魔導戦記   作:数の子三等陸士

10 / 14
第九話・入院Ⅱ

 それからというもの、和人は高町なのはとよく交流するようになった。なのはのリハビリ開始はまだ先のようでそれまでは暇を持て余しており、やる事がなかったのだ。既にワーカーホリックになりかけていたなのはにとって同じように暇を持て余す和人との交流は有意義な物であった。

 

「ふむ、ではこの場合だったらなのはどう動く?」

「えっと、味方の回収を優先しつつ相手にバレないようにサーチャーで追跡できるようにします」

 

 そして、交流する内容のほとんどが戦闘関連のものばかりだった。和人も10代前半で管理局に入ったために勉学を教える事は難しく、それ以外で共通する出来事はなかったために自然とこのような流れになっていた。

 

「過去の戦闘データを見させてもらったが魔力に物を言わせる事が多いな。コントロールが疎かになっている場面が散見される」

「うっ!」

「特にこの場面。相手が格下だったから問題ないが同等以上の相手なら確実に返り討ちに遭っていたはずだ」

「それはクロノ君……、次元航行部隊の人にも言われたの……」

 

 過去の戦闘データを見た講評ではなのはにダメ出しをしまくり、なのはを落ち込ませることもあったがそうやって交流するうちになのはも自然な態度で接するようになり、和人の階級を言っていない事も合わさって穏やかな交流が出来るようになっていた。

 

「えっと、紹介します。友達のフェイトちゃんとはやてちゃんです」

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

「八神はやてと言います」

「大崎和人だ。地上本部勤務だから会うのは初めてになるか」

 

 その過程で彼女の親友たちも交流を持つようになった。とはいえそのうちの一人は闇の書事件の被疑者とも言える人物であり、和人は眉を顰める事となったが流石にそれ以上の事を態度で示すことはなかった。

 

「最近は大崎さんのおかげでなのはの表情も明るくなってきました」

「なのはちゃんに代わってお礼を言わせてください」

「構わないさ。俺としても有意義な暇つぶしになっている」

 

 犯罪者が……、という感情を押し殺し当たり障りのない返答をする和人。はやてが幼い少女でなければ、事情を事細かに知らなければ怒鳴り散らして追い返していたかもしれなかった。

 

「なのはちゃんには無理はせんといてと言っていたんですが全然聞いてくれへんくて……」

「昔からなのはは一度決めたら最後まで突っ走るからね」

「今まではそれが強みであったが今回はそれが仇となったわけか」

 

 なのはがいない間に二人と話をしていた和人は事故に至る背景も詳しく知ることとなった。周りが止められないのでは今回の事故は必然的に起こる出来事であったと和人には感じられた。

 

「ところで大崎さんってもしかして魔導兵器を扱う実験部隊の隊長さんだったりします?」

「ん? そうだがよく知っているな」

「うち、上を目指しているので色々と調べているんですよ」

 

 はやてはそう言って語りだす。次元航行部隊では魔導兵器の運用に反対する者が多くいるが彼女と懇意にしている執務官は「次元航行部隊では運用は難しいけど地上でなら最適の武器だ」と高評価である事。前々から気になって調べており、はやてとしても同じ思いを持っている事を話す。

 

「だからそんな武器を導入した人がどんな人なのか前々から気になっていて……」

「成程な。だが別に特別な事はしていない。俺は出来る事をしたまでだ」

 

 実際、和人は入局前から魔導兵器に対して導入すれば大きな戦力になると判断していた。そのための準備を続けてきており、それが実を結んだに過ぎないと考えていた。

 

「入局前は今は懇意にさせてもらっている工場に勤めていてな。そこで働きつつ武器の研究をしていた。俺はリンカーコアを持っていないからな。そんな俺でも魔導師のように戦える力を求めていたんだ」

「それは……。言い方は悪いですが危険ではないのですか?」

「まぁ、危険だな。俺も工場長には何度も止められた。魔導師の代わりになんてなれないってな」

 

 その時は拳による鉄拳制裁も受けていた為、和人の表情は歪むがそれでも当時の和人は諦めなかった。

 

「だが俺は諦めずに研究を続け、完成させた。そして完成した試作品を以て当時地上部隊を率いていたレジアス中将に直談判したんだ。これさえあれば魔導師の代わりが誰でも務まるとな」

「それで管理局に?」

「10数年前の話だ。あの時の研究が今に繋がっている。地上の治安も改善傾向にある。あと少しで俺の夢に近づく」

 

 はやてとしては魔導師の代わりを求める事に対して完全には理解しきれなかった。所詮、最初から圧倒的な才能を持っていた彼女に持たざる者の気持ちを真に理解する事は難しかったのだ。だが、それでも和人の努力とそれによる成果は本物であるとだけは理解できた。そしてそれは今のはやてには十分すぎるものだった。

 

「……今日は話が聞けて良かったです。貴方の話は、とても参考になりました」

「俺もだ。君の活躍を、期待しているよ」

 

 彼女が地上にさえ来なければ何処で何をしようと構わない。和人はそう考えていた。次元航行部隊で活躍するならそれも良し。犯罪者になるのならば犯罪者として葬るだけだと彼は冷酷に考えていたから。

 

「はやてちゃん? どうしたの?」

「何でもないで」

 

 遠くでフェイトと話をしていたなのはに笑顔でそう答えたはやては和人のそばを離れる。それはまさに自分が目指す理想とは違う未来を持つ彼との決定的な溝を示すかのようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 情報は何かわかりましたか?」

「残念ですがさっぱりですね」

 

 実験部隊の宿舎の近く、廃ビルの地下に広がる地下水路。その一角を利用して設けられた秘密のラボにギーゼラ副官の姿はあった。彼女がいる狭い一室には他にも白衣を着た研究者らしき男がおり、その二人が挟むように銀髪の少女、と思わしき女性が寝台の上に寝かされていた。

 しかし、少女と言える女性は悲惨としか言いようがない姿になっていた。全身が真っ赤な血で染まり、四肢は根元から切断されたように無く、頭部にはヘルメットの如き機械的な装置が取り付けられていた。腹部は開かれ、彼女がただの人間ではないと示す無数の機械が露出し、何かの装置に続く管が複数取り付けられている。

 死んでいる、もしくは機能停止していると言われてもおかしくはない状況だが彼女のバイタルを示すモニターは安定しており、死んではいない事を示していたがその分彼女は生きたままこの状況になっているという事であり、それもまた悲惨としか言いようがなかった。

 

「頭部をスキャンしましたが自壊装置はない代わりに持っている情報も大したものはありませんでした。ここに運び込まれた時点で必要最低限の情報、自分の名前やスカリエッティとの関係、後は戦闘データぐらいしかありませんでしたし」

「所詮はスカリエッティの玩具、使い捨ての道具に過ぎないというわけですか」

 

 ギーゼラ副官はまさに使えないごみを見るかの如き冷たい目で少女、チンクを見下ろした。つい先ほどまで絶叫とも言える悲鳴を上げていた彼女は痛みに耐えきれなくなり気絶していた。だが、覚醒すれば再び麻酔を使われていない状態の自分の肉体に悲鳴を上げる事になるだろう。

 

「ならば情報を集める事は断念します」

「了解でさぁ。んで? これは今後どうするんですか?」

「レジアス中将は慈悲を与える事を望んではおりません。本来は廃棄でしょう」

 

 そもそも、チンクを機械と断定して徹底した調査と拷問を命令した張本人なのだ。それが終わった今生かしておく理由はないとギーゼラ副官は考えていたしそのように命令を受けていた。

 

「ですが隊長は違います。これほど高性能な機械生命体は管理局でも作る事は不可能です。貴重な情報源、そして研究材料として最後まで使い倒します」

「了解です。……こいつには同情してしまいますね。調べたところ稼働し始めてまだそれほど時間は経っていないのにそれを優に超えるだろう時を痛みと苦しみで過ごす事になるなんて」

「あら?」

 

 研究員の飄々とした態度の中に見える同情する感情にギーゼラ副官は淡々と、冷酷とも取れる程平坦に答えた。

 

「犯罪者の作り上げた道具には相応しい末路でしょう? 恨むなら作り出した犯罪者を恨むべきですわ」

「はは……。そうですか」

 

 本気でそう言っている事に気づいた研究員は顔を引きつらせながら返事をするのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。