「都市伝説解体センター」解体小説 作:一般通過怪異
「そうだねぇ……まあ出来なくはないって感じかな」
「おっ、どっちつかずの曖昧な返事。珍しいんじゃない?」
「それだけ人間は複雑怪奇ってこと。遊希が考えてる何倍もね。メンタリストって職業があるように、実際に対面してリアルタイムに表情の変化や仕草・声色を観察しながらだったら、今何を考えてるかとか次になんて発言しそうかを予測するのは難しくないけど、全部を予想してソレに合致した対応を準備するってなると難易度は跳ね上がるよ。今じゃなく未来の、その“会話”をしてる時の環境や心理状態まで考慮しないといけないから」
「あー。機嫌が悪い時は何気ない一言でも妙に癇に障るみたいな?」
「おおよそその考えで合ってる。だから会話をする状況の
「うわ。すっげえめんどそう」
「“めんどそう”じゃなく普通に面倒くさい。もっと効率のいいやり方はいくらでもあるし、それでも
「とりあえず俺がその悪戯のターゲットにならないことを祈るわ」
「それは大丈夫……もうやったから」
「えっ嘘いつ?」
「――っていうのは冗談」
「ビックリした! 歩の冗談はトーンがマジ過ぎて分かりづらい……歩? なんでそっぽ向きながら笑ってるの? なあ? え、待って、どっち!? 別に怒ってるとか文句言うとかなく、純粋にどっち?! 歩!? ――歩さん!?」
あれからお団子頭の女性、
そのまま駐車場まで移動し乗り込んだ車――あんまり車に詳しくないから、いわゆる「バン」って呼ばれる
「――それじゃあセンター長さんと「ジャスミンさんの上司の方」が
聞いた話をまとめて、助手席から問いかける。初対面の人間が隣にいるのは邪魔かと思ったんだけど、後ろの座席に何か荷物が置かれてて美桜と二人では座れず、ジャスミンさんも「特に気にしない」って言ってたので、ひとまず私が助手席に座っていた。
「んまぁ、そういうことだね。ちょうど仕事もひと区切りした時だったからタイミングよかったってのもあるし、そこまで負担には思ってないから、別にそのあたりは気を使わなくてもいいよ。代わりと言っちゃなんだけど、あたしがやるのは二人の“送迎”と“付き添い”だけで「都市伝説解体センター」だっけ? そのチャンネルの撮影とか調査は手伝わないから、そっちは“そっち”で頑張って」
「あ、はい。そうなんですね……手伝ってくれないんですか?!」
遊希さんの代わりで来てくれたって聞いてたのに!? 思わず声をあげて、ジャスミンさんのどこか気だるげな表情を凝視してしまう。
「そりゃあ都市伝説とかオカルトなんて
「私たちも別にプロってわけじゃないですよ! 「アルバイト」っていう
「あー、基本はそのセンター長と「遊くん」、平坂遊希ってのが動画のメインで、時たま「お兄さん」こと如月努って人が解説とかやってるんだっけ? けどこうして現地に向かって色々聞いたり調べたり立派に“調査員”的な活動して、実際に都市伝説の真相を解明したりしてるんでしょ。ならもうプロを名乗っても全然おかしくないっしょ」
「いやいやいや! センター長さんや努さんたちの知識や熱意には全然敵いませんし、そもそもプロになりたいわけでもないです!」
「そうですね。私もおまじないとかジンクスくらいならともかく、本格的なオカルトはちょっと……」
美桜と二人で否定するけどジャスミンさんは真剣に取り合ってくれる様子はなく、気のない声で「ふーん」と呟くだけだった。
「まあ当事者たちがそう言うならそれでもいいけど。どっちみちあたしって“君ら”の具体的な活動方法というか、動画は「見る専」で「作る側」の“動き方”知らないから、そういう意味でも役に立たないと思うよ」
「そうなんですか? わざわざ助っ人をお願いされるぐらいだから、てっきりセンター長さんたちみたいにオカルトとかが好きで、動画編集やPC作業が得意な人なんだとばかり」
「だから“そっち”は専門外だって。さすがに手伝いを依頼された時に“君ら”やチャンネルのことは
「えぇえっ!? 行先だけって……じゃあそこでどんな依頼があって何を調べるかっていうのも……?」
「聞いてないねぇ。だから言ってるでしょ。戦力外と思ってって」
そんなぁ……それってつまり、今回の調査は本当に私と美桜だけで進めないといけないってことですか、センター長さん?
確かに今までも都市伝説の調査に関わったことはあっても、主体になってたのは遊希さんやセンター長さんたちだったのに。全然自信ないですよお!
~~~♪
っ!! ビックリした……って。
「あっ――もしもしっ
『――どうも、あざみさん。無事“彼女”と合流できたようでなによりです』
急なスマホの着信音に驚いたけど、番号を確認すればまさに顔を思い浮かべていた人の名前だった。
すぐさま応答をタップすれば、こっちがどれだけ慌てているか分かってるのか分かっていないのか。いつもの落ち着いたあるいはマイペースな声色が聞こえてきた。
この声の主こそ私たちのバイト先の上司、みたいな人である
とっても頭が良くて
「もうっ、もうっ! なんでいつも肝心なことを私にだけ教えてくれないんですか!? 急に遊希さんが来れなくなったこととか助っ人のジャスミンさんのこととか! それにせっかく来てくれたジャスミンさんにも全然説明してないってどういうことですか?!」
『――それに関してはすみません、完全に“こちらの事情”です。些か
「あ、そうだったんですか。それはお疲れ様ですけど……でもやっぱり私と美桜だけで都市伝説の“取材”とかじゃなく“調査”なんてとても無理です!」
『――あざみさん、あまり自分を卑下するものではありません。これまでもあなたや美桜さんが集めてまとめてくれた資料は考察や動画作成などで大変役に立ちましたし、何よりあざみさんの持つ「あのチカラ」を駆使すれば、必ずや今回の案件でも結果を出すことが出来ると信じていますとも』
「信頼してくれるのは嬉しいですけど……」
確かに私には「
『――それからあざみさん、すみませんがこの通話を
「スピーカーですか? ジャスミンさんは運転中なので、一応確認しますね」
「聞こえてたし、あたしは大丈夫。ビデオ通話じゃないなら普通に話してるのと
「大丈夫だそうです」
『――ではお願いします』
声が大きかったのか会話が聞こえてたみたいで、尋ねる前に答えられてしまった。ちょっと恥ずかしいけど自業自得なので、ひとまず指示通りスピーカー状態にする。
『――それでは、改めまして止木休美さん。「都市伝説解体センター」でセンター長を名乗らせてもらっている“廻屋渉”です。よろしければ私もジャスミンとお呼びさせていただいても?』
「うん? ……別に構わないけど」
『――ありがとうございます、ではジャスミンと。代わりにと言ってはなんですが、差し支えなければぜひこちらも「センター長」と呼んでください。実はお互いを“愛称”で呼び捨てあう関係というものに憧れていまして』
「あ、うん、ならセンター長って呼ばせてもらうけど……」
ジャスミンさんが少し困惑した声で、曖昧な笑顔を浮かべている。かくいう私もセンター長さんがそんな密かな
『――そして美桜さん。いつもこちらの無理なお願いに応じてもらっているのに突然の予定変更に加え、さらにあざみさんへの説明もお任せしてしまいすみませんでした』
「えっ!? あっ、いや……私は全然、大丈夫ですけど……?」
『――そう言っていただけると助かります。ひとまず今後の予定について私のほうから説明しますので、美桜さんも併せて聞いてください』
「……あ、はい。わかりました」
突然話を振られたからか美桜もかなりビックリしたみたいで、私の持ってるスマホに視線を向けてきたけど、すぐに“納得”して説明を聞く姿勢になった。私もそうだけど、なんだかんだセンター長さんって喋り方や言葉選びが上手だから、つい言う通りにしちゃんだよね。
『――それではあざみさんと美桜さんは把握していると思いますが、ジャスミンへの説明も兼ねて今回の経緯をおさらいしましょう。簡単に済ませますので、どうぞご清聴を』
『――まず我々「都市伝説解体センター」は古今東西問わず様々な「都市伝説」を調査していますが、基本的には私を始め
「うん、そこまではあたしも聞いてる。んで、その依頼ってのはどんなものなわけ?」
『――さて。その依頼の具体的な内容ですが…………簡単に言ってしまうと「天使」の調査です』
〇〇県
そして到着した目的地も当然日本家屋――ではなく、ちょっとミスマッチで少しレトロな西洋風の館だった。
「うおぉ……デッカ。え、なに? 依頼人ってそんな金持ちなの?」
普通の塀ではなく格子状の柵だから敷地外からでも館の外観や大きさがよく分かるのもあって、待ち合わせ場所である館の正門前に一旦車を停めたジャスミンさんが、感心したような呆れたような声を漏らしていた。
「えっと。事前に聞いた話だとここは依頼人の
「はあー。でもこんだけの館持ってるようなじいさんが身内にいたなら、結局その依頼人も金持ちなんじゃないの? いや、まあ別に金持ちだろうがどっちでもいんだけど「
「それは大丈夫だと思いますけど……」
「あっ。依頼人
「え? 本当だ! 行かないと!」
美桜の言う通り、私たちと同じく門の近くに車が停められ、聞いていた通りの様相の人たちが降りてきたところだった。
慌ててこちらも車から出て駆け寄っていくと、二人のうちの一人、少しパーマの入った長めの髪の“女の子”が表情を「パァァ」と輝かせながら駆け寄ってきた。
「こ、こんにちは。私たち都市伝説解体センターの……」
「その声「あざみちゃん」ですか!? ってことは、そっちのお姉さんは「桜ちゃん」!? うわぁあ、本物だあ!」
「え?! あ、うん……え~と、知ってるみたいだけど、私が都市伝説解体センターでアルバイトをやってるあざみで、こっちのお姉さんが……
「こんにちは。“桜”です。よろしくね」
「よろしくお願いします! 本当に来てくれてすっごい感激です!」
可愛らしいワンピースの女の子が、興奮しながらキラキラの大きな目で真っ直ぐに好意を向けてくる。別に芸能人でも何でもないのに、ここまで喜ばれるとさすがにちょっとむず痒くなっちゃうな。
「あれ? センター長と遊くんは? TKCチャンネルの調査って、いつもあの二人が一緒じゃないの?」
「あ、ごめんね。センター長さんたちは他にやらないといけないことがあるらしくて、今回の調査は私たちだけなの……」
「そうなんだー残念。でもあざみちゃんと桜ちゃんが出てる配信も好きだから十分嬉しいよ! って、あっちのお姉さんは?」
「えっと、むこうのお姉さんは今日私たちをここまで連れてきてくれた運転手さんだから、配信には出ないんだ」
「ふーん」
何と言うか、すごく“ぐいぐい”来る子で、私も美桜もちょっとタジタジ。そんな私たちを見かねたのか、一緒に来ていた同じく少しウェーブの入った長髪の女性がたしなめてくれる。
「こら
「あっ! ごめんなさい――
「母の鳩泊
「いえいえ! こちらこそ
元気いっぱいの娘さんと、シックで上品な洋服を着こなすおしとやかなお母さん。正反対に見えるけど二人とも少し垂れ目なところとか、胡桃ちゃんもなんだかんだ礼儀正しいと言うか、育ちの良さがが垣間見えるって感じで、きちんと親子だって分かるな。
それにしても「都市伝説解体センター」ってオカルト系で、しかもセンター長さんや努さんたちがいわゆる「ガチ勢」って呼ばれる人種だから、かなり“ディープ”な配信も多いし同じオカルトやホラーが好きな大人が視聴してると思ってたけど、胡桃ちゃんみたいな子供も見てるんだ。
意外に思ったので、そのあたりのことをちょっと
「んーあたしも最初は全然知らなかったけど、クラスの子たちが話してるのを聞いたり、タイムラインに乗ったりもしてるから試しに見てみたらすっごい面白くて。だからすぐにファンになっちゃった! 特に「
それからもTKCチャンネルの「ココが面白かった」「あの話がすごかった」と真っすぐに伝えてきてくれる胡桃ちゃんに、嬉しいやら恥ずかしいやらで、頬が熱くなるのを感じる。美桜もあまりの勢いに苦笑してるし……あっ。無関係だからってニヤニヤ笑わないでくださいよジャスミンさん!
ちなみに胡桃ちゃんの言っている「コトリバコ」っていうのは、なんでも子供の指を詰めた、ってそれだけで怖い!
とにかく! 作り方からして怖い危険な“呪物”で、それらしい箱がフリマアプリに出品されてると話題になり、興味を持ったセンター長さんたちが調査を進めていった結果、その「コトリバコ」自体はちょっと模様が不気味なただの茶箱だったんだけど、それを出品していた西谷さんって人があんまり良くないやり方で商品を集めてたみたいで。
「
「胡桃。お話はそれくらいにしないと日が暮れちゃうわよ? お姉さんたちを
「あ、ごめんなさい! つい!」
「あはは、大丈夫だよ――あっ、そうだ。もし問題なさそうだったら、先に調査資料用として外観とかの写真を撮らせてもらってもいいですか? もちろん勝手に動画とかSNSに挙げたりしませんから」
「ええ、構いませんよ」
由枝さんから許可をもらったのでひとまず正門前から一枚と、横からも撮っておこうと
「こら! お前ら何してる!!」
「ひゃっ?!」
突然怒鳴り声が響き思わず肩が跳ねる。慌ててそちらを振り向けば道の向こうから背の高い男の人が早足に近づいてきているけど、な、なんでそんなに怒ってるのぉ?!
「え、あの、そのっ?!」
「まったく! 最近の奴らはすぐSNSだなんだと……とにかく! すぐに撮った画像を消すように!」
多分元から釣り目なんだろうけど、上から睨みつけてきてるから余計に威圧感がある! って、ひょっとして私たち、面白がってネットに写真をアップしようとしてるって思われる?! どうにか誤解を解かないと……!
「
「鳩泊さん……お知合いですか?」
「お姉ちゃんたちは「都市伝説解体センター」の人たちだよ! 前もって園出さんにも教えててたでしょ!?」
何を言おうかと空回りしている間に、由枝さんと胡桃ちゃんがそれぞれ庇ってくれる。ただ腕に胡桃ちゃんが抱きついてきてちょっとバランス崩れちゃったけど、それよりこの人ってやっぱりこの家の関係者?
「えっと、由枝さん? こちらの方って……?」
「ああ、ごめんなさい驚かせてしまったわよね。この方は園出ハブ彦さん。生前の父が身の回りをお世話をお願いしていた人で、今も一部館の管理なんかをしてくださっているの。園出さん。こちらの方々は娘が大ファンの配信者さんたちで、先日お話していた通り、娘が見た“人影”を調査しに来てくださったんです」
「配信者ですか? 事前に聞いた話だと、てっきり興信所の人たちかと思っていたんですが……」
うっ。さっきまでのような怒っている様子はないけど、思いっきり不審そうな表情で私たちを見てくる。まあ確かに「都市伝説解体センター」なんてちゃんとした名前に聞こえないかもしれないけど、活動内容そのものは意外に
「あ、あの、始めまして! 私「都市伝説解体センター」のあざみって言います! 決して怪しい者ではないので、安心してください!」
「いや、それって思いっきり“怪しい者”の自己紹介じゃない?」
ジャスミンさんが後ろでボソッと呟くのが聞こえるけど、確かにその通りかも!?
「そうだよ! あざみちゃんも桜ちゃんも、ここにはいないけどセンター長も遊くんも、皆面白くていい人だよ! さっきの写真だって調査のために必要だから撮ってただけで悪いことはしてないし、ちゃんと私やお母さんも良いよって言ったんだから、何も問題はないでしょ?!」
「……胡桃さん。確かにいきなり怒鳴ったのは悪かったかもしれませんが、元はと言えばあなたの発言がきっかけで、ああした不躾な人間が多くなったわけで……」
「だからお姉ちゃんたちに、私の言ったことが嘘じゃなかったって調査しに来て貰ったんだよ!」
「胡桃、あんまり大きな声を出さないの」
「……はい、お母さん」
……なんだろう。胡桃ちゃんが私たちを擁護してくれるのは嬉しいけど、それとは別に気になる会話がある。と言うか、この二人って前から知り合いみたいだけど、あんまり仲は良くないのかな?
そうして色々と気がかりなことが残ったまま、ひとまず由枝さんのとりなしで、私たちは改めて館の中に足を踏み入れることになった。
作中で登場する名前・地名などは全て捏造です。現実に存在するいかなる人物や名称とも関係ありません。
・西谷
自称「お宝ハンター西ちゃん」。ただしやってることはほとんど盗人。
原作改変により「運命の出会い」はなくなり、バタフライエフェクト的なもので“商品調達”の順番も変わったことであえなく御用に。元々
・遊くん
如月兄
・運命()の人
さすがに遊希も細かいところまでは覚えていなかったので「運命」云々については知らない(知らぬが仏)。
しかしソレがなくとも将来的に“お世話になった思い出の場所”を荒らす可能性があるとして、早めに“対処”することに。慈悲はない。