Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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02 屍の蹂躙 B

 

 

 

 

 

 ――ライダーの『隠されし王墓(ナイマン・チャガン・ゲル)』は、ライダーが従えた配下、ライダーが虐殺した兵士達、蹂躙した存在を自らの傀儡として取り込み、死兵として操る宝具だ。

 彼の皇帝にとって、兵士や部下等という存在は都合よく動く傀儡――蹂躙する為に、奪う為に必要な道具でしかない。

 

 少なくとも、今回ライダーとして現界したチンギス・ハーンという人物はそのような人間性で形作られている。

 世界を支配する為、全てを奪う為にしか生きていない、王という名の虐殺装置。

 

 ある意味で分かりやすい『暴君』の体現だ。

 

『――――――――』

 

 故に、『隠されし王墓』で生み出された兵士に自我はない。

 敵を探り出し、虐殺し、奪い尽くす事にしか機能を割り振られていない。

 虚ろな眼窩を巡らし、呻き声なのか、嘗ての呼吸の名残なのか、乾いた風が口々から洩れる。

 それが自分達を簡単に蹂躙できる存在であったとしても。

 

 彼らは恐怖しない。

 彼らは動揺しない。

 彼らは躊躇しない。

 

 ただ、王の命令を忠実に全うする、ある意味優秀な兵士、優秀な軍隊だろう。

 既に人の気配が失せた街の中を、只管迷走する。命の輝きをその胡乱な眼窩で探り続ける。

 向いている方向は千差万別。当然だろう、今は近々に自分達が襲うべき存在を感知していないのだから。

 

 だからこそ、彼らは武器を構えながらも、緩慢な動きで徘徊を続ける。

 

 ――そんな存在が、一斉に同じ方向を向く。

 

 槍を持つモノも、剣を持つモノも、弓も持つモノも、砲身を抱えるモノも、どれもこれもが例外なく。

 道の向こう。街灯の光りが切り裂いてもなお足りない闇の向こう側。

 人間の視力であれば見通すことも出来ない深淵を凝視し、一様に動きを止める。

 

 徐々に、空気が振動する。

 

 自然なモノではありえない、規則的に空気を打つ駆動音が、中身のない躯しかいない伽藍洞の道に響き始める。

 

 

 

 ――その振動が最高潮に達した時、

 闇を切り裂く照明と、異形を蹂躙する剣戟が同時に走る。

 

 

 

『――――――――‼』

 

 兵士の群れが慟哭する。

 感情が無い、否、感情を殺し尽くされた兵士であろうとも。それが世界を支配しかけたモンゴル帝国の兵士だったとしても。

 彼らがその乗騎に反応出来ない。

 反応出来る筈もない。

 

 

 

 彼らは、バイク等と言う乗り物に出会った事がないのだから。

 

 

 

「――邪魔よ‼」

 

 騎乗しているセイバーの怒声と共に、乗騎が動く。

 前輪を軸にするように後輪が半円を描き、宛ら長い槍が振るわれたようにその周囲の偉業が吹き飛ばされる。

 神秘など欠片もない、純粋な物理法則。

 高速移動での慣性と駆動機関が引き起こす馬力に放たれる、力任せの暴力。

 

 しかし宝具という神秘性の一端とは言え、あくまで彼らは死霊の類。

 身体を引きちぎるには充分だ。

 同時に反対方向に振るわれる剣も、刃が呪符により封印されているとは思えない程の切れ味だ。

 差し詰め、巨大な円形鋸。

 

 巨木をも両断出来るそれは廻り切ると、もう一度直線軌道に変化する。

 法則を鑑みるならば、そもそもこんな軌道は取れない。

 それでも、サーヴァントの筋力はそれを可能にし、あり得ない駆動でバイクは死者の大群を切り裂き続ける。

 

『――――――‼』

 

 吠える。

 アレはなんだ。

 自分達は何をされた。

 理性の欠片も残っていない死霊の悲鳴は、そのような事を言っている気にさせる程、苦悶に満ちている。

 それを尻目に、二輪は摩擦の煙を発しつつ、構わずその場を駆け抜けた。

 

 

 

                   ◆

 

 

 

「オラオラオラァ! この速さについて来れるなら来なさいっての‼」

「――っ、」

 

 セイバーの嬉しさと暴力性の混ざりあった大声に対して、自分はまともな返事をする事が出来なかった。

 別にセイバーは、現在進行形で乗騎と自分の剣で薙ぎ払っている、不死者の群れに叫んでいるから、自分に話しかけられていないから、とは違う。

 

 自分がセイバーの後ろで乗っている乗騎の振動で、話す事すら難しいからだ。

 

 エンジンが彼女の荒々しい運転に答えるように鋼を回転させる。

 進む力と等価の振動を運転席に与える。

 その速さと引き換えに、肉体を後方に引きずる力は強力だ。

 強化しているからこそ体勢を維持出来ているが、そうでなければ振り落とされているだろう。

 

 流星が、有象無象の闇を蹂躙する。

 

 ライダーが発動した宝具は確かに強力だ。

 圧倒的な物量。

 単騎で戦う事が多い英霊同士の戦いの中で、異質にして強力だろう。

 だが、数が多ければ多いほど、機動力は失われていく。自分の意思のない木偶であれば猶更だ。

 ――それを、逃げている一瞬で看破するセイバーも、相当卓越していると言えるだろうが。

 

「ほら、トウタ! 気ぃ緩めている場合じゃないわよ!」

「っ、分かっている!」

 

 セイバーの喝に、自分は再び気合を入れて機体に触れる。

 魔術回路が消費される魔力に軋む。

 熱で神経が焼かれるのを感じる。

 それも構わず、魔術による強化をかけ続ける。

 自分にだけではなく、機体そのものに、だ。

 

 セイバーがクラススキルで与えられた騎乗スキルはDだ。

 本人がそもそも騎乗というモノに縁がなかった影響で、聖杯から与えられた知識と相まって、ようやく技量は普通のバイク乗り程度。

 

 ――しかし、スキルランクはあくまで目安だ。

 少なくとも、ここで自分はそれに気づいた。

 

 彼女の英霊として強化された膂力。

 咄嗟に最適な動きが出来る運動神経。

 理屈に囚われない、突飛で自由な判断力。

 その全てが騎乗に割かれれば、その動きは曲芸師も斯くやの動きになる。

 

 ……なるが、それに機体が付いていけるかと言えば別だ。

 想定されていない不自然な挙動と、停止どころか緩急すらなく稼働し続けるエンジン。

そんなモノに耐えられる機体は、恐らく存在しない。

 

 だからこそ、自分の魔術がある。

 無理な軌道に耐えうる耐久性と、その動きについていける機動性。

 バイクの構造を即席で解析し、何とかそこだけは強化出来ている。

 

 もっとも、これも付け焼き刃だ。

 機械類の専門家ではない自分が知識と魔力を総動員し、切れそうな強化魔術を維持し続け、自壊だけは阻止している。

 少しでも魔術を緩めれば……いいや、事が済んで二人が降りたとしても、この機体はもはやまともに走る事はないだろう。

 

「ハハハ! 鉄の馬なんて面白いもん作るじゃないなんて思っていたけれど、想像以上に面白いわ!」

 

 死肉が四散する。

 骨が砕かれる。

 道は開かれ、後に残る残骸もその魔力を霧散させる。

 もはや、小さな竜巻にも等しいバイクを、止められるモノはいない。

 

 群れは一本の線を引いたように引き裂かれ、その中心を鉄の塊に乗った自分達は闊歩する。

 戦場の引かれる、赤い一線。

 周囲の惨劇に構わず群がってくる敵に対して、セイバーも構わず刃を振るいながら、操縦をやめない。

 ハンドルを目一杯捻り、エンジンが熱暴走を起こす事も気にせずに走り続ける。

 

「これなら、うちに一台あっても良いじゃない! 買いましょうよトウタ!」

「――いやなんでだ⁉」

 

 戦闘中どころか逃走中であるにも関わらず明るいセイバーの声に、自分は思わず悲鳴にも近い反論をした。

 

 

 

 事は、今から十数分前に遡る。

 

 

 

 

 







楽しんでいただけたでしょうか。
次回更新は、12月7日㈰の17時頃を予定しています。
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