魔導戦記 作:数の子三等陸士
ゼスト隊との合同捜査は甘く見れば無事に終わったと言えるだろう。ラボはつぶし、そこで行われていたデータも可なりの数を押収する事が出来た。更に実験材料にされそうになっていた人も保護する事が出来た上に、戦闘機人と呼ばれるジェイル・スカリエッティの戦力の一つ、チンクと名乗る少女を捕える事に成功した。これはまさに地上部隊の威信を示したと言えるだろう。
しかし、その結果を出すためにだした被害を見れば割に会っているとは言えないだろう。
ゼスト隊は死者20名、負傷者8名という半壊状態になっているうえに隊長のゼストは爆発を至近距離で受けた影響で難聴に陥ってしまい、リハビリを行う事となった。
実験部隊に至っては死者34名、負傷者21名に加えて隊長である大崎和人が瀕死の重傷という結果であり、総合的な結果を言えば痛み分けとも取れる形となった。
それでも戦果を上げたことは事実であり、レジアスは被害を少なめにしつつ公表した。そして実験部隊の活躍を大々的に報道し、これから運用されていく魔導兵器の確かな実力を示したのだ。
「今までは魔導師こそが平和を維持するための最大の武器と言われてきた。だが! これからは違う! 魔導兵器によって平和は魔導師だけではなく、それ以外の! リンカーコアを持たない者一人一人の手によって築き、維持する事が可能となったのである! これからは魔力を持たないからと無力に思う事はない! 全ての人々に平和のために貢献できるようになったのである!」
レジアスの力強い言葉はミッドチルダの人々、特にリンカーコアを持たない者達の心に響き渡った。今までは魔導師になれないからと諦めていた管理局で自分たちも戦う事が出来る。それが何よりも彼らの心に響き渡ったのだ。
結果、合同捜査後に管理局、とりわけ地上部隊への入隊希望者が増えた。それは数だけ見れば人員不足を大幅に解決できると思える程の数だったが残念ながらこれらすべてに行き届かせるだけの魔導兵器は未だ揃っていない。今いる地上部隊に配備する事さえ敵わないのに新たな入隊希望者に配備する事は夢のまた夢だった。しかし、だからと言って追い返すことも出来ない。彼らは本気でミッドチルダの平和を願い募ってきた者達なのだから。
故にレジアスは入隊希望者を予備役という形で入隊させることにした。普段は一般市民として生活し、召集命令を受けた際にのみ地上部隊員として活動する形にしたのである。そして、月に1度から2度にかけて部隊訓練を行い、自力を少しづつ挙げていく。魔導兵器を扱う事は出来なくともそれ以外、体力の向上や避難指示などの誘導を教える事は出来る。特に後方支援を行う事が出来る者が増えればそれだけ地上部隊は前線で戦う事が出来る者が増える。
ゆくゆくは正式に局員として迎え入れる事になるが魔導兵器の量産体制が整うまでは現状の状態で進める事となった。
「工場完成までまだ暫くはかかる。人員の問題はこれで解決したと言えるがやはり魔導師の方はどうにもならんか……」
魔導兵器の投入はいい方向に向かっているがだからと言って魔導師の方がどうにかなるわけではない。ゼスト隊の壊滅はかなりの痛手であり、精鋭部隊の消失は犯罪発生率を上げさせる原因になっていた。実際、ミッドチルダの犯罪発生率は合同捜査後に急速に上がっており、それに対応する地上部隊は日に日に消耗し続けていた。このままでは近いうちに次元航行部隊の手を借りねばならない事態に陥るだろう。
海嫌いであるレジアスにとってそれだけは避けねばならない事態だった。もし、手を借りれば次元航行部隊がどのような要求をしてくるのか。最悪の場合、魔導兵器の運用停止を要求してくる可能性もあった。地上本部では魔導兵器を受け入れる流れになっており、不満も反対も主立っては出ていない。何なら他の次元世界でも運用させて欲しいと要請されるくらいには人気があった。だが、魔導師が中心となっている次元航行部隊では魔導兵器の運用を反対する意見が主流となっている。彼らの意見は「魔導師でもない者が現場で戦う等危険すぎる」というものであり、魔導師に任せて下がっていて欲しいと考えている者が多くいた。
だが、そんなことをしていたせいで人手が足らなくなり、そのために魔導兵器の運用に至ったというのにとレジアスは怒りで何度も我を失いそうになっていた。連中には未来が見えていないのか! と。
「それよりも捕らえた敵戦闘機人の様子はどうなっている?」
「はっ! 現在は治療を終えて地上の特別収容施設に収監しています。尋問は来週から始まる予定となっています」
レジアスの言葉に答えたのは娘であり、補佐をしてくれるオーリスだった。彼女はレジアス譲りの高い事務能力をいかんなく発揮し、レジアスを裏から支えていた。今回も彼女は一連の処理を見事熟していた。
その彼女が伝えたのはチンクの現状についてであった。地上本部では捕らえた犯罪者に関して主に自前で用意している特別収容施設に収監するようにしていた。これは自分たちが捕まえたのだから自分たちで管理するという地上本部のこれまでのプライドが作り上げた監獄であり、セキュリティに関しても次元航行部隊の起動拘置所に匹敵するものになっていた。
そこに収監されたチンクは戦闘機人としての能力を大きく制限された状態になっている。とはいえ地上部隊はチンクの治療を施したとはいえ失った四肢を元通りにする事はなかった。一応、管理局でも高度な義手義足を作る事は出来る。これにはとある姉妹が関係しているがそれは言う必要はないだろう。
なのでチンクを治すことは可能だが脱走される危険性が高まる為に用意する事はなかったのだ。とはいえそれ以外での不便はなく、普通の人間と同じように扱っていた。これがガジェットのような見た目が完全な機械なら遠慮せずにデータを抜き取っていたかもしれないが感情を持ち、見た目は人間の少女であるチンクにそんな真似をすれば批判が出かねない為であり、そういう意味では彼女は見た目によって救われていた。
「ふむ、和人の容体はどうだ?」
「一時期は本当に危なかったようですが今は回復に向かっています。意識も先日目覚めたそうで既に情報の共有は行っています」
「それは良かった。奴にはまだまだ働いてもらわねばならん。こんなところで死んでいる暇はないからな」
合同捜査より早一月。和人は漸く回復に向かう事が出来ていた。内臓破裂、背骨の粉砕、内出血などかなりの重傷だった彼も管理局の技術で何とか回復した。それでも一月もの間目覚めなかったのはそれだけ怪我が重かったせいだろう。
幸い、実験部隊の方は副隊長のギーゼラが滞りなく運用している。戦死者を多く出したとはいえ補充は既に行われており、稼働には何の支障も出していなかった。
因みに、今回の件を評して実験部隊の人員の増員が許可されたために、和人の復帰後に部隊数を200まで引き上げる事が決定した。部隊としては大規模な物であり、地上本部だけではなく、次元航行部隊で見てもこれだけの数の規模の部隊を平時から運用する所はないだろう。それだけレジアスが和人や実験部隊に期待している事の表れだった。
「それと中将、最高評議会より今回の件の報告を求められています」
「適当に報告しておけ。どうせ嫌味を言いたいだけだろうからな」
レジアスと最高評議会の仲はよろしくはなかった。一時期は最高評議会から新たな兵器運用の打診を受けたが既に和人と出会い焦りがなくなった彼には魅力的には見えずに断っていた。以降最高評議会からは嫌味を言うためだけの報告会を開く事はあれどそれ以上の介入をしてくることはなかった。
「分かりました。ですが最高評議会は詳細な報告を求めてきております。詳細も報告した方がよろしいでしょうか?」
「……そうだな。どうせなら戦果を大げさにして報告しろ。向こうが詳細な報告を望んだんだ。戦果をより詳細にして書いてやれ」
「かしこまりました」
そして、レジアスの方も最高評議会に対して嫌がらせまでには行かないが自慢とも取れる報告書を書いたり嫌味を逆に言ってやるなど仕返しをしていた。それだけ、今のレジアスは最高評議会の事を好ましく思っていなかったのだ。