またまた時が流れましたが、続きです。今回は前回少しだけ触れていたヒナとアルの過去の物語です。
あれは私がまだ、一風紀委員だった時。……いや、そういうには少し、特殊な立ち位置だったっけ。
ゲヘナの過去の王、『雷帝』の後始末に追われていたあの頃は、今のゲヘナの数倍、いや、もしかしたら十倍以上に治安が悪かったと思う。各地でなり止まない銃声が、真面目に生きる生徒たちに向かないようにするのに必死で、ずっと目に隈があった。
多分、酷い顔をしていたと思う。
『ヒナさん、その、少しだけでもお休みになられては……』
『……なら、私がいない間は誰がゲヘナを守ってくれるの?』
『委員長に頼りましょうよ!適材適所とはいえ、やはりこんなのはおかしいですよ!』
『それが仕事であり、責任だと、彼女は言っていたわ……それに貴女も、もう二日は寝てないでしょう?仮眠ぐらい取りなさい』
『ブーメランです!……分かりました!ならせめて、これだけでも口に突っ込んでって下さい!』
『むぐっ!?……きゅ、急になにするのよ』
『栄養補給もろくにしないようじゃ本当に倒れますよ!?ちゃんとした休暇を取らないようでしたら、せめてこれぐらいの手間はかけて下さい!』
『……ふふっ。ありがとう、アコ』
思えば、彼女とはこのぐらいの頃からの付き合いだっただろうか。私が限界ギリギリでも保っていられたのは、定期的に世話を焼いてくれた彼女のおかげだろう。
今でこそ暴走列車のようだと言われることもある彼女だが、本来はこのくらい気のきく人なのだ。
まぁでも、その程度で解消される疲労ではなかった。結論を語るなら、そういうことなんだろう。
後輩たちには、戦う姿を見せなければならなかった。
先輩方には、もう貴女たちがいなくても私たちはやっていけると言わなければならなかった。
……やはり私は、未熟者だ。多分今戻ったとしても、同じことをすると確信が持ててしまう。
そんな余裕のない状況で日々を過ごしていたある日、予想外の出来事が起きた。
全てとは言わないにしても、ゲヘナの半数程度の不良が結託して来たのだ。
流石に、徹夜4日目の体にはキツかった。
薄暗い世界が、一層その濃さを増していくのを感じた。意識を保つのに精一杯になっていた時
『やめろよ!』
彼に、会った。
だれだろうか?わたしがこれまでたおしたふりょうのひとりだろうか?でもそれなら、なぜわたしのまえにたっているのだろうか?
『……お前、最悪なことしたな。絶好のチャンスだったってのに』
『うるさい!最悪だって言うなら、そっちだってそうだろ!いくら風紀委員が憎いからって、たった一人にこんな人数でよってたかる必要ないだろ!?』
『ゲヘナは初めてか?ならよく覚えておきな。そいつは化けもんだぜ。どんな手を使ってもどんな武器を使っても、それを全部正面から薙ぎ倒してきやがる。それなら、こんな風に弱ったところを仕留めるのが一番賢いってことはバカでも分かる理屈だろ?』
『初めてじゃない!俺だってゲヘナの生徒だ!……確かに、この人は強いさ。一回戦った時瞬殺されたから分かるよ』
『それならどうして止める?そいつにやられたってことはお前もこっち側だろ?』
『……お前らには、誇りってもんがないのか?はぐれ者だったとしても、
『そんな高尚なもん、サツにでも求めりゃいいじゃねぇか。お門違いも程があるぜ?』
……どうして、だれもうたないんだろう?みんなじゅうをもってるのに。
『!……こんなもんじゃ、どかないぞ』
『お前、なんで今撃った?』
『こんな下らない話なんて聞く必要ないでしょ!さっさとやっちまいましょうよ!』
『……少し、待て』
『ひっ!……は、はい』
『それで、誇りだったか?逆に聞くが、お前にはあるのか?そんな大口叩ける大したもんが』
『……俺は、俺たちは、人様と違う道を歩んでる。その過程で迷惑をかけることも沢山あるし、それについては何も言えない。だから、だからせめて、筋ってものは大切にしたい。どれだけ道を外れても、最低限踏み越えちゃいけないラインがあるはずなんだよ。俺はそれを胸に、今を生きてる』
『安っぽい、ありふれた正義感だな。お前こっち側向いてねぇよ。手段を選んでるようじゃ、なんにも手に入れられやしねぇぞ?』
『自分が納得できる道を、俺は歩みたいだけだ』
『そうかい……お前ら、やるぞ』
しょうじき、意識がはっきりとしないけど……今は、たたかうしかない。
『……貴方、名前は?』
『!……陸八魔アル。一応、便利屋68の社長をしてる』
『あぁ、貴方がリストに追加されてた……アル、なんでこんな真似をしたのか分からないけど、戦う覚悟はあるってことよね?』
『……勿論。あんたほど強かないけど、少しぐらい腕に自信はある』
『ふふっ……なら、ゲヘナの治安維持に協力してもらうわよ』
後に聞いたら、それと同じタイミングで小規模の暴動が数十ヵ所で起きていたようだ。他の風紀委員が来なかった理由は、納得できた。
激しい戦いだった。数分は休めたからコンディションは最低から少し上ぐらいになってはいたけど、やっぱり数の力には勝てなかった。
それでも『彼女』が来るまで耐えられたのは……彼のおかげだった。
『はぁっ…はぁっ……もう、限界……』
『……頑張りなさい、後もう少しで……』
『おつかれ~!今、どういう感じ?』
『!い、委員長』
『!?や、やべえ!』
場の空気を変える人というのは、彼女のような人のことを言うのだろう。彼女が登場しただけで不良たちは焦り出し、逃げる者もいた。
『いや~ごめんね。もっと早く私が出るべきだったのに……こんなに遅くなっちゃった』
『……仕方ありませんよ。体、まだ治ってないんでしょう?』
『あ、バレちゃった?』
『だ、誰?』
『へいちゃんヒナ。彼は?』
『その呼び方止めて下さい。……治安維持に協力してくれた、ただの一ゲヘナ生徒です』
『へー……君、風紀委員会に入る気ない?こんだけ戦えるならいい戦力になりそうだし』
『……入り、ま、せん…………』
『あらら、倒れちゃった。頑張ってくれてありがとうね。……ヒナ、彼を連れてどこか安全な場所へ。その後は直帰し、2日間の完全休暇を命じる』
『……委員長、あまり、無理をなさらないように』
『あのねぇヒナ、先輩は後輩にカッコつけるのが仕事なの。こういう時とかこれからとかは、私を頼ってね……今まで動けなくて、本当にごめん』
『……私は、私の仕事をしていただけですから』
『ははっ……ありがと』
言葉を交わした後、私はアルを抱えてその場を去った。背後からは……
『お前らぁ!私の可愛い可愛い後輩たちを痛め付けた罰、払ってくれんだろうなぁ!』
先輩の怒号と、不良たちの声にならない悲鳴が聞こえた。
「う、うーん……はっ!」
「……あ、目が覚めた?」
「な、なんで上にあんたの顔が……?頭の後ろが妙に柔らかい……ひ、膝枕!?」
「まだ寝てた方がいいわよ?急に立ったら危ないし」
公園にて。夕暮れに染まる遊具を木の下から眺めながら、私はアルに膝枕をしていた。
幼いころ見た本に男の人はこういうのが好きだと書いてあったのでこうしているが……私では少々、サイズが足りないかもしれない。
「そ、それでも俺が寝てる間ずっとこうしてたんだろ?陽の傾き具合からどう考えたって一時間以上は経ってる。悪いよ……」
会話が途切れ、静寂が訪れる。特に話すこともないが、このままアルになにもせず別れるのも忍びない。……そうだ。
「……なら、先輩命令よ。後15分はこうしていなさい」
「えぇ……お、俺たち初対面だよな?なんか妙に良くしてくれるな……」
「自分のために頑張ってくれた後輩を蔑ろにするほど、私は落ちぶれてないわ。このぐらい、労りの内よ」
「……なら、お言葉に甘えて」
再び、風の音が辺りを支配した。……しかし、一つ気になることがある。
「ねぇ、どうしてあの時、私の前に立ったの?貴方からすれば、なんのメリットもないじゃない」
「……気にくわなかった。そりゃ、不意打ちとか絡めてとかは常套手段だろうけど、なにも一人相手にあんな…………段々傷付いていくあんたを見て、あんたも無敵じゃないんだと初めて思った。そう思ってたら、体が勝手に動いたんだよ。……多分、あんたが負けるところが見たくなかったんだと思う」
「私が負けるところを見たくなかった?私、そんなに強いかしら」
「自覚ないのかよ……その、なんっていうか……俺がリベンジするまで、あんたは誰にも負けてほしくないんだよ……」
「ふふっ、子供みたいね」
「わ、笑うなよ!」
「……ねぇ、貴方はなんで、便利屋みたいな真似をしてるの?」
「……夢のため。小さい時に憧れた、かっこいいアウトローになるため」
それを語る彼の目は、真剣そのもので。
「心は固そうね……貴方なら、風紀委員会で良い戦力になってくれると思ったのに」
とても、私を支えてほしいなんてことは言えなかった。
「そんなこと企んでたのかよ……いくら誘われても、俺は入らないぞ。でもまぁ依頼って形なら、手伝うぐらいのことはできる。……初回なら50%オフにしとくぜ?」
「検討しておくわ」
「……今後から、是非便利屋68をご贔屓に」
「校則違反者集団を贔屓にはしないわよ。……心配してくれるのはありがたいけど、貴方たちも悩みのタネであることは忘れないでちょうだい」
「うぐっ……」
「ふふっ、冗談よ。……でもそうね、貴方たちはまだ目立ったことはしてない。捕まえても、よくて一週間投獄で自由の身でしょう。それならここで見逃すのも、一つの手かしらね」
「捕まえるつもりだったの!?」
「あっ……」
それを聞いた途端、アルは私の膝から離れてしまった。……待て、何故私は寂しいなどと思っているのだろうか?
「分かったぞ!そうやって優しくして、俺を油断させる作戦だったんだな!残念だったな、途中でボロが出て!」
「そんなつもりじゃ……」
「と、とにかく!体には気をつけろよな!じゃ!」
「行っちゃった……」
(……なんなんだろう、この気持ちは)
「……懐かしいものね」
快晴の空を眺めながら、昔の思い出に浸る。あれから彼とは……まぁ、程々の関係だろう。
(かなり時間がたったけれど……結局、この気持ちの正体は掴めなかった。)
いつからだっただろうか、彼を探すようになったのは。
いつからだっただろうか、彼に妙な感情を抱くようになったのは。
(でも……これだけは確か。私は彼に、傍にいてほしい)
だって、初めてだったのだ。
『やめろよ!』
誰かに、守ってもらったのは。
「はぁ……やめやめ。今日もまた、仕事にとりかかりましょう」
彼女は気づいていない。彼と会う時、必ず風紀委員会に誘っていることを。
彼女は気づいていない。
彼の姿を追うその瞳には、確かな熱がこもっていることを。
どうでしたでしょうか。ここの女たらしアルちゃんはかの風紀委員長もたらし込んでしまっているようです。とても楽しいですね。
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