魔導戦記   作:数の子三等陸士

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第五話・突入作戦Ⅰ

「ゼスト。今回の調査は何処かおかしい」

 

 その日、レジアスは自らが最も信頼するゼスト・グランガイツのみを部屋に入れて話をしていた。内容は本局からもたらされた次元犯罪者が潜んでいると思われる場所の調査だ。元々、ゼストの副官であるクイント・ナカジマが独自に捜査をしていた案件と被っている事もあり、ゼストはこの調査に乗り気だったがレジアスが待ったをかけたのだ。

 

「確かに怪しいがそこまで厳重に考える事か?」

「ああ。今回の件は明らかに可笑しい所が散見されている」

 

 ゼストとしては本局からの命令であることに不服を持っているのかと考えていたが今のレジアスはそれだけではない真剣な表情をしており、決して海嫌いからの行動ではないと伺う事が出来た。

 

「まず、この命令に関してだが大半が機密扱いで詳細を確認する事が出来なかった」

「っ! 地上本部のトップであるお前が確認できない程の機密となると……」

「ああ、管理局でも限られた者しか考えられない。問題はそれだけのものをこうして命令してきたことにある。それもゼスト、お前の部隊直々にな」

「成程……」

 

 そこまで情報が揃っていればたとえ警戒心がない者でも警戒せざるを得ないだろう。まるで「怪しんでください」と言わんばかりであるがレジアスが直々に確認しなければゼストは何の疑問も持たずに調査に赴いていたはずだ。その先に何があるかもわからずに。

 

「だがこれは正式な命令だ。拒否するわけにはいかないぞ?」

「ああ。だからこそ大崎一佐の部隊を使う。あちらも精鋭と呼ぶに相応しい状態に仕上がりつつある。ゼスト、お前の部隊とも連携訓練は済んでいるだろう?」

「無論だ。彼の部隊なら不安はない。つまり、罠だというのならそれをねじ伏せる戦力を用意するわけだな?」

「その通りだ。奴の部隊は実験部隊故にそれなりの装備を有している。あまりよろしくはないが()()()()()()()()()()()()()()の持ち出しも許可し、万一に備えさせるつもりだ」

 

 レジアスとしてもゼストを含めたゼスト隊を失う事だけはしたくはなかった。和人の部隊も同様ではあるがあちらは魔導師ランクに拘らない為に言い方は悪いが替えが効く。だが、ゼスト隊はそうではない。隊長のゼストをはじめ彼らは次元航行部隊でも通用する猛者たちばかりである。一人失うだけでもかなりの痛手なのだ。

 

「最悪の場合、撤退も許可する。撤退したことで本局が何かを言ってこよう物ならこのおかしな命令書を見せて黙らせてやる」

「分かった。そこまで言うのなら警戒を厳にして挑むとしよう」

「頼むぞ。和人もそうだがお前も儂にとってはかけがえないのない存在なのだ。こんなところで無駄死にされてはかなわんぞ」

「分かっている。俺もここで死ぬつもりはない。改革が進み、より良き方向に向かっていく管理局を見届けるまではな」

 

 そう言ってゼストは笑った。本来であれば強硬捜査を敢行し、死ぬはずだったゼスト・グランガイツ。彼もまた大崎和人の登場によりその運命が大きく変わった存在の一人なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「突入!」

 

 ゼスト隊と合同捜査を行う事と実験部隊は前回の合同訓練と同じ編成でもって次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティのラボと思われる施設に突入した。ゼスト隊45名、実験部隊120名による大規模な捜査は瞬く間に進んでいく。

 

「報告せよ。中はどうだ?」

『こちらβ部隊! 見てください! この光景を! 間違いなく戦闘機人を生産するプラントです!』

 

 β部隊の隊長はそう言って通信を映像に切り替えて和人に中の様子を見せる。そこには人が入れる程の大きさの試験官が大量に並んでおり、中には何かの生物が入っている入れ物も存在していた。周りにはβ部隊が破壊したと思われるロボット、楕円形が特徴的な機械が破壊されて散らばっていた。

 そして、そのロボットを見たゼストは眉をひそめた。彼らにとって当たりと言えるジェイル・スカリエッティが運用するガジェットと呼ばれるロボットだったからだ。

 

「これはガジェットだな。魔法をジャミングするAMFというシールドを発生させることが出来る。魔法を放つ際には注意するんだ」

「成程……。ディーダ・ランスター、聞こえるか?」

『聞こえます隊長』

 

 和人が通信をつなげたのは今回魔導師としての素質がある新規の隊員20名を率いるディーダ・ランスターだった。彼は僅かな期間でその頭角を現しており、陸曹にまでなり、今はこうして小隊長にまで抜擢されるに至っていた。

 

「お前の部隊は魔法を使用する。ガジェットとの戦闘には気を付けるように」

『了解です。まぁ、正直ファルケンをぶっ放していた方が楽なんでバリアジャケットを展開するくらいでしか使っていないですが気を付けます』

 

 正直なところ、Aランク以下の魔導師や一部の高ランクを除けば魔導兵器で戦う方がやりやすい状態にあった。そもそも、魔導師に頼らない武器である以上当然といえることであり、ディーダ・ランスターも当初こそ魔法を使用する機会も多かったが仲間との連携するうちに魔法を使う機会は大幅に下がっていた。それでも、彼が得意とする誘導技術は優秀な為にここぞという場面では使用していたりする。

 

「だがここまでで未だ戦闘機人は出てこない、か。この守りようから見ていると思うのだが……」

「そうして油断させている可能性もある。我らも戦闘機人と戦った事はないが残されていたデータを確認する限りかなり実力を有しているようだ」

 

 和人としては戦闘機人の能力を知る上でも出てきてもらった方がありがたいがここまで静寂を保っていると明らかに何かあると分かるために出てこない方がありがたいと考えるようになっていた。

 しかし、それがいけなかったのか。ラボに突入せず、外で待機していた和人たちを突風が突如として襲った。

 

「ぐっ!? 敵襲……!」

「遅い!」

 

 瞬きする瞬間、紫の何かが目の前をかすめ、隣に立っていた隊員の首を切り落とした。慌てて声を張り上げようとした和人はまたしても目の前に紫の何かがいる事に気づいた。今度はその正体を確認する事が出来たがそこにいたのは紫髪の単発が特徴的な女性だった。ラバースーツのようなぴったりとした服を着たその女は和人が見た時には腹部に向けてブローを放つ瞬間であった。

 

「ご!? は……!」

「ほう? 意外と防御力はあるようだな」

 

 それ故に痛みに耐える準備などできていない和人はそのまま彼女の拳を深々と腹にめり込ませた。リンカーコアを持たない彼は実験部隊と同様に戦闘服に身を包んでいたがその防御力がギリギリ行かされる結果となり、彼の腹部を貫通する事はなかった。しかし、明らかにいくつもの内臓がやられ、背骨が砕かれる音と感触から彼は一撃で戦闘不能になったことを察し、視界が急速に回転した。それと同時に体中が何かにぶつかり痛みが走る。終わったころには先ほどまでいた場所からかなり離れた壁に激突した後であり、和人は意識を保つので精いっぱいとなっていた。

 

「和人! くっ! おのれ……!」

「邪魔だ」

 

 和人がやられた一方でゼストもまた別の女性、ジェイル・スカリエッティが生み出し戦闘機人と戦っていた。銀髪を靡かせながらその小柄な体躯で戦う姿は美しさすら感じるが相対するゼストにそんなことを感じる余裕は存在しなかった。

 

「(こいつ!? 俺の戦い方を知っているのか!?)」

「(やはりデータで知っているのと実戦は違うか。攻めきれん……)」

 

 戦闘機人が強いという想定はしていたが流石のゼストも自分と同等までとは思わず、加えて自身の戦い方を知っているのか動きに無駄がないことで攻めきれず守りに入る機会が増えていた。

 しかし、一方で攻める戦闘機人チンクも同様にゼストの強さに驚きを覚えていた。ジェイル・スカリエッティが何処からか入手したゼスト・グランガイツを始めとするゼスト隊の戦闘データを得ている為に有利に戦えると思っていたが攻められるがたまにカウンターを受ける事から実戦でした得られない事もあるとチンクは思うようになっていた。

 

「だが、終わりだ!」

「ぐあっ!」

 

 しかし、それもチンクが持てる全てを出すまでの話だった。彼女たち戦闘機人にはIS(インヒューレンとスキル)と呼ばれる特殊能力があった。戦闘機人として生まれる際に得られるそれは完全にランダムであり、きちんと扱えるかは本人次第だった。

 そしてチンクはまだ稼働開始して僅かな時間しか経過していないものの、自らに宿るISを高水準で扱う事が出来た。そんな彼女のISはランブルデトネイターと呼ばれるものである。それは金属を爆発物に変えるという危険なものであり、結果としてゼストの回りの金属、特に彼女がけん制等で使用したナイフなどが一斉に爆発した。

 完全な予想外の攻撃、それも魔法ではなく質量兵器に相当する火力の為にゼストは防御が間に合わずに四方八方から爆発に包まれてしまう。バリアジャケットを着ていたこと、爆発自体がそこまで大きくはなかったことから彼の体がひき肉になる事態は避けられたものの、彼の視力と聴力、更に平行感覚を位置的にマヒさせることに成功した。その意味が戦場においてもたらすの明確な隙であり、死であった。

 

「死ね」

「っ! てぇ!」

 

 そして今まさにチンクによってゼストが止めを刺されそうになった瞬間、彼女に向かって隊員たちが一斉にファルケンを発射した。戦闘機人は僅か二人だけとはいえ多数のガジェットも来ていた為にそちらにかかりきりになっていた隊員たちが漸く掃討を終えたのだ。

 チンクは乱入者に舌打ちをしつつ一旦距離を取った。ゼスト隊の魔導師はもう一人の戦闘機人、トーレによって次々と殺されており、後はゼストを狩ればいい状態だった。

 

「雑魚は眠っていろ!」

「ぎゃっ!?」

「くそ! 敵の攻撃に注意しろ! 敵はナイフを爆発物にしている! 距離を取れ! 弾幕を張ってけん制しろ!」

 

 チンクと隊員たちの戦闘能力は完全に天と地ほどの差があった。当然無駄死にと言える状態であるがそれでも隊員たちは逃げずに戦い続ける。彼らにとって最悪なのは自分たちの隊長である大崎和人とゼストの死である。それを防ぐには自分たちだけでは不可能。それ故に彼らは時間を稼ぐことにしたのだ。自分達が持つ究極の切り札と、ゼストが持つゼストに次ぐ戦闘能力を持つ二人の到着を。

 そして、その願いはゼストと和人以外のこの場の者が全員殺された直後に届くことになる。

 

「隊長! ご無事ですか!?」

「あ、ああ」

「治療します! じっとしててください!」

 

 ゼストの下にクイント・ナカジマとメガーヌ・アルピーノが駆け寄り、トーレと相対した。そして、チンクの前に立ちはだかったのは……。

 

「っ!? なんだ、これは……!?」

 

 巨大ながら人型の重装甲歩兵であった。それは目を光らせると装備したすべての武器の方向をチンクに向けた。

 

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