魔導戦記 作:数の子三等陸士
魔導兵器部隊が設立され早6年の時が経過していた。魔導兵器部隊は陸の主力部隊として拡大を続けており、2年前には”地上本部防衛軍”という時空管理局にとって初めての軍事組織へと変貌を遂げていた。
このことは陸と海の対立を決定的なものにすると同時に修復しようがないものとなってしまっていた。それでも、両勢力が未だ同じ組織の元で存続できている理由は大頭し始めたエース・オブ・エースこと高町なのはやフェイト・テスタロッサと言った若手の仲裁があってこそだった。でなければ今頃地上本部は独立を果たしてしまっているだろう。
「本日からお世話になります、八神はやてと申します」
「第101地上魔導師大隊指揮官のゲンヤ・ナカジマだ。今後はよろしく頼むぞ」
「はい!」
そんな中で、八神はやては陸の魔導師部隊で指揮官研修の為に派遣されていた。和人との会話以降彼女は積極的にリーダーとして必要な勉学に励み、今では一等陸尉にまで昇進していた。この研修次第では佐官に上りつめる事も可能だろう。
「ま、気軽にやってくれ。正直なところ教える事つっても後は現場での実戦を慣れるしかないとしか言いようがないからな」
「あ、アハハ。それはすいません?」
「謝る必要は無いさ。その若さでここまでできるやつは和人以来だからな。誇っていい事だぞ」
ゲンヤは事前に渡されていたデータを見て今更学ぶことなどないと判断を下し、積極的に現場に出す事にしていた。はやての努力は実戦経験以外の全てを高水準で満たす領域に達していたのだ。ゲンヤは今では地上本部のナンバー2にまで出世した和人を思い出して懐かしんでいた。
ゲンヤと和人に積極的な交流はない。しかし、ゲンヤは和人を自分と同じ魔導師ではないのに実力でのし上がったエースと捉えており、和人もゲンヤを実戦経験が豊富なたたき上げの指揮官として高評価を下していた。でなければ地上本部の陸戦魔導師の事実上のトップの地位にゲンヤを就任させることはなかっただろう。
「既に知っていると思うが改めて説明するぞ。
今の地上本部は陸戦魔導師と空戦魔導師の二つの魔導師に分類して纏めている。まぁ、この辺は海でも一緒かもしれないが基本的に魔導師部隊はここぞという場合の切り札的運用がされる。つまり、余程の事がない限りは宿舎で待機だ。当直でなければ何処にいてもいいが基本的にはミッドチルダにいる事が多いな。旅行でもない限りはミッドチルダで完結できるように整備されているからな。
んで、うちは基本的に陸戦魔導師だけを指揮する事になる。空戦魔導師は別の奴が、というかゼストの奴が就任している」
「知っています。地上本部のエース・オブ・エースですよね?」
「本人はそう呼ばれる事を嫌がっているがな。ま、ここ数年で更に実力をつけているからそう呼ばれてもおかしくはない実力を持っている。確かお前んとこの騎士もそっちで研修しているだろう?」
「はい。シグナムは前線指揮官の研修ですけど」
なんだかんだ言って陸はたたき上げの実力者が多い。更に市街地戦に慣れている為にそういった事にはなれていない海の連中が研修としてやってくる事が多かった。無論、陸を嫌っていたり、スパイと思われるような人物は予め排除されている為に研修自体は基本的にスムーズに進むことが出来ている。
弾かれないという事は陸に対して偏見を持っていないという事であり、研修に来た海の者達は本人にとっても満足のいく結果で戻って言っており、そういった彼らが陸との関係改善を求めるようになっていっていた。
「陸戦魔導師もそうではあるのだが空戦魔導師は輪に駆けて少ないからな。結局ゼスト隊を解体して一本化を図った方が良いという判断になっちまったしな」
和人が主体となって行った部隊の大規模編成により魔導師部隊は二つの大隊にまとめられた。魔導兵器部隊が治安維持を行う事になり人手不足がある程度緩和された結果であり、今の運用方法に落ち着く事となった。
「ま、平時は気楽なもんだ。だけど覚悟しておけよ? 俺たちに出動要請が入るという事はそれはつまり軍の奴らが手に負えないと判断した場合が基本だ。そういったやつらは凄腕の魔導師が大半だからな。常に激戦は避けられないからな」
「はいっ! 了解しました!」
はやては勢いよく返事をする。しかし、彼女は知らなかった。ゲンヤの覚悟しておけという言葉がどれほど危険なものであったかを。自分の認識の甘さを。
そのツケは数日後に発生した魔導師事件で身を以て体験することとなり、その日のはやては激務から直帰して気絶するように眠ってしまう事になるのだった。
「地上本部、いえ”ミッドチルダ軍”は総数25万5000を越えました。魔導師部隊も順調に拡大しており、空戦魔導師部隊は約1000人、陸戦魔導師部隊は5000人を超えています。未だ聖王教会や一部の自治領等が我らの介入に批判している為にミッドチルダの統一は達成できていませんがそれも時間の問題と思われます」
「……漸く、ここまでこれたな」
首都クラナガンにある時空管理局地上本部施設の一室、そこでは和人がギーゼラから報告を受けていた。この数年で和人は陸軍少将となり、ミッドチルダ防衛軍の総司令官に就任していた。ギーゼラもその副指令として和人を支えていた。
「ですが海側の戦力は魔導師だけでも20万は超える予想です。無論、それらすべてが戦闘が出来るとは思いませんが最低でも半数は確かな戦力と言えるでしょう」
「20万……。それだけの数を保有しておきながら未だ足りないと抜かすわけか……」
そもそも、時空管理局は複数の世界を管理する組織である以上膨大な人員がいるのは予想していたが改めて聞かされると和人は苛立ちを抑えきれなくなった。
「レジアス”大将”のおかげで陸の者達が引き抜かれる事は無くなった。だが、誘いがないわけではない。ゲンヤからは一部の者達が厚遇を条件に引き抜きの誘いを受けて困っていると報告を受けている。ま、応じた者はいないがな」
「軍の運用を開始してから魔導師の出動は減りましたからね。彼らは激務から解放されているうえに待遇も改善されていますからね」
地上本部では魔導師だけを戦力と見なしているわけではない。魔導兵器という確かな武器を運用する以上リンカーコアを持たない者でも戦力となる事が出来るので魔導師の激務は改善されているのだ。無論、その分だけ魔導師が出動するような場合は死をも覚悟しないといけないような事がほとんどであるがそれでも海に比べれば安全と言えるのだ。そこへきて給金等の待遇も良くなれば海に引き抜かれる者はほぼいなくなっていたのだ。
「研修生の何人かはそのまま陸で働きたいと考える者もいるようです。海はそういったもの達を引き留めていますが一度退職してから地上本部に入る者もいるくらいですからね。数年前と立場は逆転しています」
「慌てる海の阿呆共の様子が目に浮かぶな。……まぁいい。海は戦力の格差さえどうにかなればいい。問題はそのトップだ。”奴等”の居場所は判明したか?」
「残念ながら影すら分かりませんでした。どうやら海側もトップシークレットどころか存在自体知らない者が大半のようで調査は難航しています」
和人は時空管理局を蝕む膿とも言えるある者達の報告を求めたが残念な事に臨んだ結果は出ていなかった。和人でさえ最近知った管理局の真のトップ。彼らを何とかしない限り地上本部が真の平和を取り戻すことは出来ないと考えるようになっていた。
「なんとしてでも彼らを排除する。でなければ例の計画を実行することは出来ないからな」
「分かっております。人員を増強して調査を更に進めさせます」
「頼んだぞ。最高評議会、なんとしてもつぶさないと