世界に名だたるは我らがホンジョウ   作:あまみまくら

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第ニ話 ゴーント家の末裔

 休日、普段と変わらないホグワーツ城。生徒たちは皆羽を伸ばして各々自由に過ごしている。ある者は図書室で課題を、ある者は中庭で昼寝を。ごくごく普通の日常である。そんな平穏をぶち壊すように一人の女生徒が物凄い速さで廊下を駆け抜けた。彼女が追いかけるようにして走る前には白い小さな生き物がすばしっこく駆け回っている。恐らくはあの生徒の使い魔であろう。彼女から逃げるようにしているあたり飼い主がなにかやらかしたのは明白だ。

 

「待ってくださいむぎちゃん!もうご飯にカエルチョコレートなんて出しませんから!」

 

 ……言っておくと、動物にチョコレートは毒である。

 

 

 

 

 

 

 大変です。ペットのむぎちゃんが脱走しました。誓って言いますが虐待ではないです。チョコレートをあげようとしましたがあれはあの子がよく蛙を食べるのでカエルチョコレートとか好きかなってちょっとした好奇心が湧いて与えただけで決して虐待目的ではありません。案の定むぎちゃんは箱から飛び出した茶色いカエルに驚き逃げ出してしまいました。美味しいことは美味しいのですが……狐には合わなかったようです。

 

 生徒たちの合間を縫うように駆け回る白い毛並みの狐はすばしっこくなかなか追いつけない。桜も人が多くて思うように走れないでいた。その時、進行方向の廊下の突き当たりから人影が現れる。

 

「!そこのウィーズリー兄弟!その子を捕まえてください!」

 

 咄嗟に呼びかけるが間に合わなかったのかむぎちゃんは彼らの股の間を抜けていく。あちゃーと言った風に自身の股を覗き込む赤毛の男子生徒とその隣の顔がまったく瓜二つな男の子が何かあったのかと愉快そうな顔で尋ねてきた。

 

「やぁ、我らが同士のサクラ!そんなに慌ててどうした?さっきのおチビちゃんを追いかけてたみたいだが」

「むぎちゃんです、私の使い魔なんですがカエルチョコレートをあげたら逃げちゃって」

「おいおい聞いたかよジョージ、動物にチョコだって?流石に俺たちでもそんな非道いことはしないぜ」

「同感だよフレッド、だって俺たちはみんなが喜ぶ悪戯しかしないからな」

 

 安全は保証しないけど!二人揃って胸を張って言う彼らは桜と同じ年齢のグリフィンドールの生徒だった。どうして他寮の生徒と桜が顔見知りなのかというと、噂の転校生が摩訶不思議な術を使うと聞いて双子が好奇心で接触してきたのがきっかけである。最初は話を聞いてみようと言うだけであったが聞くうちにあまりに奇想天外な日本魔術に度肝を抜かれ、新たな悪戯道具の発想を得た双子は桜を勝手に同業者とみなすようになった。桜が度々授業でびっくり仰天な所業をしでかすのでそのせいもある。

 

 むぎちゃんは双子のうちの一人、ジョージの足の間を通り抜けると中庭の茂みの中へと行ってしまい完全に姿を見失ってしまった。あ!と桜が慌てて追いかけようとするとチッチッチッと後ろから肩を叩かれた。

 

「まぁ任せとけよお嬢さん、俺たちは魔法使いだぜ。ペットが逃げた時だって魔法でなんとかするのが俺たち流だ」

 

 そして杖を取り出したフレッドがアクシオと唱える。まだ習っていない呼び寄せ呪文であるはずなのに発音も完璧で慣れたように使いこなしていた。しかし、待てども狐が引き寄せられる気配はない。あれ?とフレッドが首を傾げた。

 

「おいおい兄弟、杖の振り方でも間違ったんじゃないか?大見得張ってこれじゃあダサいぜ」

「なんだと、でもなんでだ?普段なら成功するんだけどなぁ……」

「……その、申し訳ないのですがむぎちゃんにアクシオは効かないんです。あの子魔法耐性がすごく高いので私たちの人間の魔法じゃまったく意にも介してませんよ」

「「魔法耐性?」」

 

 聞き慣れない単語に二人が振り返って聞き返した。

 

「なにそれ?」

「うーん、簡単に言うと体全体がフィニートインカンターテム(呪文解除魔法)で覆われてる感じです」

「え、それって普通にズルくないか」

 

 フレッドがそう言うのも仕方ない。なにせ魔法全部が効かないということだ。日本の妖怪全般に言えることだが、彼らは生物と自然その狭間にある存在なので私たちより魔力に親和性があり、その扱いに長けている。自身の身の回りの魔力を強めたり、逆に弱めたりすることができた。また、まだ解明されていない部分は多いが弱者淘汰の自然界で生き残るために魔力を打ち消す方向に進化した種もあるという説もある。

 

「へー、おっどろきー。日本じゃそんな魔法動物がいるんだな」

「でもどうするよ、魔法が効かないんじゃ追いようがないぜ」

「うーん、捕まえはできませんが、探すだけなら一応手はあります」

 

 懐から一枚の人型の紙を取り出す。双子が興味津々にそれを見つめた。桜がローブについていた狐の白い毛をとり人型に貼り付ける。すると人型の紙がひとりでに宙に浮きくるりと一回転した。

 

「いって、むぎちゃんを追いかけて」

 

 桜の言葉と同時に飛び出すように人型は狐の跡を追って茂みの方へと飛んでいった。

 

 あの紙の人型は形代といい日本の一般的な失せ物探しの魔道具である。探し物の名前を描いたり一部を貼り付ければ目的の場所まで飛んでいき案内してくれるという代物だった。茂みを抜け、しばらく後を追っていると小さな湖の畔にでた。そこで形代は動きを止め桜の懐に戻る。どうやらここにいるらしい。

 

「むぎちゃーん、ここにいるなら出てきてください!」

「……サクラ?」

 

 使い魔の名を呼んでいると畔に生えた一本の柳の影から一人の姿が現れた。ソニアだ。

 

「ソニア!どうしてここに」

「こっちの台詞だわ。体中葉っぱだらけだし、何をしていたの?」

 

 ソニアの言葉通り桜のローブや頭には茂みを抜けてきてついた葉がたくさんついていた。呆れたようにその姿を見つめるソニアの腕の中に白い塊がいる。

 

「むぎちゃん!」

「この子、あなたの使い魔だったのね」

 

 ようやく再開できた使い魔に腕を伸ばせば狐はソニアの腕の中から出ていき桜の肩へと登って行った。もう二度と食事にカエルチョコレートは出さないと謝罪の意を込めて顎あたりを撫でると狐は小さく鳴いた。

 改めて、ソニアと顔を合わせる。実のところソニアとは少し気まずかった。入学式の後、寮が分かれてしまい顔を合わす機会が減ったのは勿論だが、合同授業や休み時間でも会うことが出来なかったのだ。正確にはソニアの方が会うことを避けていたと言ったら方がいい。桜の顔を見かけると彼女は顔を逸らして別方向へと行ってしまう。そんなことがかれこれ三週間は続いていた。もしかして、なにか嫌われるような事をしてしまったのだろうか。しばらくの沈黙が続く。とても気まずい。話題を切り出そうと口を開いた時だった。

 

「あの「おーいサクラ、こんなとこにいたのか」

 

 茂みから赤色の頭が二つ分飛び出す。フレッドとジョージだ。足の速い桜に追いつけず後から追いついたらしい。しかし今はまずい。噂によればグリフィンドールとスリザリンは仲が悪いらしい。これでは余計な諍いが起きる。現にお互いを認識したソニアと双子は睨み合うまではいかないにしても双方怪訝な顔をしていた。

 

「……どうやら私はお邪魔みたいだしここでお暇させてもらうわ。じゃあね、サクラ」

「あ、はい。また、ソニア」

 

 微妙な空気が流れる中それを打ち壊すようにソニアはサクラに手を振ってそこから去って行ってしまった。まだいろいろと話したいことがあったのだが……

 

「あいつ、確かソニアだっけ?ロングボトム家の」

「びっくりおっかないゴーント家の末子らしいいぜ。サクラの知り合いだったとはな」

「その話詳しくお聞かせいただいても!?」

 

 こそこそと話す双子の間に割って入る。今とても興味深い話が聞こえた気がしたのだが。

 

 双子から話を聞くとソニアはどうやらロングボトム家直系の子供ではなくゴーント家という純血名家の血を引く子供だったらしい。しかし既にゴーント家は没落しているらしく、一族は離散、ようやく見つかった血の繋がった子孫のソニアの引き取り手はおらず、彼女の母方の先祖にロングボトム家がいたためそちらに養子として引き取られたらしい。イギリス魔法界ではそこそこ有名な話だそうだ。これには吃驚仰天である。しかしフレッドが言っていた恐ろしいとは一体どういうことか。

 

「ゴーント家は純血思想を持つ奴らの中でも相当なイカレ野郎どもの集まりだよ。マグルに寛容な奴が一族にいれば縁を切って追放するし、噂じゃ洗脳や拷問もしてたらしいぜ。あんまりにもマグルが嫌いなもんだから親族同士での結婚ばっかやって結局滅んじまったらしいがな。とにかく関わり合いになるだけ面倒な奴らだ」

「はへー、そんな考えの人たちもいるんですね」

 

 確かに血の濃さは日本でも重要視されているが近親相姦までするとは随分な徹底ぶりである。それが滅亡の一途をたどる要因になってしまったようだが。

 

「しっかしまさかゴーント家の人間が現れるとはなぁ」

「もしかしたらあの秘密の部屋の継承者かもな」

「秘密の部屋?」

「ホグワーツの謎の一つだよ。その昔、ホグワーツ創設者のひとり、サラザール・スリザリンが作ったと言われる部屋で自分の子孫にしか見つけられないようにしたらしい」

「「そしてゴーント家はサラザールの子孫だ」」

「ゴーント家の血を継ぐ者はソニア・ロングボトムだけだからな。もしかしたらもう見つけてるかもしれないぜ」

「へー、そしたらソニアはとっても凄い血筋の子なんですね」

 

 日本で例えるなら菅原道真や平将門の子孫、みたいな感じなのだろうか。とても力の強い貴族の子供なのだろう。まあこの二人の血をつないでいる者がいれば日本だとすぐ保護()されて神職コースまっしぐらなのだが。子孫の血を辿って呪詛や怨霊が現れることがあるので神社などで常に身を清い場所に置くことが本人を守ることにもつながるから仕方のないことではある。そこであることに気付く。

 

(もしかして、ソニアが私を避けているのは物凄い純血思想だからとかですか!?)

 

 英国の由緒正しい血筋の一族、得体の知れない国から来た異端者、血や家を重んじる者からしたら進んで仲良くなったりはしないだろう。つまり、嫌われている。嫌われているにもかかわらず桜は本人に結構しつこくアタックしていた。やれ見かける度に手を振ったり、やれ偶然を装って待ち伏せしてみたり、果てには寂しさから彼女の交友関係を探ったり……その度に苦笑いされていたのはそういうことだったのか。

 がくりと、膝から崩れ落ちて地に手をつけ項垂れた。

 

「日本に帰りたい……」

「「ホームシックか?」」

 

 

 

 

 

 

 すれ違うたびに、ゴーント家の末裔、呪われた血と指を差される。スリザリンに入っても面と向かって言う者はいないがそれでもひそひそと囁く声が聞こえた。

 別に構わない、小さいころからそうだったのだから既に慣れている。でもたまに、時たま、どうしようもなく蹲ってしまいたくなるときがある。

 生まれてからずっといろんな目で見られてきた。珍しいものを見る目、軽蔑する目、馬鹿にしたように嘲笑する目。すべてゴーント家という愚かな家に向けられる奇異の目だ。唯一安らげた家もホグワーツに入学するなら離れるしかない。こんなことなら学校なんて来なければよかった。いや、そもそも魔法使いになんぞ……そこまで考えた頭を横に振る。私はゴーント家の長となるのだ。立派な、歴史に名を遺す魔法使いにならなくてはいけないのだ。それが母との約束なのだから。

 魔法を知る前に暮らしていたイングランドの生家を思い出す。西の暖かい風を受けて揺れる緑の草原を共に歩いた記憶だけが、唯一の母親との思い出だった。もう何年も、墓参りに行けていない。

 ベッドの中でぼんやりと考える。昼間に合ったあの日本人。コンパートメントで出会った、初めての私の()()。私が勝手に思っているだけだ。彼女だけはずっと私を普通の目で見てくれる。彼女の前でだけはゴーント家じゃなくて普通のソニアでいられる。どれだけ心地よかったか。だからこそ、彼女が私の真実を知って、安らぐその居場所を失うのが怖い。会うたびに手を振る彼女から顔を逸らすたびに胸がつきりと痛んだ。それでも、これでいい、これでいいのだ。失うくらいなら、最初から手にしなければいい。サクラは、私なんかと関わるべき子じゃないのだ。

 眠れない視界を覆うようにシーツを被り直した。

 

 

 

 翌朝、合同授業の飛行訓練でまた彼女と目が合う。しかし今度は私からではなく彼女から目を逸らされた。……ゴーント家のことを知ったらしい。一緒にいたウィーズリーの双子からでも聞いたのだろう。これでいいのだ。あなたは明るくて優しい子だから。

 眩しすぎる太陽の前では、醜い蛇の目は潰れてしまうから。

 

 各々が箒を手にしてまたがる。そういえば、日本では箒はメジャーな乗り物なのだろうか。ふと疑問に思った。もしかしたら乗り方を知らないかもしれない。魔法界の子供たちはみな幼いころから触れてきているから大丈夫だが、もし箒を知らなければ彼女だけ飛べないなんてこともありえる。不安と心配からちらりとサクラのいる方を見た。

 

 その瞬間、悲鳴と共に目の前に黒い影ができた。

 

 

 

 

 

 

 飛行訓練の授業が始まりました。日本ではクディッチ以外で箒に乗ることはあまりなくメジャーなものではありませんがもちろんホグワーツに来る前に乗り方は修得してあります。でもやっぱり海燕より乗り心地がよくなくてあんまり好きにはなれませんね。お尻が痛くなるんですよねこれ。イギリスの子たちはよくこれに乗って長時間飛行していられるものです。もしかして人種によって箒にフィットしやすいお尻の形が違うのでしょうか。

 黄色と緑のローブが入り混じり、向かい合うようにして並び立つ。すると向かいの方にソニアの姿が見えいつものように手を振ろうとしてやめた。いけないいけない、嫌われているのにまたダル絡みをしてしまうところだった。これ以上嫌われたら立ち直れる気がしないので目を逸らす。本当は一緒に並んで箒で飛びたかったのですがこればかりは仕方ありません。渋々と自分の箒の上に手を翳すとスコーンといい音をたてて額に柄がぶつかった。

 

「いったぁ!?主人に向かってなんですかその態度は!」

 

 嫌々乗られるこっちの身にもなれ。箒からそんな声がした気がした。箒にも乗られたくない意志とかあったのか。隣のセドリックは余裕綽綽と言った感じで一発で箒を手にしていたが。なんとなく彼の箒は喜んで握られていったように見えた。というか上がれという前に彼の手に収まってましたし。セドリックと私で何が違うって言うんですか。

 無事箒を手にしさぁいざ飛ぶぞとなった時だった。ハッフルパフの方が騒がしくなる。なんだと見てみれば男の子が先生の合図が終わる前に飛び立っていた。なんと、まさか誰よりもはやく飛び立つとはなんて才能、この子は将来クディッチ選手ですね。え、暴走?制御できてない?ちょ、そっちはスリザリンの子たちの集まりで……

 暴走した箒に乗った男の子が緑のローブの塊へと突っ込んでいく。みなぶつかる前に気付き間一髪で避けていたが一人だけ逃げそびれている者がいた。

 

「!ソニア!」

 

 見慣れた銀髪の少女が目を見開いた。呪文じゃ間に合わない。駆け出して、彼女の方に突っ込んでその体を突き飛ばした。

 ドンっ、と体に強い衝撃が加わる。どうやら少し脇腹を打ったようだ。痛みに悶えていると隣から大きな声がした。

 

「サクラ、サクラ!あぁそんなどうして……」

 

 どうやらソニアは無事だったらしい。よかったと笑えば彼女は悲痛そうに眉をひそめて、涙を流し始めた。

 

「そ、ソニア!?どうしました、どこかぶつけましたか!?あぁ私が付き飛ばしたりなんてしたから……」

「怪我してるのはあなたの方よこの馬鹿!」

 

 泣き止まないソニアにワタワタと手を振る。でも怪我をしていないのならよかったです。そういえばさっきの男の子は!ソニアにぶつかる直前に上に飛んで行ったのは見えたのですが……

 

「すごいやセドリック!あんな暴走した箒に追いついちゃうなんて!」

「三年生になったら絶対シーカーだよ!」

 

 そこには自分の箒の後ろに男の子をのせて危なげなく着地したセドリックがいた。どうやら彼が助けたらしい。みんなに囲まれて英雄の如く崇められていた。一年生であの箒の速度に追いつくなんて、しかも一人用の箒にもう一人乗せるなんてどんな運動神経とバランス感覚してるんですか彼は……本当にシーカーになってそうで将来有望ですね……

 

 あの後大事をとって私とソニアは保健室へと行かされた。マダム・ポンフリーによると打撲があるけど酷くはないらしい。どうしてこんな危険な授業をさせるんでしょうとかいろいろ言っていたが。診察も受け終わり問題なしということで帰された。そして保健室からの帰り、授業中で誰もいない廊下を二人で歩く。き、気まずすぎる。ちらちらとソニアの方を向きながら歩いているとふと彼女の方から話しかけてきた。

 

「……ねぇ」

「はいぃ!」

「なによその上ずった返事は」

 

 クスッとソニアが笑う。おや、嫌われているとばかり思っていたがこの反応だとそうとも限らないらしい。首を傾げているとソニアは話を続けた。

 

「どうして私のことを庇ったの?あなただって聞いたでしょ、私がゴーント家の人間だって」

「?えぇ、とても古くから続く由緒正しいお家だと聞きましたよ。あのホグワーツ創設者のひとりの子孫だとも」

「……呪われた血よ。黒い噂が絶えない家だわ。無くなってよかったとも言われているくらい酷い一族の末裔なのよ」

「ソニアは違うじゃないですか」

 

 まっすぐ、翡翠の目を見て言う。たとえ非業をなした一族だからと言って、それを何もしていない子供のソニアが責任を負ういわれがどこにあるというのだろうか。一瞬うろたえたソニアはそれでも!と必死そうに言う。

 

「蛇語が分かるのよ?話せもする。気持ち悪いでしょう、怖いでしょう?例のあの人と同じだもの、怖がられて当然だわ」

「え、蛇語が話せると怖いのですか?」

 

 本当に、純粋な疑問を投げかければ呆気にとられた顔でソニアは黙ってしまった。蛇語が喋れるなんてそうそう珍しいものでもないでしょうに。私は生憎と先祖に水神様がいないので話せませんがマホウトコロのクラスには結構いましたよ。

 

「本気で、言ってるの?」

「はい、別に珍しいことでもないでしょう?」

 

 するとソニアは額に手を当てて頭を抱えてしまった。何か変なことを言ってしまったのでしょうか。まさか、イギリスだと蛇語を話せるのはかなり特異とか……?

 

「そのまさかよ、そっちじゃパーセルタングは普通なのね……ほんと、文化の違いをことごとく思い知らされるわ」

「えーと、えーと、日本でも聞けるだけの人とかも結構いて聞く話すが両方できる人は中々いないというか、血が濃い人とか先祖返りの人しかできないのでどっちもできるソニアは珍しいというか、つまりあなたが非凡というわけではなくてですね?」

「大丈夫よ、そんなつもりで言ったんじゃないわ。それにこっちじゃ話せても不気味がられるだけよ」

「そ、そうなんですね……」

 

 ほっと胸をなでおろす。しかし蛇語が理解できるだけで迫害されるなんて変な風習があるものです。

 

「……それで、どうして私を助けてくれたの?」

「え、それは、その……私が勝手に思ってるだけかもしれないんですけど、友達だから、です」

 

 もごもごと、最後の方は尻すぼみになりながら言う。こう言って迷惑ではないだろうか。ちらちらとソニアの方を伺えば彼女は意外にも呆気に取られていた。

 

「友、達……そう。私ったらとんだすれ違いをしてたのね」

「ソニア?」

 

 クスクスと笑う彼女にまた首を傾げる。ひとしきり笑った彼女は目じりに浮かぶ涙を拭うと、出会った頃のような笑顔で言った。

 

「サクラ、改めてさっきは助けてくれてありがとう。それと、よかったらこれからも仲良く、してくれると嬉しいわ……いい?」

「!勿論です!」

 

 差し出された白い手をあの時のようにもう一度握り直した。

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