それは、自分もリフレクターとして戦ってみたいという、そこそこ無茶な相談であった。
*BLUE REFLECTION TIE/帝の二次創作です。
*ネタバレ要素が多いため、帝プレイ済みの方推奨です。
*この作品はリフレクター合同誌に寄稿した小説を手直ししたものとなります。
「金城勇希魔改造計画……始動ッ!」
ある日、勇希が前触れもなくそう宣言した。
雫世界の住人全員が揃った、なんてことないただの夕食時での事である。
隣の席の伶那は勇希を『またはじまった』とでも言いたげに眺めている。実際、勇希はろくでもないことを考えているのだろう。テーブルについた全員も同じ想いを抱いていた。
「金城勇希魔改造計画……って、何?」
いつもならばノリノリで勇希の悪知恵に乗っかる愛央も、今回ばかりはさすがにノれなかったらしい。訊ね方もためらいがちだった。
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれた……。金城勇希魔改造計画とはすなわち! この勇希ちゃんを魔改造して、めーっちゃ強くしちゃおうって計画なのである!」
「付け足された情報が少な過ぎない……?」
「星崎さん、あんまりまともに取り合わない方が良いよ」
「ちょっとー! 伶那も真面目に聞いてよ!」
「真面目な話が始まったら聞いてあげるつもりだけど?」
金城勇希と宮内伶那は、恋人同士である。
雫世界にやってくる前からの友達だった二人は、こちらの世界で再会してから更に絆を深め、現在に至る。
校内では時折、初々しく手を繋いで歩く二人の姿が見られるほどなのだが……勇希が何かおかしな提案をした時などに見せる伶那の呆れ顔や塩対応などは、特に以前の関係から変わることはなかった。
「うーん……勇希ちゃんを魔改造って、どういう感じなのかなぁ……名前からしてやっぱり、学校魔改造計画みたいな……?」
「ふむ。きらら的には変形機能がついていた方が良い。肌が裏返って中から機械のボディーが見える感じのやつ」
「あ、それ良いねぇ! けど美少女が変形するならやっぱり翼がないといけないっていうか、できることなら翼っぱいパーツは生やした方がベストだよね!」
「さすが愛央。ロマンをわかっているな」
「えーっ!? 勇希ちゃんって変形できるの!?」
「陽桜莉、収拾がつかなくなるから乗っては駄目よ……」
「あ、なんだ嘘かぁ」
伶那は変形できてたまるか……といった目で陽桜莉を見つつ、結局自分が言うしかないのかと覚悟を決めた。
「……それで? 金城勇希魔改造計画って具体的に何するの?」
「よくぞ聞いてくれた伶那隊員……」
「勝手に隊員にしないで」
「まぁ別に難しいことはなんもなくてさ……あたしって今のところ完全に非戦闘員じゃん? だから戦えるようになろうと思ってさー」
非戦闘員。そのワードに真っ先に反応したのは、平原美弦だった。
「確かに皆の戦闘に参加できないもどかしさは私もよくわかるけど……実際にリフレクターとして変身できない以上、サポートに徹するしかないんじゃないかしら……きららや詩もそうしているわけだし」
「そうですね。戦闘後の手当や採集などできることはありますから」
「うむ。アイテムを製作することもクラフト系ゲームの大切な仕事。きららはそういう地味な作業も嫌いではないぞ」
平原美弦、駒川詩、久野きらら。彼女ら三人もまた非戦闘員である。
美弦と詩は元リフレクターであったが、雫世界に来て力を失ってしまった。きららはリフレクターとは少々異なりイローデッドと呼ばれる姿に変身できていたが、やはり雫世界に来るまでの間の無茶が祟り、力が封じられている状態だ。
非戦闘員は勇希以外にも多い。だからというわけではないが、ここにいる少女たちは誰も戦えない者を疎んだりはしない。皆が皆、それぞれにできることを行い、支え合って暮らしている。今更になって勇希が非戦闘員であることを歯がゆく思う必要など無いのだが。
「いや、シンプルに戦ってみたいんだよ! あたしは!」
「……はあ?」
「もうこの雫世界でやることもさ、オリジンに想いを届けるところまで来たわけじゃん? 今は皆がここでやり残したことをひとつひとつ見つけて片付けてるとこじゃん? けどさ……あたしにとってやり残したことは……そう! リフレクターになることなんだよ!」
「いや意味わかんないんだけど」
全員の感想が伶那と同じだったようで、皆あまりピンときていない顔をしている。
「ぐぬぬ~……あたし以外の非戦闘員もなんだかんだ現実世界では戦えてたからいまいちわかってないんだよ……! 変身してバトルすることに対する、あたしのこの強い憧れがっ……!」
「あっ、そう言われるとピンときたかも」
「わかってくれるかね、愛央隊員……!」
「わかる……そうか、そうだよね……私も最近は当たり前になってたから忘れかけてたけど、乙女なら誰しも変身してモンスターと戦ってみたくなる願望はあるよ……誰だってモンスターを倒すときの必殺技の台詞とか、倒した後の決め台詞とか温めてるもんね……」
「え? いやあたしは別に台詞とかは特に決めてないけど」
「星崎さん、台詞ってなんですか? そういうの考えてたんですか?」
「ぐはっ!」
黒歴史の地雷を自分から踏み抜いていった愛央をよそに、傍らで静かに話を聞いていた白井日菜子は唸った。
「うーん……けど指輪の力で変身できないとなると、戦う方法は無いんじゃないかな」
「ユズもなんとか戦う方法がないか調べたけど、結局見つからなかったしねー……」
「ライムも。……でも今のところ戦闘要員には困っていないし、真剣に考えたことはなかったかな」
「やっぱり二人もそうだよね。うん……でも大丈夫だよ、勇希。勇希の想いはいつも私たちと一緒だよ。戦闘要員の私達が、ちゃんと想いを剣に乗せて……」
「いやそういうのじゃなくて!」
「ええっ?」
「いや日菜子の気持ちはすっごい嬉しいんだけど……! ほんとこう、誰かに想いを託すんじゃなくて、あたし自身が武器を持って戦いたいっていう……欲があるんですよ……! 勇希ちゃんには……!」
「ヒナちゃんのこの流れで駄目なことあるんだ」
「ゆうきち、よっぽど戦いたいんだねー……」
勇希は変身して戦いたい。が、彼女も本格的に戦力になりたいと思ってそう言っているわけではない。
これまでに少女たちの戦いを見て、それが一筋縄ではいかない戦いばかりであることはよくわかっている。これから未知の場所に行って、あるいは未知の敵と戦うことにもなるだろう。そこで自分の付け焼き刃の戦力で通用するとは思っていない。
勇希の願望はあくまで、それっぽい変身をしてそれっぽい攻撃をしてモンスターを倒してみたいという、そんなインスタントな体験をしてみたいというものでしかないのである。
「というわけで皆さん……あたしに知恵を授けてくださいっ!」
「……面倒くさそうなことになった」
「あはは。けど、ちょっと面白そうなのです」
「だね! よーし、せっかくだしいっちょ真剣に考えてみますか!」
「……結局みんな乗り気になるんだから、もう」
伶那のため息をよそに、金城勇希魔改造計画はなんとなくのノリでふわっと承認されたのであった。
「作戦その一……武器を借りる!」
「借りるってどういうこと?」
校舎裏に設置された木人を前に、勇希と伶那が並んで立っている。伶那は興味があってここにいるというよりは、勇希が危なっかしい事をしないよう監視役としているようであった。
「ふっふっふ、借りるというのはだね……陽桜莉先生! どうかリフレクターの剣を一本貸してください!」
「剣? うん、良いよー! あ、こっちはお姉ちゃんのだから、はい! こっちの私の使ってね!」
「ええ!? 普通にそうやって借りるの!?」
作戦その一。文字通り武器を他人から借りる作戦である。
陽桜莉は変身時の武器として、リフレクターの剣を二本生み出すことができる。フラグメントを姉の美弦と共有している影響らしい。
「この剣、日菜子もほとんど同じデザインのやつ持ってるけどさ、透き通ってて綺麗だよねー……名前とかあるの?」
「名前はねえ、ミゼリコルドっていうんだって! AASAではそう呼ばれてるみたい」
「おおー……なんかかっこいいじゃん……」
「ミゼリコルド……慈悲とかそんな意味だったかな……? 私もAASAの資料で見た気がする」
「伶那のはフラフープだもんね」
「フープね。リフレクターによって武器は変わることも多いから」
「勇希ちゃんが持ってみたら変身とかできちゃったりして! ほらほら、使ってみて!」
「陽桜莉さんは大事な武器をよくそう軽々と貸せるよね……」
剣……ミゼリコルドを受け取った勇希だったが、柄を握った時点で体がふらついた。
「お、おわぁっ!?」
「ちょ、ちょっと勇希!?」
「わー! 勇希ちゃん大丈夫!?」
取り落とされたミゼリコルドが澄んだ音を立て、地面に倒れる。
「お……思っていた以上に重い上に……なんか握った瞬間にピリッと来たんですけどー……!?」
「あれー? そんなに重くはないはずなんだけど……」
地面に倒れた剣の柄を再度握ってみようとするが、やはり重い。
現実離れした重さではないのでどうにか持ち上がりはするのだが、これを振って戦おうとなるとまず無理だろう。何より……。
「んーやっぱこれピリピリする……!」
「ピリピリするの? 私はそんなことないけどなぁ……あ、もしかして私にも仁菜ちゃんみたいな力が……?」
「……AASAに居た頃は、リフレクターの武器は本人じゃないと扱いにくいとは言われてたけど、なるほどね……持ち主は軽々と持てるってわけか。ピリピリするっていうのも、拒否反応が出てるのかもね」
「あたし……陽桜莉に拒絶されてる……?」
「ち、違うよ!? 全然拒絶なんてしてないよ!? 信じてー!」
「こら、勇希! 陽桜莉さんをからかわないの!」
「あ、なんだ冗談かぁー」
「ごめんごめん」
ともあれ、剣はどうにも難しそうという結論に至ったのであった。
「作戦その二……武器を借りる!」
「その一からナンバリングされてたからなんとなく来るとは思ってたけど……ていうか、作戦が同じじゃん」
「ちっちっち、甘いね伶那は。今回は一味違うよ……ヘイ! こころ先生カモン!」
「はいなのです!」
「今度はこころか……」
ニコニコと妙に楽しそうにしているこころが現れた。なんだかんだ言って、こころはこういった遊びが好きなタイプなのであった。
「そもそもあたしの運動神経で剣はハードルが高いなーとは薄々感づいていたので……こころの銃を使わせてもらうことにした!」
「うーん……まぁ、剣で危なっかしく戦うよりは安心だし……合理的でもあるかな……」
「やっぱ遠距離攻撃でしょ!」
「とりあえずリフレクターの武器を出せばいいのかなぁ?」
「お願いします!」
「はーい」
そう言ってライフル銃を生成し、勇希の前に差し出されたわけだが……。
「……うお、でっっっか……」
「改めてまじまじと見てみると……靭さんの使ってる銃、かなり長さがあるよね」
「そうだなぁ……私の身長よりもちょっと長いくらいだから……百七十くらいはあるかも?」
「なっっっが……」
「いやこれ勇希には無理でしょ」
「い、いや! 私遠距離武器ってキャラだし! いけるかもじゃん!」
「どんなキャラだ」
「えーと、じゃあとりあえず銃を私が持ってるから……勇希ちゃん、ここから持てるか試してみる?」
「う、うん」
こころがライフル銃を両手で持ち、それを受け取るような形で勇希が手を添えるが……。
「あっ……これ無理なやつ……陽桜莉の剣より無理……」
「見るからに重量ありそうだもんね」
「重くないのです」
「生み出した靭さんにとっては重さを感じないんだろうけど……それにしても、これを片手で扱えるのってすごいよね」
「うーん……勇希ちゃんには難しかったかぁ……役に立てなかったみたいでごめんね?」
「いや! スナイパーみたいに伏射の体勢だったら重さは関係ないからいけると思う!」
「諦め悪いなこいつ」
勇希が地面に伏せて、こころの銃を構える。この体勢であれば辛うじて銃を構えることが可能であるようだった。しかし……。
「……やっぱり手がピリピリするぅ……」
「うーん……靭さんの武器でも拒絶反応は出てくるんだ……」
「私、別に勇希ちゃんを嫌いになってないからね……?」
「あたしもだよ……うう、でもこのピリピリは厳しい……あとスコープとかがないと全然狙いがつけられない……スナイパーみたいな体勢してるのに……」
「そもそもモンスターがいるのにそんな格好でいたら危ないでしょうが……作戦失敗、はいはい、終わり」
「残念なのです……勇希ちゃん、せっかく射的の練習して上手になったのにね」
「うう……ごめんよこころ……」
これほど仲が良くても武器を持てないのだから、他人の生み出した武器をどうこうするのは諦めるべきだろう。伶那はそう思って、なんとなく憂鬱なため息を吐いたのだった。
「作戦その三……サポートキャラに徹する!」
「……サポートって……つまりどういうこと?」
「それはだね伶那隊員……」
「それはきららが説明しよう」
どこからともなくきららが現れ、彼女らしい分かりづらいドヤ顔を浮かべてみせた。
「リフレクターの武器はどれも重い……頭脳派のきららや勇希には最初から荷が勝ちすぎているのだ。だから、いっそ軽い武器を使って補助に回ればよい」
「言うほど頭脳派ポジでもないでしょ……」
「軽い武器っていうと?」
「はい、爆竹」
「……爆竹かぁー」
きららの手から渡されたのは一般的な爆竹である。
製作で花火と一緒に作ったことがあるので、勇希もよく知っている。学校で派手に爆発させて伶那に怒られたのは記憶に新しい。
「モンスターに投げつければびっくりして動きが鈍くなるぞ」
「そういえば爆竹はモンスターに使ったことなかったなー……なんか別の爆弾はみんな使ってた気がするけど」
「特殊な効果を持ったボムはたまに使うけど、本当にたまにだよ。持ち運ぶのも大変だし、戦闘の控えにいる子が隙を見て強敵相手に……ってくらいじゃない?」
「伶那から見て実用性はあるんでしょ?」
「それはまぁ……あるけど」
「おおー! だったら試す価値はアリじゃない!?」
「うむ。場外から爆発物を投げる様はさながらみそボン……きららもちょっとやってみたくなってきた」
「乗り気な奴が増えた……」
頭が痛そうな伶那をよそに、勇希ときららは両手いっぱいの爆竹を構えて木人と向き合った。
「あ、でもこれ離れて投げなきゃ駄目か」
「うむ。我々支援攻撃役の距離は、戦闘要員のずっと後ろ……そこから投げるのが良かろう。つまり……このくらい?」
「うわっ、結構遠っ!? これ届くかなー……」
戦闘時は当然、リフレクターが矢面に立って戦うことになる。支援役が敵に攻撃するのであれば、かなり後方から物を投げる必要があった。その距離は二人にとってなかなかのものであり……。
「うわっ!? すっごい手前に落ちたんだけど!?」
「勇希、その位置私達が戦ってるところなんだけど」
へにゃへにゃしたフォームによるオーバースローでは木人に届くことがなく、爆竹はそのずっと手前に落下し、弾けていた。
「勇希のフォームは初心者丸出し。正しい投球とは……こうっ!」
「……久野さん? 勇希よりずっと手前に落ちたんですけど?」
「いやー、でも投げ方は格好良かったよ」
「馬鹿な……きららの黄金のサイドスローが……」
「爆竹の重さくらいでこうなるなら、爆弾系はもっと無理でしょ。はいはい、終わり終わり」
「ぐぬぬ~……」
味方の足元で爆発されては目も当てられないことになってしまう。物を投げてなんとかするという作戦も、お蔵入りとなってしまった。
「……まぁリフレクター感あんまりなかったし良いや」
そもそも勇希自身、これにはあまり乗り気ではなかったらしい。
「作戦その四……モンスター素材を使う!」
「金城さーん、コンテナにあった物で使えそうなやつを色々と持ってきましたよー」
「春日さんまで働かせて……今度は何?」
詩帆が台車で運んできたのは、山盛りのモンスター素材であった。
モンスターを倒すと素材を落とすことがある。それは敵によって変わるが、装甲のようなものであったり、棒状だったり、尖っていたり、形や質感は様々な種類がある。中には下手な金属よりも硬質な素材などもあり、それはそれで可能性を感じさせてくれた。
「あー、そういえば春日さんが来た時くらいから集めるようになったんだっけ。モンスターが残す素材が何かに使えるんじゃないかって」
「たまーに地味な用途で役立ったりしてるんだよね、これ。あたしも工作する時にたまーに使うんだ」
「たまーに、ね」
「外の世界で活動していた頃は、降灰地域に出現する異灰から落ちるこういった素材を有効活用していました。私達がいた組織でも、異灰から採れた素材で作った武器を使う人はいたんですよ」
「いいねー! モンハンみたいじゃん!」
「そりゃ、ゲームみたいに簡単に作れたら良いけど……」
伶那は積み重なるいくつもの素材を、ひとまずは手に取って眺めてみた。そしてすぐに問題に思い当たる。
「……どれも生物的というか、有機的すぎる形状だよね。これを組み合わせて武器を作るのって、かなり難しいんじゃない?」
「武器屋がいれば作れるだけの素材はあるんだけどなー……」
「武器屋って何よ」
「確かに、灰材回収任務は私もやってましたけど、その加工は組織に丸投げでしたね……どうやって武器にするんでしょう……?」
素材単体で見れば、ここにあるモンスターの素材も優秀であると言える。
軽量でいて硬質、上手く加工することができれば理想的な装備品に昇華する可能性を秘めているだろう。
だが、雫世界にそのようなクラフターは存在しなかった。
エーテルと想いの力を用いて作り上げるという方法もあったが、それによって出来上がるのはあくまで普通の武器の域を出ない。モンスター素材特有の軽量さや頑丈さが失われてしまうのである。それでは本末転倒であった。
「なんとかここにあるものだけで作れないかなー……うーん……これをこうして、固定して……槍!」
「接合部が折れそう。ていうか近接武器は危ないんだから諦めなって」
「駄目かー……」
「素材は倉庫にまだたくさんあるんですけどね……皆さん使い道に困っているので、溜まっていく一方なんですよね」
時折素材を任意の砂粒に変化させるなどといった用途で持ち出すくらいで、現状これらの素材は完全に持て余されていた。
「そもそも私、最近はこういう素材を持ち帰った記憶がないんだけど……どうしてコンテナにいっぱい入ってるの?」
「私も詳しくはわからないんですが……こころが、加工した後にどうしても残滓として出てくるものだからって言ってましたよ」
「……あまり深く考えるのはやめておこうか」
「そ、そうだね」
こころが何をどうしてこんなに多くのモンスター素材を溜め込んでしまったのか。それは、彼女の旺盛な食材研究と関係があるのではないか……。そんな、なんとなくの心当たりをなるべく想像しないようにする勇希と伶那であった。
「作戦その五……缶蹴り」
「なにそれ」
「あたしも知らない。日菜子から聞いた話では、原種ってのと戦った時に非戦闘員だった仲間が缶蹴りで協力してくれたんだってさ」
「……白井さんもそういう冗談言うんだ」
「ねー、あたしもびっくりした。意外とお茶目なんだね」
二人の足元には飲み干したジュース缶がぽつんと置かれている。
さすがの勇希でも心の中でなんとなく思っていた。こいつで一体何をどうすればいいのだろうかと。
「とりあえず蹴ってみれば?」
「缶蹴りかー……まさかこんな形でやることになるとは……」
「勇希は……やったことないの?」
「まーねー。雫世界に来るまでは全然やる機会なんてなかったし……遠くまで蹴り飛ばせば良いんだよね?」
「助走つけて蹴るイメージかな。転ばないでよ」
「大丈夫だって」
勇希が少し離れたところから走り出し……バタバタと不慣れな足取りで、缶を蹴った。アルミ缶は軽い音を立てて低く飛び、何度か地面で跳ねた後、静かに停止した。
「……うん、まぁ……」
「缶蹴りね。……それ以上でもそれ以下でもないって感じ」
「わかってはいたけど……これで戦うのって無理じゃない……?」
「無理でしょ。しかも相手が原種って……」
「モンスター相手でも絶対無理だよこれぇ……」
「やめときな」
結局、缶蹴りを支援攻撃で使うという案は早々に却下された。
二人の中で日菜子が『普段は真面目だけどたまに妙な冗談を言う人』というキャラになってしまったわけだが……実際、日菜子の友人は原種相手に缶を蹴ってぶつけていたのである。
それを言った所で信じてもらえるかどうかは怪しいところであるが……。
「作戦その六……武器を借りる」
「また?」
「はい、勇希。私の大鎌使っていいから、どうぞ!」
「やったー! 愛央の武器、一度持って見たかったんだー!」
「デスサイズは女の子のロマンだもんね!」
「こいつら……さてはただやりたいだけだな」
愛央が出した大鎌を、勇希は恐る恐る受け取り……そして案の定、見た目以上の重みによろめいた。
「うおお……! めっちゃ重いよこれ……!」
「重心が偏ってるから扱いづらいんだよねぇ……」
「手もピリピリするし……剣ならギリギリ振り下ろせるかもだけど、大鎌はこれちょっと、厳しい……!」
「えー、やっぱり駄目? うーん、そっかぁ……大鎌を持った勇希も良いなーって思ったんだけどな……残念」
「大鎌が似合うって何よ」
それから数分間格闘したものの、勇希が愛央の大鎌をまともに振れることはなかった。そもそも大鎌のバランスが偏っていて、構えることすら難しかったのである。ある意味、こころのライフル銃を伏射するよりも現実的ではない武器であることが判明してしまった。
「うーん……なんだか、ちょっと戦いたいっていうだけでも結構難しいもんだなぁー……」
「みんなからも聞いたよ。勇希と伶那さん、色々と頑張って考えてるみたいだね」
「私は考えてるというか、一緒にいないと勇希が何するかわからないから……危なっかしいでしょ」
「あたしはちゃんと安全も考えてやってますよーだ!」
「ちょくちょく危ない真似してるでしょうが!」
言い合う二人の姿を、愛央は微笑ましく見つめていた。
かつては勇希が姿を消したり、世界システムによって命が与えられたことについて悩んだりもしたけれど、今ではそういった過去を受け入れ、こうして仲睦まじく笑い合っている。もしこの雫世界が終わり、新たな世界に行ったとしても、二人は今日のような関係でいれば良いなと思えた。
「……うーん、そうだ。私なんかだとどうしても格好から入っちゃうし、上手いやり方も思いつかないけどさ……こういうのって詩さんだったら得意かも」
「詩?」
「駒川さんか……」
「詩さんの考え方って合理的だし、そのわりに常識破りなとこもあるでしょ? だから詩さんに聞けば、良いアドバイスをしてもらえるんじゃないかなーって」
勇希と伶那は顔を見合わせた。
駒川詩。出会った頃はまだ不安要素も多く、仲間と見るには難しい面のある人物だった。
しかし今ではもう、雫世界で彼女を疎ましく思う者はいない。
少なくとも勇希と伶那には過去の引っ掛かりもない分、愛央の提案は前向きに考えることが出来た。
「作戦その七……詩に訊いてみる!」
「はあ、武器ですか……」
「ごめんなさい、駒川さん。花壇の手入れしてもらってるところお邪魔しちゃって……」
「いえ、良いんです。こうして頼っていただけるのは嬉しいですから」
詩は目を猫のように細め、暫し考え込んだ。
「そうですね……では、勇希さんの体格でも扱える軽めの武器が良いかと。こうした、カッターとか」
「うわっ、ポケットから出てくるのそれ!?」
「駒川さん、いつも持ち歩いてるの……?」
「何かと便利ですから。はい」
はいと言われてカッターを渡されたものの、さてどうしたものだろうか。とりあえず勇希はカッターの刃を最大まで出して、それを構えてみた。
「……どう?」
「不良少女って感じ」
「強そう?」
「弱そう」
「駄目かー……というか、カッター持つくらいなら包丁とかの方が良さそうだよねー……」
「そもそも包丁でも、モンスターとやりあうにはちょっと怖いよ。駒川さん、できれば遠くから攻撃できるものとかあれば……」
「でしたら……はい、これとかどうでしょうか」
詩は作業用に使っている鞄から薬品の瓶を一つ取り出した。
「えっ、なにそれは」
「塩酸です」
「塩酸!?」
「だからそれはどうして持ち歩いてるわけ!?」
「モンスターにも酸は効くんですよ? 酸を浴びた時のモンスターの悲鳴、身を捩る反応……間違いなく効果はあるかと」
どことなく楽しそうに話す詩であったが、伶那は首を横に振った。
「確かに投げやすそうだし、効果も高そうだけど……勇希って投げるの下手だから、こういう危なっかしいのは無しってことになったの。ごめんなさいね、駒川さん」
「ああ、そうだったんですか」
「あたしがもうちょっと投げるの上手ければなー……」
「でしたら、他の変身できる方の武器を借りてみるのはどうでしょう。靭さんのライフル銃などであれば、遠くからでも攻撃できそうですが」
「あー……ごめん詩、それもう試して駄目だった……あれはちょっと重くて……」
「勇希にはあの大きな銃は難しそうで……」
何かにつけて出てきた案を駄目だと言うのは、二人としてもなんとなく心苦しいものがあった。しかし詩はそれを全く気にした様子もなく、次の案について考え込む。
「なるほど……でしたら、宮内さんの武器を使ってみるのはどうでしょうか?」
「……えっ、私の?」
呆気にとられる伶那に対し、詩は当然のように頷いた。
「宮内さんのフープは新体操のものですよね?」
「え、まぁ、そうだけど」
「戦っているときにも、新体操の動きを取り入れた上でフープを投げていたように思います。つまり、遠距離攻撃のできる武器ですよね。動きとしても難しいものはなさそうなので、金城さんにも扱えるのではないでしょうか」
「……伶那のフープを、あたしが?」
「他には……すみません。もうパッと思いつくものはありませんね……少しでもお役に立てたなら、良かったのですが」
「あ、うん。ありがとう駒川さん」
「ありがとう……」
花壇の仕事に戻っていく詩をよそに、二人は目配せした。
ここまできたら、試してみるしかないだろう、と。
「作戦その八……伶那のフープを使う」
「……フープね」
伶那は手の中に己のリフレクターの武器……黒いフープを生み出し、改めてそれをまじまじと見つめた。
「どしたの伶那?」
「ああ、いや……そうだ。勇希、フープの扱い方なんてわからないでしょ? お手本見せてあげるから、しばらく見て勉強しなよ」
「え? うん」
それから伶那はフープを用いて、いくつかの簡単な技を勇希に見せた。
もちろん、複雑なものではない。手首を使ってフープを投げたり、腕でキャッチしたりなど、やってみれば小学生でもできるような単純な動作だ。
フープにバックスピンをかけて投げれば、遠くに投げて戻すのも難しくはないだろう。チェストロールなど見栄えのする技を教える必要もないので、講座はすぐに終わってしまった。
「おー……わかりやすい。じゃあ次、あたしやってみる!」
「……」
「伶那?」
そこまできて、伶那は曇った顔を見せた。
「……もしかしてさ。あたしが伶那のフープを持って、重かったりピリッと来たりするのが嫌なの?」
「! ……まあ、嫌というか……うん、なんか嫌だ」
「それは……もうしょうがないんじゃない? リフレクターの武器ってそういうものらしいしさー……」
「わかってる……けど、私の武器がそうなるのはなんか……嫌なの」
「……大丈夫だって、ほらっ!」
「あ、ちょっと!」
伶那の手からフープを奪い取り、勇希はにっこりと笑った。
「リフレクターになって戦ってみたいのは、ほら。あくまで体験してみたいってだけなんだから! 少しの間だけ持って、ちょっと使えればそれで良いの! 深く考える必要なんて全くないんだよ!」
「……うん、そっか。そうだよね」
「確かにピリッとはくるけどさー、ほんの十秒くらい? それだけの間扱えれば……あれ?」
「……勇希?」
勇希が不思議そうな顔で手の中のフープを見つめていた。暫くフープを手の中で握ったり、動かしたりして……やがて、顔を上げる。
「……伶那。あたし……このフープ、全然重く感じないんだけど」
「え?」
「それに、少しもピリッと来ない」
「……嘘、え、ほんとに?」
目を見開く伶那に、勇希は頷いた。
強がりで言っているわけでもなさそうな勇希の言葉に、伶那は想いがこみ上げてきて、堪らず安堵のため息を吐いてしまった。
「はぁー……良かった……」
それが気持ちの問題ではないとしても、勇希に拒絶されることだけは嫌だった。だから勇希にフープを使われることだけはしたくなかったのだが……懸念に反し、フープは勇希の手に馴染んでしまった。そのことが、伶那はたまらなく嬉しかったのだ。
「……ふふふ。伶那ってさ、本当にあたしのこと好きだよね」
「……そうよ。大好き。……悪い?」
「ううん」
ついさっき伶那から教えてもらったフープの手技……バックスピンをかけ、地面を転がす技を試し、しっかりとフープが戻ってくるのを確かめてから、勇希は笑った。
「大好き」
勇希と伶那はココロトープにやってきた。護衛として愛央とこころを連れて、四人での探索である。
第一層の出会いの海。海岸沿いの道路と砂浜、巨大な風車に錆びた灯台。伶那の心を映したココロトープであった。
「いやーそれにしても……こうして着てる姿を見ると、やっぱり似合うね! 勇希のリフレクター衣装!」
「そうだね、愛央ちゃん! 勇希ちゃんにぴったりなのです!」
「えへへ……なんか照れるなぁー……」
今の勇希は普段の制服姿から大きく趣向を変え、リフレクターのような派手な装いとなっていた。
それは活発な彼女らしく、脚や腕を出して動きやすそうな造りとなっていたが、意匠の所々では伶那の変身後の姿を想起させるようなアクセサリーなどがあしらわれている。作業場で皆と一緒に作った、手製の変身衣装である。
「それにしても、まさかこんな衣装作りでモンスターの素材が活躍するとはね……」
「モンスターの素材は不揃いな形の物が多いけど、だからこそ考えるのが楽しかったのです!」
「意図せず伶那さんの衣装に近い感じになったしねー」
「……もう、いいのよそれは」
伶那の変身後の姿には白骨を思わせる装飾が多くある。モンスターの素材にはそれと似た骨のような形状のパーツが豊富で、不思議と伶那の衣装に似てしまったのだ。もちろん、勇希も伶那もその偶然を全く悪く思ってはいない。
「ついに……ここでモンスターと戦うんだね、あたし」
「うん。もちろん、私達全員でしっかり安全を確保しながらになるけどね。万が一のことがあったら困るし」
「わかってる。ありがとね、みんな。あたしのわがまま聞いてくれて」
「いいのいいの! 私達も勇希の戦うとこ見てみたいし!」
「うんうん! すっごく楽しみだなぁ……!」
「……星崎さんも靭さんも、なんだかんだずっと楽しんでたもんね」
愛央、こころ、伶那、勇希。四人は雫世界が始まった時からのメンバーであり、最も付き合いの長い間柄だ。
だからなのか、なんとなくこの四人で一緒にいると、不思議なくらい安心できた。
「あっ。いたよ、一体で歩いてるエリスロ。周りに他のモンスターはいないし……あいつだったらちょうどいいかも!」
「だね。……勇希ちゃん、準備は良い?」
「う、うん! ばっちこい!」
「気をつけなよ、勇希。怪我しないでね」
「……うん!」
四人がしばらく歩いていると、単独でふらふらと歩いている小人型モンスター……エリスロと遭遇した。
エリスロはモンスターの中でも動きが鈍く弱い種類であり、勇希が戦うのであればまずはこれだろうと満場一致で選ばれた個体だ。
「これが……戦ってる時の、伶那の気分……なのかな」
まだエリスロはこちらに気付いていない。勇希は皆よりも一歩前に踏み出して、フープを構えた。
何度か見せてもらった伶那のフープさばき。彼女の綺麗な仕草を思い浮かべながら、勇希もそれをなぞるようにして、フープを思い切り投げた。
「!」
エリスロが接敵に気付いた。だがその時には既に目の前にフープが迫り、それは淡い翠の光を発しながら回転していた。
「ピィー!」
「当たった!」
「効いてるよ!」
エーテルを帯びたフープの一撃は、勇希が思っていた以上のダメージをエリスロに与えていた。
緑色の輝きとフープ自体の衝撃はエリスロを大きく弾き飛ばし、近くにあった放置自動車のドアに叩きつけたほどである。
「うわ、すっご……!」
戻ってきたフープをキャッチして、再び構える。
攻撃を受けたエリスロは、再び勇希を狙って動き出そうとしていた。
「やっちゃえ勇希!」
「勇希ちゃん、最後いけるよ!」
「勇希!」
三人の声を背中に受けながら、勇希が再びフープを投げる。
乱暴にしないよう、あくまで伶那のような美しい動作で。
「ピギッ……!」
そんな彼女の二投目のフープによって、エリスロは完全に消滅したのであった。
「……や、やった……!」
「おめでとう、勇希ちゃん!」
「ナイス勇希! 私達がサポートするまでもなくやっちゃうなんて!」
手助けらしい手助けを借りずに一体のモンスターを倒したことで、勇希はほんの少しだけ呆然とした。
しかし両側から二人に抱きつかれていくうちに、じんわりと嬉しさがこみ上げてくる。
これまでずっと蚊帳の外にいてわからなかった感覚。
それが満たされたことで、勇希は確かに、自分の中の未練のひとつが消え去ったのを感じていた。
「おめでと、勇希。……まさか一人で倒すなんてね」
「うん……えへへ、あたしもちょっとびっくり。ていうか予想外だった。伶那のフープ、めっちゃ強いね」
「まあ、そりゃあね。リフレクターだもの」
勇希はどこか愛おしそうにフープを撫でて……それを伶那に返した。
「いいの?」
「うん。もう十分に堪能した! 衣装を着て変身して、戦って、攻撃して……倒すとこまで全部やったんだもん。大満足だよ!」
一回だけの戦いで勇希が満足したのが、伶那には少し意外に思えた。勇希はこうした遊びになると、とことん疲れ果てるまでやるタイプだったから。
「でもさ。やっぱりそのフープはあたしじゃなくて、伶那が使うものなんだよ。あたしが使ってもさっきのモンスターくらいだったらどうにかできるかもしれないけどさ……それを一番上手く使えるのは、やっぱり伶那なわけだし」
「まぁ、そりゃあそうだけど……」
「それに……そのフープで戦ってる時の伶那を見るの、あたし結構好きだから」
「……ちょ、ちょっと……あっ」
気がつけば愛央とこころは二人からあからさまに距離を取って、遠くから見守っていた。相変わらず気の利かせ方が露骨である。
「……全くもう。……うん、わかった。これからも私は……このフープで、勇希のことを守るから。だから、ずっと一緒にいて。目を離さないでよね」
「……えへへ」
遠くの方で慎ましく鳴り響く二人分の拍手に赤面しながら、伶那はフープと一緒に勇希を抱きしめた。
もうじき、雫世界での長い長い夏休みにも終わりがやってくる。
それまでにやり残したことの一つを済ませ、また一歩終わりへと近づいた。
しかし、そんな寂しさよりももっと大きな温かさが、勇希と伶那の胸の中には確かに灯っていたのだった。