自分の存在に悩むテンゾウと、
寄り添うカカシのストーリー
ショートストーリーです。
小高い丘の頂から視界の全てに、夜の闇が広がりだしていた。先ほどまで細くはあったがそれでも灯りを感じさせる月と、煌々と輝く星が見えていた。
しかし今は姿を消し、空はただ闇を深めていた。
「夜明けが近いな」
目を細め、そうつぶやいたのは木ノ葉の暗部。テンゾウと呼ばれる忍であった。
最も闇が深くなるこの時間に、見張りの当番でもなくこうして空を眺めていた。
大きな木に背を預けて座り静かに見据える。
恐ろしくもあり、夜明けへの期待を感じさせる空。
なぜだか、自身の過去をいつも思い出させ不安に駆られる。今夜は特に嫌な夢を見たため、その重々しさは増していた。
時折見るその夢には、もう一人の自分が現れて言葉を投げかけてくる。嫌な事を。
それは恐らく自分の中にある疑問であり、不安であり、恐怖なのだろうということは分かっていた。
しかしそれを取り除く術はない。それ故ただため息をこぼす他ないのだ。
「こんなとこで何やってんの」
闇に溶けたため息に声が重なった。
少しの気配もさせずに背後に現れた人物に、振り返るまでもない。
「気配消して来ないでくださいよ。カカシ先輩」
今回の任務の部隊長として就いたはたけカカシ。
若くして才を発揮し続けてきた事で里の誉と呼ばれ、多くの忍の憧れであり、他里へも広く名を馳せている。
テンゾウにしてみても、長く近くでその姿を見てきたがゆえに敬愛してやまない人物だ。
「ちゃんと睡眠はとれ。動きが鈍るぞ」
カカシは静かな動作で隣に座り、同じ様に空を見上げた。
特に何かを話すわけではない。ただ黙ってそこに居続けるカカシに、テンゾウは安心感を覚えながらも先ほどまでの負の感情を消しきれない。
ちらりと横に視線を流す。斜めに装着された額当てに隠され、カカシの表情は伺いしれない。
そういえば、その額当てに覆われたカカシの写輪眼は友から譲り受けた物だと聞いた。
「もし…」
無意識に言葉が滑り落ちていた。
何も聞く気も、何かを話す気もなかったというのに。テンゾウは、しまった…と目を逸らした。
しかし、カカシは何も聞き返してはこない。変わらず黙ったままだ。
その沈黙の中にカカシの優しさが感じられた。
話し出すのを待ってくれているのだと。
不安定な今のテンゾウの心に、それは深く染み込んだ。
忍としてこんな事は聞くべきではないのだろう。それでも聞かずにはいられなかった。
「先輩はその写輪眼がなかったら、どうしていたと思いますか?」
もし。だったら。その言葉は忍にとっては不要な物。常に命をかけた戦いを強いられる自分達には、特にそうだ。
そんな事を考えていては任務の遂行に支障をきたしかねない。疑問も不安も何もない。あるのは任務のみなのだ。
「すみません。変な事聞きましたね」
気まずさを誤魔化すように笑う。だがカカシは真剣な表情でテンゾウを見ていた。
くだらない質問に気を悪くしたのかと、テンゾウはまた「すみません」と繰り返して地面に視線を落とした。
しばしの沈黙の後、カカシが口を開いた。
「何も変わらない。今と同じだ」
「…え?」
向けた視線の先。カカシは空の闇を見つめていた。
「確かにこの眼がある事で、オレは普通では手に入れることのできない力を手に入れた。多くの任務でそれはオレを助け、里を守る力となった」
ゆっくりとテンゾウに視線が向けられる。
「でもな。もしオレにこの眼がなくても、オレは最善を尽くして任務にあたり、里を守る。その為の力を追い求めて己を磨く。命を賭して里を守り抜く。その事に変わりはないよ」
静かな闇の中、カカシの銀髪が風に靡いた。
凛とした佇まいと迷いない言葉。
その美しい様に、テンゾウの肌が粟立った。
なぜこんなにも断言できるのか。思いがけず得たその力に迷い、悩んだ事はないのだろうか。
不安を感じたりはしないのだろうか。
今の自分のように…
「自分の居場所が不安か?」
ギクリ。とテンゾウの胸が音を立てた。
カカシは黙ってテンゾウを見つめたまま動かない。
ただ、待っていた。
テンゾウは幾度か口を開いては閉じ躊躇った。
言葉に出してしまうと、今抱えている疑問や不安が増すような恐怖を感じたからだ。
しかしカカシはただ待ち続けていた。
このまま有耶無耶にする気はないその様子に、テンゾウは観念したように話しだした。
「もし、大蛇丸の実験体でなければボクはダンゾウ様に救われて木ノ葉に来る事はなかった。木遁という特別な力を手にすることもなく、ただ平凡に生きて、先輩に会うこともなく過ごしていたのかと…そう思うと、今の自分がここにいるのは自分の力ではないし、その、なんていうか…」
うまく表せない気持ちに言い淀む。
その先をカカシが継いだ。
「求められているのは自分ではなく、自分のもつ力であって、しかもそれは人から与えられた物。そんな自分に価値はあるのか。」
完全に不安を捉えたその言葉にテンゾウは拳を握りしめた。
木遁という特別な力があるからこそ自分は木ノ葉の里で重宝され、特別な訓練を受け、長である火影や里の上役に目をかけてもらえるのだ。
だがそれは他人から与えられた力であり、それがなければ自分にはそこまでの価値はない。
与えられた物によって得た居場所は、ひどく細く脆く不安定で心細い。
何より安心できるカカシの隣でさえ、自身の力で辿り着いたものではないのだと、それがひどく恐ろしくなるのだ。
「お前ね、何くだらないこと考えてんの」
ため息と共に言葉が吐き出された。
呆れられたかと、いたたまれなくなりテンゾウは唇を噛み締めた。
「お前の体術は大したもんだよ。」
突然の言葉にテンゾウはカカシに目を向けた。
「それに、刀の扱いもクナイのさばきも、棒術も長けてる」
カカシは静かに立ち上がり、言葉を続ける。
「そこにはお前ならではのセンスがあるし、なにより弛まぬ努力がある。忍の価値は術にあるんじゃない。里を守りたいという想いのもとにどこまで努力し続けるかだ」
カカシのその言葉はよくわかる。わかってはいる。
それでもテンゾウには拭いきれないものがある。
「でもそれはボクがたまたま木ノ葉の里に来れたからで、それも柱間様の細胞に適合したからであって…」
そうでなければ自分は一体何者だったのか。そうであった今の自分は一体何者なのか。
「テンゾウ。思い出してみろ。ダンゾウ様はお前の木遁の力だけを褒めていたのか?違うだろ」
テンゾウの記憶が巡る。
「お前の飲み込みの早さ、センスの良さをちゃんと見ていたんじゃないか?」
ハッとしたように顔を弾き上げると、カカシは柔らかく笑んでいた。
「それは、他の誰でもなくお前の持って生まれたお前だけの物だろ。」
「ボクだけの…」
両手のひらを見つめるテンゾウにカカシは話し続ける。
「オレは木ノ葉に生まれて、木ノ葉で育ち、木ノ葉の忍びとなった。だけど、たとえ木ノ葉に生まれていなくても、必ず木ノ葉の忍となり木ノ葉を守るために戦っていたと思うよ。」
木ノ葉を守る忍になるために生まれたからこそ、今こうしてここにいるんだとカカシは誇らしげな眼差しを浮かべた。
「それはお前も同じだとオレはそう信じている。たとえ大蛇丸の実験体でなくとも、柱間様の細胞を引き継がなくとも、木遁が使えなくとも、お前とオレは出会っていたし、お前の才能に上役達は気づいただろうし、お前は木ノ葉の忍となって、今日ここにオレと一緒に任務に来ていたさ」
ひとつひとつの言葉が、テンゾウの心に静かにぬくもりと光を灯してゆく。
「オレとお前の縁は、それくらいの深さがあるとオレは思ってるんだけどね。」
違うか?と問われ、テンゾウは消え入りそうな声で返事を返して頷いた。
「ありがとう…ございます…」
滲んだその声に、カカシは言葉ではなくテンゾウの頭に手を乗せて返した。
そのあたたかさに重なるように、地平線が光を放つ。
柔らかい輝きが守り導くように、2人を優しくし包み込み、長く続いた暗い夜を終わらせた。
木遁が使えるから凄いんじゃなくて
テンゾウ自身が凄いんだよって話。
何があってもテンゾウは木ノ葉の忍になってたと思うし、
カカシと唯一無二の仲になっていたと思う。
そんな気持ちを込めて書きました✨