異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま) 作:ニキ/バハちゃん
「アランー」
「んー?」
「髪」
「ん」
そういや普通に答えちゃってるけど、この体ってもう上城
ソファに腰掛けていた俺の膝に当たり前かのように座ってくるエミと、それをなんの疑問も無く受け入れている俺。何の情報量も無い会話なのに伝わるのは飽きる程してきた
「ぐえっ……ごめんけど前にズレてくれる? 俺の身長が低くて見えん」
「ちょっと、今の潰れたカエルみたいな鳴き声何?」
「正直に言うと重かった」
「おーい、筋肉無さ過ぎやしませんかー?」
「ぺちぺち腿を叩くな腿を」
魔法には適性がある。エミでいえばそれは水で、
視界一面に広がるさらさらの銀髪。……
左手で側頭部を優しく掴み、右手の平に魔法を形成。術式の威力を調整して温度を付与。やがて手のひらから出力されたのは
「元々これってこっちの家電のパクりなんだよね」
「そうなの?」
「うん。お痒いところはございませんかー」
「さいこうでーす」
長いクセしてろくに髪のケアもしないエミは、俺によって魔法での水分飛ばしを髪に限り禁止されている。
肌はまだしも髪から水分完全除去したら傷みそうだし、思い付きでやり始めたらエミが思いの外ハマったのも相まって、これは半ば日課と化している。
わしゃわしゃと荒れない程度に髪を揉み、
魔力は……ギリ持ちそう。音がしない分俺の手って本家本元より優秀じゃね?
「見た目も声も匂いも姿勢も……何が変わってもあんたはあんたね。特に手つき」
「言い方。アラン君の方がいい?」
「どっちでも。外面で見てないし」
「は? お前今アラン君のこと馬鹿にした?」
「なんでそうなるのよ……」
あの子の一番のファンは俺なので。
「──もう乾いたわ。これ以上は痒いだけよ」
「ん」
「……そういえば今日のご飯、何?」
「げ、忘れてた」
いそいそとある物を取りに行き、筒状の少し大きなカップが2つ置かれているテーブルの前へと持っていく。沸いたのは五分程前、まだ暫くは熱湯としての役目を果たしてくれることでしょう。
「こいつはティフ
「魔法で良くない?」
「良くない、魔力がねぇんだよ。で、テーブルに置かれているのはカップ麺」
「麺?」
「おう。なんとこいつは……熱湯を入れて3~5分待つだけでラーメンが出来ちまうんだ!」
「お前は何を言っている???」
現実。
幸いにもパスタもうどんもラーメンもある世界だったが故に、単語について上手く伝わってない……ということは無い。
シンプルに"そんな都合の良い食べ物なんて有る訳ないでしょ"と馬鹿にした顔で諌めてくるエミに、内心ほくそ笑みながらカップ麺の蓋を半分まで開けて見せてやる。ククク……後々の反応が楽しみだなぁ!?
「……乾燥した麺と、具、かしら?」
「物によってはお湯注ぐ前にかやくや粉末スープを入れるタイプもある」
「火薬!?」
「多分想像してるモノと字が違うかなぁ」
トポトポトポと規定線まで注いで蓋を戻し、まだ袋のままの割り箸を上に敷く。時計は……わぁもう11時半だぁ、食ったら歯磨いてとっとと寝よう。
……あ、歯ブラシ買い忘れた。一から同居って大変だなぁ……
「有り得ない……有り得ないわ……ッ!」
「生卵と刻みネギ要るひとー」
「はーい!!!」
箸による封印を解除した先、立ち上る湯気と共に現れるは黄金のふやけた麺の海。
解放されたおいしそうな匂いに圧倒されて現実性を見失う異世界人に対し、俺が提案するのはあまりにも悪魔的な破滅の誘い。まさに味覚への暴力よ……!
……深夜近くに食べるトッピング入りカップ麺とかよく考えなくても太りそー……まぁ
生卵をぱかり、パックの刻みネギを摘んで少々。七味は……探す前にエミがバッグの中から取り出してる!? マジで調味料持って帰ってきたのかよコイツ!? もっと持ってくる物他にあっただろ!?
「これが……異世界飯……ッ!」
「トッピングの内30%があんたの世界の物なんですが」
「美味しければいいのよ!」
「それはそう。じゃあいただきます」
「いただきまーす!」
箸を抜刀、突き刺す先は麺の山。
本当に久しぶりの日本飯、その初回として選んだカップ麺を意気揚々と掬い上げる寸前……
「熱っづ!?」
……隣からの悲鳴を聞き、息を吹き掛けてちゃんと冷ましてから口に運ぶ。
「……
口内に広がる、練られた小麦のツルツルとした食感。脳へと突き刺さる
冷まして尚舌を若干焼くスープの跳ねも、はしたなくも鳴る麺をズルズル啜る音も、何もかもが涙が出るくらい懐かしい。
ご馳走様と呼べる程のものでは決してない、高々200円幾らとトッピングの庶民飯は、頭じゃなく魂に効きまくって……
「おいしっ……! ねぇこれ本当にお゛……なんで泣きながら食べてんの!?」
「うぅ……か、帰ってきたんだ……本当、に……っ!」
「私の反応よりあんたの反応の方が凄いんだけど!? えっ本当に大丈夫……?」
日本に帰ってきた実感の到来、二度目。あかん涙が止まらねぇ。素朴で暖かな味が感情を崩壊させに来るよぉ……
最序盤から友達は死ぬし、親は俺を息子に憑依させた
「……頑張ったわね」
「…………う゛ん゛」
一日中ずっと情けない姿しか見せてないのに、それでも呆れず背中をさすって慰めてくれるエミ様はきっと天使か何かなのだろう。
頼むからこの子だけは幸せになってほしい。
****
「最後にもう一回聞いとくわ。一緒に寝なくて大丈夫?」
「……大丈夫」
「また
「大丈夫だってエミママ」
「誰がママだ」
軽めのチョップを貰う。あんま腕上げんな、襟の内から紐が見える。
久しぶりに泣いたなぁ……お陰で眠気もちゃんとやって来た。肉体も一般人だから感覚も冴えてない、薬がなくてもこれならちゃんと眠れそう。
「精神の経過年数だと20超えてんだけどなぁ俺」
「肉体年齢15のガキが何か言ってる」
「エミはエミで15の割に精神成熟し過ぎじゃない……?」
「家族いないし」
「唐突に重いのやめろ」
言いながら買ったばかりの布団を敷いていく。もふもふに顔を埋めてご満悦だ、こっちは何の問題も無さそうだな。
普通、誰かが泊まりに来た場合、アニメや漫画だと客人の方にベッドを貸すものだが、同性なら兎も角自分の匂いの染み付いた寝床を異性に貸すのは俺が精神的に受け付けない。流石に失礼というか、申し訳無さが勝つというか……
そこら辺を知ってか知らずか、ニコニコ顔でクッションを抱き締めてるエミに不満の色は無さげ。……じゃあ寝るか、これはもう放置でいいだろ。
「エミーおやすみのキスしてー」
「歯磨いてないから嫌よ」
──そうして雑な冗談を放り投げるだけ投げといて、俺の異世界"帰還"生活の一日目は終わった。
但し、この作品はWEB小説であるとする!