楽しんでいただければいいのですが……
世界が赤かった。
それはまるで赤い絵の具で白い画用紙を真っ赤に染めたようなもの。あまりにも乱雑でありながら、それでいてどこまでも濃い赤。
現実、世界は白い画用紙などではない。
それでも、いくつもの色を使って描かれた画用紙を何枚も合わせたものが世界とも例えられるのだろう。
まるで絵画のような世界。自分もそこに描かれる一人であり、そこの住人として確かに違和感なく存在していたはずだ。
しかし、そんな絵の中に一点の黒が落とされた。それは広く浸み、消すことはできない。やがてその浸みはすべてを侵食していく。
そんな黒さえも飲み込む赤。
すべてを侵食したものを更に飲み込み、世界は赤に染め上げられる。
────俺は走っていた。
全てから逃げるために。
────俺は耳を塞いだ。
助けを求める声を聞きたくなかったから。もしもそれに耳を傾けていたら、俺はきっと足を止めていたから。
────俺はただ前だけを見ていた。
ただ逃げるための道だけを見て、走っていた。助かるかもしれない人、助からなかった人、それらを喰らう全てから目を背けたかったから。
────そして、俺は殺した。
真っ黒に染まった俺の手は、赤になっていく。
────悪い夢を見た。
気持ちが悪い。
まだ冷房を着けるには早いが、昼間は汗をかけるくらいの時期。朝晩はタオルケットをかけ、窓を開けていれば十分寝れるくらいの環境だ。
それにも関わらず、ベタベタと纏わりつくような汗をかいた。それが気持ち悪くて、俺は目を覚ます。
「……今、何時だ?」
目覚まし時計に手を伸ばす。
未だにアラームが鳴っていないので、普段起きるよりも早いだろうが、
「む……五時半か」
六時にセットしたアラームよりも三十分早かったらしい。
ため息を一つ着き、かといって二度寝をする気にもなれなかったので体を起こす。
少し早いが、シャワーを浴びてから朝食を用意するか。なんせ我が家の食卓は賑やかだ。朝からしっかり食べる人たちが揃っているので、こちらもしっかりと準備をしたい。
それとも、夢見が悪くてもちゃんと日課を行うべきか。
……答えはそう悩まずしてもう出ていた。
「行ってきます」
まだ誰も起きていない自宅のドアを閉め、道路で軽くストレッチをする。
いくら十七歳といえど、準備運動は重要だ。
ただでさえ筋肉の付き方は悪く、人よりも努力をしなければならない体質なのだ。可能な限り、体には気を使ってあげたい。
「────よし」
準備運動は終了。
さて、今日はいつもよりも早く起きたおかげで時間に余裕がある。
「少し距離を伸ばすかな」
そう呟きながら、ゆっくりとジョギングを始める。
衛宮士郎の趣味は機械いじりと鍛錬だ。
もちろんこんなことは当人が言うわけがない。
確かに趣味というほど熱中できるものが今はなく、そう言われて完全に反論できなかった自分もいる。それでも、機械を触るのは生徒会の手伝い程度。鍛錬だって、元々は部活のためにやっていたぐらいだ。
なので、そういった評価を受けることは心外だ。
無論、それを訴えたところで聞いてくれる人もいないのでどうしようもない。現にこうして毎日町内をランニングし、家の庭で筋トレと竹刀の素振りを行っているのだ。鍛錬が趣味と言われても否定できないのだが。
日の出の時間はすっかり早くなり、日差しが眩しかった。
俺は手で軽く目を覆いながら走る。風を切り、ゆっくりとスピードを上げる俺は町内を走り切り、気づくと新都に繋がる橋までたどり着いていた。
「少し夢中になりすぎたかな……」
普段よりも早く、かつ遠くまで来てしまった。
普段はペースなどは気にしながら走っているのに、今日に限ってはそれがなかった。
十中八九、今朝の夢のせいだろう。
あれのせいで、気持ちの悪い朝を迎えてしまった。だからこそ、走ることで気持ちの良い汗と一緒に、嫌なものをすべて流しだしたかった。
ただ、体には気を付けないと思っているのにこれだ。
俺は相変わらずの未熟さに苦笑いを浮かべながら、近くの公園で休憩をとることにした。
「ただいま」
家に帰ると、味噌汁の匂いがリビングの方から流れてくる。
「あら、今日は少し遅い帰りでしたね」
エプロン姿がよく似合う、我が家の家政婦さん、セラが顔を覗かせる。
「いや……、起きるのは早かったんだけどさ、ちょっと調子に乗って遠くまで走っちゃってさ」
「はあ……。まあ学校に遅刻しない程度でしたら、いくらでもやってもらってかまいませんが」
「大丈夫。今は部活の朝練とかないから、そう遅刻することはないよ」
「そう、ですか……?」
「ああ。まあたまに生徒会の手伝いがあるくらい……かな」
靴を脱ぐと、すっかり乳酸がたまった足を軽く解す。
ふむ。思いの外に長距離を走ったせいで、やはり体はだいぶ疲れを示している。まだまだ鍛錬が足りない証拠だ。
ふぅと一息つくと、俺は立ち上がる。
「朝ごはん、何か手伝うことはある?」
────ピキン。空気が割れる。
俺の発言を聞いた瞬間、セラの表情は一瞬で変わる。それはまさに般若。
自分が地雷を踏んでしまったことに気付くよりも先に、セラの罵声が飛んでくる。
「シロウ!あなたはいつもそうやって私の仕事を奪う!!」
ああ、失敗した。そう思って頭を抱えるも、時既に遅し。
セラのマシンガンのような声に俺は一切抗うことはできなかった。
「セラ、朝からうるさい。近所迷惑」
もう一人、リビングから顔を出す。彼女もセラと同様に我が家の家政婦さん、リズである。……が、その肩書はどこへか、今朝も酷く寝癖をつけながら、眠そうな表情で俺たちを見ている。
セラはこの職に誇りを持っている。そんな彼女にとってはこの光景はたまったものではないだろう。怒りの矛先を変え、セラはリズに怒鳴り散らす。
その光景に、元をただせば俺が原因であるせいか、酷く申し訳なさを感じた。
「────って、なんか焦げ臭くないか?」
ヒートアップするセラを横目に、俺は呟く。
この臭いはキッチンの方から。そう深く考えなくても十分に答えは出た。
「いけません!目玉焼きが!!」
先程までの勢いはまたどこへ。リズを置き去りにして、キッチンへと向かうセラ。
その後聞こえた悲鳴からして、今朝の目玉焼きは酷い有様になっていたのだろう。…………本当に申し訳ない。
「シロウ。いくら夏になりかけっていっても、汗をかいたままなのはよくない。シャワー浴びるか、着替えるかしてきな」
そう言うリズは少しドヤ顔にも見える。……まさか全て計算していたのか?
真実はよくわからないが、彼女は割とこういった側面を時々見せる。普段はだらしなく、何を考えているのかよくわからないが、俺たちに気を使うことはもちろん、お姉ちゃんのような気質を見せる時もある。
あまり時間もない中、答えがなかなか出ないことを考えても仕方がない、か。
「ありがとう。お言葉に甘えてさっさとシャワー浴びてきちゃうよ」
「そうして。それから、上がったらイリヤを起こしてあげて。あの娘、今朝もちょっと寝坊気味」
「了解。…………って、昨日に引き続き珍しいな」
俺たちは簡単なやり取りを終えると、リズはセラのところに、俺は浴室に向かった。
interlude 1
目覚ましが鳴る。
ジリジリジリジリジリジリジリジリ────
耳を突く音に、普通なら誰もが眉間に皺を寄せるだろう。そして、うるさいと耳に手を当てながら、諸悪の根源を叩くに違いない。
……が、あいにくこの部屋の主は今日に限ってそれを止めることをしなかった。いや、正確にはできなかったというべきか。
「あーあ……イリヤさんったら本当に寝坊助ですね」
呆れた様子でため息をつく一本のステッキ。それはふよふよと宙を浮きながら、ベッドの上で規則正しく寝息を立てている自分の主を見ていた。
そんな主はというと、何度も鳴る目覚まし時計のアラームを聞いても起きるそぶりは見せなかった。
その調子に少し不安を抱くステッキだったが、彼女が普通の小学生であることと、多少持っていた厄介事に巻き込んでしまったことに対する申し訳なさがあった。
「今日だけですからね?本当に」
ため息交じりのステッキは器用に白い羽を動かし、目覚まし時計を止めた。
時刻は七時半を回り、既に朝食の準備は整っているだろう。一階から上ってくる匂いで予想はついた。だからこそ、もうすぐ主の想い人が起こしに来ることは容易に想像できる。
「やっぱりお姫様の目覚めは王子様のKISS☆によるものですよね!!」
ぱたぱたと羽を忙しなく動かしながら、ステッキはテンションを上げながら叫ぶ。
明らかな確信犯。主のことを純粋に思って────などはいなく、それの趣味。主を一種の遊び道具のようにするステッキの歪んだ性格故の行動だ。
それは製作者の影響か。どちらにしても、純粋な心の持ち主である少女からしたら、迷惑極まりない。
ドン、ドン、ドン…………
「おっ!来ました、来ました!!」
ステッキは頻りに部屋の中を飛び回り、興奮を隠せない様子だ。
ただ、このままでは見つかってしまう。それは、家主に黙って匿っている少女に迷惑がかかることだし、何より自身にも影響する。
素早く部屋にある本棚の陰に隠れ、それは事の成り行きを見守ろうとする。
コンコン。
部屋の中にノックの音が響く。
「イリヤ、朝だぞ」
続いて入ってくるのは、部屋の主であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの兄、衛宮士郎の声。
彼は家族でありながらも、相手は年頃の女の子であることを考慮してか、律儀にノックをしてから声をかける。
しかし、あれほどの目覚ましの音でも起きなかったイリヤだ。いくら彼女にとっての王子様であっても、目を覚ますには至らなかった。
「もう、お兄さんはダメですね。こういうときはもっと押さなきゃ!!」
物陰に隠れながら、未だに部屋に入ろうとしない士郎に対して煮え切らない気持ちを爆発させるステッキ、ルビー。
無論、そんなことも気づかないイリヤは相変わらず寝息を立てている。
「おーい、イリヤ。遅刻しちゃうぞ」
再び声が響く。
それでは絶対に起きない。早く入ってこい!!
ルビーは必死に未だ開かない扉に向かって念を送る。
「セラが怒っちゃうぞ。今日はなんたってセラが朝食作ったんだから、冷めないうちに食べなきゃ」
そんなルビーの念も無駄となる。
士郎は相変わらず声をかけるだけ。兄である前に、やはり妹のポリシィーを考えたり、何よりも女性として扱っている部分が大きかった。
「うわぁ、そういえばお兄さんは相当の朴念仁でしたね。イリヤさんの話を聞いてなんとなく苦労を察しちゃいましたよ」
深々とため息をつくルビー。
いくら面白いことを望んでも、これ以上は仕方がない。
煮え切らない気持ちを抱えながら、一人で騒ぐよりもここでイリヤを起こし、あたふたとする彼女を見る方が楽しいのでは?
案外そちらの方がいいかもしれない。
思い立ったら即結構。
これぞルビーちゃん。常にマスターのことを考える、スパーステッキである。
「……入るぞぉ────」
申し訳ないくらいに小さい声。
それが士郎のものだと気づく頃には、ルビーは既にベッドに向かっている。
まずい。このままではバレる。
ルビーは必死に当たりを見渡し、隠れる場所を探す。
「……背に腹は代えられませんか」
ルビーはそれだけ呟くとイリヤの勉強机にコテンと寝そべった。
自分が生きているステッキだとばれなければいい。とりあえず一種の置物として徹することにしたルビー。
(朴念仁のお兄さんですからね。きっと気づかないでしょう)
そもそもそんな彼が入ってきたこと自体、ルビーにとっては予想外だったのだが。
ギィーと音を立ててドアは開かれる。
気まずそうに顔を覗かせる士郎。初めて入るわけではないのに、緊張して仕方がなかった。
キョロキョロと辺りを見渡すその姿を客観的に見れば完全に危ないやつである。
『妹の部屋を物色する変態兄』
間違いなくこの家、近所の人に見られたらそんなレッテルを貼られるに違いない。
それでも、彼をよく知る人物なら、また要領悪かったのだろう、どんくさいな……と思うのだろう。
ただ、この現場を唯一目撃しているルビーからしたら、そのレッテル通り、それ以上に自身の楽しさを満たすだけの事象である。
声を上げたいのを必死に我慢しながら、ルビーはただ録画に徹する。
「………」
(あれ?)
そんなルビーが抱いた違和感。
挙動不審な行動をしていた士郎がルビーの方を見たのだ。それもしっかりと。
部屋の一部のようにしていたはずのルビー。それが自分の妹の部屋からしたら異物だと判断したのだろうか。
だとしたら、認識が甘かった。
“全てにおいて未熟者”である衛宮士郎と評価をしていたルビーにとって、それは覆すべきものなのかもしれない。
そう思考を巡らせているルビーから視線を外す士郎。
「ほら、イリヤ。もう起きる時間だぞ」
士郎はゆっくりとイリヤが眠るベッドまで近寄ると、身を屈めて彼女の高さに合わせる。
極力優しい声で、それでいて寝坊助な妹を叱るような調子で士郎はイリヤを起こす。
「ん────」
イリヤが唸る。
────チャーンス!!
悪魔が降りた。
それは冷徹に笑い、悪魔は自身の生きがいを全うする。
「────────え?」
トン。
士郎の背中をルビーは押した。その表現通り、未だ一歩を踏み出せない勇気を持てない少年に勇気を与えるように────
「な、なんでさ!?」
物理的に押された士郎は咄嗟にベッドに手を着く。
しかしそれは不可抗力でありながら、あまりにも状況的にいかんもの。
「…………ふぇ?」
イリヤは目を覚ます。
ゆっくりと開かれた瞼の億、紅い瞳はしっかりと士郎の顔を見ていた。
母親譲りの綺麗な雪のような肌と髪の毛。そして、まるで飲み込まれるような紅い瞳。
「お、おはよう……イリヤ…………」
「……おはよう……お兄────」
空気が凍る。
効果音を鳴らすなら、ピシン。
夏場というのに、寒ささえ感じるこの状況に、士郎の顔からは血の気が引いていく。
イリヤはというと、寝ぼけ眼のまま辺りを見渡す。
起き上がろうにも、自分の上に覆いかぶさる兄。間違いなくここは自分の部屋で、自分はベッドで寝ていて────
「イ、イリヤ……これはだな、不可抗力で────」
ドン。
今度は押すのではなく、突き飛ばす。
これがトドメと言わんばかりに、ルビーは士郎の背中を叩いた。
不意打ちでなければ多少の結果は変わっていたかもしれない。しかし、現実は変わることは何もない。
必然的に士郎とイリヤの顔は接近する。その距離は、もはやキスなんて容易くできるような距離だ。
真っ青になる士郎と対照的に、誰から見てもわかるくらいに顔を真っ赤にするイリヤ。
「お、お兄ちゃんの─────」
こうして今朝もルビーは満足した。
自身のマスターが恋にトキメク瞬間をしかと目に焼き付け、きっちり録画もできたことに。
無論、周りの被害などは一切考えてなどいないのだが。
interlude out
「いただきます……」
食卓に全員が揃ったところで、手を合わせ、俺たちはいつもよりも少し遅めの朝食をとることになる。
「い、いただきます……」
俺に続きイリヤ。顔を伏せながら、ぽつりと呟くように言葉を放つ彼女に対し、俺は罪悪感に悩まされる。
「どうかなさいましたか?イリヤさん??」
事情を全く知らないセラ。俺たちの保護者ということもあり、彼女は心配そうにイリヤの顔を覗き込んでくる。もちろんイリヤはというと、そんな彼女に心配をかけまいと努めて笑っている。
当事者であり、兄である俺としては、その笑顔が非常に痛々しく感じてしまう。
もぐもぐと口を動かしながらその様子を見ているリズ。彼女は呆れたようにセラを見ると、
「シロウの頬手形で真っ赤。悪戯も程々にしておかなくちゃね」と、突拍子もないことを言ってきた。
「────なっ!?」
嫌な予感はなんとなくしていた。だが、セラの前で言うだろうか、普通……
案の定、セラは俺の顔を凝視すると、ある程度察したらしい。先程までとは一転、まさに鬼の形相となり、彼女は俺の胸ぐらを掴んでくる。
「どういうことですか、シロウ!?イリヤさんに何をしたんですか!!??」
「ご、誤解だ!!たぶん、セラが思っていることはしていない!!たぶん!!!!」
「そんなにもたぶんを強調されては信頼ができると思っているのですか!?」
御もっとも。
俺は抵抗を許されることなく、ぐわんぐわんと揺さぶられる。
「セ、セラ!!お兄ちゃんは悪くないから!!!」
その間に割って入るイリヤ。
直接手を出せないまでも、イリヤの発言によりセラの力は弱まる。
「で、ですがイリヤさん……」
「そうそう。シロウは悪くない。強いて言うなら、悪戯っ子が悪い」
「何を言っているんですか、リズ!!」
相変わらず箸から手を離さないリズ。……一体どこまで気づいていて、知っているんだか。
うがぁと唸るセラの様子はまるでどこぞの虎。
ここまでくると、止められる人間は限られてくる。残念なことに、我が家においての立場が最底辺である俺にはどうすることもできない。
セラの怒りの矛先が俺からリズに移ったこの瞬間、俺は必死に朝食を食べる。
いくら慌ただしく、急いでいたとしても、せっかくセラが作ってくれた朝食だ。残すわけにはいかない。
そんな俺の様子を見ながら、イリヤもはっと我に返った様子で朝食を食べていく。
「それよりもシロ────」
「御馳走様!!」
セラが再びこちらに振り向くと同時に、俺は食器を置く。
「まずいまずい!遅刻する!!」
「あっ、ちょっと!!」
少しわざとらしい気もするが、背に腹は代えられない。このままでは、本当に遅刻してしまいそうだ。
遅刻の原因が妹起こした時に発生したちょっとした問題だと先生に言えるはずもない。ましてや、それをみんなに聞かせれるわけがなかった。
俺は手際よく、食器をシンクへ入れる。
「シロウ!遅刻しそうと言いながら、食器を洗うんじゃありません!!」
「うぐっ……」
しまった。いつもの癖で、ついつい洗い物にまで手を出してしまった。
「食器ぐらいセラが洗っておくから大丈夫」
「あなたはもっと家事を手伝いなさい!!」
いつもの調子で言うリズ。この頃家事に対する手伝いを全くしない彼女に対し、本来同僚であるはずのセラはうがぁと怒鳴る。
「ご、ごちそうさま!!」
慌てて俺に続くイリヤ。
「イリヤさんまでそんなに急いで」
「わ、私も遅刻しそうだったから……!!そう!!今日はちょっと寝坊気味だったし!!!」
少し無理やりな気もするが、セラを納得させようとするイリヤ。
キッチンに立つ俺の隣まで彼女も食器を持ってくると、水を張ったシンクにそれを入れる。
「わかりましたから。二人とも食器は水につけて、早く学校に行っておいてください……」
少し頭が痛そうに手を当てて言うセラ。
その様子にもちろん罪悪が生まれるが、これ以上呑気にもしていられない。
「ごめん。明日の朝は俺が用意するから」
「今晩は?」
俺は食器を水に着け、カバンを背負う。そんな俺の後ろ姿にリズは尋ねてくる。
「夜は衛宮の家で飯を食ってくる。藤ねえがたまには飯を作れ、ってうるさくて……」
「あ、それ最近いつも言ってる。たまにはイリヤちゃんの家でご飯食べたいって。それからお兄ちゃんが作ってくれたお弁当もよく横からつまみ食いをしているなぁ……」
「ダメだぞ、イリヤ。藤ねえに餌を与えたら」
「餌って……。お兄ちゃん、藤村先生に対する態度雑じゃない?」
そんなことはないはずだ。
これでも、高校の教師をしていた頃の藤ねえを一番丁寧に扱っていたのは俺だと自負している。もちろん、暴走を恐れての処置だが。
パタパタと忙しない様子でイリヤも支度を済ましていく。
「それじゃあ夕飯は三人分で大丈夫ですね」
「申し訳ないけどそれでよろしく」
「いえ。藤村先生によろしくお伝えください」
朝食の途中であったにも関わらず、玄関までお見送りをしてくれるセラ。
いつも思うのだが、本当に俺たちに────いや、イリヤに対してよく気を使ってくれる。
「それじゃあ明日の朝食に期待しているぞ、シロウ」
「おう。明日は久々の朝食作りだから、腕によりをかけてやる」
「あ、あなたは────」
まずい。
リズの期待に応えたつもりなのだが、やはり家事全般はセラがこなしたいと思っているのだ。そんなつもりはないのだが、俺はそれに手を出していることになる。
いつものことなのだが、セラはそれに対してよくは思っていない。
このままじゃせっかく回避したはずのお説教が────
「お兄ちゃん、行こう!」
ふわっと髪を舞い上げながら、イリヤは俺の手を取って駆け出す。
「行ってきます!!」
勢いよくドアを開け、出ていくイリヤ。俺もそれに必然的についていく形なる。
「い、行ってきます!!」
俺は少しそれに動揺しながらも、少し遅れて我が家の家政婦さんたちに挨拶をする。
なんだかダラダラと書いてしまいましたね。
すみません。
一章のテキスト量はどれくらがいちょうどいいのだろうか?
悩みどころである……