ELDEN RING 〜Ruin World〜 作:豚足と豚骨の化身
僕は日記を拾った。どちらかと言えば、奪ったという方が正しいのかもしれない。なにせ他人の地下室に無理やり押し入ったわけだから。ただし、その地下室の所有者は発狂しながら人を襲うような精神状態だったし、ここに入ったのもどちらかと言うと叫び声を聞いて心配になったから入ったわけだし……一概に僕が悪いという訳では無いだろう。
若干現実逃避じみた思考と共に、僕は床にひれ伏した真っ二つの男の死体へと目を向けた。彼こそがここの所有者。殺したのは僕。なにせ彼は相当狂乱状態にあったようで、僕を見るなり殺しにかかってきた。殺さなければ殺されていたのだ。
僕は死体の横に腰掛けて、日記をパラパラと開いてみる。物語のような面白みは無かったが、この地に流れ着いて数日過ごした程度の僕にとっては中々興味深い内容だった。
どうやら、先程斬り伏せたこの男は狂い火という名の病にかかっていたらしい。この病は罹患者の狂気を呼び起こし発狂させると共に、その者の眼球を破裂させるものだそうだ。僕は、このなかなかにグロテスクな日記式カルテに身体を震わせながらも、静かにそれを読み進めて行く。
やがて、僕の手はこの手記の最後のページにまで伸びていた。ゆっくりと、終わりの一枚をめくって見せる。すると、そこには今までの自分語り的な日記の内容とは打って変わって、誰かに向けて書かれたメッセージが記されてあった。
「エルデンリングを求めよ」そんな文言と共に、長々と書かれたメーセージは、文の流れを見るに恐らく褪せ人に向けたものであろうことが伺える。
褪せ人。それは王を目指す放浪人を表した名前である。僕もその中の1人、つまり褪せ人である訳で、要するにこの日記に記されている文言は僕に送られたものであるとも言える。
「少女の頼みを聞いてやってくれ……ねぇ。」
このメッセージの最後に付け加えられる形で書き記されたその願いに、僕は目を向けた。いずれにせよ、僕は王になるという使命以外に知識というものがひとつも無い。どうすれば王になれるのかとか、何で僕が王にならないといけないのかとか……そういうのが分からない。
「……ひとまず見てみるかな。」
そうして僕はこの地下室をあとにする。直ぐに件の小屋には着くことができた。地下室に入る時にも見ていたので、場所自体は分かっていた。問題はその小屋唯一の入口である扉が施錠されていたこと。戸を叩いても引いてもそれが開かれる気配は無かった。
少女を助けてやれとは言われたが、その肝心の本人が居ないのなら話にならない。さてどうしたものかと、僕が顎に手を当て考えていたところで異変がおこる。殺気。背後から突き刺すような気配を感じた。
僕は咄嗟に腰にかかった刀に手をかけ抜刀と共に流れるように後ろへ振り切る。すると、僕の目の前にまで迫っていた青く光を放つ礫が両断され、先程まで僕の行く手を塞いでいた扉を粉砕した。
この殺意のこもった攻撃が飛んできた方向を見る。そこにいたのは、黒いローブを身にまとった謎の女。色の抜けた真っ白い髪の毛が、足下にまで伸びている。髪に隠れて顔は見えなかった。その長髪の女は、自身の右手に持った杖を振るい、それを中心にして周りにまた青光の塊が形跡される。
「そんな殺気を向けられる言われは無いはずだけど?」
僕は彼女に向けて刀を向けた。目の高さに水平に刀を真っ直ぐ構え、右足を左足の後ろに持ってくる。
「侵入者への妥当な対応でしょう?」
女はそう言って、ゆらりと杖の先端を空中で回してみけた。それを合図に、周りに展開していた光がこちら目掛けて飛んでくる。
前方5つ、後方3つ。1番前線にあったものを突きでかき消し、その隙を狩ろうとした4つの光の礫を流れるように切り伏せる。
続けて後方3つの攻撃。それらはまるで生き物のように不規則な動きで確実に僕を殺しに来る。3方向からの同時攻撃だった。僕はそれに対処するため、足を地面から放す。空中で的確に目の前のひとつを斬って、残り2つは回避した。空中にて一回転した後、僕は足から静かに着地する。
「隙だらけ……ですね。」
女の声がした直後、目の前が青い光に照らされる。今さっき撃墜した攻撃とは比べ物にならない程のサイズの光の塊が、僕の頭を消し飛ばそうと近づいてきていた。右手に持った刀を、勢い良くその光の塊へ振るが、両者がぶつかると共に刀を介してもの凄い力が僕へと伝わる。
「重ッ…………!」
拮抗する光と刃は、互いをギリギリと削ってゆく。とにかく重い。気を抜けば一瞬で刀が弾かれそうな程だ。僕は自分の持つ精一杯の力を持って、その光の塊に対抗した。数秒間の鍔迫り合い。その末に勝ったのは僕だった。刀を振り切ると同時に、目の前にあったエネルギーの塊が霧散する。
僕は瞬間的にローブの女を視界に捉える。彼女は次の攻撃を展開しようと杖を振るっていた。明らかな隙。地面を蹴り上げ一気に肉薄する。彼女もそれに気が付いたようで、腕で自分を守ろうとした。しかし遅い。女の首筋へと刀は向かってゆく。そして刀が彼女の首を落とす寸前で、少女はゆっくりと両手を上げた。
「降参します。」
その言葉を聞いて僕は刀を静止させる。その切先は、彼女の首元薄皮1枚のところで止まった。
「どういうつもり?」
僕が聞くと、彼女は自身の羽織ったローブをはらりと脱いだ。人間とは思えない程真っ白な肌と、整った顔。そうして自身の姿を現した神秘的な少女は、こう言うのである。
「褪せ人様……私に協力してください。」