セイバー、アーチャー。この両者の戦いを遠くから見つめている者がいた。
新都。
教会前で戦っている彼らより遠くはないが、しかし近くもない距離。その高層ビルの屋上に、彼はいる。
身体はセイバー達が戦っている巨人程ではないが大きい体躯を、裾と丈が長い、この国の民族衣装とは違った服を身に纏った、髭面の男。
その男は、只管に虚空を睨みつける。
直接的に戦いを見ている訳ではない。彼が従える眷属が送ってくる映像を共有しているに過ぎない景色。
だがその景色を見ているだけで、笑みが零れる。
「なんとまぁ、児戯のような戦いをしているものだ」
男から見れば、言葉は当然のものだった。
巨人。あれは確かに脅威だ。英霊とは人間という範疇を逸脱した存在ではあるが、その中でもあの戦闘能力は異常と言って良い。
だが、ただがむしゃらに強いというだけならば、男にも対処出来る。
弓兵。あれも少々厄介だ。
英霊としての格が自分より上であるだろうし、能力を隠している節があるし、宝具も何を持っているか知れたものではない。
剣士。あれは脅威にならない。
勿論、宝具が何か明かされていない以上警戒は多少するべきだろうが、技術も体力も何もかも常人に毛が生えた程度だろう。
人間は超えているが、自分を超えているとは言えない。
故に、児戯と称した。
そもそもサーヴァント同士の戦闘で趨勢を決する宝具を使用しない戦いなど、戯れ以外の何物でもない。
それで苦戦しているのだから、剣士も、弓兵も、巨人すら。
男にとっては赤子同然だった。
「分かっておらん。何も分かってはおらんのう、連中は。
武威とは示されてこそ武威。力は使ってこそ力。それも解っていない若造共が英霊とは……片腹痛いとはこういうものなのだろう」
男の言葉に呼応して、背後の闇が蠢く。
骨。
骨。
骨。
人間のモノもそうでないモノも、等しく合わさり闇の中で蠢き続ける。
宛ら、一匹の獣のように。
宛ら、獲物を睨む狼のように。
「しかし許そう。それも道理だ。
全てを喰らい、全てを奪い、全てを示す。それが許されるのは王以外あり得ない。連中もきっと、王ではないのだろう。
王だったところで、本物の王ではないという事だ」
男の目がぎらつく。
それは獣の目だ。
酷く餓え、酷く渇いた獣の目。
「それもまた、許そう。真の王などそうはいないのだ。
だが――
男は立ち上がり、眼下の街並みを見る。
なんと滑稽な事か。
市井の民が王の様な建物を作り、我が物顔で闊歩している姿の、なんと浅ましき事か。
実に不快だ。
実に愉快だ。
この相反するように見える感情も、彼にとってはまるで矛盾しない。
目の前のソレは喰らうべき獲物だ。
目の前のソレは略奪すべき獲物だ。
目の前のソレは全て、自分の物だ。
「ああ、なんと面白き事か聖杯戦争!
死してなお、略奪し我が物とする喜びを享受できるとは! 愚かな呪い師の姦計かと思えば随分と愉快な代物だ!」
人骨の狼は蠢き、その形を解く。
最後に取った形は、陣形だった。
人骨が、骨で出来た馬に乗り、手には剣も、弓も、槍も、斧も、鉄炮も、何もかもが揃っている。
彼が戦うのは戦闘ではない。
まさしく戦争。
まさしく闘争。
彼ほど、聖杯戦争という言葉に合っているサーヴァントは、多くはないだろう。
「生き残りはするだろうが、次の相手は誰であろうか。
またも弓兵か? いやいや剣士もあり得る。あの狂戦士であったならば、より面白いのだがなぁ」
男の表情に闘争への恐怖はない。どころか、緊張感すらない。
それもそうだろう。
男にとって戦場とは娯楽そのもの。
男にとって闘争とは享楽そのもの。
男にとって略奪とは快楽そのもの。
そんなものに喜びこそすれ、緊張、恐怖など起こりようはずもない。
男は、傍らに控えていた、文字通り骨と皮だけの馬に乗る。
「さぁて、まずは腹ごしらえだ。
いくら闘争の何たるかを知らぬでも、戦士である事に違いはなかろう。朕(わし)も動けなければ意味はないからなぁ」
手綱を握る手を引くと、異形の馬は地面を蹴り、中空を滑るように走り始める。
男の決戦の日は、今しばらく先の事だ。
楽しんでいただければ幸いです。
次回は8/17の17時頃に公開します。