副題は『時を廻りて戻り来よ』

1 / 1
まつげバサバサパンツ一丁のハンター、東の地にて

 

 

ある日、鷹が飛んできた。

白い、それはもう純白の鷹である。

 

精悍な顔つき。飛んできて早々に人様の腕に我が物顔で居座る図々しさ。

力強い脚に巻き付けられた手紙は、すなわちこやつが伝書鳥であることを指し示している。そしておまけに、伝書の封蝋には王立学術院の紋章。

 

「なるほど」

 

ピー、と気の抜けた鳴き声で囀る鷹に、懐から取り出した干し肉を与えてやる。

 

俺はモンスターならば雌雄年齢性格狂竜症獰猛化極限個体歴戦二つ名、とにかく様々な情報を看破することができる。これがモンスター以外の生物となると話は変わってくるが、それでも見えてくるものはあろうというもの。

 

図太さは飼い主譲り。冷静さは鍛冶屋譲り。

なるほど確かに、長年連れ添った人間の色は、この鷹によく染み付いているようだ。

 

「懐かしい顔じゃないか」

 

うりうりと手の甲で撫でてやると、鷹は擽ったそうに目を細めた。

 

俺の記憶が確かなら、この気高い生き物はあまり人に懐かなかったはずだ。

あの騒がしいキャラバンにおいても、気を許していたのは団長と鍛冶屋ぐらいだった気がする。

 

まぁ、ソフィアと小娘に捕まれば撫で回され、料理屋の猫と商人に捕まればいつ食卓に並ぶか分からなかったからな。かつてのパートナーはちょっかいをかけては突っつき回されていたが。

 

そんな鷹が、俺の腕に止まって大人しく撫でられている。

俺も一定の信頼を得ていた、と考えていいのだろうか。キャラバンから離れて久しい俺のことを今でも覚えてくれていたのならば、それは嬉しいことだ。

 

「元気にしてたか?」

 

尋ねると、やはりピーと一声。

なんとなく嬉しくなって、干し肉を追加でくれてやった。すると、嬉しそうに身を捩って翼を広げる。現金な鳥だ。

 

 

しばらく白い鷹と戯れてから、ようやっと本題に入る。

本題とはなにか? 言うまでもなく、彼が運んできた手紙である。

 

この鳥の本来の役割は伝書鳥であるから、当然運んできたのは誰かの手紙だ。

そしてこの鳥の飼い主は一人しかいないのだから、当然ながら差出人など一人しかいない。

 

学術院を示す封を切り、中身を確認。

 

本人の性格とは裏腹にえらく達筆な字で、しかしその豪胆さを反映してた手紙のど真ん中に大きく一言。

 

『我らのハンターに、ファビウスからのご指名だ! ハンターズギルド本部を訪ねて欲しい! 不安か? なぁに大丈夫、お前さんならできるできる! ハッハッハ!』

 

書式もへったくれもないその文章は、しかし不思議と懐かしさを思い起こさせる温かみを感じるもの。

 

そう、これだ。この大雑把さが『()()()()』なのだ。

そして、この手紙は同時に、未だに俺が『我らの団』の仲間なのだという情熱的なメッセージでもある。

 

なんというか……こう、ぽかぽかするな。

かつての旅路で出会ったたくさんの人々との繋がりがまだ生きていると、そう実感する。

 

「……よし」

 

なんとなく朗らかな心地になって、羽繕いを始めた鷹に干し肉をもう一切れ。

ピーと鳴いて嬉しそうに受け取る鷹を見遣りつつ、なんとなく背中に背負う装備を確かめる。

 

手入れは欠かしたことがない。

常に切れ味は万全で、装備も完璧。並々ならぬ強敵達と渡り歩いた防具は傷まみれだけど、身を守るのには不足なし。アイテムも完璧だ。俺は忘れ物をしないハンターだから、護符も爪も、ピッケルだってある。

 

だって俺は、ハンターだからな。

 

「よし、行こう」

 

新たな世界に踏み出すときだ。

 

俺は一歩、前に進んだ。

 

「ところで、団長は元気にしてるか?」

「ピー!」

「それもそうか。あの人が元気にしていないはずもない」

 

 

 

 

「よく来てくれた、ハンター」

「どうも」

 

思えば、ギルド本部に足を踏み入れるのは久しぶりだ。

かつての団員がどいつもこいつもかしこまった場を苦手とし、そういったあれこれを後まわしにしまくった末のことである。

 

最後にここに来たのは……たしか、『口止め』をされたときだったかな?

 

「急な呼び出しですまない。私が知る限りの最高のハンターが必要だったからな」

「構いませんよ。団長からの呼び出しですから、無視する道理はありません」

「彼も壮健なようでなによりだ」

 

ファビウス。それが、対面で偉そうに話す男の名だ。

部下からはファビウス卿、ファビウス卿と呼ばれていた。なんともおかしな話だ。

 

なんてったって、俺にとってこの男の名前は筆頭ランサーであり、それ以上でもそれ以外でもないのだから。

 

「……」

「……どうした?」

「…………いや、なに。老けたな、と」

 

そんな筆頭ランサーは、かつての記憶に残る顔より幾分か皺が増えているようだ。

肉体を一瞥しただけでも分かる、加齢による肉体の衰え。それをひしひしと感じて、時の流れを実感する。

 

もっとも、筆頭ランサーは第一線を退き、ギルド本部で辣腕を奮って久しい。肉体の衰えは、なにも加齢だけによるものではないようだ。

それにこの男、どうせいつでも自分が装備を身に纏って最前線へ飛び出して行けるようにしているに違いない。いつかのような刺々しさはすっかり無くなったが、それと引き換えにビリビリと痺れるような重厚な熱意を感じる。

 

やっぱり訂正だ、この男は決して老けてなんかいない。むしろ進歩してやがる。

 

「そういう君は、相も変わらずだな」

「俺は若いので」

「ぬかせ」

 

時期は違えど、俺とこの男は同じキャラバンに属していた身。

昔はえらく敵視されていたが、今となっては笑い話だ。

 

 

「──それで、本題に入ろう。君は呼び出された理由を把握しているか?」

 

雑談もそこそこに、筆頭ランサーは話を切り出した。

 

本題とは、間違いなく団長が俺を呼び出した理由だろう。しかしまぁ、俺はあの程度の短文で事情を把握できるほど聡明ではない。

見せた方が早いだろうと、懐から件の手紙を取り出した。

 

「知っていることはこれだけです」

 

手渡すと、筆頭ランサーは手紙を見て気難しい顔をしてしまった。

しばらく唸って、「あの男は」だとか「書記官としての立場を」だとかなんとかブツブツ呟き、そしてやっぱり渋面なまま手紙を返してくる。

 

「その、なんだ……はじめから説明すると、少し長くなるのだが……」

 

手紙の隅っこに、『お前さんにサプライズを用意してある!』と書かれているのを見つけてしまった。

団長の人懐っこい笑みが頭に浮かぶ。あの人のことだから悪いことではないのだろうけど、筆頭ランサーの険しい顔を見ていればなんとなく嫌な予感がしようというもの。

 

一抹の不安を覚えながら、とりあえず目先の筆頭ランサーの話に意識を向けた。

 

「君には、禁足地に行ってもらいたいのだ」

 

どうやら、我らの団はいまでも俺の元へクエストを運んできてくれるらしい。

 

団長をはじめ、様々な人達に押し付けられた──じゃなくて、任せられたクエストの数々を思い起こし、感傷に浸る。ひとつひとつのクエストが、俺の経験で、俺の血肉そのものだ。

 

 

それはそれとして。

 

「天空山ですか?」

「違う」

 

 

 

 

だって禁足地って言ったら、最初に思い浮かぶのはシナト村じゃないか!

 

漆黒、あるいは純白の龍を思い起こしながら、俺はギルド本部の一室にいた。

 

話は詳しく聞いた。要は、東の地へ行ってこいということである。

今の今まであっちにフラフラこっちにフラフラ、流浪もとい孤高のハンターとして彷徨ってきた俺だ。定住の地なんて持たないものだから、どんな僻地だって行ってみせよう。

 

筆頭ランサーの言葉に対し、俺はキャラバン時代の経験に従ってその場で返事を返した。相手は一切迷いのない言葉に若干引き気味だったし、「君は考えることを学ぶべきだ」みたいな失礼なことを言われたが、まぁそれはそれ、これはこれ。

 

最終的に苦笑いになった筆頭ランサーの手引きで、俺は出立の前に「会わなければならない人」とやらに会いに来ていた。

それは誰だと問えば、なんでも誰もいないはずの禁足地で一人彷徨い歩いていた少年のことらしい。聞くところによるとモンスターから逃げてきただとかなんとか。

 

色々と経験してきた俺だから、今更禁足地に人がいたぐらいでは驚かない。

しかし、モンスターに襲われた集落から徒歩で逃げ延びてきたというのだからなかなかなものだ。ハンターになる前にインナーのみでダレン・モーランに飛び移った俺に負けずとも劣らない、素晴らしい勇気と胆力である。

 

ハンターになればきっと有望に違いない。ハンターになればいいのに。

 

俺が名も知らぬ少年の未来に思いを馳せていると、控えめなノックの音。件の少年……ではない。扉の前にいるのは大人の、しかも女性だ。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

俺の言葉に応えて入ってきたのは、やはり予想通り女性だった。眼鏡と青いスカーフが特徴的だが……なるほど、書士隊の人間だな。さもすれば、狩りの途中で俺にモンスターの居場所を教えてくれたこともあったかもしれない。

手を振る、千里眼の薬、ペイントボール。我が生涯の相棒たる手法は、ハンターの技術の弛まぬ発展により不要になって久しい。

 

「はじめまして、ハンターさん。アルマと申します」

「ああ」

 

彼女──アルマはそう言ってから、なぜか押し黙ってしまった。困る。

何か言うべきだろうか? しかし、彼女は俺のことをよく知っているはず。今更なにか言うべきことがあろうか?

 

……困った、なんとも騒がしいキャラバンに在籍していたものだから、自分から何か言うことには慣れていない。こなれた発言で場を和ませるべきだろうか?

 

グッラビッモス! グッラビッモス!

 

「……その、ハンターさんは……」

 

ソフィア譲りのセリフでイヴェルカーナを召喚しかけた俺の発言は、アルマの言葉に見事に制止された。

まったく、あのお嬢は今はどこで何をしているのやら。団長について行ったのか、またどこかでモンスターのケツを追いかけ回しているのか……ああ、お嬢。なんとも懐かしい呼び方だ。

 

俺の郷愁を知ってか知らずか、アルマが続ける。

 

「似顔絵とは、少し……容姿が異なるのですね?」

 

お嬢!!!

 

「ああいえ、別に他意はないのですが!」

 

内心で叫んだ。

体裁を取り繕えたのは長年の鍛錬の賜物以外の何物でもない。

 

「…………まつ毛か」

「…………………………まつ毛ですね」

 

ええ、はい。まつ毛ですか、そうですか。

 

()()似顔絵は、未だ俺の評判に付き纏うらしい。

各地でまつ毛だのなんだの言われてきたが、まさかギルド本部でもそのようなことを言われるとは。

 

ソフィア、ギルドにも学術院にもコネを構築しまくる恐ろしい女よ。奴の影響力の恐ろしいことといったら。

 

「………………」

「…………」

「……………………なんだ、その」

「……あぁ、すみません! 初対面で失礼なことを」

「いや、構わない」

 

まぁ、いい。

良くはないが、俺は孤高のハンターだ。その程度のことなら気にしない。

 

それよか3乙の汚名の方がよっぽど辛い。だから平気、平気。

 

「話は聞いている。禁足地に向かうのだろう? いつでも行けるぞ」

「流石は噂に名高いハンターさんですね」

 

いくつか、言葉を交わした。

 

このアルマという女性こそが、禁足地の観測中に筆頭ランサーと共に少年を保護したギルド職員にして、調査隊に名を連ねる勇猛な人間でもある。あと俺とペアを組む編纂者らしい。編纂者ってなに?

 

 

そして言葉には出さないが、彼女はどうやらギルド内部でもかなり高位の役職につく高官らしい。

 

兼ねてより噂に聞く新大陸調査団に等しい大事業で、人事に関する采配を持つ人間だ。

アルマ、彼女は柔和な雰囲気という眼鏡の下にやり手の素顔を隠しているに違いない。迂闊の発言はギルドナイトを呼ぶかもしれないので気をつけよう。オレ、蹴脚術、シラナイ。オレ、ケロロフェイク、モッテナイ。

 

 

 

「──それで、出立の前に会ってもらいたい人がいるんです」

「例の少年か?」

「はい」

 

言動に細心の注意を払いながら会話を続けていると、そう言われた。

予想通りだ。禁足地のモンスターの襲撃から歩いて逃げてきたという……なんだっけ。ナナくん? いや、テオくんだっけ? トアではない気がするが。

 

「保護されてからそう日は経っていないのだろう? よく同行する気になったものだ」

「彼にとって、故郷の無事を確かめに行くことが最重要事項のようです」

「それもそうだな。強い少年じゃないか」

「そうですね。……ただ、肉体的にはともかく、精神的にひどく疲労しています。ですので……」

「分かっている。態度には気をつけるさ」

 

さて、大丈夫とは言ったものの、疲労困憊傷心中の子供にどう接したものだろうか。

なにせ俺はハンター、クエストを受けてモンスターと戦ったりフィールドを駆け巡ったりするのが仕事の人間。人間関係はそこまで得意ではない。

 

現に、キャラバンに小娘が参加したときもどう扱っていいものか困ったものだ。

幸いなことに小娘はナグリの気風に反しない暑苦しくも気持ちのいいカラッとした人間だったが、はてさて禁足地の少年はどうだろうな?

 

彼を連れてきますと退席したアルマを目で追いかけた末、俺はファーストインプレッションをどうすべきかと悩み始めた。

 

親しみやすくいくべきか、クールにいくべきか。愛想を振りまいてもいいが、少年はそんなもの求めない気がする。

うーんうーん、らしくもなく悩む俺をよそに、ノックの音。考えるまでもなく、少年を連れてきたアルマだ。2人分の足音がそれを物語る。

 

やがて、俺の思考も纏まらぬままに扉は開いた。

 

「ナタを連れて来ました。ナタ、この人がハンターだよ」

「…………」

「…………」

 

目が死んでいる少年と目が合う。

金色の瞳はどんより薄暗く、感情の色が映らない。

 

ちょっと想定外かもしれないぞ、これ。

 

「……やあ」

「……………………」

 

脳内でいくつか思い浮かべていた言葉をすっ飛ばして、かろうじて形を保った挨拶をひとつ。少年──ナタはこくりと頷き、それを返答に代えた。

 

「ナタ。この人が、君の故郷を探してくれるからね」

「お、ああ、そうだ。任せろ」

 

アルマがナタにそう語りかけると、ナタは緩慢な動作で俺を見て、瞳を揺らした。

故郷という単語に反応したであろうことは、間違いない。

 

「……………………この人が、ハンター?」

「そうだよ。前に話した、これから一緒に来てくれる人」

 

前に話した? 確かアルマは、書類選考中に俺を見つけたのだと言っていたな。

俺はその書類とやらをついぞ知らないが、果たしてどのようなことが書かれているのだろうか。

 

俺のバルバレからドンドルマにかけての華々しい活躍の数々が記録されているのだろうか。

これでも救世主だの英雄みたいな胡散臭い呼び名をされていたこともあるんだ、ギルド内部でもさぞ素晴らしい人物だと伝えられているに違いない。

 

いやぁ、照れちゃうなぁ……

 

 

 

「…………パンツ一丁の人?」

 

お嬢!!!

 

「あ、あはは……」

 

アルマ!!!

 

そりゃそうだよな、まつ毛がバサバサなら服装もパンツ一丁だよな!

ゆく先々で言われたよな、まつ毛バサバサでパンツ一丁の似顔絵詐称ハンターって! 「なんで防具着てるの?」とか「似てない」とか言われたことあるもんな!

 

俺はジェスチャー「落ち込む」で悲嘆を表現した。

 

「そ、そうだよ。たくさんの強いモンスターとも戦ったことがある、すごい人。きっと、ナタが見たモンスターも見つけてくれるはず」

「…………」

 

落ち込む俺を見かねたアルマの、ナタに向けたようで俺へのフォローが身に沁みる。

……あぁ、そうだな。ナタは故郷を失ったようなものなのだ。だから、俺たち大人がしっかりとして、それから彼を導いてやらないといけない。ならば、落ち込んでいる暇もないか。

 

一瞬で立ち上がり、ナタと向かい合う。切り替えの速さは、俺の美徳だ。それから、しかと目を合わせて言った。

 

「任せろ」

「……」

 

ナタの瞳に、「大丈夫かこの人……」という不安が流れた。それから、「でもこの人なら」という期待が流れた。それから、「きっと見つけてやる」という決意が湧いて出た。

 

眦を決したナタは、すべてを飲み込んだように頭を下げる。

 

「どうか、よろしくお願いします」

「拝命した」

 

 

 

 

 

 

禁足地へは、砂上船で向かうらしい。

新たな旅路の始まりもこうとなると、やはり俺は砂上船に対して並々ならぬ因縁があるようだ。良い意味か、悪い意味かは別として。

 

だが、今の俺はかつてのハンター未満のひよっこではない。

例え道中でダレン・モーランが襲ってこようと、ゴグマジオスが飛びかかって来ようと、ダラ・アマデュラが地面から湧き出してこようと、見事に制圧してみせるさ。

 

「いよいよですね」

「そうだな。……ナタも、準備はいいか?」

「……はい」

 

かなり最悪に近しいファーストインプレッションからしばらく、弛まぬ努力の成果として会話が出来るようになった。若干だが。

 

これは何も俺のコミュニケーション能力に不足があるというわけではなく、ナタが常に思い詰め、大きな焦りを抱き続けていることが原因であると考えられる。もう少し肩の力を抜いて欲しいところだが、彼の境遇を思えばさもありなん、といったところか。

俺に出来ることは、一刻も早く禁足地に赴き、故郷を探り当てることだけだ。

 

……うーん、でも初対面の挨拶はもう少ししっかりした方がいいな。

ちゃんと「はじめまして」って言って、握手のひとつでもしよう。そうしなければ禁足地調査隊ではやっていけないだろうから。

 

「それでは、行きましょうか」

 

アルマの言葉に従って、船に乗り込む。

 

 

船上は騒がしく、まさに出航直前の賑やかさといった風だ。

 

「やっと来た! 待ってたよ!」

「すまない、待たせた」

 

船上で、一頭のアイルーに話しかけられた。

何を隠そう、今回の俺の相棒、オトモアイルーである。

 

先日顔を合わせたばかりだが、流石は調査隊に選出されるだけあって一瞬で打ち解けてしまった。

かつての相棒、見栄っ張りな自称筆頭オトモも見習って欲しい。……あいつ今何してるのかなぁ。筆頭ランサーの下に戻ったという話は聞かないが、またどこかで泣きながら駆け回っているのか、ぽかぽか村にでもいるのか。

 

「君は、船酔いはしないのか?」

「船酔い? 僕はなったことないけど、なんで?」

「特に意味は無い。……変なことを聞いてしまったな」

 

ニャ、と言わないのは少し寂しいな。

……いかんな、なんだか砂上船を見てから郷愁の年に浸りすぎているようだ。前を向いていこう。

 

大丈夫、(お前さん)ならできる、できる。

 

魔法の言葉を呟いて頬を叩けば、クールなハンターの出来上がりだ。

自身の中の僅かな未練を断ち切るように、アルマに声をかけた。

 

「アルマ」

「はい、なんでしょう」

 

真剣な表情で周囲の様子を観察していた彼女は、しかし俺の呼び掛けにすぐに反応してくれる。

 

彼女は編纂者。ギルドガール、いわゆる受付嬢としてクエストの管理や受注を行いながら、禁足地という未知の世界で実地調査や情報整理を行う、ハンターのサポート役。

なんとも驚くことに、彼女も俺と共にフィールドに赴き、リアルタイムでサポートを行うのだという。なんでも、新大陸の調査団で取り入れられた手法なのだとか。

 

それから俺、ハンター。言わずもがな。

更にオトモアイルー、こちらも同様。

 

しかし、聞いた話によると調査隊は四人一組からなる小隊を組んで行動するらしい。そうなると、一人足りないということになる。

 

「小隊のメンバーが足りないようだが。まさか、彼か?」

「え?」

「ふふっ……違いますよ。でも確かに、ハンターさんは彼女とまだ会っていませんでしたね」

 

どうやら最後の一人はナタではないらしい。

当然といえば当然だが……彼女、という発言からするに、女性だろう。

 

うーん、今度こそ挨拶は失敗できないな。ナタの時のような無様を晒しては、禁足地での調査に支障をきたすかもしれない。

 

息巻く俺を微笑ましげに見つめるアルマと、相変わらず心ここにあらず、というより不安と緊張が期待を上回っている様子のナタ。この二人からの期待は、俺、そしてオトモの背中に一心にかかっているのだ。

 

「頑張らないとな」

「そうだね! 頑張ろう!」

 

エイエイオー、二人でグータッチ。

早くも心の戦友と化した俺たちが絆を確かめあっていると、オトモは俺の背後に目をやって大きな声を出した。

 

「あー、ジェマ! 久しぶり!」

 

ジェマ? 呼ばれたその名を疑問に思うよりも先に、背中に衝撃。

背中を叩かれたのだ、と気付けたのは、かつての団長がことあるごとに俺の背中をバシバシ叩いてきやがった経験からか。

 

「よっ、ハンター!」

 

そこにいたのは、金髪の女性だった。

 

長い髪を青のバンドで留め、ジャケットを背負ったへそ出しルック。

露出の多い格好だが、首にかけたゴーグルと、そして腰に下げたポーチから覗く道具の数々を見れば、彼女が加工屋であることは間違いない。

 

聡明な俺は、すべてを理解した。

 

彼女が、このジェマという女性こそが、俺たちの小隊の最後の一人だ。

ハンター、オトモ、編纂者、そして加工屋。この四人で、俺たちは新たな旅路を往くのだ。

 

そのことを理解した途端、俺は俄然やる気に満ち溢れた。

 

さぁ、新たな冒険の始まりだ! お前さんなら、できる、できる!

 

「久しぶ──」

「はじめまして、ジェマ。よろしく頼む」

 

爽やか、かつクールに!

握手を求めて手を差し出しながら、俺は自身の試みが上手くいったことを確信し、心からの笑みを浮かべた。

 

なんて立派なファーストコンタクト、パーフェクトコミュニケーション。

会話の途中で言葉に困って「フルフルかと思った」なんて言わせない。オトモアイルーの発した人名を聞き逃さない、完璧な聴力、判断力、応用力!

 

「……」

「…………?」

「…………」

「……………………??」

 

……はて、なぜ黙るのか。

笑顔のまま固まるジェマ。当然、手を差し出したままの俺も動けない。

 

困ったぞ、握手を受け入れてもらえないことは想定していなかった。俺の脳内シミュレーションには存在しないパターンだ。

 

沈黙に耐えかねて、それからどうすれば良いのかと助けを求めて、思わずアルマに視線を送る。

 

するとアルマ、眉を寄せて困り顔。続けてナタは、首を傾げている。

アイルーは……なぜか、毛を逆立ててひどく驚いている。なんで?

 

困って、困って、仕方ない。

そうやって視線を一巡させて、改めてジェマを見て……驚いた。

 

 

「……は?

 

 

笑顔なのにめちゃくちゃ怒ってる!?!?

 

 




副題は『時を廻りて戻り来よ』です(迫真)

ハンターさんからすれば加工屋の娘はいつまで経っても小さくて泣き虫のガキンチョだから、目の前の妙齢の女性とまるで結び付かなかったそうですよ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。