『少年少年。知ってる?実は私の長い耳って実はちぎれるパンなんだ。ほら、柔らかく無い?』
「……柔らかい」
『ねえ、少年。実は魔王って世間で恐れられてるほど怖くないって知ってた?マジマジ。泣き虫でか弱くて一人ぼっちになったら死んじゃうらしいよ。少年でも倒せるかもね』
「……そっか」
『知ってた?昔の人間には耳も付いていて、尻尾もあった。さながら、今の獣人みたいな姿だったんだ。じゃあなんで今はその姿じゃないのか、それはね……』
「うん」
『食べちゃったんだ。昔は食糧難で食べる物も無くて、酷い時なんて片足を食べた人もいるぐらい。今はそれほどじゃないけどね』
「今よりも、もっともっと辛い時があったんだな」
『皆今が辛いって口揃えて言うけどね。一番辛いのはそれを乗り越えた先なんだよ』
別にそれを言わなきゃいけない理由は無かった。しかし、口下手な彼女が異性(子供)と話すにはそれしか無かった。
だから、長年の知識が詰まった脳みそを必死に動かした上で今日も彼女息を吸う様にカスな嘘をつく。
『おはよう。突然だけど、魔物はね魔王が産んだって言われてるの知ってる?もっと詳しく言うとね、魔物は──』
『今日もまた一人なんだ』
最近いつもの場所にいると、お姉さんが話しかけて来る様になった。お姉さんはエルフだからか耳が普通の人より長い。その耳は実はパンで出来ていて、凄いお腹が空いた時になると火事場の馬鹿力で引きちぎれて美味しく食べる事が出来るらしい。前触らせてもらった時、凄い柔らかかったのを覚えてる。
親は魔王の部下の魔物に殺された。今は親戚の家に居させてもらっているけど、それだけだ。ご飯を出して貰って、いさせて貰って寝かせて貰って。それ以上何かをして貰う訳には行かない。夜が怖くて一人で眠れないなんて、言える訳が無かった。
「一人で寝ると、そのまま起きれなくなりそうだから」
……言うつもりも無かったのに言葉が先に飛び出した。
『へぇ』
お姉さんはそれから何かを言うまでも無く、黙っていた。それを見習って、俺も黙っていると。
『少年。夜ってさ、暗くて黒くてなんか吸い込まれそうな感じがしない?』
「?」
『分からないか。私はその感じが好きでね、闇魔法を覚えたんだ。そんな力があれば最強だと思わない?ありとあらゆる物を吸い込む黒い魔力。闇の引力……』
「闇」
『光に当たれば、たちまち消えてしまう様な弱く儚い黒。それが空一面に塗られた夜は、私は好きだなぁ』
そう言って愛おしそうに夜空に手を広げるお姉さん。
それを見て。
「そっか」
俺はそう言う事しか出来なかった。そして、俺とこの人は違うんだなと思った。