「もっと頭の良い奴に、水やりを任せてくれないですかねぇ?」
「……フム」
「頼みますよ、ガンガディアさん」
「……そういえば、バルトス殿の所に」
「ウン、あの人間の奴隷小僧の事ですかな、バルトス殿の酔狂の?」
「……バルトス殿は彼を鍛えたいと言っていた、この方法は良いかもしれんな」
「何をブツブツと、ガンガディアさん?」
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――ヒュンケルよ、いかなる戦士、剣士とて、基礎を固めなければ、決して腕は上がらない――
――キソ?――
――そう、そして基礎とは、何もワシや爺と、ひのきの棒をぶつけ合うばかりではないのだ――
――……?――
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「お、重い~!!」
このすっごく縦に長くて、グルグル回っている階段、ボクはそれを、水が沢山入った桶を持って、ひたすら昇っているんだけど。
「……でも、これも!!」
さいきょうの戦士になるためのキソ訓練、魔王様のさいきょうの家来になるためなら。
「苦しくない、苦しくない!!」
まず足腰を鍛えろと、とうさんが言っていたこの訓練、ならば。
「苦しくない、頑張るんだ、ボク!!」
と、ボクは気合いをさらに入れて、階段を駆け上がっていく、と。
リィ、ン……
「おお、ぼっちゃま」
「あっ、モルグさん」
手のベルを鳴らしながら、上から降りてきたモルグさん、このオジサンは、バルトスとうさんの友達だ。
「今日も訓練ですか、精が出ますのぉ」
「この水やりが終わったら、今日もひのきの棒での訓練、お願いします、モルグさん!!」
「御安い御用ですじゃ、ぼっちゃま」
なんかモルグさんはお風呂が嫌いなのか、いっつもくさいけど、それさえ気にしなければ、ボクはこの人の事、とうさんと同じ位好きだ。
「いや、しかしヒュンケルぼっちゃまは腕を上げられた、もはやこのモルグでは勝てませぬわ」
「そ、そんなぁ~」
「いやはや、ヒュンケル様が魔王軍最強の戦士となるのも、時間の問題ですじゃ……」
だけど、ボクは知っている。
――やはり、腕2本だけではそなたには勝てぬか、モルグよ――
――なんの、所詮わたくしは人間であった時も、そして今も卑劣な暗殺者、本気を出した戦士には勝てませぬ……――
ボクが寝つけなかった夜、散歩がてらに、とうさんがよく使う訓練場に行った時、何かバルトスとうさんとこのモルグさんが、お互いに向き合い。
――ワシに何かあったとき、ヒュンケルにこの技を教えてやってくれ、モルグ――
とうさんは剣から、モルグさんはその手にはめた、金属の爪から。
――御安い御用ですじゃ、バルトス様――
何か凄い、グルグルゴウゴウした物を放って、そのあと二人の後ろの壁が、ボコボコと壊れて行ったのを、ボクは見た。
「す、凄い……!!」
そのときは、この二人に気が付かれないように、じっと息を潜めていたボクだったけど。
「これが、本当の、ボクがかんがえている、さいきょうのせんし……!!」
ボクがこっそりと、二人を感動の目で見詰める中で、その後もとうさん達は話を続けて。
――わたくしモルグも、ヒュンケル様のように人間の時に親に捨てられ、忠誠を誓った主にも使い捨てらたのです――
ん、モルグさん?
――捨てられる苦しみは良く解っておりまする、バルトス様――
――……そうか――
――もしもヒュンケルぼっちゃまが見事な青年になったあかつきには、このモルグ、命が尽きるまで仕えとうございます――
――お互い命など、とうに尽きているではないか、モルグよ――
――ハッハッハッ……!!――
親、捨てられる?
「……へんなの、2人とも」
少なくとも、僕の親は目の前にいるけど、大人って、わからないなぁ。
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「フン、遅かったな小僧」
「すいませんオジサン!!」
「またオジサンと言う、お前は!!」
この樹のおじさん、ほとんど顔だけの、身体が地面に埋まったおじさんに桶の水を掛けるのが、ボクの日課。
「明日はもっと早く来い、そして水を、もっと多く持ってこい!!」
「はい、解りましたオジサン!!」
「だ、か、らァ!!」
でも、いつも疑問に思っているんだけど、この首から下が地面に埋まっている、樹のオジサン。
「キギロ様と呼ばんかバカ助小僧!!」
「は、はい、すいません!!」
いったい、どんなツミをおかしたんだろう?
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グゥ、ラァ……
「……あっ!?」
この日、ボクは少し疲れていたのかもしれない。
「わわっ!?」
危ない、ボク縦穴に落ちちゃう!!
フゥ……
「……大丈夫か、少年?」
「あっ、ガンガディアさん……」
この、いつもムッとした顔をしている人が助けてくれなかったら、ボクはこのまま階段から、ナラクの底に落ちていたと思う。
「あ、ありがとうございます!!」
「注意しろ、少年」
その、宙に浮いているガンガディアさんは、そのままその太い腕に抱えたボクを、階段へ戻してくれたけど。
「……」
正直、ボクはこの眼鏡を掛けた人がちょっと怖い。
「……やっぱり、この人みたいにいつも本を読んでばっかりいると、こんな顔になっちゃうのかな?」
だけど、すこし前に。
――精が出るな、少年――
――うん、いつかボクは、とうさんも超える、さいきょうの魔王様の戦士になるんだ!!――
――……そうか、精進するがいい、少年――
と、言った後に。
――……これなら、人間でも食べれるだろう――
――あ、ありがとう、おじさん!!――
アメちゃんをくれた。
――しかし、君はまるで、昔の私を見ているようで――
しかも。
――……実に――
初めて、ボクに笑顔を見せたガンガディアさんは。
――……実に、憧れる――
ポンッ……
二個もくれた。
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「あれ?」
いつもの、樹のオジサンがいない。
「……穴がある、出ていったのかな?」
ファ、サ……
「……ん?」
木の葉っぱ?
「……何か、書いてある」
――バルトスの奴隷へ――
ドレイ?
「ああ、息子という意味かな?」
聞き慣れない言葉だったけど、ボクはそのまま、その葉っぱに書かれた文字を読み進める。
――お前に、このボクの木の枝をくれてやる、いつまでも、ひのきの棒では力がつかないぞ――
「……木の枝?」
そういえば、確かに穴から少し離れた所に、木の枝が転がっている。
――感謝しろよ人間の奴隷、正直今のボクには、この枝1つだけでも、大きな出費なんだよね、キギロ――
「……うーん」
何だか書いてある言葉の意味はサッパリ解らなかったけど、それでもボクは。
「……ありがとう、キギロのおじさん」
と、その樹のオジサンがいなくなった後の穴に、ボクは頭を下げて、お礼を言った後。
「……普通の枝に見えるけど?」
その木の枝を手に取った、けど。
ズゥ……!!
「こ、これ、凄くカチンコチンの上!!」
――……凄く、すっごく重いよ~!!――