更新が遅れ、申し訳ありません。
やはり様々な事を進めながらの執筆は難しい、と改めて感じています。
勿論、ここで筆を折る気はないので、楽しんでいただければ幸いです。
「じゃあ、衛宮くん。貴方とはここまでだから」
そう桜小路が言い出したのは、先に教会がある坂道を降りてきてすぐだった。
「ああ、そうだな桜小路。夜も遅いし気を付けて、また学校でな」
「………………」
自分がそう返すと、桜小路の顔はどこか機嫌が悪そうだ。
? もしかして、
「済まない気が利かなくて、道中は危ないから、送った方が良かったか?」
アーチャーがいるので心配はないかもしれないが、夜道に一人で女の子を返すのは良い事ではないだろう。
しかしそんな自分の言葉に、桜小路は首を振って否定する。
「そういう事ではありません。
……衛宮くん、今回の件で、私達がどういう関係になったか、分かりますか?」
嫌にとげがある言い回しだ。
しかし、関係か。あまり考えたことはなかったし、自分がこれだけ長く話している人間は、中田か慎二さんくらいしかいない。
異性というならば猶更だったが、今はさておき――これだけ一緒に何か行動をするというのは、滅多にない。
つまり、
「友達、か?」
「――ぶっふぉあ⁉ アハハハハハハ‼」
「……セイバーさん。貴方のマスターは、いったい何なんですか?」
自分の言葉への返事は、セイバーの大爆笑と桜小路の呆れ顔だった。
「違うのか?」
「違うどころじゃありませんっ
衛宮君、貴方は今、セイバーのマスターになる事を決めました。そして私は、アーチャーのマスター。これがどういう意味を持つか、分かるでしょう?」
強い拒絶と怒り。今日はずっと起こっている桜小路だが、今はそれ以上に強い感情が見て取れる。
「……敵、という事か?」
七つの陣営が戦い合い、生き残るのは一陣営のみ。
自分と桜小路、どちらも生き残るという可能性はなく、いつになるにせよ、戦わなければいけない。
それは自分でも、分かっているつもりだ。
「学校という場は戦闘に向きませんし、襲う事を考えてはいません。ですけど、それは貴方と敵対しないという訳ではありません」
桜小路の目は鋭い。
迷っていた自分とは違う、覚悟を持って見つめる目。
「ここで別れた時点で、私と貴方は敵対関係になります。こちらを気遣うどころか、本来だったらいつ襲われてもおかしくは、」
「いいや、それはないだろう」
思わず、彼女の言葉を遮ってその言葉を否定する。
「……貴方、さっきから何なんですか? ボケているにしたって度が過ぎてます。何かの魔術で、精神が歪んでいるんですか?」
「自分が普通と違うのは理解しているが……お前はそういう奴じゃないだろう。
さっきも言ったが、もし桜小路が襲いたいなら、もうやっている。そして、自分達はそのような戦い方は望まない……敵以前に、お前は自分の級友なんだから」
敵であるという事と、級友である事。普通なら同居しない立ち位置かもしれないが、この聖杯戦争においては可能だろう。
少なくとも、自分は可能だと思う。
学校に通っている自分も。
聖杯戦争に参加する自分も。
選択を間違っている訳ではないんだから。
「自分としては、昼間は出来るだけ仲良くやってほしい。
変な事を言っているのかもしれないが……自分は昼間のお前にも、好感を持っているんだから」
「………………はぁ?」
桜小路の表情は、呆れを通り越しもはや困惑の域に達している。
「好感、ですか?」
「? 不思議か? これまでの経緯を見ていけば当たり前だろう」
会話が多くなかった自分にも明るく話しかけ、困っていれば手を差し伸べる。そんな昼間の彼女の良さを、この一連の出来事でも見せ続けた。
彼女自身は気付いていないのかもしれないが、彼女は結局、不義理を見過ごすような性格じゃないという事だろう。
学友としての彼女も、アーチャーのマスターたる彼女も、常に一貫している。例え多少非情な決断を下せるようになったとしても。
なら、うん。
そんな彼女が嫌いになれないのは、当然だろう。
「――マスター。君の負けじゃないかな、これは」
背後に控えていたのだろう。アーチャーは霊体化を解き、桜小路の隣に侍る。
その表情は諦観の色が濃い苦笑いだ。
「君はどうしても彼に嫌われたいようだが……これは、君のスタンスを貫き続けられる状況じゃない」
「アーチャー、何を、」
桜小路の困惑の言葉に、アーチャーは微笑む。ずっと自分を警戒していた時とは違う、まるで桜小路を気遣う兄のような優しさまで感じられた。
「彼がここまで言うんだ、無理に嫌う必要も、嫌われる必要もないだろう」
「アーチャーにさんせー」
アーチャーがそう言うと、セイバーが口を開く。
さっきまで苦し気に蹲っていたが、もう大丈夫ようで……今も笑い泣きしていたあとが残ってはいるものの……言葉を続ける。
「そりゃあ戦争って言うんだもの、聖杯を目指すライバルってのは否定しないわよ。
でも、うちのマスターがここまで言うんだもの。せめて、『最後の二組になるまで戦わない』くらいは約束したって良いんじゃない?」
「おや、セイバー。それは、私と極力戦いたくない、と言っているように聞こえるが? それほど君の武勇が劣るとは思っていないが」
「……どの口が言ってんの。アンタと真っ向勝負したいなんて、余程の戦闘バカか実力が見えてないバカだけだって」
「これは光栄だね」
「うわぁ、私アンタみたいな奴好きじゃないわ」
「そっくりそのまま、君にお返ししよう」
マスター同士を置いておき、サーヴァント達の応酬が続く。やたらと好戦的に聞こえるが、双方の表情は明るい。
よく自分も後藤とこのような雰囲気になる。宛ら悪友との語らいだ。
「……と、サーヴァント達は言ってるが、どうする?」
「どうするって……ハァ、」
自分の言葉に、桜小路は大きく溜息を吐く。さっきまでの敵意はどこかへ行き、その目は不機嫌さは残したまま、いつもの桜小路の目の色に戻っている。
少し距離を置きながらも、ちゃんと自分を見ている目だ。
「衛宮君、実は狙ってやってるんじゃないですか? 油断させて後ろから、なんて勘弁してほしいんですが」
「心外だ。自分は何もしてはいないぞ、桜小路と敵対するのは嫌だってだけで、」
「だから、そういう所で、――」
――空気に、膝を折りたくなるほどの重みを感じる。
「「――っ⁉」」
セイバーとアーチャーが武器を構え、同じ方向に構えを取ったのは一瞬だった。その空気に気圧され、身動きが取れなくなった自分達とは違う。
――道路の中央に立っていたのは、〝巨塔〟だった。
言い方が適切ではないかもしれないが、二メートルを超える体躯を持ったそれはそう表現せざるを得ない圧を持っていた。
全身が何か、石に似た鎧を身に纏う巨人。
巨大な剣を脇に突き立て、その双眸をこちらに向ける。
瞳の奥に宿っているのは――怒りと殺意のみ。
こちらを倒すべき獲物としてしか認識していない目は、理性が介在する様子はない。
「……悪いけど衛宮君、話は後で。貴方は離れて、戦況を確認してください」
「――馬鹿言うな、桜小路。ここで逃げて許してくれるような相手ではないだろう」
桜小路も自分もようやく、身を屈める。戦うためではなく、移動のための姿勢を取る。
ああ、そうだ。
コイツは、自分達が直接相手出来るモノじゃない。
「――援護で良いな、セイバー」
「うへぇ、まぁ良いけど――間違えて当てないでね」
「約束は出来かねるな。勝手に避けてくれ」
綺麗な所作で、アーチャーは弓を構え、セイバーは突撃の構えを取る。
「――■■■■■■■■■■■■■■‼」
巨人の咆哮が、戦いの合図となった。
次話は7/27(日)の17時に更新いたします。
今後は遅れないようにしますので、何卒宜しくお願い致します。