Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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02 屍の蹂躙 C

 

 

 

 

 

 ――現在の冬木市新都は、無人の街と化している。

 元々オフィス街と言う事で人も少なかったが、人外の軍勢に襲われた影響で、町は既に無人の街(ゴーストタウン)と化している。

 

 この異常な雰囲気を察して退去した人間か。

 あるいは異形の仲間入りを果たしているのか。

 

 どちらにしろ、ここには誰もいない。

 戦場を生み出したライダーと、その戦場に入り込んだ自分達以外には。

 故に、道路に路上駐車されている車両を気にする人間は何処にもいない。

 

「――だが、大丈夫なのか?」

「何が?」

 

 自分の言葉に、セイバーはなんて事ないように訊き返す。

 セイバーは既に、道に打ち捨てられているバイクの一つに跨っていた。

 鍵は刺さったまま。恐らく、乗っていた人間は既にどこかに逃げたか、或いは餌食にされたのか……どちらにしろ、荷物も何もない車両はそのまま置き去りだ。

 

 自分がどこまで許すのか。

 それに答えた後セイバーは、直ぐに小道を曲がり、ライダーの宝具『隠されし王墓(ナイマン・チャガン・ゲル)』からの追撃を一瞬だけ撒いていた。

 どれだけ多勢であろうと、多勢だからこその弱点がある。

 狭い道をあの理性の無さそうな兵士達が、その勢いを維持するのは難しかったようだ。

 

 だが、それも一瞬。

 いずれここにも、追っては迫ってくるだろう。

 

「何か問題がある? だって、持ち主はもういないでしょ?

 いたとしても、きっとバイクの事なんて気にかけてないわ。施錠もせずに置いていったんだもの、私達に何かあるって話じゃないでしょ。

 あったとしても、トウタが言ってた〝カントクヤク〟とやらが何とかするわ」

 

「いや、セイバー。自分はそこをどうこう言うつもりはないんだ」

 

 状況は切迫している。

 こんな状況で盗みだなんだと、細かい部分を突く程、自分も頭が固い訳ではない。

 問題は、

 

「問題は、君がバイクなんか乗れるのかと言う話だ。仮に自分に期待しているのであれば、お門違いだと言わざるを得ん」

 

 セイバーの真名こそ聞いていない。いないが、その姿を見ていればバイクどころか自走する乗り物自体なかった頃の英霊なのは分かっている。

 そんな彼女が運転できるとは思えない。

 

 自分も当然だ。

 構造や操縦方法等は理解してはいる。後藤がこういうのが好きで、何度かばらした事も何度かある。試運転の為にエンジンをかけた事はある。

 しかし免許を持っていない自分だ、当然運転した事は一度もない。

 

 つまり、仮に足を調達出来たとしてもそれまでだ。

 

「トウタ、貴方……マスターは、自分のサーヴァントの能力をある程度まで把握出来るって話だけど、まさか一度もやってないなんて言わないわよね?」

 

 セイバーの言葉は、どこか呆れも混じっている。

「ぐっ……いや、そういうプライベートな部分は、ちゃんと本人から聞いておくべきかと思って、」

「――ハァ。そういう部分は嫌いじゃないけど、今回ばかりは気にせず見といてほしいわね。そこは権利じゃなくて、義務みたいなもんなんだから」

 

 そう言われて、ようやく意識して彼女の能力を確認する。

 脳裏に浮かぶイメージは、漠然としたものだ。それでも、彼女が何が出来て何が出来ないかは、凡そ理解出来る。

 

「……もしかして、『騎乗』の事を言っているのか?」

 

 セイバーというクラスに与えられた能力の一つ。

 騎乗出来るモノ――乗り物や騎乗できる動物に乗った際に使われる能力だ、というのは解る。

 ようは、どのようなモノに乗れるのか、乗れるとしてもどの程度の技量なのかを表したものだ。

 

彼女の場合、一般的な乗り物であれば、一般的なレベルで操れる程度だ。

 

「別に馬鹿にするつもりはないが、現実にある乗り物で連中をどうにか出来るとは思えないが、」

「良いのよ別に」

 

 セイバーの表情は、自分の言葉の重さと反比例するように明るい。

 いや、むしろ楽し気だとも言えるだろう。

 

「目的の場所まで逃げ切りさえすれば良いの。

 

 

 

 ――それにほら、こういうのの操作は、センスが大事だから」

 

 

 

                   ◆

 

 

 

「――で、それがこれか⁉」

 

 暴れ馬のような激しさを持って異形の海をひた走るバイクの上で、自分は思わず叫ぶ。

 魔力は生成する度に消費され、魔術回路は擦り切れる程熱を持っている。

 強化された筋肉と骨はそれでも軋みを上げ、風雨に煽られる掘っ立て小屋のような危うさだ。

 

 バイクの速度と、セイバーの斬撃が合わさり、怪物の体は四散五裂になる。

 

 下を見れば、後方に流れ続けるアスファルトが見える。ヘルメットや防具などといった気の利いたものなど装備出来なかったのだ。

 このまま落ちれば、自分の体は擦り下ろした大根のようになるだろう

 

「アハハハハ! やだこれめっちゃ楽しいわ! 馬に乗るのってあんまり好みじゃなかったけど、これだったら喜んで乗ったのに!」

 

 そんな中平気な顔をしているのは、狂ったように笑っているセイバーだけだ。

 

「ぐっ、セイバー、楽しんでいるのは良いが、ここからどうする気だ⁉ 確かに、連中に追いつかれる事はないが、目的の場所とは、いったいどこ、だっ!」

 

 疲労と顔に受け続ける突風で声は途切れ途切れだ。

 そんな中で、セイバーはいつも通り笑う。

 

「そうねぇ、このまま深山町の辺りまで逃げても良いけれど……餌が勝手に逃げちゃうと、釣り師さんに怒られちゃうだろうしね」

 

 後ろから見ても分かるように、チラリとセイバーは遠くを見る。

 その視線がどこに向かっている釜では分からないが、釣り師……アーチャーと桜小路を気にしているのだろう。

 自分達の仕事は誘導であり、同時に能力の確認だ。

 勝利は必須ではないが、同時にある程度戦わないとライダーの底は見えないだろう。

 

「でも、街の中での戦いは無理ね。あんな大勢に四方八方から囲まれちゃ、サーヴァント一騎でどうにか出来るとは思えない。

 だから、出来るだけ敵に後ろを取られないような場所で戦うしかない」

 

「背後を取られないように……まさか、」

 

「ええ、私達、この街に入る時に通った場所が、まぁ少なくとも今ここにいるよりマシでしょうって話よ。

 

 

 

 あそこ、――――――」

 

 

 

「――本気か?」

 

 セイバーの提案……というより決定に、自分は思わず固唾を飲んだ。

 

 

 

 

 







読んでいただけて幸いです。
次回は12月14日㈰の17時頃を予定しています。


また、Xでも言いましたが、14日に大事な報告をさせていただきます。
こちらでも宣伝出来ればと思いますので、楽しみにしていただければ幸いです。


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