本条桜という(真)人間
~ある極東の魔法学校にて~
まったく、あの生徒はどうかしている!
京都の由緒ある神社の子だからと甘やかしすぎたのがよくなかったのだ!
数えても数えてもキリがない、彼女がこの学校に来てからの邪知暴虐の数々!
入学当初はそれはそれはとても酷かった。まだまだ幼い7歳の新入生たちに交じっていたその子は名家というだけあり一際目立つ存在だった。長い黒髪を歪さの欠片もなくすっぱりと揃えた姿は正に優等生そのもの。きっと素晴らしい魔法使いか陰陽師になるだろう。
その期待はすぐに裏切られることになった。
一応言っておくと彼女は今も成績All優の超優等生である。しかし違うのだ。私が期待していた模範的な生徒像とは、彼女はあまりにもかけ離れすぎていたのだ。
新入生の入場が終わり、校長の演説が始まった。しかし並べられた椅子に座って聞いているのはまだまだ注意力散漫で好奇心旺盛な子供たち。ソワソワと体を動かす者たちが目立ってくる。その時だ。最初の事件が起きたのは。
これからの学生生活をうまくやっていけるか未来を憂う女子生徒の隣に彼女はいた。浮かない顔をするその子を見かねてか彼女は袖から一枚の紙きれを出した。
「見ててくださいね、ここには風神様の印が書かれており使えばちょっとしたそよ風を起こすことが可能で……」
ちょっと待て。入学したてのひよっこ小学生が魔法を使うのも驚きだがそれよりも何よりもまず杖じゃなく御札だと。それは上級生の進路分岐先の陰陽師クラスが習う高等術で――――――
止めに入る間もなくそれは起こった。突如新入生が座る席の間で起きた突風。あまりの強風に術者の彼女も驚いたようでその手を御札から離してしまった。
そして風のいたずらか。そのままつむじ風を起こす御札は演説台へと飛んでいき。
校長の頭上スレスレをかすっていき、彼の後生大切にしていた仮初の毛根、もといカツラを攫っていったのだ。
「ああ!校長先生の髷が!」
「髷が開いていた窓から逃げたぞ!追え!校長の尊厳だけは何としても守れえ!」
もう何もかも手遅れである。髷は海に落ちるし校長の尊厳は地に落ちた。
当事者の女子生徒はそれはそれはもう蒼褪めた顔でいた。
「さ、桜ちゃん、正直に言って謝ろう?ね?」
「い、いえ琴音。まだばれてはいません、まさか新入生がこんなことできるとは思わないでしょう。今することは『私、別に何もしてませんけど?』と余裕綽綽に構えることで「本条桜ァ!前に出てこい!」……終わりました。琴音、次に会うとき白装束で会いましょう」
「切腹の介錯なんてしないからね!?」
これがマホウトコロ始まって以来の天才児、そして問題児、本条桜の華々しい門出だった。
そして彼女の悪名はここで留まるわけがない。ある時は飛行術の授業の時。
「見ててください!家で散々カードキャプターさ〇らを読んで勉強してきた杖で空を飛ぶ方法……少々長さが足りませんが何とかなるでしょう。さあいけ!クロウカードは目の前にへポォ!!!」
「せんせー桜ちゃんが杖に片足立ちしながら空飛んで顔面から転びましたー」
「ほんじょォォォーーーーーー!!!」
ある時は護身術の授業の時。
「NA〇TO最新話を読んだ今の私に水上歩行など些事!いっけーチャクラコントロール!!!ってあ、杖忘れたごぼぼぼ」
「桜ちゃーーーん!!!」
ある時は降霊術の授業の時。
「令呪をもって命ずる!こい、セイバーァァァ!!!」
「せんせー!桜ちゃんが宮本武蔵召喚しちゃいましたー!!!」
「桜ァァァァ!!!」
そしてある時は雨で遠足が中止になったのを加護盛り盛りのてるてる坊主で一週間日照りにさせたり、ある時はいじめられっ子が肝試しで誰もいない夜中の学校に閉じ込められたのを救うためにありとあらゆる霊を降ろしていじめっ子たちを恐怖のどん底に落としたりと、このようなことばかり起こすため一年生の時点で彼女は学校一有名な問題児とまで名を馳せてしまった。いったいどうしてこんなことになってしまったのか。担任となってしまった日から胃が痛い。
本当に、根は悪い奴じゃないんだがなぁ……
しかし本条桜という女生徒は非常に優秀な生徒でもあった。
一年生のころから学年トップの座を保守し続け遅刻も欠課もない。生活だけ見れば正に模範的な生徒そのもの。しかもその本質は仲間思いで基本的には規律にも従う真面目な生徒だ。ただどうにも才能がありすぎるのだ。そのせいで普通の生徒ならばちょっとした悪戯になるものも彼女は学校中を巻き込む珍事件へと発展させてしまう。まったく、その才能をもっと他の分野に生かせれば。
「いやいや、才能だなんて大げさな。世界単位でみれば私なんてちっぽけなものですよ」
今日も今日とて放課後に反省文を書かせている最中、雑談ついでにそのことを伝えてみても彼女はただ謙虚に否定するだけだ。いや、本当に自分は天才ではないと思っているのだろう。そういうところが、つくづく凡人とは違うのだと思い知らされた。
私が生徒だったなら、この時どう思ったのだろうか。
しかし今は一教師、この子の担任である。もはや嫉妬などという感情は若い青春時代に置いてきてしまった。今私がやるべきことは、この生徒の新しい門出を祝ってやることだけだ。
「まあなんだ。色々この四年間あったが、卒業おめでとう。お前という生徒を持てたこと、私の教職人生で一番の誇りだよ。英国でも元気にやるんだぞ」
成績優秀、優秀すぎるために異例の飛び級合格。11歳という若さで首席で卒業した稀代の天才魔法使い。そして、明日から日本大使としてホグワーツに派遣される重役を背負わされた少女。
「……はい、先生。今までお世話になりました。また日本のどこかでお会いしましょう!」
夕日に照らされた教室で、色めきだつ紅葉を背に彼女は、普通の少女のようにはにかんでそう答えた。
それが、本条桜という真人間だった。
本条桜:とある有名な神社の長女。聡明で博識、真面目で仲間想い、少々お転婆なところがたまに傷。本作の主人公。
川崎琴音:こちらもとある神社の一人娘。桜の大親友であり彼女がイギリスに行ってから文通を交わす仲である。