異世界から持ち帰った相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま)   作:ニキ/バハちゃん

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1-1-B2:異世界人に漫画を与えた時の反応

「何も消すこと無かったんじゃ?」

「18歳未満が同人誌を読んじゃいけません」

「あんた読んでたじゃん!?」

「読んでたのは"過去"の俺だから! 今の俺とは感性と倫理観が違うから!」

「不健全よ! 健全にエロガキをやりなさい! そして私にも読ませなさい!」

「エロガキはお前じゃねぇか! まずは健全なものから読みなさい!」

 

 異世界人にとって一大イベントである"最初に読む漫画"を電子版同人誌で終えてしまったこと5割、原作を知らない同人誌を読ませてしまったこと4割、18歳未満の子に18禁の物を読ませてしまったこと1割。様々な後悔から来る初期化作業を終えて、俺のスマホのSafariからは全てのタグとお気に入りが消滅した。

 別に性癖がバレる分には今更だしいいんだけど、まさか漫画とのファーストコンタクトがこんな形になっちゃうとは……えぇどうしよう想定外だ。知識を得ちゃったから再度貸したら検索されそうだし、かといってスマホ取り上げたらやることないだろうし……

 

「健全つってもスタンダードが分からない以上、あんたの言ってた『漫画』という存在自体が私からすれば全部えっちなものって認識なんだけど」

「先入観が最悪なんだよなぁ……まぁもう選んでても今更かぁ?」

 

 既に数巻買った物だと途中で電子に移行出来ない人間が故、大半がラノベで埋まる本棚の中には、敢えて紙のまま揃えている漫画もある。

 色とりどりの背表紙が並んではいるが、引っ越しの際持ってきた漫画はそう多くは無い。読み放題サイトやジャ〇プラの存在もあってここにあるのは昔から買っていたものか、或いは──本当に気に入って応援したくなった新作だけ。

 

『アニメないしオタク文化に一撃で沼らせる』作品を上げろって言われたら何が正解だと思う? などと掲示板に書き込んどいて、漫画童貞の方は雑に消化されてるのもはやギャグなんだよな。おかげでそこ(・・)に関してはもう気にしてもしゃあなくなったけど。

 

「スポーツ系はルール問題で無理、ヒ〇アカも割と前提知識要るし、進〇とジ〇ジョはアニメから入った方がいい。となるとんー……魔法に概念似てるし呪〇……いや、ここは──」

 

 これもこれで初手には重いが、他のラインナップだと超長編系かより酷い(重い)チェ〇ソーくらいだし、と。

 ギチギチに詰まった本棚から白い背表紙の冊子を摩擦を消して(・・・・・・)するっと抜き出し、きょとんとした顔のエミに渡す。

 

「ほい。これが本来のこの世界の漫画」

「……紙の本なんだ。あのえっちなやつとどう違うの?」

「まずえっちじゃない。んでまぁ……お話を全部絵に書き出した見る小説って感じ?」

「論文や魔法書なら兎も角、私、あんたと違って小説とか読めないんだけど?」

「方向性としては冒険譚って言えばいんだろうか? 戦闘主軸でヒューマンドラマ有りのクソ熱おもろだし、特にこれなら設定が入りやすいと思う」

「ふーん……冊数が少ないわね? そこにあるの大体は20、30巻はある感じなのに」

「まだ読みたいのにいいとこで切られて続き気になって狂うのは、刊行数が少ない作品でしか味わえない感情だからねぇ」

「ねぇ、笑みが邪悪なんだけど!?」

 

 いかんいかんニチャついてた。愉悦は隠れてしないと人を不快にさせるからな、これ人に何かを布教する時のオタクの悪い癖。

 ……そういや俺もなんか読みたくなってきたな。何年も異世界に囚われて娯楽を断たれてた生理現象みたいなものだろうか? まぁ、かといって今ジャンプ最新号を読んでも朧気な記憶ではあんま楽しめないんだろうけど。

 うーん? おすすめリストアップも兼ねて再読祭りでもしようかな? 試しに今の俺が呪〇読んだらどんな感想を持つのだろうか?

 

「…………!」

 

 早速開幕の見開きに目を奪われているエミを横目に、彼女の読む物と奇しくも同じ白い背表紙の漫画を数冊本棚から抜き出す。

 

(……ああそうか、地名もエミにとっては地雷か)

 

 早速百葉箱や宮城県仙台市など確実に伝わらないワードに遭遇、至急付箋の用意が必要です。

 なんなら直に書き込むでも可。バックにシャーペンがあった筈、忘れる前に都度、つか今メモろう。

 本に落書きするのはオタクとしての地雷行為ではあるけども、エミの体験には変えられんし。

 

(……良かった、表情が楽しいって言ってるや)

 

 

 初っ端から面白いもんな、カグ〇バチ。アニメ化してくれないかなぁ。

 

 

 ****

 

 

「──ねぇアラン?」

「んあ?」

 

 二巻までを全速力で読み駆けていたエミが、一息付けて深刻な顔で俺を呼ぶ。

 感想か? 感想フェーズが来たのか遂に? オタクは自分の好きなコンテンツを人に勧めてその感想を食べて潤う生き物だ。当然、俺もその例に漏れていない。

 布教に成功した時特有のぽわぽわした仏の顔で、彼女から来るであろう喜ばしい感想を待ち侘びていた俺に対して、エミが言い放ったのは──

 

「あんたの魔法、漫画にパクられてるんだけど!?」

「ブーーーーーーーーーーーっ!!!(クソ汚い吹き出し音)」

 

 ──異世界人特有の視点から来る、まるで予想だにしなかったツッコミだった。

 

「ゲホッゲホゲホ、クッホホホホホホッ……w は、はぁ!?w パ、パク……!?w」

「パクられてるわよ! それも思いっきり! 技とか設定とか本当に色んなものが既視感があり過ぎ……え、なにそんなに笑ってんの?」

「クッ……クククククッ……さ、流石にヤバ過ぎるその感想は……w ダメだマジでお腹痛い……w」

 

 思わず崩れ落ちてドンドンと床を叩く。いやでもだって仕方無くないか!? 逆だったかもしれねぇが過ぎるだろその感想、下手しなくても今これまでの人生で一番笑ってるぞ俺……!?

 あかん()せた、普通に心配されるくらい笑いが止まらねぇ。腹が引き攣ってて息苦し……水が要る……!

 

 ふらふらな動きで流しに直行、水道水を空気のコップ(魔法)にぶち込み、飲み干して一旦情緒を落ち着かせにかかる。

 思い出し笑いをなんとか封じて数度の嚥下。筋肉が謎に痛い。……やべぇ、危うく感想で死ぬとこだった……もうこれだけでエミをこっちに連れてきた元とれたんじゃね? あかん気緩めるとまだ余裕で笑えるぞこれ。

 

「はぁ……はぁ……あー笑った。いや笑いごとじゃないんだけど」

「……何をそんなにツボってんの?」

「そりゃ笑うでしょ、パクってんの俺側なのにあんなこと言われたら」

「やってたのお前かい!」

「……魔法の無い世界から来た俺が想像出来る魔法って漫画とアニメくらいしかないし」

「え、急に笑顔消えるじゃん」

 

 特にギアセ〇ンド(血管強化+血流加速)の開発は生命線だった。天才連中と真面目に肉弾戦なんかしてられるかよ、身体能力(ステータス)で圧倒してて漸く戦える日本育ちの凡人舐めんなフィジカルモンスター共……

 肉体(ハード)の方に才能があったとしてCPUが俺である以上、キャラクター(・・・・・・)みたいなイカれた精神性や度胸の持ち合わせは無い。ブラフ(嘘と罠)と実利のために白兵戦する度に内心恐怖で死にそうになってたんだよこちとらさぁ……あダメだ思い出したら今度は胃が痛くなってきた。体の内と外両側から殴られてるのとてもつらい。

 

「こっちの誰にも迷惑かけては無いと言え、人様のアイデアパクってたのは変わりないので……」

「さっきまであんなに笑い転げてた奴の情緒なの? これが」

 

 初撃のインパクト重過ぎて笑い死んでたけど、当時発想パクる度に罪悪感抱かなかったこと無いし。落ち着いてきたらそれがエミにバレて情けなさズドンですよ。日本帰ってきてから沈んでばっかだな? まあ俺のことはどうでもいいか。

 

「で、どうですかエミさんや。これがスタンダードな日本の少年漫画というものなんですが」

「──面白かったわ! まるで絵の中で人が生きて動いてるみたいで、それっていうのもキャラに信念があるからというか! 会話や説明も絵のお陰でスラスラ入ってくるし……何よりコレ! 絵がかっこいいのよ!」

 

 ……なんで布教した物が褒められると、自分が書いた訳じゃないのに自尊心が満たされていくんだろうね。気付けば表情筋が笑顔を一瞬で形作ったよ。

 漫画ならしいたけ目で描かれてる程の喜色満面を浮かべてページぶち抜きの大コマを見せびらかしてくるエミさんは、もう好きな物を語る時のオタクのように早口だった。喩えが酷いな?

 

「表現の仕方が独特ね。一枚一枚の絵がそれだけで完結するよう緻密に書かれてるわけじゃないのは、別の絵と組み合わせて世界を組んでるからこそのやり方で、でもそれはそれとしてたまにくる2ページ使った一枚絵? のインパクトが凄くカッコ良く見えるワケで……特に二巻最後のラストバトル! 刳雲(くれぐも)淵天(えんてん)の高速戦闘! ハラハラし過ぎて瞬きを忘れたわ!」

「俺お前のこと大好きだよ」

「続きは!?」

「はい」

 

 分かりみが深すぎて(頷きすぎて)首が赤べこに進化した。要請のまま最新の6巻までを手渡して……もう十時か、そろそろご飯と風呂の用意しなきゃだな。

 

「……これ、本棚の作品達より冊数が少ないのね?」

「絶賛連載中だしね、次巻の発行いつだったかな」

「これだけ細かく描いてるんだから時間かかりそうねぇ……」

二ヶ月半(10週間)に一冊ペースだしね……あ、7巻発売6日後だって」

「は?」

 

 収録話数9~10話の週刊誌連載なら、休載で多少ズレても三ヶ月に一冊は出る計算になる。

 軽く検索かけたら新刊思ったより近いな、これどこまで収録されてるんだっけ? 異世界に居すぎて記憶が曖昧だ。

 

 チラとエミに視線を移せば、彼女は手元のカグ〇バチと俺の顔を執拗に見比べていた。

 開いているページは見開きの大ゴマ、双〇戦のクライマックスとなるあの場面。

 

「………………?????」

 

 エミの背後に俺は宇宙を幻視した。

 

 

 ****

 

 

「………………嘘、だろ」

 

 こめかみピクつかせながら判明した驚愕の事実……この家には米が無い!?

 

「えぇ……途端に作るのだるくなった……買ってきたの完全におかず用の量だし、これメインで作ると消費マッハなんですが」

 

 しゃあない明日も買い物かぁ……取り敢えず今日は何作ろう? 雑に肉と野菜で炒めるか? ……いや面倒だ、冗談のつもりだったけどカップ麺で済ませるとしよう。

 うわぁ、フライパンが新品なの我ながら引くわぁ……反面ティフ〇ールは使用感ゴリゴリに醸し出してんのに。

 

「地味に卵もあるし……あっやばい"最強"を想像したら寧ろカップ麺"が"食べたくなってきた」

 

 ただ、読み始めた瞬間に邪魔するのも申し訳ないし、先に風呂入ってゆっくりしよう(時間でも潰しとこう)。どうせカップ麺食うなら深夜(バフ)入ってからのが美味くはあるし。

 あーもう何もかもがグダグダだよ。

 

「水道代節約、そしてガス代節約。うわやべぇ異世界転生最高かよ」

 

 着替えを籠にぶち込みぱぱっと脱いでIn To The Bathroom

 空の浴槽を絞りカスみてぇな体内魔力で作った水で満たし、火球をその中に叩き込んで秒で沸かす。

 うん、非常に楽。なにせお金がかからない。

 異世界含めて魔法を覚えて一番幸せなことってこれかもしれん。あっちだと生産性の無い戦闘くらいしか使い道無いし。

 

「……流してたけどこっちでも普通に使えるんだよな。ただ向こうとは比べ物にならないくらい出力も魔力も落ちてるけど」

 

 ──異世界から帰還してみて分かったが、気付いてないだけで地球人はみんな普通に魔力を持っていた。尤も、俺が居た世界の基準からすれば、その量は誰もが一般人以下の保有量でしかないのだが。

 大気中の魔素濃度も低いし、根本的に魔法を使うのに適した環境じゃない。別に何かと戦うような世界じゃなければ、生活を多少便利にするくらいにしか使う気無いから問題は何一つ無いけれど。

 ……あ、髭生えてる。そうかアラン君と違って脱毛してないのか新君(この体)は。

 

「つくづく便利だ」

 

 全身を洗った後、軽く魔法で脱毛処理してから湯船にいざログイン。あぁ”〜効ぐぅ〜……肉体の疲労が温度によって溶けていぐぅ〜………………いや、なんですぐ分かるくらい疲労してんのこの体? 今日したの買い物くらいだよね? 待って腕が女の子みたいに細いんだが???

 

「終わり過ぎだろこの肉体。……わぁ赤ちゃんみたいに柔らかい」

 

 筋密度ゴリゴリのクソ重ボディに慣れてたから、本来のヒョロガリボディが新鮮なのがまた面白い。……これ筋トレしたとして肉付くのか? 先行き不安甚だしい。

 

「あー……あと何してあげよう」

 

 湯船に体が自然と沈めば、温度でほぐれた頭が取り留めのない思索をし始める。

 ……初視聴アニメは後回し、漫画は今読んでるとして、次は動画かゲームだろうか。

 三次元に目を向けるなら……あぁ遊園地にも連れてきたいな、ゲーセンも楽しんでくれそうだし……そもそもバスや電車も初めてか。行ったことないけどライブとかも良さげじゃないか?

 ……あぁそうだ、夏には海に泳ぎに行こう。秋は京都の清水の紅葉とか見せたいなぁ。冬になれば雪景色にはしゃいでる姿も見てみたいし……

 

「今がゴールデンウィークだから、桜は来年にお預けかな」

 

 くだらないことならファミレスでカオスドリンク作ったり、ネットカフェで丸一日過ごしてみたり、お金が貯まればいつか旅行にも連れて行って……

 

「──持ち帰っちゃった以上、日本楽しんでもらわないとなぁ」

 

『私、天涯孤独なんですけど。それと私がいなかったらあんたの面倒誰が見るの?』と言って異世界にまで着いてきた少女の顔が浮かぶ。

 俺が精神的に一番キツかった時に支えてくれて、あのクソみてぇな覇天祭を三年間共に駆け抜けてくれた、感謝してもしきれない最高の相棒。

 

(生きるのにポジティブな目的(モチベーション)があるのはいいことだ)

 

 ……それなりに長く浸かっていた気がする。

 逆上(のぼ)せかけてるのを認識して思考を止め、のそのそと浴槽から上がった。

 バスタオルで全身を軽く拭いてから水滴を対象に設定、皮膚との摩擦を消し残りを肌から払い落とす(・・・)

 髪を温風で雑に()きながらタオルを洗濯機に放り込み、寝巻き(上下ジャージ)に着替え終わったところで魔法を切って。

 

(結構節約してんのにこれで残り魔力2割くらいか。……まぁ全然充分だな)

 

 結局のところ時短でしか使ってねぇし、使えなくても困ることは別に無さそう。

 便利。ロマンも何も無いが一旦それに尽きるか。戦闘によかこういう平和なことに使う方が何万倍も生産的。

 

(取り敢えず明日は米買って、そんで換金手段模索して……つか身分証どうしよう)

 

 ……面倒だ、考えるのは明日に投げよう。




用語:カグラバチ
週間少年ジャンプで連載中、新がエミに事故を除けば初めて読ませた漫画。最新第9巻は2025/10/3発売予定。
双城戦本誌で読んでから全巻買ってる。取り敢えず2巻まで全人類買って読んで欲しい、読め(語気の強いオタク)
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