Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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01 日向と暗夜 B

 

 

 

 

 

 その後はあっという間だった。

 学校後にセイバーが着る洋服などを用意し、早く早くと急かす彼女を抑えながら新都に向かうバスに乗り。

 ウィンドウショッピングを楽しみ、適当なレストランの料理に舌鼓の打ち、賑やかさと華やかさに惹かれてゲームセンターに着いたのが今だ。

 

 ……なんだろう、なんなんだろう。

 

「思いっきり目的を忘れているように思えるのは、気の所為なのだろうか」

「む、失敬な。こっちは立派に目的を果たしているわよ」

 

 ゲームセンター内に設置されている休憩所。

 自販機数台とベンチが設置されている一角で呟いた自分の言葉に、セイバーは言葉通り不満げな表情を浮かべている。

 

「話に聞く限り、敵は新都全体を根城にしているようなものでしょう? しかも活動時間は夜だって言うなら、私達に出来る事は多くはないわ。

 目当てもなくウロウロするなら、私達が目立った方がまだ目算も立つでしょう?」

 

「……なるほど、自分達は釣り餌か」

 

 どこに潜んでいるか分からない敵を見つける方法は二つ。

 潜伏先を見つけ奇襲をかけるか。

 隠れている余裕もないように動くか。

 魔力の流れを探知するなど、前者にもいくつか方法はあるだろう。

 もっともそれは、捜索に特化した魔術師ならば可能、という話だ。

 

 強化に特化してしまった自分や、見るからにオールラウンダーな桜小路が積極的に取れる選択肢ではない。

 敵は騎獣を駆る仮想ライダー。

 いくら魔術的な攪乱方法を持っていないとはいえ、その機動力があればどこか遠くに潜伏していても可笑しくはない。

 

 地方都市とはいえ、冬木市は広い。

 探すには、時間も技術も足りない。

 

「自分達が目立てば目立つほど、仮想ライダーが追ってくる可能性が高い、という判断か」

 

「そそ。しかも話を聞いていると、その仮想ライダーとやらは、強くなるのに余念がないって印象。

 ――そんな奴がもし、敵対する事が確定しているサーヴァントの気配を、自分の狩り場で感じたら……考える事は一つでしょう?」

 

「ああ、〝好都合〟と判断するだろうな」

 

 自分が主戦場にする場所に敵対者がいるならば、好機と見る者は多いだろう。

 魂食いなんて反則技を駆使してまで自身を強化しているならば、猶更。

 

「そうそう、なら、私達の役割は?」

「――探索というより、囮になって仮想ライダーを引きずり出す。その後、自分達と桜小路達で強襲する」

 

 二対一。

 あまり行儀の良い手とは言えないが、戦争とはそういうものだ。生き残る方法において、卑怯だなんだなんて関係がない。

 

「そういう事。だから、私は嫌々ながらも楽しんでいるふりをしているって訳よ。

 霊体化もせずにサーヴァントが徘徊しているなんて、『現世を楽しんでいる自由で油断したサーヴァント』と『事情を知らない素人マスター』そのものでしょ」

 

「……なるほど、」

 

「ええ、そう。本当に

 いやぁ、嫌だわぁこんな危機的状況で楽しんでいるなんて。でもこれも、敵を油断させる為に仕方なく、仕方なくなんだから」

 

 

「……本当に?」

 

 

 自分はそう言いながらも、隣に鎮座しているソレを見る。

 

 ――それはそう、狼だ。

 いや、本当に狼か?

 毛並みの色合い的に犬と言うより狼寄りだが、そのファンシーな様相と垂れさがった舌の所為で凛々しいというよりも可愛らしい。

 

 これは俗にいう、ぬいぐるみという奴ではないか。一抱えありそうなので、やや大きいものではあるが。

 小一時間ほどの時間と少なくない金銭を駆使して、UFOキャッチャーでセイバーが取ってきたものだ。

 

 それはもう、楽しそうに。

 これが取れた時など、周囲への配慮を忘れる程歓喜していたように見えた。

 少し呆れた目線を、彼女の方を見る。

 

「……? なぁに? やだ、もしかして私に見惚れちゃった?

 いやぁ、美少女って辛いわぁ、すぐ人の気を惹いちゃう美少女って辛いわぁ」

「……いや、まあ、確かに似合ってはいるんだがな、」

 

 ここで説明してしまうのもなんだが、彼女の服装に視線がいく。

 ゆったりめのデニムに、白いパーカー。今は体を動かすようなゲームをしていたので脱いでいるが、茶色のチェスターコートも人形の横に置かれている。

 

 似合っている。

 似合い過ぎている。

 

 別にオシャレに拘っているという程の服装でもないのかもしれないが、彼女が着ればどこかのモデルのようにも見えてしまうから不思議だ。

 

「……そもそも囮としての演技でなら、この人形を取るのも、そのような装いも必要かったんじゃないか?」

 

「あら、私のマスターはリアリティーって言葉を知らないのかしら? どこにどんな目があるのか分からないのだから、真に迫るものでなきゃ」

 

「そういうものなのか?」

 

「ええ、そうよ……それにこれ、可愛かったし。オシャレだって、ちょっとはしたかったし」

「本当にそういうものなのか?」

 

 思わず自分の口から、本日何度目になるか数える事も億劫になる溜息が出た。

 楽しんでいる事が悪い事とまでは言わないが、

 

「なぁ、セイバー」

「なぁに、トウタ」

「これが敵を油断させるのに必要だ、というのは承知した、そういうものだろう。

 

 

 承知はしているんだが……これは、どのように楽しめば良いんだ?」

 

 

「……質問の、意味が良く分からないんだけど?」

「そのままの意味だ。

 自分は……どうしても、楽しいというのが分からなくてな。出来れば、ご教授願いたいなと」

 

 『つまらない男だなぁ』

 慎二さんや後藤からよく言われる言葉である。

 

 楽しむという感情を理解していない訳ではない。

 遊興が人々を魅了しているのは、今この場所で見ていれば理解は出来る。

 そのような物の重要性を理解出来ない、訳でもない。

 息を詰まらせてばかりいれば、目的ばかり見据えていれば、普通の人間が壊れてしまうというのも、知っている。だからこそ、これは必要な事なのだろう。

 

 だが。

 息を抜く、気を抜いて楽しむ。

 自分はそれを知らない(﹅﹅﹅﹅)

 

 それはどのようにすれば出来るのか、どのようにすれば息を抜いている事になるのだろうか。

 自分はそれが、全く分からない。

 

「どうすれば、楽しめる? どうしていれば、楽しんでいる事になる(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)

 君が言う通り、演技は真に迫っている方が良い。だが、自分は自分が息を抜けているのかも分からない。この場において、自分と言う存在は不自然ではないか?」

 

「――はぁ、呆れて物が言えないわ」

 

 セイバーはそう言いながら、縫いぐるみをどかして自分の隣に座る。

 その表情は、複雑だ。

 まるで動揺と、怒りと、悲しみを綯い交ぜにしたような、複雑なもの。

 

「済まない、勉強不足だったようだ」

 

「いや、トウタに怒ってる訳じゃなくて……う~ん、なんて言えば良いのかなぁ。

 多分、今のトウタに言っても理解出来ない部分だと思うのよ、それって。逆に、変に曲解されちゃうのも良くないっていうか、」

 

「? そう、なのか?」

 

 理解は出来ないが、納得は出来る。

 自分はどうやら、普通ではないらしい。桜小路やセイバーの反応を見ているとそれは、納得出来た。

 

 どう普通ではないか、理解は出来ないが。

 普通ではないという事は、納得出来た。

 

「そうなの。だから、貴方よりも色々経験値があるお姉さんとしては、ここですべてを言及する事は出来ないの

 だから、うん、――ちょっとだけ、ヒントをあげましょう」

 

 セイバーはこちらに向き直る。

 視線は真っ直ぐに。

 探るようというよりも――何かを見定めるように。

 

「ねぇ、トウタ。今君は、この場にいるのが怖い? いちゃいけないから、理解出来ないから、この場から一刻も早く離れたい?」

「……いいや、怖い、という事はない、と思う」

 

 相変わらず違和感はあるが、その違和感が恐怖なのかと言えば、気悲観と言えばそうではないと思う。

 

「そう。じゃあ次。

 トウタはここが嫌い? 煩わしくて、嫌悪して、どうしてもここを離れたい?」

「……いいや、そうじゃない」

 

 賑やかで、騒々しくて、輝いて見えるが。

 それが嫌いになるなんて言う事は、決してない。

 

「そう。それじゃあ、最後の質問。

 ねえ、トウタ――もしかして、分からないから(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)居心地が悪いんじゃない?」

「――――――っ」

 

 その言葉に、息を呑む。正鵠を射ているというのは、まさにこの事なのかもしれない。

その通りだ。

 

 居心地が悪い。

 身の置き場に困る。

 

 それが今、自分の胸の中に渦巻いている感情の正体のような気がする。

 

「……ああ、そう、かもしれない」

「ふむ、なるほどねぇ。

 

 

 

 ――じゃあ、大丈夫なんじゃないの」

 

 

 

 あっけない言葉が返ってくる。まるで大した事が無いとでもいうような、気安さの混じった言葉。

 

「……いや、大丈夫か?

 セイバーの意見が正しければ、楽しめていないと良くないんじゃないのか?」

「べっつに~。そもそも、あんなの方便に決まってるじゃない」

 

 ……おい。

 今あっさりと建前を崩さなかったか?

 自分の非難の視線は何のその。彼女は言葉を続ける。

 

「『楽しい』って言葉や感情を理解出来ていない訳じゃない。

 それが恐怖や憎悪に繋がっている訳でもない。単純に、ここは自分がいて良い場所なのかなぁ~って思ってるだけって事でしょ?

 じゃあ問題ないじゃない。ここにいて良い理由なんて誰もくれないし、別にダメって言われているんじゃないんだったら」

 

「……それで、良いのか?」

 

「だから、良いも何もないんだって。

 話を聞いた限り、トウタに必要なのは、〝慣れ〟よ〝慣れ〟」

「慣れ、か」

 

「そ、慣れ。

 自分がここに居て良いって思える……ううん、そんなの意識しなくなるくらい慣れちゃえば良いのよ。」

 

 慣れる。

 楽しい場所に、息を抜ける場所に、慣れる。

 そんな事は初めて言われたし、そんな事は初めて意識したが、

 

 

 

「そうか、居て良いというのは、なんというか――〝良い〟な」

 

 

 

 そうなってくれれば、どれほど良いか。

 

「……よっし決めたっ」

 

 言葉の勢いと一緒に立ち上がり、セイバーは自分の目の前に立つ。

 文字通りの仁王立ち。堂々と喜々としていて、宛らイタズラを思いついた童女の如き笑顔で。

 

「これから暇な時は、私の〝楽しい〟に付き合ってよ! 繰り返してりゃ、嫌でも慣れていくでしょ!

 決定! 確定! 拒否権はなし!」

「……随分、理不尽な話だな」

 

 思わず、笑いが零れる。

 それがどれほど不自然なのか、自分には分からない。鏡を見れば、もしかしたら歪んだ笑みでも浮かんでいるのかもしれない。

 でも、こんなに自然と笑いが零れるなんて初めてだ。

 

 

 

 そしてそれを、やはり〝良い〟と思った自分がいたのは、間違いなかった。

 

 

 

 

 







楽しんでいただければ幸いです。
次回は10/12㈰の17時頃に更新します。


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