Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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03.5 ある英霊の歪んだ笑い

 

 

 

 

 

 セイバー、アーチャー。この両者の戦いを遠くから見つめている者がいた。

 新都。

 教会前で戦っている彼らより遠くはないが、しかし近くもない距離。その高層ビルの屋上に、彼はいる。

 

 身体はセイバー達が戦っている巨人程ではないが大きい体躯を、裾と丈が長い、この国の民族衣装とは違った服を身に纏った、髭面の男。

 その男は、只管に虚空を睨みつける。

 

 直接的に戦いを見ている訳ではない。彼が従える眷属が送ってくる映像を共有しているに過ぎない景色。

 だがその景色を見ているだけで、笑みが零れる。

 

「なんとまぁ、児戯のような戦いをしているものだ」

 

 男から見れば、言葉は当然のものだった。

 

 巨人。あれは確かに脅威だ。英霊とは人間という範疇を逸脱した存在ではあるが、その中でもあの戦闘能力は異常と言って良い。

 だが、ただがむしゃらに強いというだけならば、男にも対処出来る。

 

 弓兵。あれも少々厄介だ。

 英霊としての格が自分より上であるだろうし、能力を隠している節があるし、宝具も何を持っているか知れたものではない。

 

 剣士。あれは脅威にならない。

 勿論、宝具が何か明かされていない以上警戒は多少するべきだろうが、技術も体力も何もかも常人に毛が生えた程度だろう。

 人間は超えているが、自分を超えているとは言えない。

 

 故に、児戯と称した。

 そもそもサーヴァント同士の戦闘で趨勢を決する宝具を使用しない戦いなど、戯れ以外の何物でもない。

 

 それで苦戦しているのだから、剣士も、弓兵も、巨人すら。

 男にとっては赤子同然だった。

 

「分かっておらん。何も分かってはおらんのう、連中は。

 武威とは示されてこそ武威。力は使ってこそ力。それも解っていない若造共が英霊とは……片腹痛いとはこういうものなのだろう」

 

 男の言葉に呼応して、背後の闇が蠢く。

 

 骨。

 骨。

 骨。

 

 人間のモノもそうでないモノも、等しく合わさり闇の中で蠢き続ける。

 宛ら、一匹の獣のように。

 宛ら、獲物を睨む狼のように。

 

「しかし許そう。それも道理だ。

 全てを喰らい、全てを奪い、全てを示す。それが許されるのは王以外あり得ない。連中もきっと、王ではないのだろう。

 王だったところで、本物の王ではないという事だ」

 

 男の目がぎらつく。

 それは獣の目だ。

 酷く餓え、酷く渇いた獣の目。

 

「それもまた、許そう。真の王などそうはいないのだ。

 だが――(わし)は違う。(わし)こそ真の王、真の皇帝なり」

 

 男は立ち上がり、眼下の街並みを見る。

 なんと滑稽な事か。

 市井の民が王の様な建物を作り、我が物顔で闊歩している姿の、なんと浅ましき事か。

 

 実に不快だ。

 実に愉快だ。

 

 この相反するように見える感情も、彼にとってはまるで矛盾しない。

 

 目の前のソレは喰らうべき獲物だ。

 目の前のソレは略奪すべき獲物だ。

 目の前のソレは全て、自分の物だ。

 

「ああ、なんと面白き事か聖杯戦争!

 死してなお、略奪し我が物とする喜びを享受できるとは! 愚かな呪い師の姦計かと思えば随分と愉快な代物だ!」

 

 人骨の狼は蠢き、その形を解く。

 最後に取った形は、陣形だった。

 人骨が、骨で出来た馬に乗り、手には剣も、弓も、槍も、斧も、鉄炮も、何もかもが揃っている。

 彼が戦うのは戦闘ではない。

 

 まさしく戦争。

 まさしく闘争。

 

 彼ほど、聖杯戦争という言葉に合っているサーヴァントは、多くはないだろう。

 

「生き残りはするだろうが、次の相手は誰であろうか。

 またも弓兵か? いやいや剣士もあり得る。あの狂戦士であったならば、より面白いのだがなぁ」

 

 男の表情に闘争への恐怖はない。どころか、緊張感すらない。

 それもそうだろう。

 

 男にとって戦場とは娯楽そのもの。

 男にとって闘争とは享楽そのもの。

 男にとって略奪とは快楽そのもの。

 

 そんなものに喜びこそすれ、緊張、恐怖など起こりようはずもない。

 男は、傍らに控えていた、文字通り骨と皮だけの馬に乗る。

 

「さぁて、まずは腹ごしらえだ。

 いくら闘争の何たるかを知らぬでも、戦士である事に違いはなかろう。朕(わし)も動けなければ意味はないからなぁ」

 

 手綱を握る手を引くと、異形の馬は地面を蹴り、中空を滑るように走り始める。

 

 

 

 男の決戦の日は、今しばらく先の事だ。

 

 

 

 

 

 







楽しんでいただければ幸いです。
次回は8/17の17時頃に公開します。
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