」
「えー……? エミ今すぐ入りたい?」
「別に? 歯磨くの二度手間になるじゃん」
「じゃあ結構でーす」
遠慮なんて俺達の間に無い。
こっちに来た日にしたやり取りを、今度は状況だけ変えて焼き直せば、そこには普通に『一緒に入る』が選択余地として存在する。
今すぐ入りたいと言われても、譲る気力も元気も無い。その時は仲良く混浴するしかないのだが、現実はちゃんと健全な方向に進んでくれた。
「……お゛ぉう」
──湯船を魔法で張り、さっと体を流した後、変な声を出しながら沈む。
丁度いい温度のお湯は、大質量の投入によって水嵩を増すが、それが縁から溢れ出ることは無い。
「……ほっそぉ」
満タンになるよう作ってはいないけど、俺ってここまで体重軽いの?
湯気で曇る水面。歪んで見える腕を"ざばぁ……"と持ち上げてみる。
思い起こすのは、つい一時間前まで会話していた二人の少女。
──あの子達とほとんど変わらない、女の子みたいに華奢な
「…………」
疲れと思考が綯い交ぜになって溶けていく。
体重も、意思も、感情も、浴槽に全部預けて。
──ちゃんと楽しかった一日を振り返る。
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「なにそれ」
「水まんじゅうベッド」
「床濡れは?」
「するわけないじゃない」
エミの作った夕飯を食べ終え、時刻は9時半頃。
録画データの整理や、動画編集のやり方座学、踊ってみた投稿のためのチャンネル製作etc……
積み上がるタスクの数々を『……まぁ今日はいいか』と妥協して、寝る準備をしようとしたところに、エミがクソデカイ水の塊をリビングに生み出した。
ふわふわもっちもち、ぷるぷるたゆんたゆん。
弾力を視覚に伝えながら揺れ続ける、不定形の透明な巨大スライム。
なにこれすごくきもちよさそう、自分ダイブいいですか?
「疲れの癒し方を調べたら、ウォーターベッド? っていうのを見つけたのよ。それを魔法で再現してみたの」
「神かよ」
「という訳で、今日だけなんと特別に〜? このベッドをアランに使わせてあげます!」
「エミがこれまでしてきた全てを許した」
「ちょろお前」
湯上りほかほかな体を放り投げれば、見た目通りの感触が俺を受け止める。
ぐにぐにと沈み、しかしちゃんと人を受け止める、超巨大な水まんじゅう。
感想? 至高としか言いようが無い。
例えるなら干して取り込んだ後の、ふわっふわ毛布の10倍はある幸せ度。
疲労塗れの体を溶かす、人をダメにするスライムベッド。
──急激に押し寄せる眠気とだるさに、一瞬意識を飛ばされたのか、ふと気付けば俺の隣にエミが寝っ転がっている。
「──なぁエミ」
「うん? なぁに?」
多分、ツッコミ待ちなんだろうなぁとか。
これ、からかいの一手としてしてるんだろうなぁとか。
長い付き合いから声音で分かる、彼女の
──前にもこんな事があった。
気を張り過ぎた結果体調崩して、エミと一緒に半日以上惰眠を貪った、日本帰還二日目の
奇しくも同じリビングで、
窓辺から来る夜風に吹かれながら、落ちかける意識を……
「今日、一緒に寝ない?」
「……!?」
別に
当然ながらえっちな意味で言ったわけでも無くて。
想定外の返しに"びくぅ!"と驚く、長い付き合いになる相棒。
「──いいわよ」
少しの沈黙の後に、どこまでも優しい声でそう言った。
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※えっちな意味ではない