前世有毒生物オタク、吉野順平になる   作:みくくく

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試される北の大地……
人っ子一人いない山奥……
最近増えてる某獣のニュース……
何も起きないはずもなく……

なんてことは無かったです。いやまあ、数十m先にいるのは見ましたが。
少し前に帰ってきてたんですが、後始末の文章を書いていたらいつの間にかこんなに空いてしまいました。こっちの書き方を忘れている気がします……
相変わらず更新は不定期ですが、よろしくお願いいたします。



チョウセンアサガオ

 

 

 

「なんか海しか行ってないな……」

 

 

3泊4日の沖縄旅行、その最終日。今日の午前10時には羽田行きの飛行機に乗らなければならない。

 

普通なら帰りの時刻も相まって、最終日くらいのんびりしていようという考えに至るかもしれないが、そうはならないのがこの男。

 

現在時刻午前5時半。今日も今日とて早起きである。とは言ったものの、時間に余裕があるわけではない。ここから遠出することは出来ないだろう。

 

「ま、無難にその辺歩いてみようかな。なんかいるでしょ」

 

という訳で、ホテル周辺を散策することに。グーグルマップを見ると、どうやら2km先に公園があるらしい。ひとまずはそこをゴールにすることに。

 

 

「行ってきまーす」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

「いやまあ、知ってたけどさ」

 

ホテルを出て、歩くこと数分。右手には道路、左手には住宅街とたまに畑という、およそ生き物を探そうとは思えないような環境が続く。

 

 

歩道と車道の間には、数mおきに街路樹が植わっている。

 

 

10〜20cmの、艶のあるやや細長い葉が枝先に輪生。直径4cm程の白い花が目立つ。

 

 

「ミフクラギ……どうせなら自生のやつが見たいな」

 

その樹の名はミフクラギ。オキナワキョウチクトウとも呼ばれる、キョウチクトウ科の常緑樹。

 

 

沖縄で、最も普通に見られる有毒植物の一つである。

 

 

全草有毒で、保有する毒素はケルベリンC32H48O9を主とするアルカロイド。心毒性を持つ強心配糖体であり、摂取すると過度な心収縮を引き起こす。

 

同様の毒素を持ち東南アジア等に分布する同属のオオミフクラギは、生息地においてしばしば自殺に使用されるという。インドの一部の州では、1989年からの10年間で少なくとも500人以上がこの樹を用いて自殺しており、英名は「suicide tree(自殺の木)」。

 

加えて、本種の果実を摂餌したヤシガニが毒化し、そのヤシガニを食べた人物が死亡するという事故もある。

 

ちなみに和名を漢字で書くと「目脹ら木」。草体、特に傷つけられることで出た乳液などに触れた手で目をこすると腫れることから付いた。

 

そんなもの街路樹にするな、と思われるかもしれないが、本種や、本州でよく植えられているキョウチクトウをはじめとするキョウチクトウ科の植物は、車の排気ガス等への耐性が強いことで知られており、見た目も良く害虫などもつきにくいことから、市街地の至る所に植えられている。

 

 

「あれ、実が落ちてる。ちょっと早いかと思ったんだけど」

 

 

 

がりっ

 

 

 

「まずい!」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「……ん。着いた」

 

歩き続けて30分程。目的の公園に到着。

 

「思ってたより整備されてる……。あまり期待はできないな」

 

雑草等もあまり見当たらず拍子抜けな感じではあるが、一応隅々まで目を通してみる。

 

 

 

「……んん?この葉っぱ、どっかで見覚えが……何だっけ」

 

 

 

「ってああ、花咲いて……

 

 

 

 

 

 

上向きだ……!!!」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「あああ~~帰ってきてしまった……」

 

「宿題やった?」

 

「やめろおおおおおおおお!?考えないようにしてたのに!!」

 

「なんて鬼畜……。そういう順平はやったの?」

 

「連休前に終わらせたよね」

 

「そっか。まあ私も半分終わってるけど」

 

「こんのハイスペ共があ!!」

 

ついに終わった3泊4日の非日常。持ち帰った荷物の片付けが忙しい。と言っても、写真やらお土産やらを見返しては思い出話をしているため中々進まない。

 

「そーいえば、順平はなんかお土産買った?」

 

「味噌」

 

「「味噌」」

 

「醤油」

 

「「醤油」」

 

 

 

「あとこれ」

 

そう言って出てきたのは、大きな密閉袋に入った植物。よく空港検疫通ったなと思われるかもしれないが、県外への移動規制の対象とはならなかったようだ。

 

「なにこれ……」

 

「うわでた」

 

 

 

「それじゃあ、今から部屋に籠もるから。そうだな……3時間は開けないでね」

 

「「何する気?」」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

チョウセンアサガオ、という植物がいる。

 

ナス科の一年草で、日本国内には広く分布するが、帰化植物である。江戸時代に薬用植物として輸入されたのがきっかけであり、原産地はアメリカ周辺、もしくは南アジアとされる。現在も、園芸用に属名の「ダチュラ」や「曼陀羅華」等の名前で流通している。

 

茎は直立し、高さは1m以上。10cm前後の葉には深く大きな鋸歯を持つ。夏季には長さ20cm程の漏斗状の白い花を上向きに咲かせる。別属のキダチチョウセンアサガオの花は下向きだ。荒地など人の生活圏の近くに見られるところは、帰化植物らしいと言える。

 

 

 

毒草としては、有名な部類であろう。

 

 

 

全草に有毒なアルカロイドを複数種保有しており、代表的な物質はヒヨスチアミンC17H23NO3とスコポラミンC17H21NO4。どちらもトロパン骨格を持つトロパンアルカロイドである。

これらは医薬品として使用されている物質でもあり、ヒヨスチアミンは心臓疾患の緩和や鎮痛、スコポラミンは消化管での鎮痛や抗うつなどに使われる。

 

それと同時に、中毒症状が発生する最低中毒量はそれぞれ0.014mg/kgと0.07mg/kg。草体中の含有量の平均から計算すると、体重50kgの人であればチョウセンアサガオ100g程度の摂取で中毒症状が発生することになる。

しかし実際には根と種子に高濃度が含まれることが知られているため、部位によってはさらに少ない摂取量でも発症するだろう。

 

 

チョウセンアサガオを摂取した場合、食後30分程で上気道の分泌物の減少による喉の渇きが始まり、視覚障害、不整脈、頭痛、嘔吐、不安感なども現れ始める。

 

加えて症状が進むにつれ、記憶障害、認知障害、見当識障害、性的興奮、短期記憶消失、幻覚、そして重度の場合は昏睡などを引き起こす。中枢神経に作用するトロパンアルカロイドらしい症状である。ヒヨスチアミンやスコポラミンを医薬品として使用した際の副作用フルコースと言っていいだろう。

その結果、意味不明な言葉で泣き喚いたり、走り回るなどといった異常行動を起こすことも多く、付いた異名は「キチガイナスビ」。海外では、男性が摂取後に自宅の家具やら何やらを全て家の外に運び出し、何も無くなった部屋の中央で数時間うずくまり続けたという事例がある。部屋が中々片付かないという人は試してみるのもいいかもしれない。

 

また、食べはせずとも、本種を触った手で目をこすったりすると瞳孔散大により一時的に目が見えなくなることがあるため、注意が必要である。

 

意外にも、国内でのチョウセンアサガオ中毒による死亡例は1件のみ。そして中毒者は覚せい剤常習者の20代男性。どこから突っ込めばいいのか。ちなみに2014年の出来事である。

中毒事例自体は1961年から2010年までに83件、患者数は307人と、年に数人程中毒者が現れるようだ。

その原因は他の植物との誤同定で、根をゴボウと間違えたり、果実をオクラと間違えたり等々。2006年には、チョウセンアサガオを台木としてナスを接ぎ木し、実ったナスを食べて中毒を起こすという事例もある。

 

事例を見ていると、「何故こうも思い切りが良いのか」となるものが見受けられる。分からないものは食べない。これに尽きるのだ。

 

 

余談であるが、アメリカ、カリフォルニア州の洞窟では、400年前の先住民がチョウセンアサガオの一種を摂取し、トランス状態になりながら描いたと思われる壁画が見つかっている。女性に擬人化されたチョウセンアサガオの絵だったそうな。

一方で中国明代の医学書には鎮痛薬としての利用方法の記述があったり、江戸時代の医師である華岡青洲は、本種を主成分にした麻酔薬を用いて世界初の全身麻酔手術を成功させたりもしている。世界各地で人間との関わりがあったようだ。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「やっぱりナス科らしいね。鋸歯かっこいい」

 

目の前には、根ごと引き抜いたチョウセンアサガオ。地上部の高さは115cm、根は40cm程。

 

洗って泥は落としてきた。ここからどうしようか。

 

「結構匂いが強いね……。ちょっと油っぽい?」

 

まず根を切り落とす。今回は根を主役にすることにしたため、地上部はとりあえず30cm毎に切って置いておく。

 

「あ~、確かに根っこだけになるとゴボウっぽいか」

 

根だけで並べられてもぱっと見では判別しづらい程度にはゴボウと似ている。ということで、皮は剥かずにささがきにしようとして……

 

「わ、折れた。こんなに脆いんだ。やりにく……やっぱりゴボウじゃないよ」

 

少し力を入れて曲げると、縦に裂けていき折れてしまう。この辺りも見分ける点になるだろう。

あまり綺麗には出来なかったが、ささがき終了。10分程水にさらす。その間に砂糖と和風だし、みりんと醤油を混ぜておく。

 

「毒抜けたりしないよな……。茎あげとこ。澱月~」

 

水気を切ったら、フライパンにごま油をひき、中火で炒める。なんとなく花も入れてみた。一昔前の芳香剤のような独特な香りがする。

 

「ん。こんなもんかな」

 

かなり柔らかくなってきたところで混ぜた調味液を入れ、再び炒める。

 

「でーきた。あ、ごま忘れてた」

 

皿に移し、仕上げにごまを振りかけて、

 

きんぴらチョウセンアサガオ、完成。

 

 

「語呂悪いな…いただきます!」

 

見た目は普通のきんぴらごぼうだが、果たして。

 

 

ぱく

 

 

……

 

 

もぎゅ、もぎゅ

 

 

「……」

 

 

 

「……うわ。全然美味しくない。なんだこの味……味?」

 

美味しくない。不味い。そのものの味が強烈な違和感を放っており、味付けを突破してきている。食感もぼそぼそしている。そして香り。

 

「なんか機械油というか……。あ、あれだ。中学で行ったごみ処理場見学の時の匂いだ」

 

生の状態では強いて言うならごま油寄りだった香りが、火を通したせいかかなり悪化。特別強い匂いという訳ではないが、鼻に抜ける空気が中々に不快である。

 

「花……食べるか」

 

あまり気が乗らないが、花も口に入れてみる。

 

「あ~……。食感は面白い、けど……」

 

かなり大型の花であり、柔らかい花弁の食感を感じられる。期待したような花特有の香りは無さそうだ。というか、この機械油臭にかき消されているのかもしれない。

 

「いやこれ、食べた瞬間気付くでしょ。年に数人誤食ってホント?」

 

近縁属や同属の近縁種、品種等で味が変わるのかも?などとも思ったが、少し考えづらい。皆不味い不味い言いながら食べたのか。

 

牛乳で口直しをしながらなんとか完食。あまり量を作っていなかったのは幸いであった。

 

「……ふう。ごちそうさまでした。……あ~まずい」

 

 

ありがとうチョウセンアサガオ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

立ち上がる吉野。部屋を見渡す。

 

「危ないものは外に出したし……ブルーシートも被せたし……あ、そうだ」

 

今回は調理から実食までを全て自室で行っていた吉野。カセットコンロやら包丁やらを片付けた。今、彼の部屋には机とベッド程度しか物が存在せず、その上部屋全体がブルーシートで隅々まで覆われている。

 

何かを思い立った吉野はスマホを取り出し、インカメラに設定。椅子の上に立ち、ガムテープで部屋の天井に固定する。

 

「これでよし。全体は写ってるね」

 

 

 

「録画開始。タイマーは……食後20分経ったから、2時間でいいか」

 

 

 

 

 

 

「頼んだよ。澱月」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

どたどたどたどたどたどた

 

 

「「……」」

 

 

ばたんっ!だんっ!

 

 

「「……」」

 

 

ばきっ!ごとん

 

 

「「……」」

 

 

あった!あった!あっはぁ!!ははははははははははははははははっ!!!

 

 

 

 

 

 

((これ、どっちだ!?))

 

 

 

 

 

 

~~~1時間30分経過~~~

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

「……急に何も音しなくなったんだけど」

 

「……見てみる?」

 

「いや、開けるなって言われたし……」

 

「ヤバいかもしれないよ?血まみれで倒れてるかも」

 

 

「「……」」

 

 

 

「まあ順平だし死なないでしょ」

 

「多分しれっと出てくるよね」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

ピピピッ ピピピッ

 

 

ピピピッ ピピピッ

 

 

 

 

 

「……ん、あ゛……?……っ!お゛え゛ぇ……」

 

 

びちゃびちゃびちゃ

 

 

「……ぁ……じゅー、な、な。はぁっ。にじゅ、いち、さん。いち。さん、よん……」

 

 

 

 

 

 

「ふうーーっ」

 

 

 

「ははっ。やば。地獄絵図じゃん」

 

 

目が冴えてきた。

 

 

 

心の底から、ブルーシートを引いていて良かったと思う。

 

 

「これは食べた分全部出たなあ……。どんだけ吐いたんだよ。片付けがめんどくさい……」

 

 

部屋を見渡してみる。うむ。見事に嘔吐物まみれである。鼻が曲がりそうだ。所々、赤い液体も見える。

 

 

 

 

赤い液体……?

 

 

「あれ?どっか怪我して……うわ」

 

天井に固定したスマホの画面。インカメラの中の自分と目が合った。

 

「あーあー……おでこがぐちゃぐちゃだ。どこにぶつけた……って、あれか」

 

ブルーシート越しに浮かび上がる机の角。その一つが真っ赤に染まっている。

 

「これ……一回こけてぶつけただけじゃこんなことにはならないよね?明らかに何回も打ち付けてるよね?」

 

論文などで「異常行動」と表記されているものの中にはこんなに派手なものは見当たらなかったが。

 

 

「まあ、後で動画見れば分かるか。……にしても酷過ぎない?確かに根っこの中毒量よりは食べたけ……ど……」

 

ここまで言って、ある違和感に気付く。

 

「地上部……どこにやったっけ?」

 

飛んでいる可能性もあるため信用ならないが、とりあえず記憶を思い返してみる。念には念を入れようと、まず部屋をブルーシートで覆ったあと、チョウセンアサガオを調理。地上部はとりあえず放置。完食後、調理器具を片付けて部屋の扉を施錠して、スマホを天井に……

 

 

嫌な予感がする。あまり目を向けたくないが、辺りの嘔吐物を見る。

 

 

 

所々に、緑色の固形物が浮いている。

 

 

 

「全部食べたの!?!?生で!?!?ラリった僕食い意地張りすぎでしょ!!そりゃ酷いよ!!」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「あれ、順平だ。なんかバタバタしてたけど大丈夫?」

 

「ああ……うん、まあ、大丈夫だった、よ?」

 

「なんで疑問調なの……」

 

「なんかげっそりしてない?」

 

「お腹空いた……」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「ぶふっ」

 

 

 

「また吐いた。6回目かな」

 

 

 

「~~っwwwあっははwwwwww何言ってんのwww」

 

 

 

「あ、待て!馬鹿!食べるな!あ~wwww」

 

 

 

「えぇ……こんだけやったら、そりゃ頭蓋骨割れる訳だ……」

 

 

 

「あ、死んだ」

 

 

 

 

 

 

 

「はー面白かった。これは永久保存版だね」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何年ぶりだっけ?」

 

「3級以上ですと……12年と4か月ぶりとなります」

 

「そんなにかー。確かに最近全然行ってないな」

 

「どう思われますか?」

 

「うーん……。まあ普通に考えれば、何かいたんだろうとは思うけどね。それが最近死んだか、どっか行ったか」

 

「何かというのは…この12年間呪霊の発生を抑えていたもの、ということですか?」

 

「そう。ま、発生自体はしてたんだろうけどさ。あんだけ都会だし、変な結界も無いし」

 

「となると……」

 

「発生したそばから消されてった、が正しいかな」

 

「……残穢はほとんど見つかっていないにもかかわらずですか?」

 

「そこなんだよね〜。マジで意味不。これは直接見ないと分かんない奴かな。……あ、でもどっか行ったかもしれないのか。帰ってくんのかね」

 

 

 

「視察も兼ねて、神奈川食べ歩きツアーでも開催しよっかな!皆連れて」

 

 

 

「伊地知も来る?」

 

「そんな暇ないです……」

 




あんなクソ不味いもの、よく気付かずに食べたな…と。
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