Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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更新が遅れて申し訳ありません。
ここで言い訳がましく話してしまって申し訳ありませんが、体調不良や現実の生活で必要な用事などで、執筆環境を整えきれませんでした。
今後は出来得る限り更新していきますので、よろしくお願いいたします。
それでは、本編をお楽しみください。






02 屍の蹂躙 A

 

 

 

 

 

 ――ある、帝国があった。

 

 遊牧民の国。様々な部族が共存し、あるいは対立し続けていた草原の土地を、一つに纏め上げた国だ。

 モンゴルや中国に留まらず、膨大だったユーラシア大陸の半分以上を席巻した国。

 それを生み出したのは、一部族の族長だった。

 

 一つの騎馬民族の長に過ぎなかった父を持ちながら、全てを奪われ――しかし、その後それ以上のモノを奪い返した男だった。

 世界の半分を支配しかけたイスカンダルに並んで、歴史的支配者と言われる男。

 

 一人の戦士としての名を、テムジン。

 一柱の皇帝としての名を、チンギス・ハーン。

 

 効率的に残虐を行い、全てを支配し続けた男だった。

 

 

 

「………………」

 

 言葉を失っていた。

 教科書にも載るような、有名な英霊。

 強大な力を感じさせる気配。

 

 勿論それもそうだが――今彼は、自身の真名を口にしたのだ。

 自分の弱点であり、本来は隠すべきものを。目の前の男は、堂々と憚る事なく宣言した。

 

「――アホらしい」

 

 閉口している自分とは違い、セイバーは呆れた調子で口を開いた。

 

「自信? それとも自己顕示欲?……どちらにしろ、自分の名前を堂々と言うなんてアホ以外の何物でもないでしょ。

 いくらアンタに、分かりやすい弱点がなかったところで……自分の出自を明かすのが良い事じゃないのは理解しているんじゃない?」

 

「ハッ、くだらん。そのような些末な事に拘るか」

 

 ライダーの言葉は、変わらず威圧的で、変わらず傲慢だった。

 

「いや、それも詮無き事よ。

普通の戦士であるならば、己が手の内は隠して当然であろう。

 だが、(わし)は違う――王は何も隠さぬ。貴様は朕(わし)に触れる事も出来ないのだから」

 

 その言葉に呼応して、自分の視界が歪む。

 いや、闇の中に隠れた遺骸の〝壁〟が揺らいだのだ。

 その揺らぎの中から、人影が出てくる。

 

 剣、弓、槍。持っている武装は様々。

 背後に大きな筒状の火器を構えている兵士もいる。

 しかし、どれもが遺骸。それもが骨と喰われかけた肉片を残し、鎧や防具すらまともに着けられていない不死者の軍団。

 

 それが溢れ出る。

 それが零れ出る。

 壁の総量は変わらず、ただ広がる水のように。

 

「――皇帝(ハーン)とは全てを操る者。一介の戦士と剣を交える事が、我が役割ではない。

 女剣士よ。朕に謁見を所望ならば、我が軍勢、

 

 

 

 ――この『隠されし王墓(ナイマン・チャガン・ゲル))を超えてくるがよい‼」

 

 

 

 人海。

 否、大海原に準えられるそれよりもより緻密に、統制されて、異質なもの。

 ――〝軍勢〟だ。

 

「ッ、タァ‼」

 

 刹那に武装を展開したセイバーは、呪布に包まれた剣を横薙ぎに一閃する。

 切っ先は揺れ、その残像が扇のように周囲を広がる。

 

 扇は、壁そのものだ。

 取り囲んだ遺骸の波を撥ね退け、一気に数十の偉業の兵士を斬り伏せる。

 

 切り口は鮮やかだが、驚嘆すべきは敵の脆さ(﹅﹅)だ。

 渇いた木を斧が両断するが如き乾いた音を響かせて、兵士は想像以上に呆気無く霧散する。

 

 ――しかしその津波が堰き止められたのは一瞬だ。

 遺骸の兵士達は躊躇する事無く、セイバーと自分に群がりつつあった。

 

「ヤッバ――トウタ、退却!」

「ああ! ――『सर्व(全て) धर्म(に我) अनात्मन्(はなし)』!」

 

 身体に魔力が走り、そのまま足は大群の津波を背に走り出す。

 街灯は光の軌線に、風景は伸び、風は顔を打つ。

 

 セイバーも自分と同じように走り出していた。走りは自分よりも余力を残しているが、その足運びには焦りの様なものが感じられた。

 

 完全な敵前逃亡。

 しかし、それを自分もセイバーも臆病とは思わないだろう。

 チラリと視線を後ろに向ける。

 

 隙はない。

 隙間もない。

 血と骨で作られたコールタールはその熱を持って、自分達に押し寄せる。建物や街路樹、路上駐車された車なんていうものは障害にすらならない。

 

 獣のように這いずりながら、重力も無視してこちらに向かってくる。

 ……訂正しよう。コールタールなんて、対処できる生易しいものではない。

 あれは本当の〝闇〟だ。

 

 包まれればそのまま飲まれ、なすすべもなく言葉通りに蹂躙されるだろう。

 だからセイバーの一言も、自分の判断も間違いではない。

 アレを二人でどうにかしよう等と言うのは、勇猛を通り越して愚かだ。

 

「っ、で、次はどうする、セイバー⁉」

 

 体力はいずれ尽きる。

 自分は勿論の事、魔力供給でその体を構成しているセイバーであっても、このまま逃げ切れるとは思っていないだろう。

 

 対してアレは、恐らくライダーの宝具だろう。

 真名解放をしていなかったものの、その類の宝具がないとは限らない。あれほどの圧力を内包する力が、通常攻撃であれば、自分達の勝率はさらに下がるだろう。

 

 とにかく、体力切れを期待できる存在ではない。

 

「このまま走り続けて、勝てるとは、思えないんだがっ」

 

 痞える息で無理やり吐いた言葉に、セイバーは走りながら苦い顔をする。

 

「う~ん、それはそうねぇ……結構これは、ピンチかも。

 一体一体の力はそうでもなさそうだけど、それがあんな数集まられちゃったら、こっちも安易に止まってらんないわ。

 アレがまともなサーヴァントなら、魔力切れを狙うんだけど……」

 

 セイバーは、そこで言葉を切る。

 その先の言葉は理解出来る。

 

 サーヴァントの原動力は魔力だ。

 供給される魔力が多ければ多いほど、その効果を発揮する。それは、サーヴァントという規格外の存在であっても、魔術である以上同じだろう。

 故に、供給が断たれれば自然と力を失う。

 

 膨大な魔力消費を必要とする宝具であるならば、さらにその消耗は激しくなる。それこそ、現世にいる事を維持出来ない程に。

 ――のだが、あのライダーにそれは無意味だろう。

 

 マスターを取り込み、自動での魔力供給と現界を可能にし、その上で魂食いを行っている。

 恐らく、魔力の総量は、自分が十人いても敵わないだろう。

 

「とにかく、囲まれたら詰みよ。

 それなら、出来るだけ周囲を確保出来る場所に移動するしかない……トウタ、貴方、ここら辺は土地勘はあるかしら?」

 

「ああ、バイト先もそう遠くはない……それに、心当たりも既にある。

 だが、このまま走っていくのは、現実的ではないが、」

 

 ここからの位置でそれなりに広いと考えるなら、新都中心部にある公園か、未遠川近くの公園だろう。

 前者は、ライダーに呼び出された公園だが……堂々と迎えに来たライダーの事だ。伏兵を忍ばせていないとは限らない。

 ならば未遠川の公園になるが……ここからは相当の距離がある。

 魔術で強化した自分の脚力でも、あそこまで兵士に追いつかれない自信はない。途中でどのような状況に遭遇するか、未知数なのだから。

 

「ま、それはそうなんだけど……ねぇ、マスター。ここで戦闘時における私達の方針を再確認したいんだけど?」

「――それは、今この状態で、必要な事なのか、」

「とっても重要。後からお小言なんてイヤだから」

 

 こんな状況で命が助かるならば、お小言も何もないような気がする。

 しかし、そんな軽口を言う余裕は自分にはなく、そのまま続きを促す。

 

「うん、まぁ、ようは勝つ為ならどこまでして良いのかって話なの。

 貴方の感じ、無関係な人間を危険に晒したくないみたいだし、それは私も大賛成なんだけど……ほら、色々あるじゃない、現世の法が。

 多少のおいた(﹅﹅﹅)は許してもらえるのかしら?」

 

 そういう彼女の表情は、かなり切羽詰まった状況である今する表情ではない。

 少々悪戯っぽい……しかし好奇心が勝っている表情だ。

 

 ……それに突っ込む気力はない。

 それに、自分だってこの戦い全てが非常事態なのは、重々承知しているところだ。

 

「セイバー、マスターとして許す。

 多少の事は、何とでもなるだろう――状況を打破するのが優先だ」

 

 非常事態には、非常の手段を用いざるを得ない。

 

「――ふふっ、トウタって、お堅いように見せかけて、意外と大胆よね。まぁ、そこが気に入ってるところでもあるんだけど、

 それなら、」

 

 セイバーは、視線を彷徨わせる。

 昼間のウィンドウショッピングを思わせる、何か気に入ったモノを探す目を。

 

 

 

「じゃあ、それなりに良さそうな()を見つけましょっ」

 

 

 

 

 







楽しんでいただければ幸いです。
次回更新11/30㈰の17時頃に更新します。
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