魔導戦記 作:数の子三等陸士
「ハラオウン提督殿、少しよろしいでしょうか?」
闇の書事件を終え管理局本局に帰還したリンディ・ハラオウンはとある一人の青年に声をかけられていた。その者はリンディとは違い茶色い制服を着込んでいた。
「始めてみる顔だけど…陸の人かしら?」
茶色い制服は地上部隊の所属の証であった。それを聞いた青年は肯定する。
「はい。申し遅れました。実験魔導兵器運用部隊隊長・大崎和人一等陸佐です」
それを聞いたリンディは眉を潜めた。実験魔導兵器運用部隊など聞いたことがなかったからである。
「ごめんなさい。貴方の部隊については知らないのだけれどどういう部隊なのかしら?」
「失礼いたしました。軽く説明します」
リンディの戸惑いの声に青年、和人は説明をする。
「我が部隊は地上本部レジアス少将の提案によって作られた部隊です。まだ発足から日が経っておりませんので知る人の方が少ないと思います内容までは機密なので例えハラオウン提督殿であってもお答えできません」
「そう…。ありがとう。ところで用事って…」
リンディは素直にお礼を言うと当初の目的を忘れていたため伺おうとする。それを聞いた和人は姿勢をただすと答えた。
「闇の書の主と守護騎士プログラムを捕らえることに成功したとお聞きしました」
「…随分と耳がいいのね」
和人の言葉を聞いてリンディは直ぐに真剣になる。彼女が闇の書の主、八神はやてとその守護騎士達を保護してからまだ一週間も経っておらず本局にも詳しくは知らせてはいなかった。それなのに本局に勤務しているわけではない和人が知っていることに警戒したのである。
「新鮮な情報はSランク魔導師にも匹敵すると思っています。そして一つお願いしたいことがあります。闇の書の主を此方で預からせて頂きたい」
和人が話した内容にリンディは目を細める。
「…一応、理由をお聞きしても?」
「地上部隊の者で今回及び十一年前の事件で被害を受けたものがおります。彼等の分の裁判を我等で行うことにしたのです」
「…申し訳ないけどお断りさせてもらうわ」
リンディは即答した。彼女は八神はやて等を助けるために根回しを始めたばかりであり彼女が所属する海ならともかく陸で裁判が行われれば極刑は免れないことが分かるからだ。
「…そうですか。分かりました。此方も無理を言っている自覚はありますのでこの件については介入するのを止めましょう。お忙しい中引き留めてしまい申し訳ありません」
和人はリンディの拒否の言葉を受けても特に表情には出さなかった。それどころかリンディが不気味に思うほどにあっさりと引き下がりこの事件への不介入まで言ったのである。
「い、いいえ。今のところ特に用事もなかったから」
「それでは、私はこれで失礼します。…っと、最後にいい忘れておりました」
和人は最後にこう言った。
「あまり犯罪者に手を貸さない方が身のためですよ?」
その言葉にリンディは恐怖を感じて大きく後ろに下がる。回りの人は何だとばかりに二人を見るがリンディはそれどころではなく和人の目には回りの人は映っていなかった。
両者の長い沈黙の後、先に動いたのは和人であった。
「私はこれで失礼します」
そう言って和人はリンディに敬礼すると返礼を待たずに後ろを振り向きそのまま歩いていく。その後姿にリンディは言い知れぬ悪い予感を感じつつも自らが保護した八神はやての処遇に関しての処理を行わなければならない為、その予感を振り払い和人とは別の方向に歩き出したのだった。
第一管理世界ミッドチルダ首都クラナガンに存在する地上本部のとある一室に和人は向かっていた。そこに到着すると扉を四回ノックする。すると直ぐに「入れ」と男性の声がしたため和人は「失礼します」と言い部屋に入る。部屋はそれほど広くはなく扉の反対側は外の景色が一望できる全面ガラス張りで残りの2方面の壁は本がぎっしりと詰まった棚で埋め尽くされていた。
しかし、和人は幾度となく入ったこの部屋に特に興味を示すことはなく、部屋の中間まで来ると目の前で椅子に座り書類整理をする男性に敬礼する。
「実験魔導兵器運用部隊隊長大崎和人ただいま本局から帰還しました」
「…ご苦労。そのまま少し待て」
男性は和人の言葉にそれだけ伝えると男性はそのまま書類の整理を行っていく。和人は特に反応することなく男性が書類整理を終えるまで待つ。
やがて書類の整理が一段落したようで始めて男性が和人の方を見た。
「さて、前置きは結構。報告を聞こう」
男性、地上本部のナンバー2のレジアス少将はそう言って和人を見る。和人は緊張することなく淡々と答える。
「リンディ・ハラオウンに接触しましたが引き渡しについては拒否されました」
「ふむ、やはり失敗か」
レジアスは和人にこの任務を託したときから失敗するのは分かっていたため特にリアクションもなく呟くのみであった。
むしろ素直に引き渡しを受諾された方が今後一体どんな要求をされるの分からない為、失敗してくれた方が都合がよかった。レジアスとしては海を批判する材料の確保が出来ればそれでよかったのだ。そして、それをよく理解している和人も失敗に関して何かを悔やむことはなかった。
「まあいい。ハラオウンは闇の書の主と守護騎士をどうするつもりかは掴めたか?」
「はい。同じ提督のグレアムと連携して保護観察処分にさせるつもりのようです」
「何だと!?」
レジアスはその内容に驚き思わず大声で叫び立ち上がってしまう。しかし、和人は淡々と報告を続ける。
「半年前にも同じ方法で犯罪者を保護観察処分にしております。恐らくですが自らの手足となる駒を欲していると思われます」
「ふん!海の考えそうなことだ!」
レジアスは顔を真っ赤にさせつつそう吐き捨てるように答える。規律を重んじる地上本部と違い、海と呼ばれる本局では人員不足のせいで犯罪者でも優秀ならば罪を軽くすることで囲い込む事が何度も起きていた。そのせいで被害者の中には管理局に恨みを持つ者も多く存在しており、それが最終的に犯罪行為に走るなど負のループを生み出す結果となっていた。
それを改善したいと考えているレジアスはこれまで幾度となく行動を起こしてきたがその全てを突っぱねられ、逆にレジアスを悪く言う者が出てくる始末だった。
「同感です。我らから摂取するだけではあきたらず犯罪者まで囲い混もうとするとは…。レジアス少将、やはりあの計画を実行するべきです」
レジアスの海嫌いは誰もが周知の事実であったが和人はレジアスを越える海嫌いである計画をレジアスに進言していた。聞かされた当初はあまりの内容に拒否を示したが今のレジアスは揺れていた。成功すれば得るものが大きいが失敗したときはレジアスや和人だけではなく下手したら管理局そのものを滅ぼしてしまう危険性があった。
「少将。これは準備に時間がかかります。準備が完了してから決断しても遅くはありません。ですが、少しでも承認する意思があるのであれば、今回の件、私にお任せください。地上本部のナンバー2である貴方の右腕として、確固たる戦果をお持ちする事を誓いましょう」
「……」
和人が今回の一件、闇の書の後処理に関して重要視するのは彼の計画を補助する事が可能だからであり、たとえ計画を抜きにしても海を叩く材料としてこれほどのネタを素ておくのは惜しかった。そして、和人ならこのネタを十分に扱う事が可能ともレジアスは理解していた。僅か20代でレジアスの側近を務めるだけの事はあるのだ。
そして、熟考の末にレジアスは決断した。
「……いいだろう。大崎一佐に今回の件を一任する。そして、例の件は今回の戦果を基に決定しよう」
「っ! ありがとうございます! 必ずや満足いただける戦果を持ち帰ってきます!」
レジアスの言葉に和人は闘志を高ぶらせながら敬礼するのだった。