「――で、保護者に隠し事しながらのお説教で、学校に来たのは昼休みになったと。
まったく、非常識ここに極まれり、ですね」
「……すまん、まさかあそこまで怒られるとは思っていなかった」
屋上の寒さの中でも、桜小路は凛とした姿勢で座っている。もっとも、自分への呆れ顔を浮かべてはいるのだが。
学校の屋上。寒い中昼食を取りに来るものもいないが、それでも普段以上に人気は少ない。
桜小路が、簡易ではあるものの人払いの結界を張ってくれているからだ。
だから今ここには自分達だけではなく、霊体化を解いたアーチャーとセイバーも同席していられるのだ。
自分はそのような術の心得があまりないから、とやってくれたのだが……早くも共闘関係に罅を入れているのかもしれない。
「自分の見通しの甘さに嫌気が差す……待たせて済まなかったな、桜小路」
「違います、衛宮君。私が呆れているのはその事じゃなくて、今日学校に来ている事です。集まるのは別に、明日でも良かったのに」
「? 急ぎではなかったのか?」
「いや、そりゃあ早く話せるに越した事はないですけど、そういう意味でもなく……良いですか? 衛宮君。
貴方は昨日、サーヴァントの攻撃をもろに受けました。宝具での攻撃でこそなかったものの、その一撃は強力。
そんな一撃を受けて、その日のうちに学校に来るなんて、あり得ません」
「……重傷、だったのか?」
「どころではありません。内臓もダメージを受けてグチャグチャ。私の治癒魔術でなんとか治しましたが」
「…………ッ」
その光景を思い浮かべて、思わず体が震える。
死んでいたかもしれない。
死んでもいい、などと思っていた自分から出てきたとは思えない程の恐怖が、背中からにじり寄る。
「でも、もっと大きな問題……というより、疑問ですね。
不思議なのは、その
さっきも言いましたが、貴方は攻撃を何の打開策も無しに受けた。本来であれば、身体が繋がっている筈がなく、普通は即死、手の施しようがありません。
でも、貴方は生きていた。虫の息だったけど、致命傷だったけれど、それでも死にませんでした。
――ねぇ、衛宮君。これがどれほど異常な事か、理解出来ていますか?」
――桜小路の言葉に、自分自身も疑問を覚えた。
あの時、まともな魔術を使うタイミングはなかった。
セイバーを助ける事に必死で、無我夢中になって飛び込んだのだ。詠唱どころか、魔術回路に魔力を通す事すら覚束ない。
てっきり、桜小路の治癒魔術の腕が卓越しているのだと思っていたが……言葉を聞くと、どうやらそうではないらしい。
何かしたのか。
あるいは、自分に何かあるのか。
自分の使える魔術はせいぜいが強化魔術だ。それも、肉体の性能を多少上げる程度で、防御力をそこまで上げる程ではない。
それ以外は才能がないし、特殊能力も備わっていない。
サーヴァントの一撃を防ぎうるほどの技量はないのだ。
「何かしらの、自動発動型の魔術や能力があるのでしょうか? 事前に防御出来ていなければ、あの怪我の軽さは説明がつきません」
「いや、その……」
思わず言い淀む。
自分にすらどういう理屈なのか分かっていないものを、説明しようがないのだ。
「――ああ、良いんです。答えて貰えるなんて思っていませんから」
逡巡は、桜小路の言葉で掻き消された。
「私達の共闘関係はあくまで一時的。目立った敵がいなくなるまで。
そんな相手に手の内を晒すのは、あまり良い事ではありません……こちらも、どういう戦力があるのか説明しないのですから、対等よね」
こちらの説明が無くとも、桜小路は納得している様子だった。
……やはり、良い人だな、彼女は。
「ああ、ありがとう桜小路。やはりお前は良い人だな」
「………………今度そんな事を言ったら、相応の代償を払って貰います」
なぜ?
「ふふふ、若者同士の交流って、見てて微笑ましいわ。ね、アーチャー?」
「……さて、どうだろうなセイバー。
同意はするが、我々の関係を考えれば、そう呑気な表現をしていられないのでは?」
「げげぇ、冗談も通じない男は嫌われるわよ」
「驚いた。我々は、冗談を言い合うような気安い関係だったかな?」
主人同士を差し置いて、こちらはこちらで随分と言葉は剣呑だが、表情や態度は和やかなものだ。
案外、こちらの方が相性は良いのかもしれない。
「コホン……それはさておき、話を進めましょう、衛宮君。
今の状況を整理すると、共通して姿を知っているサーヴァントは二騎。まず、セイバーと交戦した仮想ランサー。次に、私達が同時に遭遇した仮想バーサーカー。
ここまでは、理解していますか」
桜小路の言葉に、自分は首肯で返す。
自分が襲われ、セイバーが召喚されて初めて戦った敵。
武装を見る限り、ランサーで間違いないだろう。
次に、教会を後にした際に遭遇したサーヴァント。自分に手傷を負わせたあれも、バーサーカーと見て間違いないだろう。
そこは、セイバーと一緒に確認した。
「この二騎に関しては仮想を外して対応しても構わないと、私達は思っています。
後者の狂い具合を見れば間違いはないでしょうし、前者の騎士然とした所作を見れば、あそこで敵を欺くような真似はしないんじゃないか、と」
「しないと言うよりも、出来ないが正しいかもしれないな」
桜小路の言葉を、アーチャーが引き継ぐ。
「あの槍捌き、並大抵の修練で到達できるものではないだろう。才有り余る、という程ではないにしろ、専念して鍛え上げなければああはなるまい」
「あら、そうかしら」
その言葉に反応したのはセイバーだった。自分の隣に腰掛けながら、訝し気な顔をする。
「宝具を使わなかった以上、クラスなんていくらでも偽装出来るでしょう?
特にライダーなんて、騎獣やそれに類するものを出さなければ、簡単にごまかせるクラスだと思うし……ランサーと断定するのは危険なんじゃないの?」
セイバーの言葉も、尤もだ。
しかし仮想ランサー……彼に関しては他に宝具や武装があるならば、他のクラス、特にライダーである可能性は否定しづらい。
「セイバーの意見は、道理です」
桜小路は頷く。
頷きながらも、「でも、」と続く。
「私達側が持っている情報を合わせるならば、その可能性は低い。
まず、私達は貴方達と違い、他に二騎のサーヴァントと戦闘をしています。まぁ、両方『遭遇した』と断言はしづらいのですが。
一騎はこの学校で戦闘になったモノ。人間に偽装する鉄仮面の人形の群れが襲ってきた。恐らくキャスターの類だろうけど、サーヴァント本体は確認出来ませんでした。
もう一騎は新都で見つけたモノ。これに関しては、遠目からですがアーチャーが視認している――
馬――騎獣の類。
「……なるほど。貴方達はそれを見て、騎獣を操っているのだからライダーだ、と判断した訳ね」
桜小路は頷きながらも言葉を続ける。
「勿論、こちらもあくまで〝仮想ライダー〟と言ったところ。ライダーなのか、騎獣を持っている他クラスのサーヴァントなのか断定は出来ません。
でも、少なくとも所在が割れていて、緊急性が高いのは間違いなくコイツだと断言できる」
「断言って、随分強い言葉だな。何か、理由があるのか?」
自分の言葉を聞くと、桜小路の表情が歪んだ。
負の感情を全て綯い交ぜにしたような。
それでいて、指向性だけがハッキリしているもの。
ああ、この表情はよく知っている。
〝憎しみ〟に近いものだ。
「――アレは、あのサーヴァントはね、衛宮君。
新都で、〝魂喰い〟を行っています」
第三章へ続く
これにて、第二章は終わりになります。
楽しんでいただければ幸いです。
これから第三章の書き溜めの為、三週間の休載期間を設けたいと思います。
次回は9/21㈰の17時頃になります。
また、活動報告に後書きのようなものを置いておきます。
もし興味があれば一読いただけると嬉しいです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=330680&uid=478512