――ライダーの『
彼の皇帝にとって、兵士や部下等という存在は都合よく動く傀儡――蹂躙する為に、奪う為に必要な道具でしかない。
少なくとも、今回ライダーとして現界したチンギス・ハーンという人物はそのような人間性で形作られている。
世界を支配する為、全てを奪う為にしか生きていない、王という名の虐殺装置。
ある意味で分かりやすい『暴君』の体現だ。
『――――――――』
故に、『隠されし王墓』で生み出された兵士に自我はない。
敵を探り出し、虐殺し、奪い尽くす事にしか機能を割り振られていない。
虚ろな眼窩を巡らし、呻き声なのか、嘗ての呼吸の名残なのか、乾いた風が口々から洩れる。
それが自分達を簡単に蹂躙できる存在であったとしても。
彼らは恐怖しない。
彼らは動揺しない。
彼らは躊躇しない。
ただ、王の命令を忠実に全うする、ある意味優秀な兵士、優秀な軍隊だろう。
既に人の気配が失せた街の中を、只管迷走する。命の輝きをその胡乱な眼窩で探り続ける。
向いている方向は千差万別。当然だろう、今は近々に自分達が襲うべき存在を感知していないのだから。
だからこそ、彼らは武器を構えながらも、緩慢な動きで徘徊を続ける。
――そんな存在が、一斉に同じ方向を向く。
槍を持つモノも、剣を持つモノも、弓も持つモノも、砲身を抱えるモノも、どれもこれもが例外なく。
道の向こう。街灯の光りが切り裂いてもなお足りない闇の向こう側。
人間の視力であれば見通すことも出来ない深淵を凝視し、一様に動きを止める。
徐々に、空気が振動する。
自然なモノではありえない、規則的に空気を打つ駆動音が、中身のない躯しかいない伽藍洞の道に響き始める。
――その振動が最高潮に達した時、
闇を切り裂く照明と、異形を蹂躙する剣戟が同時に走る。
『――――――――‼』
兵士の群れが慟哭する。
感情が無い、否、感情を殺し尽くされた兵士であろうとも。それが世界を支配しかけたモンゴル帝国の兵士だったとしても。
彼らがその乗騎に反応出来ない。
反応出来る筈もない。
彼らは、バイク等と言う乗り物に出会った事がないのだから。
「――邪魔よ‼」
騎乗しているセイバーの怒声と共に、乗騎が動く。
前輪を軸にするように後輪が半円を描き、宛ら長い槍が振るわれたようにその周囲の偉業が吹き飛ばされる。
神秘など欠片もない、純粋な物理法則。
高速移動での慣性と駆動機関が引き起こす馬力に放たれる、力任せの暴力。
しかし宝具という神秘性の一端とは言え、あくまで彼らは死霊の類。
身体を引きちぎるには充分だ。
同時に反対方向に振るわれる剣も、刃が呪符により封印されているとは思えない程の切れ味だ。
差し詰め、巨大な円形鋸。
巨木をも両断出来るそれは廻り切ると、もう一度直線軌道に変化する。
法則を鑑みるならば、そもそもこんな軌道は取れない。
それでも、サーヴァントの筋力はそれを可能にし、あり得ない駆動でバイクは死者の大群を切り裂き続ける。
『――――――‼』
吠える。
アレはなんだ。
自分達は何をされた。
理性の欠片も残っていない死霊の悲鳴は、そのような事を言っている気にさせる程、苦悶に満ちている。
それを尻目に、二輪は摩擦の煙を発しつつ、構わずその場を駆け抜けた。
◆
「オラオラオラァ! この速さについて来れるなら来なさいっての‼」
「――っ、」
セイバーの嬉しさと暴力性の混ざりあった大声に対して、自分はまともな返事をする事が出来なかった。
別にセイバーは、現在進行形で乗騎と自分の剣で薙ぎ払っている、不死者の群れに叫んでいるから、自分に話しかけられていないから、とは違う。
自分がセイバーの後ろで乗っている乗騎の振動で、話す事すら難しいからだ。
エンジンが彼女の荒々しい運転に答えるように鋼を回転させる。
進む力と等価の振動を運転席に与える。
その速さと引き換えに、肉体を後方に引きずる力は強力だ。
強化しているからこそ体勢を維持出来ているが、そうでなければ振り落とされているだろう。
流星が、有象無象の闇を蹂躙する。
ライダーが発動した宝具は確かに強力だ。
圧倒的な物量。
単騎で戦う事が多い英霊同士の戦いの中で、異質にして強力だろう。
だが、数が多ければ多いほど、機動力は失われていく。自分の意思のない木偶であれば猶更だ。
――それを、逃げている一瞬で看破するセイバーも、相当卓越していると言えるだろうが。
「ほら、トウタ! 気ぃ緩めている場合じゃないわよ!」
「っ、分かっている!」
セイバーの喝に、自分は再び気合を入れて機体に触れる。
魔術回路が消費される魔力に軋む。
熱で神経が焼かれるのを感じる。
それも構わず、魔術による強化をかけ続ける。
自分にだけではなく、機体そのものに、だ。
セイバーがクラススキルで与えられた騎乗スキルはDだ。
本人がそもそも騎乗というモノに縁がなかった影響で、聖杯から与えられた知識と相まって、ようやく技量は普通のバイク乗り程度。
――しかし、スキルランクはあくまで目安だ。
少なくとも、ここで自分はそれに気づいた。
彼女の英霊として強化された膂力。
咄嗟に最適な動きが出来る運動神経。
理屈に囚われない、突飛で自由な判断力。
その全てが騎乗に割かれれば、その動きは曲芸師も斯くやの動きになる。
……なるが、それに機体が付いていけるかと言えば別だ。
想定されていない不自然な挙動と、停止どころか緩急すらなく稼働し続けるエンジン。
そんなモノに耐えられる機体は、恐らく存在しない。
だからこそ、自分の魔術がある。
無理な軌道に耐えうる耐久性と、その動きについていける機動性。
バイクの構造を即席で解析し、何とかそこだけは強化出来ている。
もっとも、これも付け焼き刃だ。
機械類の専門家ではない自分が知識と魔力を総動員し、切れそうな強化魔術を維持し続け、自壊だけは阻止している。
少しでも魔術を緩めれば……いいや、事が済んで二人が降りたとしても、この機体はもはやまともに走る事はないだろう。
「ハハハ! 鉄の馬なんて面白いもん作るじゃないなんて思っていたけれど、想像以上に面白いわ!」
死肉が四散する。
骨が砕かれる。
道は開かれ、後に残る残骸もその魔力を霧散させる。
もはや、小さな竜巻にも等しいバイクを、止められるモノはいない。
群れは一本の線を引いたように引き裂かれ、その中心を鉄の塊に乗った自分達は闊歩する。
戦場の引かれる、赤い一線。
周囲の惨劇に構わず群がってくる敵に対して、セイバーも構わず刃を振るいながら、操縦をやめない。
ハンドルを目一杯捻り、エンジンが熱暴走を起こす事も気にせずに走り続ける。
「これなら、うちに一台あっても良いじゃない! 買いましょうよトウタ!」
「――いやなんでだ⁉」
戦闘中どころか逃走中であるにも関わらず明るいセイバーの声に、自分は思わず悲鳴にも近い反論をした。
事は、今から十数分前に遡る。
楽しんでいただけたでしょうか。
次回更新は、12月7日㈰の17時頃を予定しています。