『一章完結』異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま)   作:ニキ/バハちゃん

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お久しぶりです
こんなに間を開ける予定は無かった……!


EX1-1:天才のアラン・アーバント

 異世界転移という創作物のジャンルがある。

 自分のケースを分類するのなら、大ジャンルはこれになる。

 小ジャンルは──憑依(・・)。

 ある世界の元いた人物に、ある時別人の意識が憑依する。

 大多数の作品において、憑依先の人格が消えるか混ざる、そんな創作題材。

 

 自分のこと(来歴)はどうでもいい。

 それは君(・)には関係ない(どうでもいい)ことだから。

 

 きっかけは事故だった。

 護身術の訓練中に、たまたま頭に重い一撃が入り、気を失う。

 そこから寝ている間に流行り病を患い、高熱に数日魘されて。

 意識が朦朧とする日が暫く続き……そうして君は意識を取り戻した。

 まるで異世界憑依物の導入みたいな形で、君は意識を取り戻して……

 

 

 僕(・)という異物に、その肉体を奪われる。

 

 

「ねぇアラン(・・・)君」

『……何だ、ゴミ』

「どうやったら俺の意識だけ、この世界から消せるかな」

『俺(・)が知るわけないだろ』

 

 

 

 ──異世界に来てからの第一目標は、自殺だった。

 

 

 

 ****

 

 

 

 魔法王国リベルグラム。

 大層な通称に恥じない、魔法研究に関しては他国を圧倒する、この世界における(・・・・・・・・)主要国家が一つ。

 その内、国内において四大貴族(・・・・)の一角として数えられるのが、風魔法の名門『アーバント公爵家』であり──

 

 俺が憑依してしまった『アラン・アーバント』という8歳(・・)の少年は、そんな家に生まれた唯一の嫡子だった。

 

「おやアラン、もう動いていいのかい?」

「ッ……ええ父様。なにせ数日分の勉学の遅れが出ていますので、まずはそれを埋めなければならないでしょう?」

「ははっ──うん、悪くないね、その動機?」

『……俺に興味が無いくせに、表情一つ変えずによくもまぁ……』

 

 性格は苛烈(・・)。

 一人称は俺で、出力される言葉は常として口汚い。

 自他に厳しい血統&実力至上主義者であり、とりわけ平民は生物レベルで見下すような人物だが、それを面と向かって叱れるような人は、片手で数えられる程度しか存在しない。

 

『おい。口調が気持ち悪い』

「……外聞評価、落ちるよ?」

『自分が自分じゃなくなる方がクソだ、そこは変えろ』

「……分かった、頑張るね」

『チッ……』

 

 ──何故なら彼は天才(・・)と呼ばれるまでに、優秀(・・)だからだ。

 勉学にも礼儀作法にも、一度として学習に詰まったことは無く。

 魔法の行使や剣術等の実技でも、同年代の子と比べ物にならない程、上達が早い。

 

 才覚と出自が盾たり得るからこそ、彼の振る舞いを止める者は居ない。

 言われた所で、「黙れ凡人」と切って捨てる彼は、まさに無敵の存在で。

 

 息子に父親が無関心(・・・・・・・・・)なのもあって、彼に躾を出来るのは(・・・・・・・・・)、この家に現状一人しかいなかった。

 

 ──可愛い子供だと思う(・・・・・・・・・)。

 

「寝起き早々でも訓練の時間はちゃんと守れますか。遅れれば叩き起しにいくところでしたよ」

「ぼ──俺(・)を、気絶させた張本人の発言か? それ」

「アラン様が弱っちかっただけの話でしょう?」

『しばくぞこいつ。おい、黙らせろ』

(ごめん無理ぃ……アラン君ならまだしも、僕戦った経験とかないよ?)

『チッ……別に俺でも勝てねぇよ、歳の差でしかマウント取れない爺の分際で』

 

 屋敷の庭にて、僕に木剣を向ける初老程の執事。

 名を、『セバス』

 アラン君の教育係であり、躾役であり、そして彼を訓練中に気絶させ(・・・・・・・・・・)、僕を憑依させてしまう(・・・・・・・・・・)隙を作った元凶(・・・・・・・)。

 

 先程述べた、この家で唯一アラン君に躾が可能な人物である。

 

「剣を構えなさい、今日もボコって差し上げましょう」

「……寝起きで身体がなまってる、少し覚束無いからな」

「ええ、当主様から聞いていますよ。ちゃぁんと加減をしてやれと」

『見え透いた嘘だ。父が俺のことを話すわけが無い』

(僕も僕だけど、君たちどんな親子関係なの……?)

 

 ──同期している記憶から、アラン君として振る舞うための、言動やルーティンを掘り起こしていく。

 

 時間は、止まらない。

 

 君(・)はただの被害者だ。

 だから、せめて、君(・)に体(・)をどうにか返すまで。

 僕(・)は、君(・)として、過不足無く振る舞うべきだ。

 天才(・・)として、その名を貶めない振る舞いを。

 君(・)の名を、僕(・)の所為で穢してしまうことは、あってはならない。

 

(……軽い、なぁ)

 

 初めて握った木剣の感触。

 

 日本での僕ならきっと、それを重いと言っていた。

 

 

 

 ****

 

 

 

 やりたいかやりたくないかなんて、僕の評価関数に無い。

 君(・)として、問題無く(違和感無く)、正常に日々を過ごす。

 君(・)の願いを、例えどんな事であろうと、可能な限り叶える。

 

 それが現状における、僕の生きがい(・・・・)だった。

 

『……年嵩があるのは評価する。勉学は俺より知っている』

「地理と歴史、魔法学はてんで流用出来ないね……算術や読解ならかなりズル出来るけど」

『今詰まっているところはお前でいうショウガッコウの範囲だ。覚えるのなんざ訳ないだろ』

「あんまり賢くなくてごめんね……」

『チッ……なら今の内に学園高等部の範囲を予め全て学んでおくべきだ、リアルタイムで学習していたら下民共に抜かれかねん。馬鹿を自覚するなら対策しろ』

「うん」

 

 ──アラン君と話して分かった、彼の評価関数。

 彼の中には常に『完成したアラン・アーバント像』があり、そこから外れることを極端に嫌う。

 知能の発達という点で、アラン君は極めて早い(・・)。

 そこから来る自己認識や自我の確立、四大貴族家の嫡子であるというプライド、秀でた才能等が絡み合って出来てる、『アーバント公爵家という家名に相応しい、天才的で完璧的な自分』の理想像。

 それがあるからこそ、彼は自他に厳しい。

 

 突出していないことを、許せない(・・・・)。

 

 自分の能力不足を、だからこそ心底嫌う。

 

『…………なんで、こんな目に遭わなきゃならないんだ……!』

 

 怒りと、虚無感と、絶望が、ぐちゃぐちゃに混ざった吐き捨て。

 どうにもならない現実に、ただ僕(・)に感情をぶつけることしか出来ない、まだ8歳の子供。

 それを聞く度に僕は死にたくなる。

 死に方が分からないのに。

 辛いとは思えない。

 思ってはいけない。

 僕より君の方が、比べる必要が無いくらい辛いのだから。

 

「……漢字(・・)と英語(・・)も、いけそう」

『……ああ、そうかよ。流石は15歳(・・・)だな?』

 

 ──人生で初めて、努力した。

 これまでした事が無かった、自発的な勉強を。

 

 同年代の子供に知識で負けるのを許せない、君の価値観に則して。

 

 何故か日本語で書かれている(・・・・・・・・・・)教科書や参考書を読んで、解いて、読んで、解いて、読んで、解いて………………

 

 アラン君の『自分の理想像』に近付けるように、僕は学んだ。

 

 この世界の地理を。歴史を。貴族の作法を。魔法学を。護身術を。魔法そのものを。

 

 彼のいつも通りの振る舞いで、天才である君を騙る。

 

 君の望むままに、君の体を僕が動かす。

 

 それが、異世界で送るべき僕の人生だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぐっ…………ぐすっ………………!」

 

 

 

 ──ある女の子を、僕と君が泣かしたことを発端に、

 

 

 

 

 ──君が変わっていくまでの。




アラン株売却所はこちらになります(1-1)

そういえば直近にて、花芽すみれさんが『あのね』の歌ってみたを出していられました
もっと広がれあの曲
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