「――セイバー、これは必要な事なのか?」
「ええ、必要よ。私と貴方がパートナーで居続ける為には……ううん、絆を深める為には、ね」
「そうは言っても、」
「ほら、また言い訳。
緊張しないで。私に全部任せてくれれば良いから、ね?」
「だ、だが、
――自分はこういう電子遊戯には疎いんだっ」
自分の悲痛さも籠った言葉は、ゲームセンター内に設置されている無数の筐体の電子音で掻き消される。
目の前にあるのは、通称シューティングゲームと呼ばれるジャンルのものだ。
銃型のコントローラーを操って、目の前に湧き出すゾンビを撃ち殺すという、ある意味で単純なゲームだ。
自分はこういうのをやった事が無い。
後藤に誘われる等してゲームセンターに来た事はあるが、いつも興味を持てずやっているのを後ろで観戦しているのみだ。
「というか、君も初めてだろう!?」
チラリと画面を見ると、自分の画面は無残なものだ。ゾンビに纏わりつかれ、ダメージを現す出血のエフェクトで画面が真っ赤。
対するセイバーの画面は、まるでコントローラーが体の一部であるかのように鮮やかにゾンビを倒していく。
もしかして自分は、セイバーではなくガンマンの英霊を召喚したのでは? と疑いたくなるほどだ。
「そんな事ないわよ、弓も銃も原理は同じ。ようは狙って撃つ、でしょ? 銃の方が引き金な分楽なだけよ」
「いや、君の時代にそもそも銃器があるのか定かではないんだが……過去の英霊が自分よりゲームが上手いというのはどうなんだ?」
「ん~、そこは、聖杯の与えてくれた知識のおかげかなぁ」
そんな都合の良い知識がある筈もない。
ゲームの知識など、聖杯戦争に何の関係もないのだから。
自分は溜息を吐きながら、コントローラーを筐体にかけ、後ろの椅子に座る。
セイバーは呆れたのか……いいや、あの様子ではそれよりもゲームに熱中する事を選んだのだろう。コントローラーを離さず、喜々としてゾンビを撃ち殺している。
……どの時代、どの文化圏でセイバーが暮らしていたのかは知らないが、生前の知り合いがこの姿を見たら呆れるのか、それとも笑ってくれるのか。
「……やれやれ、何でこんな事になったのやら」
自分はもう一度、大きな溜息を吐いた。
◆
――話は、数時間前に遡る。
「すまない、自分はその手の知識の疎いので、手間を増やすようで申し訳ないんだが……その魂喰いというのは、どういうものなんだ?
名前を聞く限り、ろくな事でないのは理解出来るんだが」
「……ええ、貴方にとっては聞き馴染みはないでしょうね。私も知識以上のものはありません。というより、経験させたくはない、と言えば良いのでしょう」
桜小路の言葉は重く、出来れば話したくない、という雰囲気に満ちている。
それほどに、暗い話題なのだろう。
「――サーヴァントは英霊、つまりは霊体であるというのはもう説明しましたね。
彼らは厳密には人間霊……そんな彼らが現界し続けるには魔力が必要になりますが、マスターからの通常の魔力供給以外にも、方法はあります」
――つまり、
「人間の魂を喰う事で、魔力供給が出来る、という事か?」
「ええ、人間の生気、魂を取り込むことにより、本来以上の魔力を補給する事が可能です。
通常の魔力供給ほど安定しませんが、マスターの魔力を消費せずにリソースを増やせるという意味では有益でしょう」
桜小路の他人事のような言葉に、自分は何も言い返せなかった。
有益、なんだろう。
ただしそれは、魔術師としての理屈であって、普通に照らし合わせれば外道の所業の筈だ。
「……もっとも、良い事尽くしと言うばかりではありません。
聖杯戦争とは言え、神秘の隠匿は必須。人的被害が出れば、隠蔽にも必要以上に気を使わなければいけません。
さらに言えば、英霊の気質によっては共闘関係に致命的な亀裂を与えかねない。故にマスターの間でも忌避すべきものですし、私もこれ以上の被害を許せません」
「――そう、だろうな」
桜小路は、魔術師らしからぬ自分から見てもかなり好感が持てる……魔術師らしい冷淡で、人間を人間として見ない人物だ。
彼女がその暴挙を、許せるはずもない。
自分も当然、そのような行為を目の前で行われれば、止めに入らないわけにはいかない。
「つまり、『倒さなければいけない敵』というのはそういう意図もあって、ってことで良いんだな?」
「その通りです。今も被害が増えているんです、それを見過ごす事は出来ません。
……出来ませんが、私とアーチャーは自由に動けません」
「動けない? 何故だ」
自分の言葉に、桜小路の目はどこか悔しげだ。
「……私達はあのサーヴァントと一度敵対しました。
こちらは一部宝具まで使用しましたが……その場で相手の撤退を促すくらいしかできませんでした」
桜小路の言葉に、アーチャーは流石に表情を変えていない。だが、否定しない所を見ると、気持ちとしては同じなのかもしれない。
「強いというだけで、桜小路たちが苦戦するようには思えないな」
まだ本気を見た訳ではないが、アーチャーの強さは先日のバーサーカー戦で理解しているつもりだ。
そのアーチャーが宝具を開帳しても、撤退しか促せなかった……という事は、単純に性能さで互角だったというのは考え辛かった。
「ええ、それは当然です。私のアーチャーは最強ですから」
……この流れで心無しか胸を張っているのは気のせいだろうか。
「……コホン、それはさておき。
とにかく、私達が新都をうろつけば、それだけで警戒させてしまう可能性があります。もしかしたら、本体が出てこない可能性すらある。
それなら、」
「――自分達が前線に出て、敵を誘き出す、か」
自分達は、最近聖杯戦争に参加した。
アーチャーよりも接近戦に向いているセイバーであれば、新都の中で敵と遭遇したとしても、ある程度応用が利くだろう。
それに敵が索敵などで自分達の姿を知っていたとしても、能力的な部分は知られていない。こちらは、宝具すら使っていないのだから。
「ええ、遺憾ではありますが、油断を誘うには必要な事です。
それに、こちらのアーチャーは戦士としては強いですが、クラス上遠方からの狙撃の方が強い……近場でセイバーと共闘すれば、同士討ちもあり得ますから」
「それは……、いいや、そうだな」
アーチャーの弓の腕はきっと自分が想定する以上だろう。近くで戦っていたとしても、誤射の心配などしようもないはずだ。
そう言おうとして、やっぱりやめておいた。
これは彼女なりの気遣いなのだろう。
『共闘している以上、背後から不意討つつもりはない』
……それを指摘してしまえば、また怒られてしまう。
何故怒られるかまでは分からないが、それくらいは自分も学習しているつもりだ。
「であれば、学校が終わり次第新都を探索し……セイバー? どうしたんだ?」
自分がセイバーに話しかけるつもりで振り返ると、彼女の表情に思わず言葉をかけてしまう。
セイバーは、屋上の床に座り込んでいた。
嘗てない程の真剣な表情で、腕を組んで一点を見つめている。
――もしかしたら、自分は甘かったのかもしれない。
先のランサー戦では自分は何も出来なかったし、バーサーカーとの戦いでは傷を負いむしろ足を引っ張ったと言える。
そんな中で、自分が安易にそれを決めてしまったのが、解せないのかもしれない。
「セイバー、自分は、――」
弁明をする為に口を開くと、彼女の方が言葉が早かった。
「ねえ、トウタ。その魂喰いをしているサーヴァントだけど、私は索敵スキルを持っていないわ」
「あ、ああ、そう、なのか?」
「そうなのよ。
つまり街を宛てもなく移動しなきゃいけない。そうよね?」
「ああ、そうなる。
勿論、自分に出来る事はするつもりだが、セイバーが心配であるならば、」
「――つまりこれは、観光ねっ」
……はい?
自分の動揺を無視して、セイバーは顔を上げる。
先程の真剣な表情は何処へやら、まるで子どものように目を輝かせている。
「観光! 旅の醍醐味よ!
まぁ、今回は旅って訳じゃないけど、それでもこれは良い機会よ、うんうん、聖杯から知識を貰っているって言ってもやっぱりある程度の土地勘は戦闘に必須ですもの絶対必要だわ楽しい場所や美味しい甘未の情報は‼」
早い。
圧迫するかのような言葉の羅列に自分は。
「……いや、何故だ」
としか返せなかった。
今回も楽しんでいただければ幸いです。
次回更新は10/5㈰の17時頃に更新します。