Interlude 3
「午前零時まで残り一分」
新都に繋がる赤い橋の手前の公園、凛は腕時計を確認しながら呟く。
夏だというの僅かに肌寒さを感じるのは、戦いの前の緊張感のせいだろうか。イリヤはギュッとルビーを握りしめながら息を吐く。
「────油断しないようにね、イリヤ」
イリヤは頷く。凛の表情、声はどれも緊張感に溢れている。そんな彼女を見ていると、イリヤは昨晩の戦いのことを思い出してしまう。
自分にとっては初めての戦い。今まで生きてきた日常とはかけ離れている。それはあまりにも実感がわかない事であるが、最後の宝具の真名を口にされるその瞬間、死ぬとさえ思った。
……凛の言うとおり、気を抜いてはいけないのだ。そうイリヤは自分に言い聞かせる。
「敵はもちろんだけど、ルヴィアたちがドサクサに紛れて何かをしてくるかもしれないわ」
「…………」
イリヤは言葉を失う。先程まではやっぱり凛さんは大人だな、かっこいい魔術師なんだな、なんて思う瞬間があった。しかし、こうも真面目な表情でとんでもないことを言われてしまうどうしようもない。
対して二人の前に立つのは転入生である美遊と、金髪と同様に派手なドレスを靡かせる西洋人が一人。
「開始と同時に速攻で仕留めなさい。あと可能ならばドサクサに紛れて遠坂凛を葬ってあげなさい」
こちらも真面目な表情で物騒なことを口にしている。おそらく見た目通り育ちがいいのだろうが、こうも危険な言葉を口にするのを聞いていると、彼女の本質というものに疑問を抱いてしまう。
「……それはちょっと」
さすがの美遊も困った様子である。表情にこそ出さないが、その心境は声色に表れている。
「殺人の指示はご遠慮ください」
美遊の手の中、一本の青いステッキはピシャリと言い放つ。
パタパタと羽を揺らしながら、現在のパートナーに身を任せるのはルビーの妹であるサファイア。ルビーの妹というのだから、当然これも魔法使いゼルレッチが作った礼装の一つである。使用者の魔力をほぼ永久的に供給することが可能であり、マスターの空想を具現化させるという奇跡を起こせる。そしてカードが存在する鏡面界に移動するには不可欠なものであり、今回のカード回収の任には必要なものだ。
時計塔から派遣された魔術師は二人。一人は時計塔の今季主席候補の遠坂凛。彼女は冬木の地が出身ということもあり、今回の任務には適任という判断だった。もちろん危険が伴うものであり、彼女ならばそれも乗り越えられる実力を持っているということだ。そしてもう一人、それが現在美遊と共にいるルヴィア・エーデルフェルトだ。彼女もまた今期の主席候補である。魔術師としての家系も優秀であり、その実力は凛と並ぶものである。だからこそ、今回のカード回収の任は二人の共同戦線としてゼルレッチ、大師父に任されたのだ。
そのために必要なものがカレイドステッキ、ルビーとサファイアだ。彼女たちは大師父より礼装を預かり、冬木の地に訪れたわけである。
それがなぜイリヤと美遊の手にあるのかといえば、それは凛とルヴィアの性格故ということだろう。もちろん、その一つの要因を担っているのは、ルビーの性格もあるのだが。
現状を見ても分かる通り、凛とルヴィアは仲が悪い。それもただ仲が悪いのではなく、とてつもなく、いや、それこそ生まれた瞬間からそれが義務付けられていたレベルで仲が悪い。時計塔では毎日のように喧嘩をし、挙句の果てに講堂を一つダメにしてしまった始末である。今回のカード回収の真意は、時計塔から厄介者払いをしたと言ってもおかしくないのが事実だ。
そんな二人に愛想を尽かせたのがカレイドステッキたちである。それぞれが元のマスターの手を離れ、現在のマスターの場所にいる。結果としてカード回収の効率は悪くなってしまったのだが、それでも毎日喧嘩の度に魔法や宝具を使われるよりはましだろう。
「……仲、相当悪いんだね」
イリヤはぼそりと呟く。あの寒気に似た感覚は実は二人の険悪感から来るものなのではないか、内心ふと思ってしまう。
「ほんとうですよねー。まったく、二人の喧嘩に巻き込まないでもらいたいですよねー」
呑気に言うルビーだが、この中で誰よりも二人の喧嘩の無謀さを知っている。そんなルビーがこんなにも達観しているのだから、もはやどうすることもできないのだろう。
イリヤはため息をつくと、不意に美遊を見る。
昨日の夜に突然現れた魔法少女。今日になってみれば、転入生として同じクラスになっただけではなく、完璧になんでもこなしてしまう。挙句の果てには家も正面となれば、どうすればいいのかよくわからない。
ただ、彼女は自分よりも戦いに慣れている。半端な気持ちで魔法少女をやっているわけではないのだということだけはイリヤはわかっていた。
「いくわよ────」
凛のカウントが始まる。
先程までとは違った意味で空気が張り詰める。ルヴィアもまた、なんだかんだ言っても凛と同種の人間なのである。この雰囲気から、イリヤはなんとなくその事実を察した。
「「限定次元反射炉形成!境界回廊一部反転!!」」」
イリヤと美遊の声が重なる。莫大な魔力と共に、二人の足元には巨大な魔方陣が浮かび上がった。
「「接界!!」」
Interlude out
「な、なんだこれ……」
俺は言葉を吐き出す。
夜の遅い時間、家を抜け出していたイリヤを追いかけるように、俺は彼女の後を追った。そんな俺が今いる場所は、今朝方ランニングで訪れた公園だ。その中心、イリヤを待っていたのはあまりにもこの地に似合わない風貌をした女性と、イリヤと同い年ぐらいの少女、そして遠坂凛だった。
嫌な予感というものは的中するらしい。遠坂が関わっているということは、つまりイリヤが巻き込まれていることは魔術に関すること。もちろん、今朝イリヤの部屋で見つけたあれも、魔術に関わるものだと言うことは一目見てわかった。……それもとびきり異質な。
そして眼前に広がる光景に、俺は釘づけだった。
遠坂の合図と共に魔術を発動させ、イリヤ達は確かに別の世界に跳んだ。それは転移魔術の一種だろうか。わからないが、それと同時に俺の中で広がった違和感。
甘ったるい香りの中にいるような感覚。クラッと眩暈に襲われたが、みんながいなくなったことで姿を現す。そして、彼女たちの立っていた場所に俺は目を向けていた。
そこで見たものは、空間の歪み。おそらく、魔術に関わる人間でも見つけることはそう簡単なことではないはずだ。こと、結界を見つけることに強い俺は運よくこれに気付けたが。
その先にあるものは、派手な格好をした小学生二人と、その後ろに立つ魔術師二人。
……なるほど。ここ最近冬木に訪れた魔術師は彼女たちだったのだろう。その二人が持ち込んだのが、イリヤ達が持つ魔術礼装か。
「はは……この光景は親父には見せられないな」
俺は苦笑いを浮かべる。
切嗣とイリヤの母親であるアイリさんは、イリヤが魔術に関わることを望んでいなかった。だからこそ、衛宮の魔術師を継ぐのは長男である俺だと決めていた。それでも二人は複雑な表情を見せていたが。
きっとこの光景は、二人をその時以上に困らせるに違いない。
俺は頭を乱暴に搔くと、体に巻かれている聖骸布を緩める。そして空間の歪みに手を伸ばして回路を開いた。
「解析開始」
それは自己暗示。己を魔術師と化し、その神秘を扱うための暗示に過ぎない。それでも、“トレースオン”この言葉には俺が俺であるには不可欠なものであった。
俺の頭の中に流れてくる様々な情報。鏡面界と呼ばれるその世界の構造、あり方、そのすべて。そして、おそらくそれを構成するにあたる強力な魔力を秘めた力、英霊達。
まさか、イリヤ達が戦っている相手は英霊なのか?
俺は瞼を開け、歪みの先を見る。すると、そこには見たこともないような魔法陣を並べ、今にも最大出力の魔術を放とうとしている魔女が一人。
「まずい────!!」
あれは避けられない。イリヤ達は魔女の魔術によって退路を断たれている。正面切ってあの魔術をどうにかすることなんて、おそらく遠坂でも無理だ。
そうなると、おそらく彼女たちが取る選択肢はこちらの世界に帰ってくるということ。
イリヤに俺が魔術師であることを知られるのはよくない。それから、遠坂には俺とイリヤが兄弟であることも内緒だ。……一応これは切嗣の判断であり、守るべきことだ。
俺は咄嗟に聖骸布を巻き直すと、回路に流れる魔力を抑え込む。一瞬それによる激痛が走ったが、それで足を止めるわけにはいかない。ギリッと歯を鳴らしながら、俺は物陰に身を潜める。
「し、死ぬかと思った!!!!」
遠坂の声が響く。まったく、昔から思うのだが、学校と素の差が激し過ぎるだろ。
「な、なにあれ!?」
続くイリヤの声も信じられない、といったもの。遠坂に気心しれた様子で話しかけられるのも、イリヤの性格ゆえなのだろうか。
ああした騒いではいるが、致命傷と呼べる怪我は見当たらない。おそらくあの魔術礼装の力だろう。
「なんにしても大きな怪我がなくてよかった……」
俺は騒いでいるイリヤ達に背を向けながら呟いた。
翌朝の寝起きは決していいものではなかった。疑似回路の鍛錬も含め多少の無茶が祟ったのだろう。体に違和感を覚えながら目を覚ましたのは久々だ。ここ最近ではあまりなかったことだから、酷く苦痛に感じられる。それでも目覚ましが鳴る前、五時半に起きれたのは日頃の行いのおかげだろう。
今日に限って寝坊するわけにはいかない。そう思いながら、瞼をこする。
二度、三度首の骨を鳴らす。本音を言うと、昨晩は異常がなかったとはいえ、朝一番で回路の状態をチェックしたかった。しかし、同居人であるイリヤとその魔術礼装に気付かれるわけにもいかないので諦めることにした。
俺みたいな才能のない未熟者は努力をするしかない。鍛錬もその一環だし、自己管理だってそうだ。いざってときに無茶ができる状態にしておかなければ意味がない。特にイリヤたちがあんな状態なんだ。俺だって、もしかしたら────
「おはようございます、シロウ」
六時を過ぎ、朝食の支度をしていると、セラが二階から降りてきた。まだ早朝と言える時間帯なのにシャンとした恰好をしているあたりさすがと言えるだろう。
「おはよう、セラ。昨日は帰りが遅くなって悪かった」
俺はフライパンをゆすりながら、セラにそう言う。
「いえ。久々に藤村先生たちとの食事だったのでしょ?多少遅くなっても問題ありませんよ」
「……ありがとう」
とても理解のある保護者で助かった。ただ、遅くなった理由が他にあると思うと、もの凄く罪悪感を抱いてしまう。
俺はフライパンの上にある卵焼きを巻きながら皿に盛り付けていく。今朝のメニューは昨晩多く作った料理をいくつか使いながら、和食メインでいくつもりだ。どうも俺と切嗣以外は洋食の方が好みらしく、セラの料理もそちらに偏りがちだ。
俺としてはやはり和食の魅力も伝えたいわけなので、こうして細々と布教活動を行っているわけである。
お弁当もそちらよりだ。イリヤからの評価はぼちぼちであるが、一成からは大絶賛である。俺の弁当ならなんでも喜んではくれるのだが、その中でも肉が多いとテンションは特に高い。お寺が実家のため、普段はあまり食べないからということもあるのだろう。そういうことを理解していたら、応えたくもなる。
それに今日は森山の分の弁当を作らなきゃいけないか。昨日約束したし。……となると量はもちろん、少しヘルシーな感じの方がいいか。年頃の女の子だとカロリーとか気にしそうだし。
やはり俺は料理が好きなのだろう。こうして誰かのことを考えながら献立を立てて実際に作ることを楽しいと考えられるのだから。
「…………」
ただこの様子は家政婦さんはご不満らしい。昨日の森山との話を振り返れば、その理由も納得できるのだから仕方がないのだけれど。それでも、こうも冷ややかな目で見られると辛い。
「シロウ」
「────ん?」
お玉で味噌汁をかきまぜていると、難しい表情をしたセラが俺の方によってきた。
……今日は俺が朝食当番で間違っていなかったよな?
「あなたはイリヤさんが夜中、どこに出歩いているのか知っていますか?」
ドキン。心臓が跳ねる。
「昨晩、それから一昨晩とイリヤさんは夜な夜などこかへ行っているようなんですが、シロウは何か知りませんか?」
真面目な表情のセラ。本当は今すぐ本人に問いただしたいのだろうけど、イリヤのことを信頼しているのだろう。本人の口からそれを聞けるまで問いただすつもりはないらしい。本当に保護者の鏡だ。
それでも不安は拭えないせいか、俺の所に相談にきたわけか。
俺は鍋にかかる火を止めて、俺はセラの方に振り返る。
「ごめん、抜け出しているのは知っているけど、何をしているかはわからないんだ」
そう嘘をついた。
セラに対して嘘をつくことは非常に心苦しかった。しかし俺もイリヤの兄貴だ。セラと同じようにイリヤを信じたい。
「……はぁ」
ため息をつくセラ。どっと疲れたような様子の彼女は、目を細めて俺を見る。
「…………そういうことにしておきましょう」
そう言ってセラは俺に背中を向ける。
「私はイリヤさんの保護者であると同時に、あなたの保護者でもあるわけですから。……一応信じています」
少し寂しそうな表情でセラはそれだけを言い放った。
……完全に嘘だとばれていたな。それでも問いたださなかったということはそういうことなのだろう。本当に胸が苦しい。
それから朝食の支度が終わると、眠そうな表情で降りてきたリズと洗濯物を干し終えたセラと食卓を囲んだ。イリヤは今朝も寝坊で、呆れながらリズが起こしに行っていた。さすがに昨日の一件のせいで俺が起こしに行くことは却下されたが。
本来ならイリヤも待って朝食をみんなで食べたかった。今朝は俺が作ったということもあるし。
しかし俺はどうしても気になることがあり、一人先に朝食を済ませていた。それに二人を合わせてしまったことが申し訳なかったが。
生徒会の仕事の手伝いをしてくると言って、俺は自転車を走らせて昨晩訪れた公園に来ていた。
すっかり日が昇り、人の姿も見られるようになったこの場所。一般人がいる中で魔術を扱うなんてことはご法度だ。それでも俺には昨日の一件のことを知る義務がある。イリヤの兄貴として、そしてセラにあんな表情をさせてしまったから……
俺はゆっくりと公園を散歩する。あくまでも一般人であることを装いながら、魔術を使わずにこの公園に広がる違和感を探す。
……しかし昨日のように魔力を使わなければ違和感はわからないらしい。それもそうだ。俺は魔術師であることを隠すために聖骸布を巻いているのだから、本当に一般人と大差ない。いくら結界に敏感であってもだ。
「……はぁ」
失敗したかな。遠坂のことだ。おそらく今晩もあの魔女に勝負を仕掛けるだろう。そうなると、イリヤが再び巻き込まれることは当然のことだ。
できることならイリヤを巻き込みたくない。これは俺だけの願いではなく、家族みんなの総意であるといってもいい。だからこそ、俺がなんとかできるのであればなんとかしたいと思う。
魔術は使わない。それでも、聖骸布を少しでも緩めることでわかることがあるなら────
「あなた、そこで何をしているの?」
不意に掛けられる声。聖骸布に手を伸ばそうとしていた俺は、自分の正体が暴かれたかのように錯覚してしまう。
振り返り、声の主へと視線を向ける。すると、そこにいるのは昨晩遠坂と一緒にいた西洋人の魔術師。俺に対するその声、視線は明らかに疑いの物だ。彼女も魔術師ならば、俺が魔術師であることを見抜けて当然だ。
「あ、あなたは────」
俺が無言で彼女を見ていると、不意にその強張った表情は崩れる。そして戸惑いが伺える、赤く頬を染めたものを見せる。
まるで普通の少女のような彼女の表情に、俺は自然と頬を緩めてしまう。
「おはよう」
そして何故か、こうして挨拶を自然と口にしていた。
「……お、おはようございます」
戸惑いながらも俺に習う彼女。やはり昨晩のような魔術師らしい表情ではない。それに安堵してか、俺は更に緊張感を抜いてしまう。
「その制服……穂村原学園の生徒だよな?」
「え?ええ……。今日から短い時間ではありますが、お世話になることになりましたわ」
なるほど。つまり遠坂と同じ転入生か。やはりこうも同じタイミングで訪れるということは、時計塔が関係しているのだろう。彼女も遠坂と同じ時計塔の生徒なのだろうか。
いろいろ問い詰めたいことはあるが、今はまだ俺が魔術師であることは明かすタイミングではないだろう。
俺は浅く笑う。
「そっか。それじゃあ同じクラスになれるといいな」
「────!!」
俺の言葉と共に顔を真っ赤にする魔術師。……何か変なことを言っただろうか?森山もよく同じような表情を見せるが、それがなぜなのかはよくわからない。
「え、ええ!同じクラスだといいですわね!!」
魔術師は大きく身振り手振りをしながら、その表情を見られまいと訴える。彼女もまた遠坂と同じで、学園の人の前以外では感情を隠すのが下手なのだろうか。
その様子がなんだかおかしくて、俺は自然と笑みを零していた。
「本日から短い間ではありますが、みなさまと一緒に学業に励むことになりました。遠坂凛です」
「同じく、ロンドンよりこの地に来ました。ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトですわ」
教室が拍手で沸く。男子たちが色めき立つ中、俺はまさか魔術師────ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと同じクラスになるとは、と驚きを隠せないでいた。
同じように遠坂に関してもだ。彼女もまた、転入してくるとは聞いていたが、同じクラスになるとは思っていなかった。
そのあまりにも偶然とは言い難い現状に、作為的なものを感じてしまうのは当然のことだろう。
そうして新たなクラスメイトを交えたホームルームは授業開始ぎりぎりまで引っ張ることとなる。
「……転入生ってやっぱり人気なんだね」
授業の合間にある休み時間ごとに転入生の周りに集まる集団を遠くで見ながら、森山は苦笑いを浮かべる。それが繰り返されること四度目、時刻は既にお昼休みとなっていた。
何をそんなに話すことがあるのか、未だに遠坂たちの机の周りには人が集まっている。
「そうだな。ただでさえ遠坂は中等部で人気者だったんだ。それが帰ってきたんだから、みんな話したい気持ちがあるんだろうな」
それに合わせて俺も苦笑いを浮かべる。
中等部から上がってきた人でもそうでない人でも、二人の容姿には惹かれるだろう。遠坂は言うまでもなく美人だし、エーデルフェルトは日本人離れした魅力がある。一日中男子が騒がしくなるのもよくわかる。
……俺の場合は二人の性格を知っているからこそ、あまり近づこうとは思えないだけなのだけれども。
「……衛宮君も話したいって思うの?」
「────え?」
いつになく真剣なまなざしでこちらを見てくる森山。その表情の裏に隠される気持ちまではわからない。ただ、俺に行ってほしくないのだということだけはなんとなく伝わる。
俺は浅く笑う。
「話したいとは思うさ。それでも、今はこっちの方が重要かな」
俺は大きめの弁当箱とを三つ出す。
「約束しただろ?昼飯を用意してくるって」
その言葉に表情を輝かせる森山。それも一瞬、今度は頬を赤く染める。
「こんなに多く食べるかな……」
弁当箱を三つ用意してしまったのだが、そのどれもがそこそこの大きさはある。もちろん俺や一成、男子高校生なら普通に食べることができるだろう。しかし、女子高校生はそんなに食べれないのか。
イリヤに作る量よりも多く、それならばとセラやリズ、アイリさんに出すのと同じいくらいの量にしたのが失敗だった。よくよく考えれば我が家はよく食べる方なのだ。
「とにかく一成を捕まえよう。それで、食べきれないようなら俺たちが食べるから大丈夫」
「ありがとう」
森山は柔らかく笑う。
そうと決まれば、さっそく一成を捕まえなければ。彼には昨日のうちに昼飯を作って来るとは伝えてあるから、おそらく生徒会室でお茶の用意をしてくれていると思うのだが────
「衛宮君、ちょっといいかしら」
不意に掛けられる声。それが遠坂の物だと気づくには僅かの間があった。
「少し話したいことがあるんだけど、時間大丈夫かしら?」
ちらりと隣に座る森山に視線を向けながら、俺に尋ねてくる。
「すまん、遠坂。昼は先客がいるんだ。放課後じゃダメか?」
俺の返答にむっと少し不機嫌そうな表情を見せる遠坂。それと同時にクラスがやけに騒がしくなる。遠坂の誘いを断っただの、やっぱり正妻をとるのか、だとか。
「衛宮君、私は真面目な話が────」
きゅるるるるるるるる。
かわいらしいらしい腹の音が聞こえる。それが遠坂の物だということは、彼女の表情を見れば一瞬で分かった。
「……一緒に昼飯食べるか?」
昼休み、学校のグラウンドからは楽しそうな声が聞こえてくる。昼食を早めにとった生徒たちがサッカーをしたり、野球をしているのだろう。
初夏というには今日もだいぶ暑い。日が高く昇り、もうじき今日の最高気温を記録するのだろう。そんな時間帯によく外に出るものだと感心する。
「衛宮よ、一つ質問をしてもいいか?」
校内でも数少ない冷房が取り付けられた生徒会室、沈黙を破るように一成は声を絞り出した。
彼の手に握られるのは一膳のお箸。そして俺たち四人は大きな弁当箱を並べながら、一つの机を囲んでいる。
「どうした、一成?」
その光景に何か問題があるのあろうか。俺は首をかしげ、声の主を見る。
「……なぜここに遠坂がいる」
わなわなと震え、遠坂を指さす一成。
「いや、一緒に昼食を取ろうと思ってさ」
「だから、何故そうなっているのかと尋ねている!」
バンと机を叩く一成。
そう、俺たち四人というのも一成と森山、それから遠坂のことである。普段生徒会室で食事をとるならば、俺と一成の二人だ。最近では俺のクラスに顔を出すことが頻繁になってきた一成は森山ともだいぶ打ち解けたのだろう。こうして生徒会室に入ることに何も抵抗を見せなかった。
しかし遠坂凛に対してはどうだろうか。……御覧の通りの反応である。
今更ではあるが、中等部の頃から二人の仲は険悪だった。みんなの前では猫をかぶる遠坂と、相手の本質を見定める一成。二人が相容れぬ存在であるのは当然のことだろう。ましてやお互い優等生という肩書でとおっているのだから、それは尚のことだ。
ヒートアップする一成を傍に、冷静な表情を見せる遠坂。彼女はゆっくりと箸をおくとにこりと笑う。
────ああ、嫌な予感がする。
なぜだろう。遠坂と会うのはだいぶ久々なのに、まるで何度も経験したかのような感覚だ。こういった類の笑みを浮かべる遠坂は危険だ。本能がそう告げている。
「あら、柳洞君はお寺の息子さんなのに、空腹で苦しむ人に手を差し伸べることはしてくれないのかしら?」
ピシリ────
ほら、やっぱり。ろくなことにならない。
「……いつ俺がそんなことを言った?」
「直接的には言っていないわ。でも、お昼ご飯を持ってくるのを忘れた私が、ここで衛宮君たちとに対して不満を持っているのでしょ?それってつまりそういうことじゃないのかしら?」
「俺が言っているのは、貴様がここで一緒に食事をしていることに対する文句だ!」
「あら、それじゃあ御飯だけ与えて屋根はくれないんだ。そんなんでよく説法が説けるわね」
いがみ合う二人。こうなってしまっては俺にはどうすることもできない。仲介しようにも逆に油を注いでしまうようで、どうしてもまともな言葉が浮かばなかった。
一成が先とはいえ、遠坂まで喧嘩腰になってしまっては収拾がつかない。少なくとも、俺と森山は巻き込まれないようにするだけだ。
ヒートアップする二人を尻目に、俺は一人で箸を進める。
……ふむ。昨日の残りとはいえ、もう少し食感がいいと料理としていいものになるだろう。確かにその場で食べることを前提とはしているが、弁当に入れることも念頭に入れての量だったのだから、もう少しうまく調理の使用があったのかもしれない。
誰も文句など言わないが、やはり俺の料理スキルもまだまだ未熟である。
「ちょっと、衛宮君!あなたはどう思うの!?」
「そうだぞ、衛宮!!元々こやつをお前が拒否しきれなかった甘さが原因だ!はっきり言ってやれ!!」
「ちょっと、柳洞くん、あなたって人は────」
ああ、確かに一成の言うとおりだ。一成が遠坂のことを苦手であると知っているのにもかかわらず、俺が遠坂を誘ってしまったことが原因だ。しかしこうも本人の前でそれについて言ってしまうのもどうかと思う。
……やはりどっちもどっちだと思ってしまう俺は間違えなのだろうか?
「衛宮────」
「衛宮君────」
サァーッと血の気が引く。まるで魔術回路の生成に失敗した時のような感覚。脳裏に死という言葉がちらつく瞬間と同じだ。ああ、遠坂も一成も大した殺気だ……
バンッ────────!!
机が叩かれる激しい音。
それと共に先程までとはまた違った緊張感が室内に広がる。それはあれほどまでに熱を持っていたはずの二人すらも冷めるほど。
「柳洞くん、遠坂さん────」
凛と響く声。普段とのギャップのせいか、誰のものか一瞬わからなかった。しかし、俺でも遠坂でも一成でもない、そうなれば誰なのかは明白である。
「……森山?」
わなわなと震える彼女の姿に、俺はいつもの温厚な性格を重ねることができなかった。
「二人とも、衛宮くんがせっかくお昼を作ってきてくれたのに、なんで喧嘩ばかりするの!?楽しく一緒にお昼ご飯を食べると思ったのに────!!」
それ以上の言葉を口にしようとしたとき、森山の顔は突然真っ赤になった。それと同時にまるで風船の空気を抜いたように、きゅーとしぼむように席に着く。
あまりの剣幕に言葉を全員が失う。俺はもちろん、それまでヒートアップをしていた一成と遠坂、そして言った当の本人までもがだ。その様子にさすにが唖然とする。
普段怒らないやつが怒るとめちゃくちゃ怖い。まさに今のはそういうことだった。
顔を真っ赤にしながらうつむく森山。彼女は一時の間を空けながら、ゆっくりと箸を弁当箱に伸ばした。
……そうか。森山がそういうつもりなら、俺も協力をしよう。
俺も森山がそうしたように箸を伸ばす。そしてゆっくりと自分が作った昼飯を口に運びながら浅く笑う。
「昼休みが終わる前に食べきろうな」
Interlude4
その日の放課後、イリヤ冬木市の郊外に訪れていた。日はまだ高く、士郎が学業に励んでいる時間には既に学校は終わり、こうしてイリヤは開けた森の一部に立っていた。
午前中に授業が終われば、友人と遊びに行くイリヤ。しかし今日だけは違った。よっぽどの友人関係でなければこんな郊外に一緒に来ることはないだろうし、何よりイリヤの恰好が友人との別を表していた。
「……なんでこんな明るい時間から」
ため息交じりの呟き。それにむふんと胸を張るようにルビーは跳ねる。
「もちろん特訓のためじゃないですか!昨晩は惨敗したんですよー?そんな相手と今晩も戦うんですから、何の準備も無しじゃ死ににいくようなものじゃないですか!」
「いや、まあわかっているんだけどさ……」
ルビーを横目に肩を落とすイリヤ。小学生ながらも、彼女もルビーの言っていることは理解できている。昨晩美遊と共闘で戦ったキャスターのクラスカード、あれは以前に戦ったライダーとは比べ物にならなかった。もちろんライダーが宝具を使用した場合、そう簡単に勝利を収められた補償もない。あくまで戦いにおける条件がいいものになっていただけだ。
ぎゅっとステッキを握りしめるイリヤ。
現状は十分に理解しているつもりだ。だからこそ、学校が終わるなりこうして昼間から恥ずかしい恰好をしているのだ。
それに、きっと美遊も────
「それではさっそく飛行からマスターしていきましょうか。今回は完全に空中戦になりそうですから」
「う、うん!」
イリヤはルビーの提案に首を縦に振る。
当然脳裏にあるのは昨晩のキャスターとの戦い。神話の時代に魔術を使う魔女は、常に自身の頭上にいた。そんな相手と戦うならば、まずは同じ土俵に立つ必要がある。だからこそ、こうして飛行の練習を行い、そして機動力を手に入れることを目標とした。
飛行自体は魔法少女というものに対するイメージができていたイリヤにとってはそう苦しいものではなかった。しかし、更に上に行くならば魔力の効率運用も重要となっていく。カレイドステッキからの無制限供給はあれども、飛行にかかる魔力の消費は莫大なものである。一度に使える魔力の量は個人の資質によるものであり、そのためにより少ない魔力で飛びつつ自在に攻撃ができる必要がある。イリヤにとっての課題とはそれに他ならない。
ふわりと空を舞うイリヤ。凛やエーデルフェルトがかつて苦労をしたように、同じ魔法少女の美遊はこうもうまくいかなかった。これも偏に、日本文化に毒された少女が持っている“魔法少女は飛ぶものでしょ”というイメージのおかげだろう。魔法少女の力は空想の力。まさにそれまでイリヤが培ってきたものが生きる瞬間だろう。
「あ、そうだ────」
軽々と空を舞うイリヤは思い出したかのように呟く。
「これ、使ってみてもいい?」
そう言って取り出したのはアーチャーのクラスカード。その名の通り、弓兵のカードである。凛がロンドンからルビーと共に持ち出した一枚のカードだ。同じようにルヴィアが持ち出したのはランサー、槍兵のカードで、こちらは現在美遊が所持をしている。
美遊がライダー戦で見せたクラスカードの使い方。イリヤの脳裏からはそれが離れず、こうして凛からカードを預かってきた。
「どうぞどうぞ!せっかくなんで使っちゃってください!!」
やけにテンションの高いルビー。イリヤは初めてのことに、高鳴る胸を押さえながらカードをステッキに当てる。
「限定解除!!」
次の瞬間、ステッキは光り輝き一つの漆黒の弓に形を変えた。アーチャーと呼ばれるが故、形となった一つの弓。
「す、すごい!これがあれば勝てちゃうんじゃない!?」
あまりにもその力強さから、美遊が使っていたゲイボルクと同じような必殺の武器を想像してしまう。しかし────
「……矢は?」
そう、肝心の飛ばすものがないのだ。
「ありませんよ。以前凛さんが使った時は手近にあった黒鍵飛ばしていましたし」
「そ、それじゃあ意味ないじゃん……」
がくりと肩を落とすイリヤ。
飛行自体がうまくいっていたおかげか、あとは絶対的な攻撃の手段が手に入れば勝てると踏んでいたが────まあそうもいかない。
「まあ地道ではありますが、頑張って特訓しましょう」
カードと分離しながら、元のスッテキに戻ったルビーは相変わらず気楽な調子でそうイリヤに語りかけた。
「そう……だよね。ミユさんも頑張って特訓しているんだからね」
自分よりも器用で、それでいて強いもう一人の魔法少女の姿を思い出す。昨晩は完敗を喫し、飛行に関してもイリヤよりも遅れてしまっている彼女。おそらく、彼女もまた必死に特訓をしているのだろう。
イリヤはそんな彼女のことを思いながら、己がこれからも頑張ることを胸誓った。
「ミユさん……私、負けないよ………!!」
ぎゅっと握り拳を作るイリヤ。短距離走は負けたけど、今度は────
「────って、え?」
誓いを胸に、これからの特訓に励もうとしたイリヤは一つの異変に気付く。……どこから悲鳴が聞こえてくるのだ。それはだんだんと近づいてくる。女の子の悲鳴。確か、イリヤもルビーも聞いたことがあるその声────
「ミ、ミユさん!?」
その悲鳴が美遊のものだと気づいたことはほぼ奇跡か。イリヤの視界に一瞬入った美遊は、はるか高くから地面へと吸い込まれていった。
「…………無理です」
その言葉はあまりにも冷静だった。ただ現実を直視、不可能であると判断したが故に下した結論。齢十歳でそこまでできるのかと問われれば首を縦に振る者はいないだろう。しかし、彼女なら──美遊ならば、と納得するのは他でもないルヴィアだ。
「美遊、あなたが飛べないのはその頭の固さのせいですわ」
ルヴィアは頭を抱える。それを知るからこその言葉、その苦悩である。彼女もまた、一時ではあるがサファイアと契約を結び、魔法少女をしていた。時計塔の主席候補と謳われるだけのこともあり、凛やイリヤと同様に空を飛ぶことはできていた。無論、そこに至るまでには美遊と同じだけの苦労があり、彼女の越えられない壁というものも理解していた。
「…………不可能です」
そう、これだ。
美遊は頭がいい。同年代と、いや、年上であるルヴィア達と比べてもそれは顕著に出ている。頭がいい────と言えば聞こえがいい。しかし実際には、それ以上に頭が固く、現実的と言えるのだろう。数学ではもっと単純な解法があってもより複雑なものを使うし、絵を書けばインシュピレーションではなく数学的に描いている。年相応の小学生であるイリヤと比べればそれは明らかだった。
……だからこその現状であろう。イリヤは空を飛べて、美遊はそれができない。
ルヴィアは強く拳を握る。時計塔からカード回収の任を任されたのは自分と遠坂凛。その両者が現状自力でそれが全うできず、それぞれが協力者を得ている。それがイリヤスフィールと美遊。それぞれが回収した枚数が直接協力者である凛とルヴィアの手に渡る。つまり、美遊よりもイリヤの方が多く回収したのなら、ルヴィアよりも凛の方が協会より評価されるわけだ。それは凛のライバルであるルヴィアにとってはおもしろくない。
そして何より、今回の敵は空中戦ができないと相手にならないレベルである。そう、空が飛べないまま再び鏡面界に跳べば命の危機にも繋がるわけだ。それはライバルに負ける以上にルヴィアの本意ではない。
「最初からそう決めつけていては何も成せません!」
少しでも希望があるなら────
ルヴィアは必死に美遊に訴える。
「────ッ!ですが!!」
同じように拳を握る美遊。彼女もまた自分が情けなかった。命を救われ、居場所を、名前を与えてくれたルヴィアにその恩を返したかった。だからこそ、命の危機があろうと戸惑わずに戦ってこれた。結果としてライダーのカードの回収に成功し、凛とイリヤよりも一歩リードすることができた。
しかし昨晩はキャスターに大敗を喫しただけではなく、イリヤにできた飛行ができなかったのだ。
恩人に報いることのできない情けなさから、美遊はぎゅっと唇を一文字に結ぶ。
「おやめください、ルヴィア様」
そこで互いに感情的な二人と対局的に、機械的に言葉を入れるサファイア。彼女は美遊の手の中、かつての主であるルヴィアに冷たく言い放つ。
「パラシュートなしでのスカイダイビングなど単なる自殺行為です」
そう現状と考えを告げるサファイア。
このやり取りはイリヤが特訓をしている冬木市の遥か上空、エーデルフェルト家の自家用ヘリコプター内でのものである。ルヴィアが空を飛ぶことのできない美遊に対して行っていた特訓とは、サファイアの言った通りの物。端的に言うなら自殺、その通りである。
無論、ルヴィアもそれを承知の上でのことである。パラシュート以上の安全装置があるということを理解して出のことだが。
「こうでもしないと飛べるようにならないでしょう!体が浮く感覚を実体験でもって知るのですわ!!」
それに対して急激にボルテージを上げるのはルヴィア。それは彼女の考えを否定されてか、それとも純粋な熱意故にか。残念ながら本人すらも理解できていなかった。
「美遊はなまじ頭がいいから物理常識に捕らわれてしまうのですわ。魔法少女の力とは空想の力。つまりそれとは対極的なもの。常識を破らなければ道は拓けません」
「付き合う必要はありません、美遊様。拾っていただいた恩があるとはいえ、このような命令は度が過ぎています」
「…………ッ!!」
ルヴィアの言うことも理解はできる。しかしそれ以上に主の身を案じるサファイア。現状どの意見が正しいかと言われればサファイアのものだろう。それでも必死に応えようとする美遊は献身的である。
「さあ、一歩を踏み出しなさい!あなたなら飛べます。できると信じるなら不可能はないはずですわ!!」
「────いえ、どう考えても無理です」
ぼこ。鈍い音がした。
美遊の視界は一変する。鉄の籠に囲まれていたはずが青い空、遠く彼方に見える海、住宅街、木々、木々、木々、木々…………
「──────!!!」
ルヴィアに蹴り落とされた美遊の悲鳴にならない声が響く。
「獅子は千尋の谷に我が子を突き落すと言いますわ。……見事這い上がって見せなさい美遊!!」
「ミユさん……!?なんで空から……?」
ぷかぷかと空に浮かぶイリヤは地面で蹲る美遊を見ながら尋ねる。
そんな疑問を抱くのも当然。空から何か降ってきたら驚くし、ましてやそれが人なら特にだ。
上空からルヴィアによって蹴り落とされた美遊。彼女はパラシュート以上の安全装置である礼装サファイアによって、物理保護を受けていたため無傷だった。無論、それは外傷であって心には相当の傷を負ったことはルヴィア以外の誰もが容易に理解できていた。
美遊はそんな傷にも負けず、着丈に振る舞いながらゆっくりと顔を上げる。そして声のする方、空を飛ぶイリヤを見た。
「……飛んでる」
ぽつりと呟いた。
美遊は空から落ちるという体験はした。しかしそれは、ルヴィアの言う浮くという感覚には程遠く、ただの恐怖体験でしかなかった。その中で得た結論として、やはり人は空を飛ぶことはどうあっても無理であるということだった。
だから美遊にとって目の前の光景は理解ができないものであり、羨ましいと感じられるものでもあった。
「美遊様、やはりこことは……」
サファイアは少し言葉を濁して主に提案を促す。
もちろん美遊もそれは理解ができていた。頭を使うタイプである美遊に、精神論を語るルヴィアは教えることは困難であり、そうなると現状最も頼るべきなのは誰かということを。しかし、それは昨日甘い考えを持っていたイリヤに対して戦いに関しては私に任せればいい、そう言い放った美遊には頼みにくいことだった。
それを理解した上でのサファイアの提案ではあったが、美遊は頷いた。
美遊はゆっくりと立ち上がり、心配そうに覗き込んでくるイリヤに少し赤くなった顔を向ける。
「昨日の今日で言えたことじゃないけど……」
ぎゅっとサファイアを握り、勇気を振り絞る美遊の姿はルヴィアの望んだものではなかったが、彼女なりの成長でもあったのだろう。
Interlude out
皆様お久しぶりです。
長いこと放置して申し訳ございません。はい。生存していました。
様々なことがおきてなかなか執筆できず本日久々の投稿です。
アニメも無事に終了しましたね。UBWもプリヤも。続きに期待!って感じですねー
てか、プリヤの原作凄いことになってますね。普通にFateやっててビックリですわ。
これからものろのろ更新すると思うので、お付き合いしていただけたら幸いです。