魔導戦記 作:数の子三等陸士
レジアス少将の部屋を出た和人はその足でとある場所に向かった。向かう先は地上本部から少し離れた場所にある大きな工場である。彼は徒歩でその場所に辿り着くと躊躇なく工場の裏にある扉を開けて中に入っていった。
「工場長はいるか?」
中に入ると近くで休憩をしていた一人の男性に声をかける。男性は一瞬ビックリしたが和人の姿を見ると直ぐに冷静になり奥にいると伝える。頻繁とまではいかないが和人がたまにここを訪れる事を工場で働くものたちは知っているため特に驚いたりはしなかった。
和人は軽く礼を言うと奥の扉を開けて入っていく。中は作業区画となっていて何かの部品を従業員が作っていた。和人はそれらに目を向けることなく一つのエレベーターのところに向かう。エレベーターに入ると階数が記されたボタンの下、隠されているボタンを押す。するとエレベーターは下へと進んでいく。
数分が経過したとき遂に目的地にたどり着きエレベーターを降りる。すると目の前には机に座りパソコンに向かい合う一人の男性の姿があった。和人は男性の近くにいくと声をかける。
「順調か?工場長」
和人に声をかけられた男性、この工場の工場長は慌てて立ち上がり和人の方を向く。
「こ、これは大崎一等陸佐。お出迎えもせずに失礼しました」
「かまわない。今回はいきなり来た俺が悪い。それで現状はどうなっている」
「順調そのものですよ」
和人の言葉に工場長は作業していた画面を閉じて新たに画面を見せる。そこには和人が進めている計画の進捗状況が事細かに記されており、それは和人が満足できるだけの数値をたたき出していた。
「魔力を用いた兵器群の作成。それ自体は昔からある技術ですからね。一佐が求められるだけのスペックを量産する事は難しいですが一度出来てしまえばこの通りです」
「素晴らしい。後は少将が認可していただければ計画は完遂される。そのためにも今後も作成を頼むぞ」
「勿論です」
和人の計画。それは魔導兵器と呼ばれる武装を地上本部の部隊に配備する事である。それにより地上本部の状況を改善する事が目的であるが最終的には更なる目標があったがそれは今は知る必要のない情報だろう。
兎に角、和人の依頼でこの工場を始めとする地上本部周辺の向上では軍需工場と呼べるほどに武器の作成が始まっている。とはいえこれはレジアス少将が認可したことであるため違法ではなく、ただ世間に公表していないだけの事だった。
「先ほどレジアス少将より計画を認める報告を受けた」
「っ! 本当ですか!?」
「ああ。だがそのためには管理局に認めさせる必要がある。あそこは純粋な魔法至上主義だからな」
「あー、成程。それは難しそうですね」
管理局はその設立の経緯から質量兵器、火薬などを用いた兵器に対して厳しい目を向けていた。今もなお増え続ける管理世界には質量兵器の完全放棄が条件となっており、それを呑めない場所には場合によっては武力行使を用いる事もあるほどだった。
だが、現在作られているのは質量兵器ではなく、魔導兵器のため問題はないと言えるのだが海側は個人個人の資質を大切にする傾向があり、デバイスや次元航行艦を除けば魔導兵器の配備・運用は嫌っていた。それをあろうことか地上本部が運用する。ちょっとやそっとの事では首を縦に振るはずがない上に最悪の場合犯罪者のように扱われる可能性すらあった。
「問題ない。既に解決の糸口は掴んである」
和人はニヤリと笑みを浮かべる。工場長は長い付き合いの彼のこの表情を見てうまくいくのだと確信した。そして同時に魔導兵器を認めさせるだけのネタを一体どうあって手に入れたというのか、それが気になったものの、それを口に出すことはなかったのだった。
高町なのはという少女にとってここ1年の出来事は人生の中でも最も濃厚な年となった。魔法の存在、ユーノとの出会い、フェイト・テスタロッサという親友、時空管理局。闇の書、守護騎士たち。まさに高町なのはの人生は一変したと言ってもいいだろう。
それ故に、彼女は最近の管理局の様子に首をかしげることしかできなかった。なのはがとある理由からフェイトと対立していた際に乱入したクロノ・ハラオウンを始めとする時空管理局の面々。その名の通り様々な世界を管理する彼らは地球に散らばったロストロギアと呼ばれる物の回収に来ていた。そして、それが回収し終わった後も闇の書と呼ばれる幾多の世界を滅ぼしてきたロストロギアの破壊に協力する事となり、なのはは管理局の嘱託魔導師となった。故に、彼女は管理局の内情を知らなかったのだ。
「ねぇねぇ、クロノ君。最近どうしたの?」
そして、高町なのはは管理局の中では年が近く、内情も知っているクロノ・ハラオウンに事情を尋ねたのだ。最近の彼は闇の書の後処理だけでは説明できない程疲れ切っており、今もなのはが食事に誘わなければ執務室から出る事もなく一日を終えそうな勢いだった。
「ああ、実ははやての罪を軽くする時にいろいろあってね」
「もしかして、駄目だった?」
クロノの言葉に同じように心配していたユーノ・スクライアが訪ねる。あまり仲がいいとは言えない彼らだが流石にクロノが疲れ切っている時に何かを言う事はなかった。
ユーノの問いにクロノは首を振った。
「いや、はやての罪状自体は既に決定している。保護観察処分になるが生活に不自由はないよ」
「じゃぁ、一体何があったの?」
「実は、地上本部の者達から批判を受けてね。その対応に追われているんだ」
「地上本部?」
「……ああ、そういえばなのはには言っていなかったな」
クロノはそこで地上本部の事を説明していなかったことを思い出し、軽く説明する。
「地上本部とはその名の通り管理世界の治安を守る部隊の事さ。僕たち次元航行部隊は未知の世界や管理外世界を中心に調査・監視するのに対して地上本部は管理世界の治安維持が主な任務になっているんだ」
「なのはの世界で言えば、警察? が地上本部って感じかな」
「へー、そうなんだ」
管理局も想像以上に規模が大きいと感じつつなのはは話の続きを聞く。
「次元航行部隊は海、地上本部は陸とも言われるけど両者の仲はあまりよくなくてね」
「そうなの? 同じ管理局なのに?」
「むしろ同じ管理局だからこそ仲が悪いとも言えるな。地上本部は優秀な人材が少なくてその職務を全うできていないんだ。まぁ、その原因は僕たちにあるんだけど」
「どういう事?」
なのはの純粋な問いにクロノは言葉を選びながら説明しづらそうに言った。
「地上本部より次元航行部隊の方が待遇が良いから、本部に所属する魔導師は皆スカウトという形で引き抜きされるんだ。本人にとっては栄転だけど地上本部からすれば戦力を奪われる事になる。そうした結果地上本部は治安を維持できる戦力を失い、事件が増える。そして地上本部は悪く言われて次元航行部隊に転属を願う者達が増えてそういった者達が更に引き抜かれる。地上本部は負のループに陥っているんだ」
そういった事で次元航行部隊の人員不足は少しは改善されているがそれは地上本部の犠牲あってのもの。それを理解できてしまっているクロノは現状に対して苦い思いを抱いていた。しかし、たかが執務官に出来る事など無いに等しく歯がゆさを感じる事しかできていなかった。
「だからなのはももし、地上本部の人間とあった際に嫌な顔をされるかもしれないから気を付けて欲しい」
「……わかった」
なのはとしてもこの確執をどうにか出来るわけではない。ただそういう事があると心の中に仕舞いこむがクロノの説明はまだ終わっていなかった。
「そんな地上本部が今回の闇の書の事件の対応を批判してきたんだ。八神はやてとは直接は関りはないが11年前の闇の書事件では地上本部があるクラナガンでも大量の犠牲者を出している。その者達のためにも厳重な処罰を望んでいたんだ」
「そんな!? それじゃヴィータちゃんたちは……!」
「僕としても彼女たちには情状酌量の余地があると思っている。だからそれを踏まえて対応したんだけど地上本部は納得する代わりにこちらに譲歩を望んだんだ」
「譲歩?」
「ああ。簡単に言ってしまえばいくつかの事件の再捜査ときちんとした結果の公表だ。全て地上本部が悪いことになって捜査が打ち切られているものでこれが全て公表された場合地上本部の印象は少しは良くなるかもしれないが……」
その結果としてクロノ達はデスマーチを強いられていた。しかし、クロノには知らされていない事だがそれ以外にもいくつかの実験部隊の運用許可やそれに対する批判をしない等かなりの裏取引が存在していた。
だが、それを知る者は管理局でも僅かな者しか知らず、その結果として今後の地上本部の行動を止める事が出来なくなり、最悪の事件へと発展していくことになるのだった。