世界に名だたるは我らがホンジョウ   作:あまみまくら

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なんでホグワーツって魔法魔術学校って言うんでしょうね


本条桜とホグワーツ魔法魔術学校
第一話 ホグワーツ到着と組みわけの儀式


~ホグワーツ特急列車にて~

 

 無事に諸々の買い物もすませ汽車に乗れた桜は今座るためのコンパートメントを探していた。どこもかしこももう既に貸し切りとなっており異国から来た桜が入る余地などない。どうしたもんかと途方に暮れているとちょっと、と声をかけられた。

 

「あなた新入生よね、東洋人?ここ開いてるから座っていいわよ」

「え!?いいんですか」

「ちょうど一人で退屈してたの。ほら、はやくはやく」

 

 腕を引かれるままに声をかけてきた少女のコンパートメントへと入った。少女は長いシルバーブロンドの髪と翡翠の瞳をもち、いかにも英国女子といういで立ちをしていた。みるところ身長も同じだし新入生のようだ。

 

「ありがとうございます。私はサクラ・ホンジョウ、あなたは……」

「ソニア、ソニア・ロングボトム。今年の新入生よ。よろしくねサクラ」

 

 差し出された手はどこまでも色白で少し血色が足りない。それでも友好の証のそれを私は喜んで取った。

 

 

 

「ところであなたの出身はどこなの?中国や台湾からの留学生は多いけど訛りがちょっと違うわよね」

「日本です。中国より東の島国から来ました」

「ジパング!噂には聞いてるわ!黄金の島のマホウトコロね」

 

 コンパートメントで向かい合うようにして座り私たちは談笑に興じていた。ソニアが聖28一族の出身と聞いたときは驚きましたが、貴族然とした上品な振る舞いはそのまま、異邦人にも気安い友人のように接していただけているところを見ると人柄はとても良いようです。これは最初の友人としては大当たりを引いたのではないだろうか。内心でガッツポーズを決めているとソニアは不思議そうな顔でまた尋ねてきた。

 

「でもマホウトコロは七歳から通うのでしょう?どうして中途半端な時期にこっちに留学してきたの?」

「あぁ、私スキップしてきたんです。日本では義務教育の中等部過程まで終了したら後は個々人の自由なんです。ほとんどはそのままマホウトコロの高等部に進学するんですけど、ちょうど文化交流の留学生の話が舞い込んできたのでこれを機に新しい学問を学ぶのもいいかと思ってこちらに来たんです」

「へぇ!あなた優秀なのね!」

「そんなそんな、えへへ」

 

 素直に手をたたいて褒めるソニアに照れくさくて頭の後ろをかく。母国でも褒められたことは多かったがこうやって異国の人間に褒められるとどこか違う感じがしてこそばゆい感じがした。

 

「そっか、そしたらあなたはレイブンクローかもね」

「ホグワーツの寮の一つですよね。お恥ずかしながら私まだこちらに来たばかりで寮分けのことに明るくないんです。もっと詳しく聞いても?」

「えぇいいわよ。ホグワーツの寮は四つあることは知ってるわよね?一つはさっき言ったレイブンクロー、探求心に溢れたところよ。他にグリフィンドール、ハッフルパフ、スリザリンがあるわね。どこも有名な魔法使いを輩出しているし、優劣があるわけじゃないのだけれど……スリザリンへの当たりは強い傾向があるわ」

 

 彼女はスリザリンの話をしてから一瞬、どこか憂いた顔をした。なにか思うところがあるのだろうか。しかしすぐに切り替えて別の話をしだした。

――――――どこか闇がありそうである。ロングボトム家は純血一族、純血主義のスリザリンとはなにかあるのかもしれない。

 

「ね、マホウトコロでの生活も聞かせてほしいわ」

「うちの学校ですか?ホグワーツと違うところといえば、やっぱり学年の制度と寮分けが無いことですかね」

「寮分けが無い……想像がつかないわ。でも差が無くてそっちのほうが暮らしやすいかも」

「そうなんですけどね~嫌なこともあったというか……」

 

 そう、マホウトコロは寮分けがない。差が無くてよいと思われがちだが実は悪い部分もある。団結意識が薄まるのだ。よく言えば個人主義、悪く言えば薄情。課題を忘れたって仲がいい友人じゃなければ助けないし寮全体で過去問を作って後輩に渡すなどということもない。故に成績が思うように振るわない者たちが続出するのだ。おかげでマホウトコロは実力派の魔法使いを多く輩出しているが、もう少し生徒の生活に配慮があってもいいと思うのだ。そこは古い慣習にとらわれがちな日本人の悪い癖といっても過言ではない。

 

「私はなんとか学友に恵まれましたが、ボッチはそれはそれは大変そうでしたよ……」

 

 元気だろうか、クラス分けの最初の日に「ただの人間には興味ありません、この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい」って言って次の日不登校になった花子ちゃん。

 遠い目をしながら昔を懐かしんでいると汽笛の音が鳴り響いた。

 

「どうやら着いたみたいね、あれがこれから私たちが過ごすことになる、ホグワーツ魔法魔術学校よ」

 

 窓の外には、湖の中央に荘厳に聳え立つ大きな城があった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 ホグワーツはおよそ十世紀、993年に四人の偉大なる魔法使いたちによって創設された魔法使いを育てる学び舎だ。おそらく世界でもっとも有名な魔法魔術学校であるだろう。現在の校長はアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア。千年に一人とさえ言わしめた大魔法使いだ。

 

 船に乗って湖を渡り、城内に入った桜たちはマクゴナガルという教師に案内されていた。

 

「まずは、ホグワーツご入学おめでとうございます。今からみなさんには組み分けの儀式を行っていただきます。アルファベット順に名前を読んでいくので呼ばれた者は壇上にお立ちになること、いいですね?」

 

 厳格な教師然としたマクゴナガル教授の言葉に新入生たちはピシッと背筋を直す。まだまだ遊びたい盛りの子供をこのように宥める姿かなりのベテラン教師の風格だ。日本の時のように問題を起こして怒らせないように気を付けなければ……

 そう決意するが桜は相も変わらずトラブルメーカーとなり毎月呼び出されるようになることを彼女はまだ知らない。

 

「ねぇサクラ」

「ソニア、どうしましたか?」

 

 小声で話しかけてきたソニアに同じく小声で返事をするとソニアは少しまごついてから震えるように言葉をこぼした。

 

「もし、もし私がスリザリンにいったとしても、あなたは……」

「新入生の皆さん!時間です、ついていらっしゃい」

 

 ソニアがなにかを言いかけたがタイミング悪く組み分けの時間が来たようだ。悲痛そうな顔をした彼女はそのまままたなにか言いかけようとするが前に進む生徒たちに押され、結局何も伝えることはできなかった。ソニアは一体何を伝えたかったんだろうか。それに最後に見せた顔、悲しそうな、必死に何かを訴えるような顔だ。

 チラチラと少し後ろにいるソニアを見ながら桜は思案する。()()()()()()()()()()()()()。汽車の中での浮かない顔はこれが関わっているのだろうか。スリザリンに入ることを彼女は恐れている?私が考えているよりもホグワーツは寮意識が強いのかもしれない。それこそ、家や政治が絡んでくるぐらいに。今はただ、新たな門出を迎える友人が悲痛そうな顔をしているのが桜は辛くて辛くて仕方がなかった。

 

 

 

 組み分けは順調に進んでいった。どの寮にも均等に配属されていくようで偏りはあまり感じられない。帽子はときに悩み、ときに即決している。その人の資質、考え方、人柄、家柄、一体どういう基準で選んでいるのだろう。悶々と思考を張り巡らしているとついに桜の番が来た。

 

「サクラ・ホンジョウ!」

 

 珍しい発音の名前に周りが少し騒がしくなる。やはり東洋人の留学生は珍しいらしい。確かに東洋人の留学生は珍しいが周りが囁き立つのは幻の島のマホウトコロからの留学生というのが大きな理由だということを、桜は知りえることはなかった。

 壇上の椅子に座ると頭に組み分け帽子を被せられる。そこであることに気付く。

 

(これ開心術の魔法付与(エンチャント)がされた魔道具だ!)

 

『ふむ、これは珍しい、マホウトコロから来たお嬢さんだね?』

 

 桜のテンションは振り切れた、それはもう振り切れた。ここまで高等な技術で編み出された魔道具など知らない!開心術といういまだ研究も完全になされていない魔法を更にエンチャントしただと、そしてこの帽子は意志を持っている!どうすればそんな古代技術の玉手箱のようなことができようか。知りたい知りたい知りたい!私はこの魔法の仕組みを知りたい!

 

『ふむ、お嬢さん、好奇心はいいことだが強すぎるのは返って危険だ。できれば私のことはあまり探らないでほしい。ただの帽子でも、あの人のことは自分だけの秘密にしておきたいのだよ』

 

 そこで桜はやっと自分が無意識に開心術返しをしていたことに気づいた。

 

「ハッ、すみません、あなたのような素晴らしい帽子に会えたことがとても嬉しくて……無遠慮でした。失礼をお許しください……」

『いやいや怒ってなどいないよお嬢さん。ただ自分も少し驚いてしまったよ。まさか新入生に心を覗かれそうになるとは……なるほどなるほど君はとても優秀なようだね、ここまで才能ある子は私も数えるほどしかない』

 

 感慨深く帽子はうなる。さてどうしたものか、直感ではまさしくレイブンクロー。この子は探求心に満ち溢れている。既知も未知も、全てを知りたいという欲に満ちている。しかし大事なのはこの子がどこに進みたいかだ。帽子がすぐに決めれないのはそこにあった。

 当の桜は帽子の本心からの誉め言葉に少しうつむく。

 

「そんな、私はただ運が良かっただけです。良き友人と良き教師に恵まれたただの凡人です。確かに人より恵まれている自覚はあります。私の意志も行動も、全部周りに支えられてできたことなんです。才能なんて、そんな言葉で片づけられることじゃないんです」

 

 心の中の会話だったからかもしれない。少しだけ本音が溢れてしまった。桜は確かに天才だ。しかし本人は正直にそう思ったことはない。だって桜は一人になったら何もできないことを知ってるから。マホウトコロで一人でいる子を何度も見てきた。何もかもにも絶望して何にも手に付けられない、未来に光を見いだせない。その目を知っているから。本条桜が何よりも怖いものは、孤独だった。

 だから彼女は周りに持ちうるだけの礼儀を払う。自分はどこまでも謙虚に礼節を弁え、友と家族には最大限の感謝と謝礼を伝えた。全てはこんな自分の隣にいてくれる人に報いたいがため。

 

「私はただの人間です。まっとうに生きているだけの。たまに羽目は外しちゃいますけどね」

『なるほど、君はとても優しいんだね』

 

 仲間想いで、愛が深く、礼節を弁える。グリフィンドールでならこの子は仲間と助け合い、ハッフルパフでなら感謝を忘れず、スリザリンでなら真の友人に手を指し伸ばすだろう。

 ただ彼女の中では天秤はこちらに傾いているらしい。

 

『君がそこまでそれを重んじるのなら、そうだな、忠義に厚く決して誰も裏切らない君は、

 

ハッフルパフ!!!!!」

 

 そこで割れんばかりの歓声がとある席から沸き起こる。金糸雀(カナリア)色のネクタイが目立つそこは新たな仲間を歓迎せんとばかりに盛大な拍手を桜に贈った。

 

 ただ一人、ソニアだけが翡翠色の瞳を隠すように俯いていた。

 

 

 

 桜がハッフルパフの席に着いた後、周りの者たちが好奇心で目を輝かせながら彼女を質問攻めにした。

 

「ねぇあなた!マホウトコロの留学生よね?前々から噂になってたのよ!」

「ニンジャ!ねぇニンジャはほんとにいるの?もしかして君もニンジャ?」

「スキヤキ!テンプラ!ハラキリ!」

 

 どうやら自分は結構人の目を集めていたらしい。確かにマホウトコロは小さい学校ながら謎が多く、クディッチも大会常連校のため度々別の学校で話題に上がるらしい。そりゃ自分たちの学校にそんな謎の転校生がきたら興味津々になるよなぁ、自分でもそうなる。でもなんかさっき質問じゃない人いませんでした?

 

 あまりの質問攻めに必死に一つずつ答えていた桜はふと隣に座った人物の気配にあれ?と思った。振り返るとそこには新入生であろう男の子がいた。さっき組み分けされた子だろうか。スッと鼻筋が通った端正な顔付きで、周りの女の子は同級生先輩問わずチラチラと彼を見ている。

 

「やあ、僕はセドリック・ディゴリー。同じハッフルパフ同士仲良くしよう」

「はい、私はサクラ・ホンジョウです。よろしくお願いします、セドリック」

 

 差し出された手を握り返してまた桜はあれ?と思う。この子、どことなく不思議な感じがする。魔力の質なのか生来の雰囲気なのかは分からないが、なにかしっくりこない。コードを掛け違えたような、この感じ。どこかで似たようなのに会ったことある気が……

 

「ソニア・ロングボトム!」

 

 そこで友人の名前が呼ばれたことで組み分けへと注意がそれた。

 

 

 

 

 

 

 

 純血一族はもれなくスリザリン。それは暗黙の了解のようなものだった。ロングボトム家に引き取られてもそれは変わらないと思っていた。闇の魔法使いに養父と養母が襲われるまでは。

 

「ソニア・ロングボトム!」

 

 自分の名が呼ばれ壇上に上がる。目の前の椅子に座ることがとても恐ろしい。結果は変わらない。なぜなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただ一つだけ、気がかりなのが、

 

 こんな呪われた血の私の手をとってくれたあの子が、私がスリザリンに入ったらどう思うんだろう。

 

 歓声が鳴り響く席に向かいながら遠くに行ってしまった彼女を見て、私は壇上から去った。

 

 

 

 

 

 

 組み分けが終わってからはしばらくそれぞれの寮での雑談の時間となった。長いテーブルにはグレート・フィースト(大ごちそう)が並び各々好きなように好きなだけ食べて飲んで騒いでいた。

 日本にいた頃とは違う食事に舌鼓を打ちながらもやはり自分には少し脂っこく早々に肉類を諦め野菜類に主に手を伸ばしてはたと気づく。

 

「いくらなんでも、みなさん食べすぎじゃないですか……?」

 

 隣にいる男の子も、またまた隣にいる子も、同級生も先輩もみな次々に皿に手を伸ばしスルスルとまるで液体のようにそれを吸い込んでいく。いくら桜が小柄で少食だからといっても、ホグワーツの者たちは平均的なイギリス青少年の倍は食べていた。端正な顔立ちをしながら蜜に浸したパンケーキという見るだけで胃もたれしそうなブツをペロリと平らげるセドリックを戦々恐々とした目で見つめていると、きょとんと彼は目を丸くして食べないの?とさえ言い放ってきた。

 

 ホグワーツ、恐ろしや。

 

「私は巨人の巣に来てしまったのかもしれません」

「面白いこと言うね、ジャパニーズジョーク?」

 

 厚切りベーコンにフォークをぶっさした彼はのほほんとそう言うと、小休憩とでも言う風に一旦皿にそれを置いた。

 

「前に僕もどうしてこんなにお腹が空くのか不思議になって調べたんだけど、ヨーロッパの魔法使いは土地柄か、血筋か、よく分からないが魔法を使うのに物凄いカロリーを消費するんだ。今の学説では欧州の魔法形態は杖と呪文のシンプルなものでほとんど自分の魔力だけ使うからそれだけ魔力消費が激しいためと言われているらしいよ」

「それはなかなか、燃費が悪いというかなんというか、大変ですね」

「うん、ホンジョウはそこまで食べてないみたいだけど、東洋の魔法使いはやっぱりそこらへん違うのかな。いいなぁ」

 

 羨ましげな声音をあげながらぺろりと五ミリはあるベーコンを平らげた彼にアハハ……と苦笑いを返す。セドリックは結構大食漢らしい。もしかしたら他の子よりも魔力を使うのだろう。住む土地が違うとこういうところにも違いが出てくるのか。色々と勉強になるものです。しみじみと感慨深く豆スープを飲んでいると壇上の方から大きな咳払いが三つ響いてきた。

 

「新入生の諸君、入学おめでとう。わしの名はアルバス・ダンブルドア。この学校の校長じゃ」

 

 長い髪と髭を携えたその老人は、温和そうな表情を携え一見無害にも見える様相をしながら、きらりとした光をその瞳に宿していた。

 

 ダンブルドア校長の話を要約すると、主に新入生への賛辞と諸注意だった。やはりホグワーツは禁則破りが多発するらしい。校長が公の場で注意しても続出するなら言っても意味ない気がするのだが。そもそもあの校長から本気で生徒を咎めようとする意志を感じられなかった。あの人、意外とお茶目なのですか?もしかしたらちょっとはっちゃけても許されちゃうかも、という少しの期待を抱くが思い直してぶんぶんと頭を横に振る。だめです桜、学生は学生の領分で学ぶこと、しかも私は日本大使、私の行動がマホウトコロのイメージに直結するのです。真面目に、真面目にやらなければ。ふんふんと意気込んでいると、動く階段が止まる。どうやら着いたらしい。

 着いた場所は樽が山のように積まれた部屋だった。まさかこの樽が一人一人の部屋、と思ったがどうやらさすがに違うらしい。監督生が杖をローブから取り出し入り口から二つ目、樽が並べられた棚のぴったり真ん中の樽の底を二回叩いた。

 するとどうだろう。古い木のビネガー樽が次々に動き出すではないか。そしてそれらが止まった時、先ほどまではなかった扉が目の前に現れた。ここから先がハッフルパフの談話室らしい。

 

 扉の先は黄色と黒のインテリアが施された落ち着いた雰囲気の部屋だった。天井からは蔦のような植物がカーテンのように降り注ぎ、壁には樽底のような扉がいたるところにある。

 

「ここがこれから君たちが過ごす家だ。大抵は自室かこの談話室で過ごす。なにか分からないことがあればここに誰かしらはいるから気軽に聞くこと、いいね?それじゃ何も質問がなければ、解散!」

 

 監督生の合図に各々がそれぞれの部屋へと向かう。私も自分の部屋へと向おうとすると監督生にちょいちょいと手振りで呼ばれ何事かと近寄った。

 

「君は留学生の子だね。君には個室を用意しているから直接案内するよ」

 

 どうやら慣れない土地に来て慣習や言葉も違く、心落ち着かないだろうという学校側の配慮らしい。これはありがたい。正直言うと少し英語は苦手だったのだ。喋るのはいいのだが、リスニングがまずい。彼らは単語を繋げて喋るものだから一瞬だと穴あきでしか理解できないのだ。ネイティブでない桜は空白に入る単語を予測する時間がどうしても生まれてしまう。日常会話でこのようなラグが生じるのは結構ストレスがかかるものだ。だったら一人の方が気楽と言えば気楽だろう。同級生との恋バナができないのは悲しいがこればかりは天秤に傾いたのは安らかなプライベート空間だった。そのまま監督生の後ろに着いていき一つの部屋にたどり着いく。それじゃ、と言って立ち去る監督生にお礼を言い、扉を開けた。

 中に入ると、部屋は談話室と変わらず黄色と黒の家具で揃えられていた。シンプルでこれから自分好みに変えられるように、という配慮はされているようですが、これは、うーん、ちょっと派手すぎかもしれませんね。生粋の日本人である桜には黄色と黒という派手色のプライベート空間は落ち着かなかった。

 

「よって、ここは大リフォームです!」

 

 基本的に一部屋に四人で暮らすホグワーツの寮だが桜は一人部屋だ。つまり、なんの遠慮もせず部屋の改築ができた。桜が杖を取り出すとまずは部屋の家具をすべて消す。机も、本棚も、ベッドもすべて消すとまっさらなフローリングが現れた。さて、どうせ作り直すなら大きく変えたい。内装のイメージを思い浮かべながらもう一度杖を振った。

 

 そしてできたのが情緒あふれる日本式畳部屋であった。

 

 床はもちろん畳、干し草のいい香りがします。障子で部屋は寝室と作業部屋に二分割、寝室がフローリングなままなのはできればふかふかの布団で眠りたかったのでベッドを置くためです。テーブルも炬燵という万能机に切り替えクローゼットは箪笥に。そしてそして極めつけはなんと、主神様の神棚です!もしかしたらお祀りできるかもしれないと実家からこっそり持ってきましたが大正解でした。これで毎朝日課のお参りも続けられます。

 

「ふぅ、でもちょっと変えすぎた感も否めませんね。ですが大満足です!」

 

 大仕事でかいた汗を拭いながら満面の笑みを浮かべた。ちなみに時計の針は既に零時を回っている。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 組み分けから一か月、一年生は既にすべての授業は一周しガイダンスもすべて終わりもうホグワーツに慣れ始めている時だ。そんな中、一年生の間ではある一人の生徒の話で持ちきりだった。

 曰く、スリザリン贔屓で有名な教授が息を呑むほどのおでき薬を作り他寮に加点したとか。

 曰く、呪文学にてウィンガーディアム・レヴィオーサではなく妙な紙切れを使って無詠唱で羽を浮かせたとか。

 曰く、変身術の授業で無登録の最年少アニメーガスが生徒にいたとマクゴナガル教授が騒いでいたとか。

 

 昼食の食卓ではその人物の話ばかりである。その噂の中心人物は、一人肩を縮こませながらちびちびとスープを飲んでいた。とても初めて会った時のような溌剌とした雰囲気は感じられない。どんよりとした空気を身に纏う女の子を見て、セドリックは一緒にいた友たちに一言言ってから別れごく自然に、片手を上げてやぁ、と話しかけた。

 

「隣いいかい?」

「えぇはい、哀れなボッチの隣でしたらいつでも空いてますからご自由にどうぞ……」

「随分と、ネガティブになったね。きみそんな感じだっけ」

「私は自惚れていたんです。これはその自戒です。気にしないでください」

 

 先ほどの噂の事例、その全てを引き起こした桜は既に校内でも有名な存在であった。マホウトコロからの留学生という肩書きだけでも目立つのに使う術も周りの者とはまったくもって異なっている。異端とまではいかなくとも魔法形態や常識が違う桜にどう接するべきか、周りは分からずにいた。結局、桜はこの一週間ホグワーツの者とは交流を深められていなかった。

 

「まさか変化がイギリスでは一般的ではないとは思わないじゃないですか……それに申請登録必須だったなんて……」

「変化?」

「こちらで言うアニメ―ガス(動物もどき)の事です」

 

 日本では妖怪や神霊と人間の混血がかなりいる。その影響で身体の一部を動物に変えれる者もそう珍しくはなかった。クラスの三分の二くらいが普通に動物もどきのようなものである。しかも人間の身体よりも使い勝手がいいため四六時中変化している者もいた。よって自身の身体を動物に変えることが日常に浸透していた桜は変身術の授業で普通に動物もどきになってマクゴナガルに騒がれていたのである。今ある話題の留学生の噂はほとんどがこのことに関してだった。

 まあ、下調べもせずに安易に変化した私が悪いんですけどね。はは、と乾いた笑いを溢した。

 

「なんか、そっちは随分とこっちの魔法界とは違うんだね。生活様式とか法律までまるっきり違うのは興味深いなぁ」

「そうですね、私が知っている中だと死の呪文に関しても扱いがだいぶ異なりますよ。使用者は限られますが合法的にアバダケダブラを打てるところもあるので」

「「「え!?!?」」」

 

 今何と言ったか。許されざる呪文が合法的に打てるだと?衝撃的な話に周りで静観していた生徒たちがこぞって桜の周りに行き話の続きを求める。急に自身の机の周りに人が来て一瞬固まったが話をつづけた。

 

「こちらでは許されざる呪文は服従の呪文、磔の呪文、そして死の呪文ですよね。でも日本ではこれらの呪文は別に使うだけなら犯罪にはならないんです。もちろん、呪文を使って、人間や動物、妖怪に不用意に傷害や殺害を犯してしまった時はこちらの法にも触れますけど」

 

 実を言うと禁じられた呪文含め欧州含む諸外国で使われている呪文は日本が鎖国を解除してから流れてきたものであり、日本人からしたらたった数百年前に新しくできた外国の魔法、という認識なのである。元々日本魔法界は摩訶不思議な力は魔法ではなく神道や陰陽道と呼ばれ、各地域で発展、伝承されてきたもののためそれはそれは多様な形態があった。それが外国からの知識と共に改めて統合されて一応欧州魔法風の区別はされているが、本来はその枠組みに収まらないほどの魔法が日本にはあった。変化や御札もその一部に過ぎない。そんな古来からある日本魔術には死の呪文など比べ物にならないほど危険なものもある。よって日本の感性としては使用にも多大な魔力を使用し並みの魔法使いなら一発が限界、さらに弾速も遅いので避けるのもたやすい魔法は注意はしておくべきだがそこまで脅威でもないという判定を貰っていた。

 

 いや、普通弾丸並みの呪文なんて避けれないだろ。

 

 話を聞いていたホグワーツ生の心が一致した。もちろん一般人には避けれない。が、日本の魔法使いはマホウトコロの授業の一環に山修業があるため厳しい訓練を積んでおり、身体能力はかなり高い。日本人がいまだ忍者と呼ばれるのはこの異常に身体能力が特化した魔法族が度々見かけられるからだった。

 

「所かまわずポンポン死の呪文を打つのは駄目ですが、薩摩藩というところではそれが許されているんです。まああそこは法の管理下にない無法地帯なので護身のために許されているみたいな感じです。正直言って私もあそこはかなり怖いです。暇さえあれば杖で斬り合って奇声をあげてるようなところですから」

 

 待ってくれ、杖で斬り合うってどういうことだ。日本は奇声をあげながら殺し合うような場所なのか?ホグワーツ生たちのなかで日本のイメージが段々と殺伐とした終紀末然としたイメージへと変わっていく。違うのだ、薩摩藩だけで日本全体は普通に平穏である。しかし桜は誤解が進んでいることに気付けず、そのままホグワーツ生が抱く日本魔法使いのイメージは血みどろの奇声をあげるデスイーターみたいなものがわんさかいると思われてしまうのだった。

 

 ふと、気付けば桜の周りには多くの生徒で賑わっていた。皆一様に桜のマホウトコロでの話を興味深げに聞いており、続きを急かされる。これは、もしかしなくとももしかしてなのでは。

 

「日本って想像してたよりもすごく怖いかも……でもサクラは優しいしそんなことないね」

「ねぇ、前使っていた浮遊呪文なしで羽を浮かせたのはどうやったの?あの羊皮紙みたいなものから風が出ていたような気がするけど、よければもう一回見せて!」

「サクラ、もっと日本の話聞かせて!」

 

 サクラ、サクラ、サクラ。怒涛のコールに桜は呆気にとられる。さっきまで誰とも話すことができずこのまま友達の一人もできないでボッチ学校生活を送る羽目になると思っていたが、どうやらその心配はもう晴れそうである。これはカルチャーショックによる皆の好奇心のおかげだ。万歳異文化交流、万歳日本。桜がしばらく避けられていたのもその異文化のせいだが。それには気付かずに桜の心は段々と元気を取り戻す。そして日本とイギリスの魔法の違いについて、次の授業の時間までその話は続いた。




・ソニア・ロングボトム
本作完全オリジナル登場人物。ロングボトム家に引き取られた純血一族の少女。後に出てくるネビル・ロングボトムの義姉にあたる。
・日本魔術
 縄文時代から独自の形態を持って発展してきた魔法魔術。ある説では卑弥呼が生きていた時代から魔法があったとされている。日本魔術とは外国の魔法と統合されたときに新しくつけられた名前で本来は神道、陰陽道などと言った呼び方で一つに纏められてはいなかった。杖と呪文と魔力のみを使うイギリス魔法とは違い、日本は自然に力が宿っているという独特のアメニズムに則り動植物や自然から魔力を借り受けて魔法を行使するため様々な魔法の発現方法がある。政治戦争真っ只中の平安時代や領土取り合いの戦国時代にその需要を受けて呪術が発展したためかなり危険な禁術指定の魔法がいくつかある。
・変化
 日本版アニメ―ガス。妖怪や神霊との混血がその特徴を一部、または全体に発現させる魔法の事。日本ではそこまで珍しくない。
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