Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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03 狂える戦士 A

 

 

 

「■■■■■■■■■■‼」

 

 咆哮と共に放たれた剣戟は、セイバーとアーチャーを狙ったものではなかった。

 その切っ先はアスファルトを穿ち、指向性を持った発破のようにその瓦礫をこちらに撥ね上げる。

 石礫なんて生易しいものではない、小規模な雪崩の様な一撃。

 

「――トウタ!」

 

 セイバーの動きは軽やかで、迅速なものだった。

 呪布で巻かれた剣が自分の前で振るわれ、刃は斬るまではいかずとも瓦礫を粉砕し自分の有効範囲外に弾き飛ばされる。

 

「マスター!」

「分かってるっ――『語りけり(Es war einmal)! 〝狼は家には入れない(Wir machen nicht auf)〟!』」

 

 対して桜小路から瞬時に唱えられた呪文を理解することは出来なかったが、その効果は自分にも見て取れた。

 簡易結界の様な力場が形成され、瓦礫は彼女に影響を与える事はない。

 

「■■■■■■■‼」

 

 それでも、視覚を遮る効果は十分だった。

 巨大な推進器が付いているのかと思える程の勢いを持って、巨人はこちらに突進してきた。

 常人であれば、数秒はかかるだろう。

 だが、巨人からすれば数舜だ。

 

「――■■‼」

 

 竜巻。

 棒状に固形化されたようなそれが、轟音と共にセイバーに振り下ろされる。

 受け止めるどころじゃない。回避だってまともに出来るか分からない。

 それを、

 

 

「――だぁッ‼」

 

 

 セイバーはそのまま剣を横にし、両腕でもって受け止める。

 空気が一瞬だけ爆ぜ、暴風が巻き起こる。セイバーの足音が蜘蛛の巣状にひび割れるのを見て、その威力の凶暴性を再認識する。

 セイバーは……無事だ。

 体中の骨が軋む音が、彼女の肉体を貫通してこちらに聞こえてくる状況を、無事と判定するならば、だが。

 

「ッ、早く下がりなさいトウタ! 今すっごい邪魔!」

 

 彼女の言葉は辛辣だが、その余裕のなさと状態を見ればそれはそうだろう。

 ――これは、通常の人間が関われる戦闘力の幅を超えている。

 

「ッ、『सर्व(全て) धर्म(に我) अनात्मन्は(なし)!――強化、開始!』」

 

 魔術回路を起動し、即座に魔力を脚部に通して跳躍する。

 いつもであれば二メートル強のところを、強化された脚力は十メートルほどの跳躍を可能にしてくれた。

 喧騒は前に逃げ、一瞬だけ音が遠のく

 

「衛宮君! 私たちはこのまま援護に入ります! アーチャー!」

「――心得たッ」

 

 桜小路はその言葉を最後に、そのまま跳躍して飛び上がったアーチャーに抱きかかえられる。

 非情ではない。合理的と言っても良い。

 

 ここで足手纏いが二人いるよりも、一人の方がまだ良いだろう。それに、彼女のサーヴァントは弓兵(アーチャー)なのだから、前線から外れるのは当然だ。

 

「セイバー、自分はこのまま他の敵がいないか警戒しつつ、マスターがいないか探してみる! 耐えられるか⁉」

「だぁれに物言ってんのよ! 耐えられるかじゃなくてそこは勝てるかで、しょ‼」

 

 セイバーの攻撃は、言葉と共に巨塊を吹き飛ばす。

 

「――■■■■‼」

 

 巨人は動揺しない。ただその荒れ狂う怒りと共に、再び剣か棍棒か判別すら出来ない武器が振るわれる。

 一度、二度、三度どころの話ではない。

 先の瓦礫にも近い無数の攻撃が、巨躯からは想像出来ないような連撃が放たれる。

神秘の欠片もない、ただの暴流。

 

 しかしその一撃一撃が異常な威力を持っているのを理解する。

 地面を舗装したアスファルトが抉れる。

 コンクリートで出来た電柱が半ばから折れる。

 

 迫撃砲に近い攻撃が、機関銃の速度で放たれる。自分が触れれば、その余波だけで簡単に半身を削がれるだろう。

 

「ッ、ちょっと、でかい、くせして、どんだけ、動くのよ!」

 

 そんな常人の域を超えている攻撃を、セイバーはギリギリの所で捌き続ける。若干の危うさは感じるものの、その剣筋に迷いはない。

 攻撃一つ一つを見極め、攻撃は余波も含めて防ぎ切る。

 敵を切り伏せるものではなく、自分の命を守り切る為の剣筋は、自分では到達できない達人の域に達している。

 

「■■■■‼」

 

 それに、巨人は動揺しない。

 怒りの塊であるように猛り狂うその姿は、あるクラスを自分の頭に想像させる。

 確か理性を破棄し、狂乱に塗れる代わりに全ての力が強化されているサーヴァント、だったか。

 その姿は、まさに桜小路の説明通りの姿だ。

 

「『――感覚、強化』!」

 

 自分は五感の全てを強化し、周囲にその幅を広げ続ける。

 風の囁き一つ、夜道を走る鼠一匹逃さない人間の頭脳では処理しきれない膨大な情報量。

 頭蓋の内側に爪を立てられるような軋む痛みに目を閉じかけるが、耐えて情報を集める。

 

 ――敵のマスターはいない。

 少なくとも、自分が索敵できる範囲には。

 

〈――衛宮君、衛宮君っ!〉

 

 不意に耳元で声が聞こえる。聞き間違いようが無く、桜小路の声だ。

 

〈こちらからは敵マスターを視認できないの、そっちはどうッ?〉

「……いいや、知覚出来る範囲にはいない」

 

 強化を切りながら答えると、声しか聞こえない状況でも桜小路の苦々しい表情が想像出来る。

 

〈そう……やむを得ない、とりあえずあのサーヴァントを何とかしましょう。

 衛宮君とセイバーは、バーサーカーをその場に留めておいて、合図と同時に間合いを開けてください、私とアーチャーで何とかします〉

 

「何とかって、どうやって、」

 

 自分の言葉に、桜小路は答えない。早々に念話は斬れているようだ。

 

「セイバー、合図をしたら離れてくれ! 桜小路に何か策があるらしい!」

「そんなっ、簡単に、行けばいいけどね!」

 

 暴れる剣戟を退きながらの言葉に、やはり余裕らしいものは感じられない。それでも、少し目を離している間に彼女の剣が冴えて行っているのは理解出来る。

 

 成長とは違う。

 体感で感じ続けるからこそ感じる、慣れの一種だろう。

 

 規格外な威力と速度を持っているとしても、術理というよりもただの力押しであるあのサーヴァントの剣であるからこそ可能なのだろう。

 

 軋む金属音。

 空を切る轟音。

 剣圧によって歪む空間。

 それら全てを御し、セイバーは立ち続ける。

 

「ッ――ウザったい‼」

 

 このままその展開が続くと思われた中で、先に手を変えたのはセイバーだった。

 一撃を逸らすと、そのまま体を仰け反らせて一歩分踏み込む。

 いや、踏み込むなんて言葉は優し過ぎる。

 水平線上に跳躍したといった方が良い彼女の動きは、真横に振るわれた剣を寸での所で躱し切りながら懐に潜り込む。

 

「いい加減、」

 

 構えられた剣は下段。

 丁度体の正中線を向くように構えられる。

 

「止まりなさいってぇの‼」

 

 剣は天を衝いて振るわれる。

 

 その威力で、衝撃で、尋常ではない巨体が宙に浮く。

 大木すらも両断出来るだろう鋭さで、敵を後方に下がらせる――否、吹き飛ばす。

 

 普通であれば十分以上の距離――しかし巨人からすれば、二歩ほど走れば詰め切れる間合いが開かれる。

 だが、充分だった。

 

〈――今よ、衝撃に備えて!〉

 

 少なくとも、桜小路のサーヴァント、アーチャーにとっては。

 

「ッ、セイバー!」

「あいよッ――!」

 

 自分の一言だけで、セイバーは全てを察していた。

 その場から跳躍するように自分の所まで下がり、自分を庇うように防御の姿勢を取る。

 

 

 

 ――瞬間、破裂した。

 

 

 

 







次回は、8/3の17時に更新します。
楽しんでいただければ、幸いです。
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