Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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③ 死配者
プロローグ 新都の怪物


 

 

 

 

 

 ――新都は、冬木市の中でも非常に活気な地区だと言えるだろう。

 アミューズメントパークや商業施設、オフィス街が区分けされて混在し、昼夜問わず様々な人が行き交う。

 

 昼間は、勤め人達が多く。

 夜は、刺激を求める者達が。

 

 太古の昔、神代の時代。夜を恐れ昼を尊んだ世界観は、既に過去の遺物。

 昼も夜も関係ないその場に、もはや神秘は存在しない。

 ……だがそれは、存在しないだけだ。

 存在したモノが消失すれば、そこには巨大な空虚が存在する事になる。

 

 

 

 そこにどんなモノが入り込もうが、生者に感知しようがない。

 人間は自然現象への畏怖を忘れたと同時に、そのような機能は廃棄したのだから。

 

 

 

「――薄い」

 

 闇を照らす灯りがあろうとも、暗闇はそこにいる。

 むしろ周囲が照らされているからこそ、暗闇はさらに濃くなり見えにくくなる。

 繁華街からほんの少し逸れた脇道。

 そこには確かに暗闇があり――その中で、一人の男が胡坐をかいていた。

 

「薄い。あぁ、なんと薄い事か。現世で生きる人間の魂というものは、斯くも薄い味わいしか持っておらぬのか。

 (わし)の時代の人間であれば、もっと滋味あふれるものであったであろうに……現世(ここ)は愉快な場所だが、こういう部分は衰えた」

 

 ――男は、現代にそぐわない風貌をしていた。

 暗闇の中にあってなお浮かぶ上がるその奇妙なローブは、この国の着物とはまた違う味わいを見せていた。

 

 この国の人間ではない。

 この時代の人間でもない。

 

 その事は、誰が見ても明らかだろう。

 誰かが見ていれば、だが。

 

「……だが、」

 

 そう言いながら、チラリと足元を見る。

 

 そこは、〝赫〟かった。

 血、肉、臓物。

 無数のそれが散乱していた。

 ……だけではない。蠢き、啜られ、齧られていた。

 

 

 

 肉と同じ量の、骨。

 

 

 

 骨は、軟骨と筋肉で繋ぎ止められている。それが無ければ、ただの欠片として霧散する。

 ――それでも、それは一個の生命体のように這いずる。

 水っぽい肉の音が響き、本来消化器官など無い体である筈なのに、血と肉を飲み干していく。

 

「しかし、腐れても魂は魂。腐れても肉は肉、腐れても血は血。

 ならば(わし)が喰らえばいい。(わし)が啜ればいい。朕が飲み干せばいい。

 それが朕の王者たる証、朕が望むべくものよ」

 

 実に恍惚と。実に愉快そうに。

 彼は闇の中で笑い続ける。

 

 ――その笑みも、すぐに消えた。

 男の鼻に突き刺さる、覚えのある匂いで。

 

 血の匂いではない。男にとってそれは、故郷の匂い。そんなもので自分の鼻は燻ぶらない。

 彼が感じたのは、敵の匂い。

 今の戦争、自分の居間の戦場――聖杯戦争で敵対する、敵の匂い。

 

「ふぅ、ようやくか。この匂いは、弓兵……ではないな。いけ好かぬ香の匂いではない。

 ふむ、我が国ではあまり好まれない、潮風と清涼な花の匂い……ふむ、朕の知る面子で考えるならば、剣士か」

 

 男は落ち着いていた腰を上げる。

 これ見よがしに略奪と殺戮を行い、闇夜に隠れて彷徨い、敵が寄ってくる餌を巻き続けた。

 それでも結局、寄ってくる敵は多くはなかったが……今回は、当たりという事だろう。

男はそう思い、ほくそ笑む。

 

 

 

「さぁて、ここでようやく戦争だ、闘争だ、戦だ戦。

 血を沸かし、肉を躍らせる――朕の戦場よ‼」

 

 

 

 男の高笑いに合わせて、骨は踊り狂う。

 さながら、戦前の舞踏のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







今日から第三章を更新していきます。
楽しんでいただければ幸いです。
次回更新は、10/28(日)の17時頃に更新します。


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