本日から、第二章スタートです。
楽しく読んでいただければ幸いです。
プロローグ 舞台袖で語られし
「――ついに始まったな」
「ええ、始まりましたね」
暗闇の中で、声が聞こえる。
片や不満げに。
片や楽しげに。
相反する反応から、暗中の会談は始まった。
「随分苛立ってますね。物事は予想通りに進んでいるのに、何を思ってそのような顔をしているんです?」
「予想の範疇
貴様はどうでも良いのだろうが……私は、そうはいかないのでね」
「ええ、それは承知していますし、御尤も。ですが、予想外の形で事が始まってしまえば、それこそ私達のシナリオに狂いが生じます。
始点が変われば、終点も変わるもの。そんな状況がお望みですか?」
「……私を理解していて。いや全てを把握していてそのように言われると、二の句を継ぎようもないな」
不満げな様子を隠す気もなく、その人物は言葉と共に暗闇の中で立ち上がる。
「おや、どちらに? ここで見物していかないのですか?」
愉快さを隠しもしない人物の言葉に、その人物は鼻を鳴らす。
視線の先にあるのは球体。
遠見の魔術というのは、もはや魔術とは呼べないレベルで退化が進んでいる。
それでも、この部屋に置かれている水球を媒介にした遠見の魔術には、その魔術という概念を凌駕する技量が盛り込まれているのは、一瞥すれば分かる事だ。
その事が、その人物の苛立ちをますます濃くする。
「結構だ。こちらは出番が定かではない貴様と違い、役回りが多いのでね。のんびり座って見物しているだけ、とはいかないのだよ」
「おや、それは失礼しました。勿論、私も時がくれば役割を全うしましょう。その時が来ない事が理想ではありますが、ね」
そう言いながらも、こちらも愉快そうな表情を隠す気もなく、視線は既に現状を映している鏡に移っている。
暗闇の中で、苛立った鼻息が木霊した。
「まったく、理解出来んな――完全に制御出来ないものに、楽しみを見出すとは」
そのまま、気配は霧散していく。
――人物は、返事をするつもりも、それにより対話するつもりもなかったが、
「何を言っているのか――制御できないものほど、愉快なものはありませんよ」
暗闇の中で、怪しく人物の目が光る。
三角系の奇妙な文様が浮かぶ異形の目は、水球に映った少年を穏やかに見守る。
視点は複数存在する。
舞台を余す事なく見るのは、その人物の主義主張にも近いものだった。舞台裏を含めた全てを知る事で、初めて劇場は完成する。
だからこそ、全てのシーンを視界に収めておくのだ。
……そしてさらに、だからこそ、なのだろう。
視線の端に入った映像は、見ている人物にさらなる愉悦を与えるには、充分なものだった。
「……自主的に動きますか、これは興味深い。
ですが、そうですね……このままでは、彼の物語もドラマチックにならないでしょうから」
その人物の言葉に答える者は、もはや誰もいない。
いなくても、それもまた彼にとってはどうでも良い事だった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
次話更新は、6/19(木)の22時に行います。
また拙作をよろしくお願いします。