世界に名だたるは我らがホンジョウ   作:あまみまくら

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本条桜とホグワーツ魔法魔術学校
第一話 入学準備


 

 日本を出て英国へと向かう飛行機の中、窓際で時差ボケにより寝込む少女の姿がそこにはあった。毛布を頭から被り眠り続ける彼女を不審に思う者は誰もいない。どこからどうみても完璧な非魔法族そのものだった。

 

 ()()()()()()()()()()()少女は実際のところバリバリに起きていた。錯乱呪文によるものだ。ついでに耳塞ぎ呪文も使っている。今彼女はカップ一杯の水を熱心に見つめているところだ。

 

「あー、あー、マイクテストマイクテスト、聞こえていますか?母様」

 

 手に持っていたカップの中の水に段々と飛行機とは別の景色が映りこんでくる。出てきたのは桜によく似た、大人の女性の顔だった。桜の母親だ。

 

「元気にしていますか?桜。まだイギリスにつく時間ではないですよね」

「はい。母様もご壮健のようで何よりです。あと一時間ほどでつく予定ですよ」

 

 礼節を持ちながらどこか砕けた印象を持たせる二人の会話はやはり親子だった。桜の無事な様子に母はホッ、と安堵の息を一つ吐いた。

 

「よかった、あなた、頭はいいけどどこか抜けているからお父様もお婆様も心配していたんですよ?慎ちゃんにいたってはご飯も喉を通らなかったんですから」

「大袈裟ですよ!兄様がいくら心配性とはいえさすがにそれは私に失礼すぎます!兄様にちゃんと私が怒っていたって伝えておいてくださいね!」

「あらあらごめんなさい。でもやっぱり、娘一人単身で異国に旅立たせてしまう家族の気持ちも無下にしないで頂戴。それだけあなたのことが心配なのよ」

「それは……そうですね。肝に銘じておきます」

 

 親の心子知らず。日本の諺である。情操教育の一環で『親には敬意を払いましょう』は真面目な桜はきちんと学んできたはずだが、どうやらまだまだだったらしい。やはり私は未熟者ですね。心の中でプチ反省会を開いているとまた母が口を開いた。

 

「それに、心配なのはそれだけじゃないわ。闇の帝王のことよ」

「それって、最近ヨーロッパ全土を騒がせているあの……」

 

 闇の帝王、古くからヨーロッパを脅かす闇の魔法使いの新たなカリスマ的指導者。それはそれは大層な純血主義者のようだったそうで生前はマグル生まれの魔法使いを惨殺し回っていたらしい。

 

「ですが、闇の帝王はもう亡くなったのでは?例の男の子によって」

「まだ死んでいないわ」

 

 きっぱりと、母はそう言った。

 

「闇の帝王はまだ生きている。神示はそう告げています」

「……いずれ復活する、ということですか」

 

 神示とは神様のお告げ、間違いは絶対にない。そしてそのお告げから一つの結論に至った。ヴォルデモート卿はきたる日、いずれ復活すると。

 

 ヴォルデモート卿といえば悪のカリスマという名のほかに大層腕の優れた魔法使いであったと聞いている。それはかのダンブルドアをもってしても、凌ぐ程であるかもしれないと。ゴクッと、生唾を飲み込んだ。

 

 勝てるだろうか、そんな者に、自分は。

 

 どこまでも謙虚に、どこまでも誠実に、桜は自分の力量と相手を比較してまだまだ及ばないことに恐れと落胆を抱いた。しかしそこが彼女の恐ろしいところだ。普通であれば、そもそもかの闇の帝王と魔法の腕を比べようとはしない。

 

 ある芸術家が、神に敵うと思う人間は居ないと言った。

 

 つまり裏を返せば、桜はヴォルデモートをまだ人間と思っている。まだ、()()()()()()()()()だと思っている。

 

 天才故の傲慢さ、確かにそれは片鱗として彼女にあった。

 

「それだけではありません、警戒すべきは、闇の帝王だけではない。ダンブルドアもです」

「えっ!?ダンブルドア、校長もですか……?」

 

 別の角度から来た人物の名に驚き思わず聞き返してしまった。ヴォルデモートはまだ分かるがなぜ光の陣営側である彼の名が出てくるのだろう。

 

「これは、神示ではなく、お婆様の伝言です」

「お婆様の……」

「詳しいことは私も聞いていないので何も言えませんが、とにかく今のホグワーツはなにかおかしいのです。それだけは私にも分かります。桜、どうか、どうか無事に帰ってきてね」

 

 その言葉を最後に母の姿は水の中に溶けて消えていってしまった。時間切れだ。最後の挨拶ができなかったことを悔やみながらもう一度さっきの母の言葉を思い出す。

 

 お婆様の伝言、やはりこれが一番引っかかる。お婆様はもう三百歳は越えようとする現役の巫女だ。主神様に見初められて人の身を脱してしまった以上別に不思議なことではないが今でも現世の人間と関わり合っている人は珍しく、大抵はあちらの世界に隠されるらしい。

 

 そんなお婆様も若い頃にイギリスに留学したことがあるらしく、そこでダンブルドアとも出会ったそうだ。当時はとてもいい人だと語っていたそうだが。なにがお婆様の彼への印象を変えてしまったのだろうか。

 

 そして私の学園生活は本当に大丈夫なのだろうか。不安に押しつぶされそうになりながら窓の外からロンドンの街を見つめた。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 フレッド・ウィーズリーは実に退屈にしていた。

 

 なぜならせっかくダイアゴン横丁に来たというのに肝心の両親は妹のジニーにつきっきりだからだ。

 

「なぁジョージ、俺たち二人の入学準備だってのにママとパパは何してると思う?かわいいかわいい一人娘のためにちっちゃなお人形にお熱だぜ」

「そうだな兄弟、見てみろよ。俺たちのかわいいお姫様も口元が引きつってるぜ」

 

 隣にいる片割れとひそひそと話しながら母と父と妹の動向を探る。本当であれば弟のロンも連れてくるはずだったのだが今日の朝はたまたまモリ―の虫の居所が悪くちょっと粗相をしてしまったロンをそれはそれは大層怒り「悪い子をお買い物には連れていきません!」と家に置いてきてしまったのだ。さすがにそれはと思ったが俺たちやパーシーが何言っても逆効果になるし見かねたジニーがそれとなくロンを庇ったが結局母の機嫌が直ることはなく今に至る。

 

「まったく、母上様の癇癪にも困ったもんだぜ」

「しょうがないさ兄弟、うちがあんまり貧乏だからこの時期(入学)は金がかかるんでみんな気が立ってるのさ。それならそれであんな無駄な出費抑えればいいだけの話なんだがなぁ」

「二人とも、なに道草食ってるんだ。もう行くよ」

「「パーシー」」

 

 道の脇で座り込み頬杖をついている俺たちの間にパーシーが入ってきた。もう両親の買い物は終わったらしい。やれやれやっと終わったか。ぱんぱんと地べたに触れていたズボンの埃を落としながら立ち上がる。するとパーシーが目の前になにかズイッとものを差し出した。紙袋?

 

「お前たち、教科書やローブはみんなおさがりで杖しか新しいものを買ってもらえなかっただろ?僕の餞別だ。一学生のおこずかいじゃそんなたいそれたもの買えなかったけど……」

 

 紙袋を開けるとそこには真新しい羽ペンが二組入っていた。小さいが大事に扱えば余裕で七年はもつ。まさかパーシーが、これを俺たちに?あの堅物が?ジョージと信じられないという目で兄を見つめればパーシーは照れくさそうに頬をかいた。

 

「一応、僕だってお兄ちゃんだし、これくらいはするさ……その、二人とも入学おめでとう」

 

 本当であれば両親から子に贈られる祝いの言葉。しかし今はこれでも満足だ。なにせ自慢の兄貴が祝ってくれたんだからな!

 

「「パーシー!俺たちホグワーツでも頑張るよ!最高の悪戯で沸かせてやるさ!」」

「な、学校では勉学に励めこの問題児ども!」

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