魔導戦記 作:数の子三等陸士
地上本部は優秀な魔導師がいないのか? と問われれば否と明確に答える事が出来る。確かに優秀な人材は次元航行部隊にとられる傾向にあるがそれでも地上本部の状況を憂いたり、次元航行部隊と肌が合わないと言った理由で陸に留まる者も多く存在した。
そんな者達が数多く所属するのがゼスト隊と呼ばれるエリート部隊である。リーダーのゼスト・グランガイツはS+、副リーダーを務める二人の女性、クイント・ナカジマとメガーヌ・アルピーノはともにAAを誇っていた。そんな彼らは次元航行部隊に属する気のない者達の憧れの的であり、地上部隊最後の防波堤とも言える存在だった。
「本日はよろしくお願いします。グランガイツ一佐」
「相変わらずまじめだな。大崎一佐」
部隊運用より1年。ディーダ・ランスターという掘り出し物を迎え入れて半年が経過した。この日、和人率いる実験部隊は魔導師との連携を高める為にゼスト隊との合同訓練の為に地上本部に訪れていた。
「俺たちは階級は一緒なんだ。気軽に話してくれて構わない」
「……わかりました。ゼストさん。今日はよろしくお願いします」
相も変わらず硬い和人にゼストは苦笑しつつ部隊の隊長として和人と打ち合わせに入る。レジアス少将が中将となり、引退した地上本部のトップに代替わりしたことで魔導兵器は地上部隊全体に配備される準備が開始された。現状では生成が追い付かない為に治安が向上した実験部隊周辺に巨大な軍需工場の建設が行われる事となり、その調整が始まっている。何事もなければ今年中には建設が始まるだろう。しかし、それまでは地上本部周辺の向上に委託するしかない為に地上部隊に配備できるのはまだまだ時間がかかると予想されていた。
そして、和人の方も実験部隊の隊長を務めながらとある任務をレジアス中将より受けていた。それは魔導師との連携運用である。魔導兵器の最大の特徴はリンカーコアを持たない者でも扱う事が出来るという事であり、それは魔導師との連携を難しくさせていた。とはいえこの状況は前々から予想はされていたことであり、その対策は既に準備氏がしてあった。問題は実際にそれが出来るかという事であり、このままでは机上の空論に過ぎないために万が一の問題がないように練度の高いゼスト隊と合同訓練を行う事になったのである。
「そちらの活躍は聞いている。確かにあれが普通になれば地上本部の状況は目に見えて改善するだろう」
「最悪魔導師を引き抜かれても問題は無くなります。こちらの戦力は魔導兵器を用いた隊員です。魔導師の有無は問題ではなくなります」
「魔導師としては悲しい気持ちもあるがこれも地上本部の為、か。しかし、和人には例を言わねばならんな。お前のおかげでレジアスの表情は明るくなった」
レジアスの旧友である彼は地上本部の状況を何とかしたいと考えているレジアスを気にかけていた。上に行くことを決めたレジアスと違い、現場で戦う事を決めたゼストとはその後も仲の良い関係を続けていたがお互いに活躍する現場が違う為にゼストにはレジアスの相談に乗る事は出来ても解決策を思いつく事は出来なかった。もし、和人との出会いが1年でも遅ければ犯罪者とも手を組みそうな勢いであったとゼストは当時を思い返す。
だが、それは最早遠い過去の出来事だ。レジアスの右腕として活躍し、彼と同じ目線で物事を見る事が出来る和人の存在はレジアスをいい意味で変えた。というより焦りが消えて前までの彼に戻ったと言った方が正しかった。そのおかげかゼストとレジアスの仲は今でも良好であり、地上本部の為に二人は今日まで頑張ってこれたのだ。
「私は何かをしたわけではありません。ただ使える選択肢を用意し、その道を教えたにすぎません」
「それでもだ。それを成せる人材は地上本部にはいなかった。いや、今もそういった人材はいないのか……」
最近では時間を見つけては飲むたびにレジアスに散々愚痴を聞かされているゼストは苦笑するしかない。今も昔も人材が不足している事は変わりはないのだ。和人のように優秀な文官は現在までレジアスは見つける事が出来ていないのがその証拠だ。たとえ基本的に待遇が良い次元航行部隊の方に人材が流れているとしてもだ。
「とにかく、今は訓練の方に集中しましょう。訓練内容は、屋内での次元犯罪者との戦闘を想定とする施設制圧任務ですか……。具体的ですね」
「ああ。実はうちの副隊長のクイントが最近似た想定の操作を行っている。地上部隊と言えどこういった出来事に遭遇しないとも限らないからな」
「それもそうですね。こちらとしても必要な訓練ですね。ならば編成についてですが……」
二人は訓練に対するあらゆる状況を確認しあい、合同訓練を開始した。魔導師たちが少数に分かれて実験部隊に合流。サーチや防御を担当しつつ状況に応じて戦闘に参加する形で訓練を進めていった。途中、何度かいざこざがありつつも大きな問題は起こらずに3日間に及ぶ訓練は無事に終了した。そして、重要ではないが一応の目的である地上部隊のエリート部隊と将来を担う実験部隊の交流も成功に終わり、良好な仲を形成することに成功するのだった。
そして、これ以降実験部隊は他の部隊との合同訓練を重ねていき、魔導師との連携を可能として生き、地上部隊も魔導兵器の有能性を理解するとともにその立ち回りを学ぶことが出来ていくのだった。
ジェイル・スカリエッティという人物がいる。彼は次元犯罪者と呼ばれる様々な世界を股にかける犯罪者であり、長年に渡り兵器を開発し続けてきたマッドサイエンティストでもあった。そんな彼はとある筋から依頼を受けて行動しているが近年ではその動きが妨害されつつあった。
『スカリエッティ! どうなっている!? 何故研究が止まっているのだ!』
「それは前にも話した通りですよ」
そして、スカリエッティは依頼者との連絡が最近では嫌になってしょうがなかった。彼としては永遠に自分の研究を続けられていればそれでいいのだが依頼者はそれを邪魔し、無理難題を押し付けてくる。更に上記の通り妨害行為を受けて遅延に遅延を重ねていた。
「地上部隊。人材が不足していると聞く割にはそれなりの戦力を有しているようでしてね。既にいくつものラボをつぶされています。データは取られていないとはいえこれでは研究は遅々として進みませんよ」
『それについてはこちらでも対処している。レジアスめ、こちらの要求をのらりくらりとはぐらかしてくる。最早奴を取り込むことは出来ん』
地上本部の状況を改善したいと考えていたレジアスを取り込むべく依頼者はコンタクトを取ったのだがその時には和人と出会った後であったために依頼者の提案に乗る事はなく現在まで関係は希薄となっていた。そのため、依頼者側は彼の手足とも言うべき地上部隊を何とかしなければいけなかった。
『後日、ゼスト隊と呼ばれる地上部隊唯一のエリート部隊を罠にかける。不必要なラボを用意しておけ。一人残らず皆殺しにする』
「了解した。場所はここを使用してくれたまえ」
『いいだろう。くれぐれもしくじる事の無いように』
それを最後に依頼者との通信は切断されたがそれを確認後、スカリエッティは深くため息をついた。そんな彼に一人の女性が声をかけた。
「ドクター。お疲れ様です」
「ああ。ウーノか。全く、無能な依頼者にはほとほとあきれ果てるよ」
ウーノと呼ばれる女性の気づかいにスカリエッティは本当に疲れた様子でそう言葉を吐く。しかし、とある理由から彼は依頼者の頼みを無下にする事は出来なかった。それが苛ただしくもあり、この状況をどう利用してやろうかと考えていた。
「ウーノ。近日中にここに地上部隊の精鋭がやってくる。戦闘機人やゆりかごで見つけたおもちゃを使って歓迎の準備をしてくれ」
「かしこまりました」
「全滅を確認後、ラボを放棄し、別世界のラボに移動する。暫くはミッドチルダともおさらばだ」
そういってスカリエッティは嗤う。いずれ来るゼスト隊をせん滅せんが為に。