フィオナの森に攻め込む闇文明、それに立ち向かう、1人のアーマロイドの話。

デュエル・マスターズ極神編(DM24~27期)背景世界の二次創作小説になります。

※オリジナルの兵器や独自の解釈があります。
全体的に拙く、読みにくいかとは存じますが、どうかお付き合いいただければ幸いです。



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マシン・ハート・オーバー・ドライブ

 やあ、来たね。

 

 それじゃ早速だけど、今回の作戦を説明するよ。

 

 今回の指揮はボク、トリエールが担当……とは言っても、今ここにはボクとキミしか居ないし、この辺りの説明は必要ないね。

 

 じゃあ、まず作戦の概要から。今回の作戦は、こちらへ進攻してきている闇文明の分隊への奇襲だ。

 

 内容と目的は、こちらの突撃部隊が敵部隊をかき乱しながら敵指揮官の撃破を目指し、混乱している敵を後発の部隊が叩いて、可能な限り損害を与えて敵を壊滅、または撤退させる事。

 

 敵部隊に関しては、前回確認できた限りでは、主にデスパペットやパラサイトワーム、それにへドリアンで構成されていた。でも、その面子の割にしっかりと統率された動きをしてるから、姿は確認できなかったけど指揮を執っているヤツ……恐らくダークロードか、デーモン・コマンドがいる。油断は出来ないね。

 

 今回の作戦において、突撃部隊はラスト・モモタロウ、キミ一人。

 

 前線で戦える者の殆どが前回の戦闘で負傷してしまったからね……そうだね、ホント、無茶苦茶な作戦だよね。

 

 作戦って呼んでいいの? これ。

 

 ……でも、前回の戦いでも分かった通り、数も力も圧倒的に向こうの方が上だ。どんなに無茶苦茶でも、この奇襲作戦を成功させなければ、近い内にフィオナの森も、この村も、闇文明にボロボロにされて仙霊樹も奪われて、きっと森は死んでしまう。

 

 そうなってしまったら、世界はもっと酷いことになる。

 

 今は世界中で神の軍勢と闇の本隊が衝突してるから、この土地を治めてるゴッド達の助けは期待できないし、これはボク達だけでやるしかない。

 

 勿論、キミをただ闇雲に突っ込ませて死なせるつもりはないよ。

 

 必ず帰ってきてもらう。

 

 そのために用意したのがコレさ。

 

 元になったのは1万年前の遺跡に眠っていた《スクランブル・ブースター》だよ。

 

 元のデザインは無骨で『動きさえすれば何でもいい』って感じで、まるで洗練されてないデコボコのボディ、おまけにパーツもいくつか無くなってた文句無しの骨董品だったよ。でも、そんな状態で、しかも作られてから1万年経っているにも関わらず正常に作動するし、エンジンだって、あっという間に暖まる。

 

 当時の技師達の技術たるや、本当に凄いものだね。

 

 そのブースターを今の技術で改造を施して小型化、出力の上昇、更に新しく二連速射砲《オオカムヅミ》を二門搭載したのがコレ。

 

 《スクランブル・ブースター》改め、その名も《マッハ・ドライブ》。

 

 名前の通り、音すらぶっちぎるゴキゲンなマシンだ。短時間だけど飛行能力も備えてる。

 でも、コレには1つだけ問題があってね、これの最大稼働時の負荷は、生身の肉体ではとても耐えられないんだ。

 そして、今この村に居て、それに耐えられる身体を持っているのは、アーマロイドのキミだけだった。

 

 だから、これをキミに装備してもらう。

 

 ……二つ返事だね、ありがとう。

 

 ……うん? 《マッハ・ドライブ》がなんで桃のデザインなのかって?

 

 変なこと聞くね、聞かなくても分かってるでしょ? おひい様……ピーチ・プリンセスの指示だよ。

 

 『モモの装備ならぜーったい! このデザインにしなきゃダメ!!!!』って、お手製の図面まで描いて直談判してきたよ。

 

 ……そんな顔をしないの、おひい様は君の親みたいなものなんだしさ、良かれと思っての事だし、一応機能面でも特に不自由は無いしさ。いいじゃん。

 

 あ、ついでだから今言うけど、キミの名前を考えたのも実はおひい様だよ。

 

 君が産まれる時も、今回の《マッハ・ドライブ》の作成にも、おひい様はかなり力を注いだんだ。今回だって、何度も何度もまじないをかけていた。

 

 『モモが無事に帰ってこられるように』ってさ。

 

 もちろん、ボクだってそう願ってる。

 

 だから、万一の動作不良も起こさないよう、キミと《マッハ・ドライブ》の整備には万全を期したつもりだ。

 

 実はね、今回改修したキミと《マッハ・ドライブ》の装甲に、かの《ボルメニウム》を使ったんだ。

 

 驚いたかい? 以前、死火山ドゥルの遺跡内で見つけた秘蔵のお宝だ。

 

 今用意できる限り最高の素材、これならきっと、どんな戦場でも戦い抜けるし、帰ってこれるハズだ。

 

 ……何故、只のアーマロイドにここまでするのかって?

 

 爆弾でも抱えて突撃させて、敵もろとも吹っ飛ばしたらいいって?

 

 滅多なことを言うもんじゃないよ、次言ったら怒るからね。

 

 ボクだって愛する子供の為なら、なんだってするし、どんなものも惜しまないよ。

 

 ホーント、キミを造る時にボク達がどれ程苦労したのか、一から十まで説明してあげたいね。時間がないから今回は割愛するけど、帰ってきた時にじっくり教えてあげるから覚悟しておいて。

 

 おっとゴメン、話が逸れたね。

 

 《オオカムヅミ》の操作自体は、もう大体キミにインストールできてるだろうから、今はボクが用意した“とっておき”の話をしよう。

 

 使い捨てだけれど、過去の火文明の兵器を四つ、《マッハ・ドライブ》に組み込んだ。

 

 それぞれの細かい用途は後で説明するけど、これは《マッハ・ドライブ》と《オオカムヅミ》を使って、その兵器の機構を再現出来るようにした、ボクの傑作だ。

 

 そして、マッハ・ドライブにも“奥の手”が一つある……というか、おひい様の祈りで偶発的に付いんだけど、まあ、こっちの説明は後でするね。

 どれも使いたい時にいつでも起動できるけど、それぞれ一回しか使えないから無駄使いしないように気をつけて。

 

 そうだ、キミの中の“彼等”に特に何か変わった感じはない?

 

 ……そう、『いつも通り反応無し』ね。何か変わった事があったら教えてね。

 

 …………。

 

 ……ねえ、モモ。

 

 ホントはね、ボクも、おひい様も、もちろん他の皆だって、君に行ってほしくないんだ。

 

 ダイカイザンや閃火の両腕なんて、満身創痍の身体で『俺達も行く!行かせろ!』って今も二人して治療室で騒いでるし、ここまで準備しても、まだ他に方法はないか、他のみんなも探してる。

 

 ……うん、そうだよ。きっとこれしかない、そうなんだけどね。

 

 ごめんよ、君を造ったのは、こんな事をさせる為じゃないのに……おひい様だって……

 

 本当にごめん、モモ。

 

 こんなこと言える立場じゃないのは分かってるけど。

 

 絶対に帰ってきて。

 

 絶対だからね。

 

 

 

 

 偵察に出ていたエレファウストからの報告で、闇の部隊は、あと3日足らずで仙霊樹へと到達することが分かった。

 作戦の決行は明日未明、その通達が来た日の夜。モモタロウは森の中で、空に浮かぶ二つの月を眺めていた。

 

「明日か……」

 

 特段思い入れがあるわけでもない、いつもと何も変わらない月。だが、もし明日、自分が死ぬとしたら、この月を眺められるのも今日が最後になる。そう思うと、どうしても心は落ち着かず、頭は様々な事を考える。

 

 モモタロウは自然文明の村にある工房で生まれ、それからずっと一つの疎外感を持ち続けていた。

 

 この森の中で、アーマロイドは自分一人。

 

 その事で誰かに疎まれた事は無く、誰もが居て当然のように接してくれる。

 

 しかし、それが逆にモモタロウの疎外感を強めていた。

 モモタロウはビーストフォークのように生身の身体を持つわけでも、スノーフェアリーのように自然から生まれたわけでも、ミステリー・トーテムのように森の樹を素材に作られたわけでもなく、火文明から運ばれた鋼鉄でその身体を造り、そこに自然文明の祈りを込める事で命を得たアーマロイド。

 

 命は森で生まれ、死んで森へと還り、また命を生む糧となる。

 

 そのサイクルこそが、この地に生まれたものの運命。

 

 しかし、モモタロウの鋼鉄の身体は、森へ還る事はない。

 

 それ故に、サイクルの外にある自分は、真の意味で自然文明の民として生きることはできないのだとモモタロウは考えていた。

 

 だから、この命を使って森を守ることが出来れば、自身も森に生きる者の1人としての使命を全うできるかもしれない。

 

 そう考えていた時、声が響いた。

 

「グゥゥゥーーーッド! イィーーーブニーーーーングッ!! モーーーーモーーーーーー!!! 静かな夜ねぇぇぇーーーーッ!!!!」

 

 その声の主の言う、静かな夜にはあまりにも不釣り合いで明るく、よく通る声量。物思いに耽っていたモモタロウは突然の事で思わず身体が硬直する。そんな声を出す人物に、1人だけ心当たりがあった。声の方向に眼をやると、案の定、よく見知った顔のスノーフェアリーが満面の笑みで駆けてくるのが見え、モモタロウは溜め息をつく。 

 

「おひい様……」

 

 声の主はスノーフェアリーの姫、ピーチ・プリンセス。

 トリエールが火文明の素材を使ってモモタロウの身体を造り、そこにピーチ・プリンセスが自然文明の力を吹き込み、モモタロウは生まれた為、彼女達はモモタロウにとって親と言うべき存在でもある。

 

ピーチ・プリンセスはモモタロウの側まで駆けよる。彼女の背丈はモモタロウの腰ほどまでしかなく、必然的に見上げる形になる。

 屈託なくニッコリと笑って自身を見つめているピーチ・プリンセスから何となくバツの悪そうに顔を逸らしたモモタロウを見ても、特に気を悪くした様子もなく、その笑みをたたえたまま話し始める。

 

「なーにアンニュイしちゃってるの! ……ハッ! まさかまさか!? モモったらトリエールちゃんの整備が不安なのかしら? そんなわけ無いわよね! 完璧な貴方を造ったトリエールちゃんの整備もいつだって完璧なんだもの! 私の目から見てもなんて言うのかしら、もう完璧完璧超OKってやつ!? 整備の事は私が見てもサッパリ分からないんだけど、完璧よ!!」

 

 モモタロウが口を挟む間もない程の凄まじい勢いで喋り続け、言葉の締めに勢いよく両手を頭上に掲げてサムズアップしながら、少しおどけた様子を見せた。

 

「なーんてね、冗談よ! アナタが本当に不安なのは作戦の事なんでしょ!」

 

 「貴方とトリエールちゃんの整備が完璧なのは冗談ではないけどね!」と付け加えて、モモタロウの反応を待つ。

 

 当のモモタロウは図星を付かれて、バツが悪そうに顔を逸らして押し黙る。その姿を見て、ピーチ・プリンセスは「ふふ」と笑って話し始める。

 

「黙ってても判るわよ! とっても不安そうな表情してるんだもの!」 

 

「……アーマロイドの俺に表情は無いだろ」

 

 ようやく返事をしたモモタロウの顔には、確かに表情を浮かべる機能は付いていない。しかし、ピーチ・プリンセスは人差し指を立てて「チッチッチ」と左右に振る。

 

「たとえ表情に浮かばなくたって、あなたのことならなんでも分かっちゃうのよ」

 

「…………」

 

「でもね、そのことなら尚更だいじょーぶよ!」

 

「貴方はびゅびゅーんと飛んでって、ばばばーーんとやっつけて、ぽぽーんと帰ってくればいいだけだもの! モモだったらラクショーよ! なんだったら行楽ね! 物見遊山にピクニックだわ! きゃーっ! バスケットには何を詰めてく!?」

 

 矢継ぎ早に喋りながら両手を頬に当てて、更に言葉を続ける。

 

「あなたはそのくらいの気持ちでいいの! 私達の自慢の子供だもの! 闇のお馬鹿さん達なんてオトトイキヤガレのスットコドッコイショ!! 片っ端からバッタバッタとちぎっては薙ぎ倒しちゃうこと受け合いなんだから!!」

 

 そう言いながら、両手の拳を構えてボクシングのジェスチャーを取っていたピーチ・プリンセスは、ラスト・モモタロウの大きな手を小さな両手で握り、言葉を続けた。

 

「だからね」

 

 そこまで言った後、あれだけ騒ぎ倒していたのが嘘のようにピーチ・プリンセスは静かになり、普段の様子とは全く違う、正に姫の名を冠するに相応しい、気品に満ちた表情と声色で続けた。

 

「例えどんなことがあっても、完璧な貴方は必ずここに帰ってこれます。そして、誰もが貴方の帰りを待っているのです。だから安心なさい、ラスト・モモタロウ」

 

「……」

 

「貴方は私達の大切な子、死んで役に立とうなんて、それだけは絶対に許しません」

 

 そう言ったピーチ・プリンセスの手は、力強く握りしめられていた。

 

 今まで見たことの無い、ピーチ・プリンセスの毅然とした姿にモモタロウが呆気にとられている間に、彼女は握っていた両手をパッと離し、いつの間にかニッコリと、いつもと変わらない笑顔に戻っていた。

 

「……私が言いたかったのは、それだけ! それじゃ! また作戦が終わった後でねー!」

 

 「全部終わったら、みんなでホントのピクニックに出掛けましょう!」そう言いながら、ピーチ・プリンセスはあっという間に駆けていく。

 

 小さくなっていく背中を見ながら、1人残されたモモタロウは言われた事を思い出しながら、ふっと笑いをもらした。

 

 「……スットコドッコイショってなんだよ」

 

 嵐のように現れて、緊張も不安も恐れも、全部纏めて吹き飛ばして、嵐のように去っていってしまった。

 

「ああ……ほんと、おひい様には敵わねえな」

 

 そう言ったモモタロウの胸中には、先程まで心の中で渦巻いていた不安の代わりに、新たな気持ちが燃えていたていた。

 

(この森にはみんなが居るんだ。アーマロイドの俺を大切に思ってくれる、俺の大切な人達が)

 

(その人達を傷つけるような輩は、絶対に許せない)

 

 ピーチ・プリンセスはああ言ってくれたが、本当に帰ってこれるかは、正直なところ望み薄だろう。

 

 それでも、たとえ帰ることは出来なくても、必ず目的だけは果たす。

 

 アーマロイドの自分だから出来る事。

 

 アーマロイドの自分にしか出来ない事。

 

 それを成す為に、明日自分は戦いに出るのだ。

 

「闇の馬鹿野郎共をぶっ飛ばしてやる」

 

 モモタロウが静かに呟いた言葉は、静かに夜の中に消えていった。

 

 

 

 

 朝焼けの中、モモタロウは目標地点を目指して森の上空を飛行している。自身に取り付けられた通信機にトリエールに通信を送る。

 

「トリエール、こっちはもうすぐ目標地点に入る。想定通りなら、そろそろ奴らの部隊が見える頃だ』

 

『了解。モモ、マッハ・ドライブに何か問題は?』

 

「全く問題なしだ。流石はおひい様御墨付きの完璧な整備だよ」

 

 それを聞いて、トリエールは『ふう』と小さくため息をつく。

 

『……御墨付きね、こっちは1つのミスも許せなくて、今だって不安でずっとピリピリしてるのに“完璧”だなんて、おひい様も気楽に言ってくれたねホント』

 

「……気に入らないか?」

 

『半分はね。でも、正直に言えばちょっと気が楽になったよ、おひい様がそう言ったなら完璧さ』

 

「そりゃよかった。言わない方がよかったかもって、ちょっと不安になっちまった」

 

 その言葉を聞いて、トリエールは通信機の向こうで軽く笑う。

 

『ふふ、完璧、完璧か、良いね。何の根拠も無くたって、言葉に出せば、何だかそんな気持ちになってくるね』

 

 何度か言葉を反芻して、ひとりごちるように呟くのを聞いて、モモタロウは少し怪訝な気持ちになる。

 

「そうか?」

 

『そうさ。言葉っていうのはそういうものだよ。さ、ボクたちは完璧な整備をしてキミを送り出したけど、モモ自身の気持ちはどうだい?』

 

 そう問われた時、どう返せばいいのかモモタロウは分かってはいたが、僅かに逡巡した。

 

(俺自身は、どうだろうな……)

 

 言葉1つでそう簡単に変わるものだろうか。

 それに、どんな気持ちを持ったところで、現実は変わらない。

 そんなことは誰しもが分かっていることだろう。

 

「俺は……」

 

 そこまで言いかけたところで、モモタロウは想定していた作戦エリア内に入る。その時、視界の入った光景、それはモモタロウに、この森に生きる者全てにとって、あまりにも許しがたいものだった。

 

 この地に招かれざる者達が、慣れ親しんだ森の木々を薙ぎ倒し、時に無造作に食い荒らし、そして豊かな土地を蝕みながら、仙霊樹に向けて進軍している。その無法な振る舞いを森の上空から確認し、モモタロウは激しい怒りを覚えた。

 

「上等だ、この野郎……! トリエール、闇の連中を確認した。今から作戦を開始するぞ!」

 

 そう言うと、返答を待たずにモモタロウはブースターの軌道を下方に向け、急降下しながら敵部隊に向けてオオカムヅミの砲門を構え、一つ目の“とっておき”を使う。

 

「まずはこいつだ! 《バースト・ショット》!!」

 

 オオカムヅミから発射された弾丸は、敵部隊の上空で爆発。全方位に向けて無数のエネルギー弾を放ち、周囲に居たパラサイトワームやリビング・デッド、闇のクリーチャー達を蜂の巣にする。

 当然、爆発地点により近いモモタロウも巻き込まれるが、ボルメニウムの装甲には傷一つ付かない。

 

 『モモ、大丈夫?』

 

 先程は完璧とは言っていたが、通信機から聴こえるトリエールの声には、やはり心配が滲んでいるように感じる。

 

「上々だ。トリエール、予定通り前哨部隊の上空で《バースト・ショット》を起動した。撃破三、手負い六、無傷一割ってとこだ。俺に損害は無し、このまま着陸して、本隊に突っ込むぞ!」

 

『分かった、残った連中は任せて。そのまま作戦通りお願い』

 

「了解!」

 

 モモタロウはマッハ・ドライブを逆噴射させ、混乱している敵部隊の前面に勢いよく着陸。抜いた刀を朝日を反射させながら、オオカムヅミの砲門を前面に向ける。

 

 「フィオナの森へようこそ、レディー……は居なさそうだな、ジェントルメン! ぶっ飛びな!」

 

 その言葉と同時に、オオカムヅミから凄まじい砲声と共に大量の弾丸が撃ち出され、襲いかかる敵達を撃ち抜き、あっというまに部隊の一部が崩れる。

 

 その混乱に乗じてマッハ・ドライブを加速させて敵部隊に突撃する。立ち塞がる敵を斬り伏せながら、ラスト・モモタロウは高速で部隊の中央まで一気に駆け抜け、指揮官が居るハズのエリアを目指していく。

 

 いくらか倒し損ねたが、その殆どが手負い、あの程度なら後発の部隊に任せても大丈夫だろう。

 

(この混乱に乗じて指揮官の虚を突ければ御の字だが……!)

 

 そう思った矢先、視界に一瞬黒い影が映ると同時に、全身に何かがぶつかるような衝撃を受け、ラスト・モモタロウは後方に弾き飛ばされてそのまま地面を転がる。

 

(クソ、やっぱそう簡単にはいかねえか!)

 

 心の中で舌打ちして、即座に起き上がるが何故か身体が思うように動かず、バランスを崩して片膝を付く。

 

「何……!?」

 

 目の前に巨大な何かが現れた気配を感じ、顔を上げる。目の前にはラスト・モモタロウの数倍の体躯を持つ、骨の鎧を纏ったデーモン・コマンドが、大槌を携えて立っていた。

 

(どういうことだ……! さっきまでこんなデカブツいなかったハズだぞ、作戦じゃ指揮してるヤツを叩けって事だったが、よりにもよってデーモン・コマンド……! 最悪だな……!)

 

 デーモン・コマンドは、総じて凄まじい魔力と巨大な体躯をもつ種族。今のモモタロウにとって、魔術の力よりも、単純なリーチと重量差の方が分が悪い。

 

「トリエール聞こえるか……ん?」

 

 呼び掛けるも、通信機からは耳障りなノイズしか聴こえなくなっている。

 

「……マジか、壊れやがった」

 

 目の前のデーモン・コマンドが、モモタロウを見下しながら口を開いた。

 

「思いの外、頑丈だな。火文明の矮小な人形程度、我が槌の一打で形も残らぬと思ったが。機械の身体に、まじないの魂……成程、根源が2つか……ふむ」

 

 少し考えるように独りごちた後、そのデーモン・コマンドは先程振るった巨大な槌を構え直し、さして興味もないように語り続ける。

 

「まあ、よい。我が一打を耐えたのならば、名乗ろう。我が名はビルギアス、炎獄の剛魔と呼ばれる者……貴様は名乗らずともよい、これより壊す木偶人形の名など、知る必要もない……」

 

 ビルギアスは明らかに目の前の自分を、対峙している敵を軽く見ている。その態度にモモタロウは内心舌打ちをしながら、自身の状態を確認。

 ひとまず動ける程度にはなったが、身体のあちこちでは未だに原因不明の動作不良が発生している。

 

 先程の一撃を受けた時、全身のエネルギーを吸われるような感覚があった。恐らく、あの大槌には一時的に他者の力を奪う力が備わっているのだろう。

 そうでなくてもこのサイズ差、あの一撃で身体のどこも壊れなかったことが救いだろう。

 

(通信機は故障、後発の部隊との連絡はとれない。残った“とっておき”は、後三つ、“奥の手”は一つ……向こうの手の内が分からない以上、これも使い時を考えるべきだが……さあて、こんなデカブツ相手にどう戦うか……いや)

 

 モモタロウは逡巡の後、二つ目の“とっておき”を使うことに決めた。

 

(どのみちこいつをここで倒せなきゃ未来は無い! それなら惜しむな!)

 

 即座にオオカムヅミの砲門をビルギアスに向ける。

 

「行くぜ! 《幻竜砲》!」 

 

 放たれたのは“とっておき”の1つ、《幻竜砲》。

 竜の姿を模した炎がビルギアスに向けて大顎を開き、そのまま飲み込まんと迫る。

 ビルギアスは眼前に迫る炎を前にしても、冷静に見据え、回避しようとすらしない。

 

 ただ一言。

 

「……竜の姿に似せた見かけ倒しの炎。つまらんな」

 

 吐き捨てるように呟いた。

 

「《デビル・スモーク》」

 

 そう唱えるとビルギアスの全身から、おびただしい量の紫色の煙が吹き出す。煙は瞬く間に巨大な顔の形になり、意思を持つかのように大口を開けて、迫る幻竜砲の姿を逆に飲み込んでしまった。

 

 唖然とするモモタロウをよそに、紫色の煙の中で、飲み込まれた炎の赤が漏れている。しかし、その明かりは徐々に小さくなっていき、やがて完全に消えてしまう。そして、飲み込んだ煙も風に紛れて徐々に薄らいでいった。消え去る間際に煙に浮かんでいた表情は、どこか満足げであった。

 

 “とっておき”の1つを難なく消され、モモタロウは思わず歯噛みをする。

 

 「……炎を食う煙なんて聞いたこと無いぜ、とんでもない悪食だな」

 

 虚勢を張るモモタロウに対して、ビルギアスは心底つまらなそうに言葉を返す。

 

「生きているならば、どんなものでも腹は減るだろう。煙とて、例外ではない」

 

(闇の煙……前聞いた《デス・スモーク》ってのとは違うみたいだが、多分同質のモンだな、恐らくあれに食われると死ぬ)

 

 思考を巡らせながら数発砲撃し、警戒して一旦距離を取る。幾つか当たったが、さほど効いたようには見えない。しかし、命中した時にビルギアスの姿が一瞬歪み、ブレたように見えた。

 

「……なあ悪魔の大将、アンタ図体の割にはずいぶん存在感がスカスカじゃねえか? 煙ばっかりに食わせてないで、アンタももう少しメシ食ったほうがいいと思うぜ?」

 

「……今ここにあるのは、我が力の一片。我が本体は未だ炎獄に在る……故に、使える力にも限りがある……が」

 

「いずれ神々を討ち滅ぼし、世界が闇に包まれた暁には、我が身は完全に炎獄より現れ、その炎によって地上を焼き尽くす。その時が楽しみだ」

 

 そう言いながら、モモタロウにとって最悪の未来を想像したビルギアスは、初めて楽しそうにくつくつと笑った。

 

「……なんとも仰々しい説明ありがとよ。片っ苦しくて息が詰まりそうだ。……つまり今のアンタは分身だかで、全力じゃ戦えないってことでいいか?」

 

 「いかにも……故に先の《デビル・スモーク》はもう使えぬ。なれど、此度我が仰せつかった役目は、仙霊樹を奪うこと……その過程で歯向かう羽虫は打ち据え、踏み潰す。その程度ならば、この身でも容易い」

 

 それに、と、ビルギアスは続ける。

 

 「貴様らの望みは指揮官たる我の首であろうが……たとえ、このかりそめの身であろうとも、たかが木偶人形や羽虫程度にそう易々と取れる訳も無かろう」

 

「……そんじゃあ、その人形程度が、傲慢たっぷり乗っかったアンタの首を本当に取れないかどうか、試してみるか?」

 

 徹底して自分達を見下すビルギアスの態度に苛立ちながら、モモタロウは刀を構える。その姿にビルギアスは冷ややかな目を向けながら続ける。

 

「無知故の無駄な足掻き、それもよかろう。だが……この地に遣わされたデーモン・コマンドは、我だけではない」

 

「何……?」

 

「《インフェルノ・サイン》」

 

 突如足元に魔方陣が現れ、地鳴りと共に、巨大な影がそこから飛び出した。

 ホーン・ビーストよりもはるかに巨大で、青い光を帯びた禍々しい角。地を踏み締める蹄に、全身を巨大な骨で構成された四足獣型の怪物。

 その怪物が角と蹄で周囲の木々と大地を抉りながら、猛然とモモタロウに迫る。

 

「魔道凶獣バラムゲイナー、知能は獣並みとはいえ、我と同じく悪魔に名を連ねる者の一体。木偶の相手には少々勿体無いが、より確実に貴様らの希望を断つとしよう」

 

「へえ、こいつがあんたらの奥の手か? 無駄にでかい骨にしか見えねえな!!」

 

 そう言いながら、オオカムヅミの銃口を向け、三つ目の“とっておき”を惜しまず使う。

 

(ビルギアスだけでも最悪なのに、デーモン・コマンドを二体同時に相手は無理だ、一体は今確実に潰す!)

 

「《ボルカニック・アロー》!」

 

 オオカムヅミの銃口から放たれた灼熱の矢は、瞬く間にバラムゲイナーの上半身を消し飛ばした。高熱によって焼け焦げた下半身はバランスを崩し、大きな音を立ててその場に崩れ落ちた。

 

「悪いな、そんなスゲー奴を俺に相手させるのはマジに勿体無かったみたいだぜ!」

 

「クク……」

 

 バラムゲイナーを倒したモモタロウを見ても、ビルギアスは嘲るように笑い、尚も見下した態度を崩さない。

 

「……何がおかしい」

 

 モモタロウの背後で、カタカタと奇妙な音がする。

 

「『勿体無かった』。そうだな、貴様にバラムゲイナーをあてたのは実に『勿体無かった』ようだ。後ろを見てみよ、木偶人形」

 

 嘲るように笑ってビルギアスが指した先――自身の背後を、モモタロウは見た。そこには、たった今上半身を吹き飛ばしたハズのバラムゲイナーが殆ど無傷で背後に立ち、その巨大な角でモモタロウをなぎ払わんと振りかぶっていたのだ。

 

「な……!?」

 

 咄嗟に跳躍して迫る角を避け、すれ違いざまに刀を振るう。しかし当たった瞬間、あまりの硬さに刃がまともに通らず弾かれた。

 

「硬いな、この……っ!?」

 

 斬撃は通じない、ならば砲撃に切り替えようとバラムゲイナーにオオカムヅミを向けたその時、モモタロウの身体に異変が起こった。

 モモタロウは飛び上がった空中で、突然身体が動かなくなり、そのままの姿勢で受け身も取れずに地面に落下する。

 

(なんだ……!? 何が起こった!?)

 

 地面に倒れたまま動けず混乱するモモタロウに、ゆっくりと歩みよったバラムゲイナーは、その巨大な前脚で容赦なく踏みつけた。

 

 「ぐっ……!!」

 

 凄まじい圧力が掛かり、ミシリと身体から嫌な音が聞こえた。

 

 その様子を見下ろしながら、ビルギアスは淡々と語りかける。

 

「人形如きが、バラムゲイナーを倒すなど不可能だ。こやつは何度砕いても蘇る。それに、元より朽ちているものを滅ぼす事など、そもそも不可能なのだよ……」

 

 その言葉と共に、三度、四度と、周囲に固い音が響く。バラムゲイナーの巨大な蹄が、幾度となくラスト・モモタロウに振り下ろされている。

 

 いくらボルメニウムの装甲と言えど、デーモン・コマンドの膂力で何度も打たれれば、ただでは済まない。

 

(やばい……動けねえ、このままじゃ……!)

 

 その様子を見ながら、ビルギアスは冷たく言い放つ。

 

「これほど痛め付けてもまだ壊れぬのか……こんな木偶には不釣り合いな素材を使う物好きがいるのか……なれば、我が炎にも耐えるのか試してみるのも一興、バラムゲイナー」

 

 ビルギアスの呼び掛けを聞いて、バラムゲイナーは振り下ろした脚の蹄でモモタロウを押さえ付ける。完全に身動きが取れなくなったモモタロウに、ビルギアスは大槌から溢れ出した青白い炎を容赦なく注いだ。

 

 アーマロイドのモモタロウに痛覚は存在しない。だが、その炎が触れた瞬間、とてつもない『痛み』がモモタロウを襲った。

 

「我が炎が燃やすのは、魂そのもの……。魂を焼き尽くされた貴様の残骸は、残った者共の絶望をより深めるだろう」

 

 ビルギアスの声は、最早モモタロウには届いていなかった。 

 青い炎に魂を焼かれ、絶叫する程の凄まじい苦痛の中で、モモタロウの意識は遠退いていった。

 

 

「なあ、トリエール」

 

「何?」

 

「前から聞こうと思ってたんだが、俺の人格をプログラムする時、なんで過去のヒューマノイドの記録を参考にしたんだ?」

 

「君の中で駆動系サポートをしてくれてる三体のアーマロイドのメモリーに、過去のヒューマノイド達が映ってたって話はしたよね」

 

「ああ、その内の一人が、その三体の隊長サンだったって話だろ?」

 

「そう、それで参考にした理由なんだけどね、その隊長サンが優しい人だったからだよ」

 

「それだけでか?」

 

「それだけでだよ」

 

「強かったとか、特別何か優れていた所があった、とかじゃないのか?」

 

「本当にそれだけだってば。確かに“彼”は『特攻隊長』って呼ばれてたし、何度も死線をくぐり抜けて生還してた訳だから、技術も判断能力も優れてはいただろうね。でも記録を見る限り、周りのヒューマノイド達と比べても特別に強かったわけじゃない、ただ普通の人だったよ」

 

「普通で、仲間や家族を大切にする、とても優しい人だった」

 

「だから“彼”を参考にしたんだ。別に、ボク達は戦う存在としてキミを作った訳じゃなくてさ、一緒に生きてくれる家族が居てほしかったから、キミを作ったんだ」

 

「あの人を参考にしたのも、キミにもそういう人になってほしかったから……とは言ってもね、モモと“彼”は別の人だよ。“彼”そのものを再現した訳じゃないし、モモ自身、“彼”として生きてるつもりは無いでしょ?」

 

「それは、まあ……」

 

「キミは、ボク達の大事なラスト・モモタロウ、それだけは何があっても忘れないでね」

 

 

 

 

 ずっと“俺達”は見てきた。

 

 瞬く間に敵を一閃する剣技を。

 

 疾風の如く戦場を駆け抜ける姿を。

 

 『俺にも他のヤツらみたいに、力があればな』と、寂しく笑う顔を。

 

 その時、“俺達”は何と言った?

 

『だから俺達が側にいるんだろう』

 

『足りない力はカバーします』

 

『安心してブッ込もうぜ』

 

 そう言ったのに、“俺達”は隊長の最期の時、誰も側に居なかったじゃないか。

 

『大丈夫さ、俺はいつだって帰ってきたじゃないか』

 

『必ず帰ってくる、待ってな』

 

 そう言って、出ていった背中が“俺達”の記録にある最後の姿だった。

 

 仇は取った。しかし、それで死人が生き返るわけでもない。

 

 世界が終末を迎えたあの日、機体が停止する最後の瞬間まで“俺達”は悔やみ続けた。

 

 だが、今はあの時とは違う。

 

 力が有る。

 

 “お前”が持っている。

 

 “俺達”は共にある。

 

 だから、呼んでくれ。

 

 隊長じゃないのは分かってる。

 

 それでも。

 

 今度こそ、今度こそ“俺達”を共に戦わせてくれ。

 

 

 

 

 一瞬、視界がブラックアウトした時、かつてトリエールと交わした会話と、自身の物ではない記録、そして複数の誰かの声が脳裏に浮かんだ。

 

 自身の人格は、過去に実在した1人のヒューマノイドの記録を元にし、その記録は三体のアーマロイドの内にあった。 

 

 そして、そのアーマロイド達は、自身の中に組み込まれている。

 

(そうか、そうだったな。”特攻隊長”にはいつも、アンタ達が付いてたんだったよな……それが今の記録……何かの拍子で俺と混線してんのか……? それなら――)

 

 藁にも縋る想いで、心の中で問いかける。

 

(あのさ、もし聴こえてんのならさ、ちょっと頼みたいことがあるんだが……)

 

(俺はアンタ達の“隊長”じゃないんだけど、同じアーマロイドのよしみでさ、今だけでいいから、力を貸しちゃくれないか?)

 

――みんなのところに帰りたいんだよ。

 

 消え入りそうな声で呟いた時、機械の身体に、何か熱いものが巡りはじめるのを感じた。

 

 全身のモーターが駆動して熱が巡り、冷却が追い付かない程の高温を発している。

 

 今、自身を焼く炎の痛み、そんなものなど気にならない程の熱さを持った炎が、鋼鉄の身体の中、心の中で燃えている。

 

 遠い昔、確かに存在した。1人のヒューマノイド。

 

 もう記録の中にしか残っていない筈の鼓動が、確かに鳴っている。

 

――今再び、必殺の刀を振りかざす時が来た。

 

 

 

 

「……つまらん、所詮は火文明のガラクタであったか」

 

 モモタロウの悲鳴も聞こえなくなった頃、ビルギアスは揺れる炎を見つめながら独りごちた。

 

 ビルギアスは正直なところ、今回の作戦指揮官に任命されたのは不服であった。

 『炎獄の剛魔』……その二つ名をもつ程の実力を持つビルギアスにとって、今回の地上侵略は神々との戦うまたとない機会。その中で、その名に恥じない戦いをする事こそが本懐であった。しかし、任されたのは本隊を離れ仙霊樹を奪うだけの単純な任務。反抗してくる者が居ても、大して相手にはなりはしないだろう。

 

 そう思っていた中、たった一体で闇の部隊に突撃してきた者がいた。

 

 自棄か、酔狂か、それとも勝つ算段があってのことか、いずれにせよビルギアスは今までそのような者とは出会ったことがなかった故に、多少なりとも期待を持った。だか戦ってみれば大した手応えもなく、退屈しのぎにもならなかった。その者の刃も、ビルギアスはおろか、バラムゲイナーにすら太刀打ちすることが出来なかった。

 

(嗚呼、やはり魔刻の御方様に、このような作戦ではなく神々との戦いへの参戦を具申すべきであったな……)

 

「“それ”はもう動かぬだろう。ゆくぞ、バラムゲイナー」

 

 そう言いながら、ビルギアスは燃え盛る炎に背を向けて歩き始める。

 その時、バラムゲイナーの足元で一瞬何かが輝き、風を斬るような音がした。

 

 次の瞬間、ラスト・モモタロウを踏みつけていたバラムゲイナーの前脚が、凄まじいと共に突然肩先まで真っ二つに裂け、その衝撃によって周囲の炎がまとめて吹き飛ばされのだ。

 

 ビルギアスは振り返り、その姿を見た。

 

 青白い炎が散り散りになり、掻き消えていく。

 

 その中心に、剣を振り上げたラスト・モモタロウが立っていたのだ。

 

「ほう……」

 

 ビルギアスは思わず感嘆の声を漏らした。

 

 そんなビルギアスをよそに、ラスト・モモタロウは、瞬時に何が起こったのかを理解した。

 

「助太刀ありがとよ! 先輩方から見りゃまだまだ若輩の身だが、よろしく頼むぜ!」

 

 その言葉と共に剣を振り、脚を斬られたことで体勢を崩し、倒れてきたバラムゲイナーの角を切り飛ばす。

 先程とは打って変わって、難なく刃が通った事に一番驚いたのは、剣を振るったラスト・モモタロウ自身であった。

 

(さっきはまともに通らなかったのに……同じ刀とは思えねえ、これが“特攻隊長”の剣技……!!)

 

 あまりに速く、そして鋭い。ラスト・モモタロウにも剣の技術は一通りプログラムされていた。しかし、今振るったそれに比べれば、自身の剣はあまりにも拙く、未熟なものだと痛感した。

 

 それはかつて存在し、数多の戦場を駆け抜け、死線を潜っていく中で磨き抜かれた剣技。本来ならばモモタロウがその域に達するまでには、途方もない時間が必要なのだろう。

 

 しかし今だけは、自身の中に居るアーマロイド達が行っているトレースによって、その剣技を完璧に再現できる。

 

 頭の中に声が響く。

 

 ――この時を待っていた!

 

 ――今度こそ俺達と共に!

 

 ――さあ! 今こそ、あの言葉を!

 

 その言葉に答えるように、ラスト・モモタロウの口から自然に言葉が出る。

 

「『さあ、お前達! “ブッ込む”ぞ!』」

 

 きっと、これが彼らの合言葉だったのだろう。

 

 身体は自然に、記録の中で最も馴染みのある構えを取る。

 

 姿勢を低く、右腕は刀を斜に構える。左腕は、かつて常に隣にあった友の1人のように、常に自身の動きをサポートする。

 

 背中のマッハ・ドライブは健在、エンジンの回転数は落ちていない。この状態を常に維持しながら未だパフォーマンスが落ちないのは、間違いなく彼等のサポートがあるからだろう。

 

 オオカムヅミの火器管制にも、自身の意思とは明らかに異なる、強く、熱い、隠しきれない程の闘志を感じる。

 

 あれだけ打ち据えられた身体も、まだ動かせる。

 

 思えば最初にビルギアスが言ったように、あの大槌に殴られた時点でラスト・モモタロウは破壊されていてもおかしくはなかったハズだ。

 

 ボルメニウムを使われた身体とはいえ、何度も内部まで届くような衝撃を受ければ、本来なら只では済まなかっただろう。

 だが、まだ腕も、脚も、問題なく動かせる。

 

 トリエールは最後までモモタロウとオオカムヅミの調整を行い、ピーチ・プリンセスは、祈りを何重にもかけていた。

 

 その全てが、自身を護り続けていたのだ。

 

 バラムゲイナーが振り下ろした巨大な角を、最小限の動きでいなして斬り飛ばし、返す刀で今度は両方の前脚を斬り崩す。その背後に、ビルギアスが再び放った青い炎が迫る。

 

 ラスト・モモタロウは、心の中に居る者達の名前を呼ぶ。

 

「『クウザ!』」

 

『あいよ!』

 

 炎に呑まれる直前に、マッハ・ドライブのブースターが作動して直上へ回避する。更に空中で身体を半回転させながらビルギアスに向けて砲門を構える。

 

「『アッシュ!』」

 

『任せな!』

 

 掛け声と共に、オオカムヅミが砲撃、黒煙がビルギアスを包み視界を奪う。その隙にラスト・モモタロウは着地し、バラムゲイナーに肉薄。

 再生を終えて今一度踏みつけようとしたバラムゲイナーの片脚を、右手の刀で真っ向から叩き斬る。

 

 続けざまに左手の刀を振るい、片脚を失って体勢を崩したバラムゲイナーの首を斬り飛ばした。

 

「『フレンディオス!』」

 

『了解!』

 

 落ちていく頭部には一瞥もくれずにオオカムヅミから砲撃、斬り飛ばされた頭部を木っ端微塵に撃ち砕く。

 

 そして残った胴体部分に向けて砲門を構え、最後の“とっておき”を使う。 

 

(周波数は……これくらいでどうだ!)

 

「《ドラゴン・シャウト》!」

 

 過去に存在した火文明の兵器《ドラゴン・シャウト》。この兵器から発せられる衝撃波は、特定の周波数を持ち、調整することで一定のパワーラインを持つ者のみをピンポイントに攻撃することができる兵器。

 

 砲門から放たれたのは、龍の吐く炎と咆哮を再現した、強力な爆炎と衝撃波。その二つがバラムゲイナーの全身を瞬く間に飲み込み、その身体を一片も残さず完全に粉砕し、焼き尽くした。

 

 《ボルカニック・アロー》によって一度バラムゲイナーを破壊した際、特に損傷の激しかった部分は再生が遅れていた事に、ラスト・モモタロウは気付いていた。

 

「いくらでも何度でも蘇るって言っても、一片残らず粉々にしちまえば復活には時間がかかるんだろ!」

 

 そう言ってラスト・モモタロウは、刀をビルギアスに向ける。

 

「さあ大将! タイマン勝負といこうじゃねえか!」

 

 啖呵を切ったラスト・モモタロウを前に、ビルギアスは未だ晴れない黒煙の中から手を伸ばし、一つ、呪文を唱えた。

 

「《ゴースト・クラッチ》」

 

「がっ……!?」

 

 ラスト・モモタロウの身体は、最初にバラムゲイナーと戦った時と同じように、突然動かなくなり、片膝を付く。まるで不可視の手によって自身の心臓――エンジンを鷲掴みにされ、無理矢理止められたかのように身体の自由が効かなくなる。

 

(この感覚……! やっぱり、さっきのはこいつの仕業だったのか……!)

 

 ガシャリと地面に倒れ伏したラスト・モモタロウを見下ろしながら、ビルギアスはゆっくりと近付き、淡々と告げる。 

 

「成程、木偶人形よ、我は貴様を少々侮っていたようだな……なれば、今度は敬意を持って、我が炎と槌によって確実に滅してやろう」

 

 「『O(オーバー)・ドライブ』……」

 

 ビルギアスがそう呟くと同時に振り上げた槌から、今まで以上に禍々しく青白い炎が溢れ出し、動けなくなったラスト・モモタロウの身体を飲み込んだ。

 

 『O・ドライブ』。それは、この時代を生きる一部の超獣達が持つ、自身の能力を上昇させる力。

 ビルギアスのそれは、自身の炎の威力を更に上昇させるものだった。

 

「去らばだ。木偶人形よ」

 

 そう言って槌を振り下ろそうとした瞬間、炎の中から数発の弾丸と共に、一つの影がビルギアス目掛けて一直線に飛び出した。

 

 「愚かな、窮したか」

 

 ビルギアスは即座に対応して槌を振り下ろし、容赦なくそれらを打ち砕く。

 あっけなく破壊された機械の部品が、空中に散乱し、地面に落ちてゆく。

 そこに散らばったのは、ラスト・モモタロウ……ではなく、その背中に取り付けられていたマッハ・ドライブの片翼の破片。

 

 それだけだった。

 

(囮か……!)

 

 ビルギアスは一瞬、それに気を取られた。

 

 ほんの僅かな隙だったが、それで十分だった。

 

 そしてその瞬間を、ラスト・モモタロウは燃え盛る炎の中で見ていた。

 

(ありがとよ、先輩方。けど、コイツを倒すのまでアンタらに頼りっぱなしってのも、ちょっとカッコわるいし、ここらで俺にも花を持たせてくれよ)

 

(この森は、俺達の大切な場所だからさ)

 

 残ったもう一振の刀を構え、静かに呟く。

 

「『O・ドライブ』起動……!!」

 

 ラスト・モモタロウは炎の中で、マッハ・ドライブの最大稼働モード《O・ドライブ》を起動させる。

 

 マッハ・ドライブのリミッターが外れ、エンジンが最大稼働を始める。

 

 音速すら軽々と越える性能を持つマッハ・ドライブ。その真価は、初速から音速を突破する殺人的なまでの瞬発力と、そのエネルギーを生み出すエンジンにある。

 そしてマッハ・ドライブは、ピーチ・プリンセスの祈りによって、使用者に還元する『O・ドライブ』を獲得し、その性能は片翼を失っても落ちることはなく、遺憾無く発揮される。

 

 身体に溢れんばかりの力が巡る。

 

 過剰なまでのエネルギー供給によって身体がオーバーロード寸前の状態にあって尚、ラスト・モモタロウの心は静かに決意に燃えていた。

 

「さあ行くぜ、闇の馬鹿野郎」

 

 次の瞬間、ラスト・モモタロウは周囲の地面を吹き飛ばす程の爆発的な速度で炎を突き抜け、そのままビルギアスの頭上へと飛び出した。

 

 槌での反撃、呪文での拘束……否、最早、どのような反撃も間に合わない。ビルギアスは、自身の敗北を悟った。

 

「木偶人形……!」

 

「ラスト・モモタロウってんだ! ちゃーんと憶えときな!」

 

 空中で刀を上段に構え、マッハ・ドライブの出力を更に上昇させ、O・ドライブのエネルギーを刀に送り、その膨大なエネルギーによって巨大な刀身が形成される。

 

 そしてその刀を、ラスト・モモタロウは躊躇うこと無くビルギアスに向けて、真っ直ぐに振り下ろした。

 

「おぉぉりゃぁぁぁぁーーーーーーーッ!!!」

 

「ぬう……ッ!」

 

 ビルギアスは咄嗟に、大槌の柄で刃を受け止めようとした。しかし、ラスト・モモタロウは刀を振り下ろしながらマッハ・ドライブを直下に向けて最大加速させ、柄を断ち斬った。

 その勢いのままラスト・モモタロウが着地した衝撃で周囲の地面が吹き飛び、土埃が周囲に舞い上がる。

 

 

 一瞬の静寂の中、ふらつきながらラスト・モモタロウは立ち上がり、ゆっくりと刀を鞘に納める。

 

「これぞ『絶対真空一文字斬り』……ってな」

 

 『キン』と、小気味良く鍔鳴りが響くと同時に、ラスト・モモタロウの全身から吹き出した排熱の蒸気が周囲の土埃を吹き飛ばし、一気に視界が晴れ、ラスト・モモタロウの眼前には、両断され、今まさに崩れゆくビルギアスの姿があった。

 

「見事……! ラスト・モモタロウ……!」

 

「……その状態でもまだ喋れんのか」

 

 ラスト・モモタロウの言葉は意に介さず、ビルギアスは怒りを滲ませた声で苦々しく口を開く。

 

「嗚呼、口惜しや……! いつか……いつか再び、貴様と相見えたならば、今度は必ずや我が全力持って滅してくれよう……!」

 

 「……両方が同時に喋るなよ気持ち悪い。俺は二度と会いたくないぜ、オトトイキヤガレだ、このスットコドッコイショ」

 

 その言葉が聞こえたかどうか、ビルギアスの身体は徐々に黒い塵となって崩れていき、やがて霧散していった。

 

 

 

 

「はあー……つっかれた……」

 

 戦いの後、ラスト・モモタロウは地面に倒れこんでいた。

 大将は討ち取り、敵も散り散り、遠くから自然の魔術が発動している気配もする。おそらく後発の部隊が追い付いてきているのだろう。自分でも信じられないが、作戦は成功したと言っていい。

 

 マッハ・ドライブは半壊、ラスト・モモタロウも、刀も、O・ドライブの過剰なエネルギー供給の反動によってボロボロ、オオカムヅミの弾薬も、いつの間にか底をついていた。

 

 自身の全てを使って、死力を尽くして戦った。

 一歩間違えば、間違いなく死んでいただろう。

 

(まさか本当に生き残れるなんてな……でも、こんだけボロボロだと、トリエールは泣くかもしれねえなあ……)

 

 帰った時、なんと言って宥めるべきだろうか、そう思った矢先、どこかからカタカタと音がしている事に気が付き、即座に起き上がり、周囲に目をやる。

 

 どうやら、粉々にしたバラムゲイナーの破片が、また再生を始めているらしい。

 

「指揮官が居なくなったってのに、まだやる気かよ……」

 

 散らばった破片が一ヵ所に集まり、徐々に元の姿に組み上がっていく様を見ながら、モモタロウは肩を落として溜め息をつく。

 

「もう勘弁してくれよ……と、言いたいところだが」

 

 そう言ったモモタロウの全身とオオカムヅミから、まるで『上等だ』とでも言わんばかりにモーターの駆動音が響いているのを聞き、ラスト・モモタロウは笑いを漏らす。

 

「先輩方は、まだまだやる気だしな……いいぜ、付き合ってやる」

 

 そう言って、今一度ボロボロの刀を抜き、正面を見据えて静かに構えた時、ふと彼らの“隊長”に想いを馳せた。

 

(隊長サン、こんなに相棒達に慕われるなんて、あんたホント幸せモンだったんだな)

 

 相手は、過去に生きた人間、答えるハズもない。

 

 だが――

 

『そうさ、マジに自慢の相棒達だ。こいつらが居たから、俺はどんな無茶な作戦からだって帰還できてたんだ。こいつらをしばらくお前に預けといてやる』

 

『だから、お前はちゃんと帰れよ』

 

 そんな声が、聴こえた気がした。

 

 「……ありがとよ隊長サン、いや『特攻隊長マイキー』」

 

「なら遠慮無く預からせてもらうぜ。でもな、俺は言われなくてもちゃんと帰るよ。帰って怒られて、その後ピクニックに行く予定があるんだから」

 

――鋼鉄の身の内で、炎の意思が生きろと叫んでいる。

 

――与えられた命が、大地の祈りを受けて輝いている。

 

 打ち倒す敵は一つ、願いも一つ、今の我等にはそれを果たすだけの力がある。 

 

 再生も終わり、眼前で邪悪に咆哮をあげるバラムゲイナーを前にしても尚、ラスト・モモタロウは、もうほんの少しも負ける気はしなかった。

 

 刀を構え、作戦が始まる直前に、トリエールに問われた事を思い出し、ふっと笑う。

 

 その答えは、もう出ていたのだ。

 

 今の気持ちを言葉で表すなら、そう――

 

 「“完璧”だ。既に我が剣に迷い無し!」

 

 そう叫んで、ラスト・モモタロウは一歩踏み込んだ。

 

                【終】




お付き合い頂き、ありがとうございました。

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