プロローグ 新都の怪物
――新都は、冬木市の中でも非常に活気な地区だと言えるだろう。
アミューズメントパークや商業施設、オフィス街が区分けされて混在し、昼夜問わず様々な人が行き交う。
昼間は、勤め人達が多く。
夜は、刺激を求める者達が。
太古の昔、神代の時代。夜を恐れ昼を尊んだ世界観は、既に過去の遺物。
昼も夜も関係ないその場に、もはや神秘は存在しない。
……だがそれは、存在しないだけだ。
存在したモノが消失すれば、そこには巨大な空虚が存在する事になる。
そこにどんなモノが入り込もうが、生者に感知しようがない。
人間は自然現象への畏怖を忘れたと同時に、そのような機能は廃棄したのだから。
「――薄い」
闇を照らす灯りがあろうとも、暗闇はそこにいる。
むしろ周囲が照らされているからこそ、暗闇はさらに濃くなり見えにくくなる。
繁華街からほんの少し逸れた脇道。
そこには確かに暗闇があり――その中で、一人の男が胡坐をかいていた。
「薄い。あぁ、なんと薄い事か。現世で生きる人間の魂というものは、斯くも薄い味わいしか持っておらぬのか。
――男は、現代にそぐわない風貌をしていた。
暗闇の中にあってなお浮かぶ上がるその奇妙なローブは、この国の着物とはまた違う味わいを見せていた。
この国の人間ではない。
この時代の人間でもない。
その事は、誰が見ても明らかだろう。
誰かが見ていれば、だが。
「……だが、」
そう言いながら、チラリと足元を見る。
そこは、〝赫〟かった。
血、肉、臓物。
無数のそれが散乱していた。
……だけではない。蠢き、啜られ、齧られていた。
肉と同じ量の、骨。
骨は、軟骨と筋肉で繋ぎ止められている。それが無ければ、ただの欠片として霧散する。
――それでも、それは一個の生命体のように這いずる。
水っぽい肉の音が響き、本来消化器官など無い体である筈なのに、血と肉を飲み干していく。
「しかし、腐れても魂は魂。腐れても肉は肉、腐れても血は血。
ならば
それが朕の王者たる証、朕が望むべくものよ」
実に恍惚と。実に愉快そうに。
彼は闇の中で笑い続ける。
――その笑みも、すぐに消えた。
男の鼻に突き刺さる、覚えのある匂いで。
血の匂いではない。男にとってそれは、故郷の匂い。そんなもので自分の鼻は燻ぶらない。
彼が感じたのは、敵の匂い。
今の戦争、自分の居間の戦場――聖杯戦争で敵対する、敵の匂い。
「ふぅ、ようやくか。この匂いは、弓兵……ではないな。いけ好かぬ香の匂いではない。
ふむ、我が国ではあまり好まれない、潮風と清涼な花の匂い……ふむ、朕の知る面子で考えるならば、剣士か」
男は落ち着いていた腰を上げる。
これ見よがしに略奪と殺戮を行い、闇夜に隠れて彷徨い、敵が寄ってくる餌を巻き続けた。
それでも結局、寄ってくる敵は多くはなかったが……今回は、当たりという事だろう。
男はそう思い、ほくそ笑む。
「さぁて、ここでようやく戦争だ、闘争だ、戦だ戦。
血を沸かし、肉を躍らせる――朕の戦場よ‼」
男の高笑いに合わせて、骨は踊り狂う。
さながら、戦前の舞踏のように。
今日から第三章を更新していきます。
楽しんでいただければ幸いです。
次回更新は、10/28(日)の17時頃に更新します。