外道がギルド職員なのは間違っているだろうか?   作:社畜

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正義と正義

 ちょっと昔。

 

「父様、どうデスか!?」

 

 仕事が終わるのをギルドの外でソワソワ待っていたパールはギルドから出てきた養父に駆け寄るふふん、と頭を下げる。

 

「髪型を変えたのか」

「はいデス! 床屋さんにお任せして、とある神様に『昔いた正義の派閥のリーダーそっくり、そのまま豊穣の女主人に行ってみよーぜ』と言われたのデス! 正義の派閥! そのリーダー! 嬉しいデスね! でも、なんで豊穣の女主人? あそこ、酒場デス。私お酒飲めねーデスよ?」

 

 成る程、その神はきっといい性格をしているのだろう。まあ、闇派閥と懇意にしていた程度の商人ですら居場所が分かっているのだ。神なら気付く奴は気付く。

 

「行ってみるか?」

「せっかくの神様からのお勧めなのデス! 人にしろ神にしろ、厚意を無下にしては正義なんて名乗れないのデスよ!」

「じゃあ行こうか。店員さんと話したい時は、裏口とかで待っているといい」

「? 父様、そんな神様じゃないのデスから『シェフを呼べ』なんて言わないのデス。それとも、私が話をしたい人でも働いていればいるデスか?」

「さて、どうだろうね」

 

 

 

 

「げ、彼奴来たにゃ」

 

 同僚であるクロエのそんな声が聞こえた。彼女が嫌がる客となると、『彼』か。

 リューも昔よりはマシになったが、それでも苦手意識は消えない。

 

 民を傷付けず、寧ろ守る側と知りながらもだからと言って敵を苦しめ楽しむ在り方は彼女の親友の在り方を否定しているようで、そんな在り方をしながら彼が浮かべる笑顔は闇派閥(イヴィルス)の狂人達と異なり余りに自然で違和感が強く気持ち悪い。

 

 とは言えやはり悪事を働いているわけではないので、今の自分が何か言える立場でもないだろう。

 

 出来れば会いたくないが。と、店の奥に引っ込もうとするリューはふと紅色の髪が靡くのを見つける。ポニーテールにした、紅く艷やかな、炎を思わせる長髪。

 

「アリ────っ!」

「あり?」

 

 思わず駆け寄ったリューに不思議そうな視線を向けるのは小人族(パルゥム)の少女。突然彼女の親友ではない。

 

 小首を傾げる年相応に子供らしいその仕草は、年不相応に子供っぽいところがあった彼女によく似ていて………しかしやはり見覚えが……………いや、ある?

 

 何処で…………。

 

「…………あ! しっ……えっと、リオ………リューさん!」

 

 パァ、と人懐っこい笑みを浮かべる少女はそのままリューに飛び付こうとして、慌てて止まる。

 

「あぅ………ごめんなさいデス。あの、後でお時間、いただけるデス?」

 

 少々変わった敬語で問いかける少女。

 

「………………仕事終わりに、店の裏でなら」

 

 普段なら断るだろうが、アリーゼを思わせる髪型の少女につい受け入れてしまった。さっき抱きつこうとした姿も相まり、どうにも彼女と重ねてしまう。

 

「父様、なので先に帰っていてもいいデスよ?」

「まあ、お前なら滅多なことはないだろうが」

「え…………」

 

 少女が父と呼んだのはまさかの『彼』。種族が違う。半亜人(ハーフ)だったのだろうか?

 

「しかしよく分かったな。髪色も変えてたのに」

「ふっふっふっ。髪色を変えてるのは解るデスから。なんでだろ、って見たら知ってる顔だったデス」

 

 髪色………【疾風】時代………【アストレア・ファミリア】として活動していた頃に出会ったのだろうか?

 

 自分達が守った誰か、だろうか。本来自分がここにいられるのを知られるのは良くないのだが。

 

「お兄ちゃんのけん、ずっと気になっていたデス」

 

 お兄ちゃん………………兄?

 

「………………………ぁ」

 

 思い出した。

 

 

 

「あ…おに……ちゃ…………?」

 

 復讐鬼となったリューが闇派閥(イヴィルス)の拠点の1つと言う情報を得て出撃した建物。魔法により瓦礫と共にすり潰された死体を呆然と眺める幼女。

 

 闇派閥(イヴィルス)に関わる商人、ギルド職員、冒険者………疑わしき者すら老若男女問わず殺していた彼女がその幼女を見逃したのは明らかに虐待を受けていた傷だらけの有様と、紅い髪色。

 

 彼女が闇派閥(イヴィルス)に堕ちた母と兄に連れられ闇の中にいて、母の願いを叶えようとしない事を兄に叱責されていたと、その後街に流れていた噂で知った。

 

 

 

 

 闇派閥(イヴィルス)の身内と、ダイダロス通りで虐待を受けていた彼女を誰かが拾った、と聞いていたが、クロノだったのか。

 

 なら、彼女が自分に言いたいことは………たとえ闇に堕ちたとしても、家族を殺した自分に対する。

 

 そう思うと、一歩踏み出すことが出来なかった。

 

 

 

 

「遅いデス」

「遅いねえ」

 

 父が買ってきてくれたジャガ丸くんいちごミルク味グレーズかけを食べるパール。

 

「やはり正義の派閥は、私みたいな闇派閥(イヴィルス)の身内なんかを会いたくないデスかね」

 

 ダイダロス通りで正義の名の下に蹴られ殴られ石を投げられた事を思い出しながらションモリ落ち込むパール。と、そこへ………

 

「あの〜………」

「おや、これはこれは。どうしましたか、シル様」

「もう、様はやめてくださいって、何時も言ってるのに」

「私はギルド職員ですから」

「その前にお友達でしょう、私達」

「ははは」

「あれ? もしかして友達と思われてなかった? コホン。それより、リューです」

 

 リューの名を聞きパールが顔を上げる。

 

「ちょっと、勇気が出ないみたいで」

「相変わらず、臆病ですね」

「むむ、いくらクロノさんでもリューの悪口は怒っちゃいますよ!」

「貴方を怒らせると猪が……………いや、最近停滞してますしギルド職員として発破をかける意味でいっそ戦うべきでしょうか? うまくすれば猪をこれから毎日いじめられるように? どちらにしろ、猫達を更にいじめられるのは間違いないですし」

 

 どちらにしろ自分は成長できる、と考えるクロノ。シルはむー、と頬を膨らませた。

 

「クロノさんってば、私と話している時も他の人のことばかり考えますよね」

「貴方のことばかり考えると、殺したくなる(好きになる)かもしれないので」

「いいですよ? クロノさんなら…………まあ、それは今度。今日はあなた」

 

 と、シルはしゃがみパールに目線を合わせようとする。それでも小人族(パルゥム)の子供であるパールの方が低いが。

 

「リューに、何を言いたいの?」

「お礼デス!」

「…………………………おれい?」

「はいデス! お兄ちゃん………兄様を殺してくださり、ありがとうと言いたいのデス!」

「……………お兄ちゃん、なんだよね?」

「はい。闇派閥(イヴィルス)デス。あの時、私、弱くて何も出来なかったデス。あの人が、そんな私の代わりに悪を滅ぼしてくれたデスよ!」

「………お兄ちゃん、なんだよね?」

「? なんで2度聞いたデス。だって悪デス………あ、おねえさんも、思いは正しいという人デス? 思いが正しかろうと、()()()()()()()()()()()デス!」

 

 だから死ぬべきだったのだ、兄は。パールは嘘偽りなく心の底からそう思う。だって、民衆を守るための法がそう定めているのだから

 

「そういう意味では、リオンさんも、ここで働く何名かも捕まえるべきデスが…………まあ父様が見逃すならそういう事デスね!」

「緊急時は戦力として使えるからね。ギルド長も緊急時はここに連絡するよ」

「じゃあいいデス。法とは民を守る為にある、故に絶対。法を敷く父様とロイマン様がここを必要と判断したデスから………だから、気にしないでと言っておいてくださいデス! いつかちゃんと、面と向かってお礼も言うデス!」

 

 

 

 

 

 

 なんて、昔のことを思い出すシル。

 あれ以来パールはリューに会うべくチョクチョク豊穣の女主人に訪れていたが…………。

 

「というわけで、この子を預かってほしいデス!」

「何がというわけで、だい。うちは託児所じゃないよ」

「そこを何とか。憲兵権限で店員の過去を理由に営業停止されたくなければ…………このお店がいろんな意味で安全なんデス!」

 

 最近気づいたけどこの子、結構図太いな。流石クロノさんの娘。

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