新都のビル群。
様々な建物が乱立する中でも、一際高い建物に、アーチャーは立っていた。
千里眼。
弓兵であれば、必ずと言って良い程持っているスキルだ。勿論、アーチャーとして召喚されていれば必ず持っている訳でもない。
あくまでこれは、アーチャー自身の固有技能。
嘗て戦場を弓兵として闊歩していた半生を、サーヴァントという鋳型に収める際に生まれた能力。
――その目で彼は見る。
街の中を埋め尽くす、遺骸の群れを。
――その目で彼は見る。
その群れの中を縦横無尽に走り回る、一つの閃光を。
「まったく。我がマスターもそうだが、あのセイバーの発想も、私の想像を超えているな。
私の想像力が貧弱だ、と言われればそれまでだが」
アーチャーの言葉には、呆れと感嘆が入り混じった複雑なものだった。
アーチャーは千里眼のスキルを持っているものの、気配遮断などの隠密に関する能力は持ち合わせていない。
彼は戦場の英雄。
戦場では目立たず隠れる事は良しとされない。少なくとも、アーチャーの生きた戦場では。
命を賭ける戦いで、指揮官やそれに類する上位者が、堂々と戦わずに隠れて挑む事を望まなかった。
だからこそ、桜小路凪子の魔術がそれをサポートする。
戦闘行動に移らない限り、彼女の隠蔽魔術は完璧だ。サーヴァント本人が索敵すれば話は別だが、あの遺骸の群れであるならば容易に誤魔化せる。
それでも、宝具とは神秘の塊。低い位階に属する者であったとしても、現代の魔術とはそもそも規格が違う。
そんな存在の目を誤魔化せるのは、現代の魔術師の中では、非常に優秀なモノだ。
それを扱うアーチャーのマスター――桜小路凪子も、現代魔術師の中では優秀と言えるだろう。
(それに引き換え……いいや、それと違い、あのセイバーの発想は別種だな)
再び夜の街に視線を戻す。
灯りによって暗闇に縦横無尽な線を描き続けるセイバー達を追う。
その場にあるモノは全て利用し、自身の勝利に繋げる。言葉だけならば当然であり、必然とも言えるだろう。
だが、実際に行えるかどうかで言えば別問題だ。
自分の生きていた時代では想像も出来ない器物を、聖杯から与えられた知識と持ち前の感性のみで実行に移すというのは、常人の発想ではない。
英雄とは、良かれ悪かれ、常軌を逸した存在。
普通の人間が想像する事を超え、状況を打破する者。
「――まぁ、あのセイバーだからこそ、ではあるような気がするがね」
アーチャーの表情は、自然と緩む。
アーチャーが一見する限り、セイバーのマスターは常識人だ。
いや、正しくは常識に縛られていると言えば良いだろうか。感情面等でズレている所はあっても、行動そのものは法律や社会通念に縛られている。
理解した上で、それを破るのには抵抗感があるし、出来得る事ならば破らない。
それがどのような思考回路から来ていたとしても、表面上は堅実ではあるし、同時に面白みはない。
その点、セイバーは違う。
常識、社会通念、法律。その全てを理解している。その上で自分の行いたい事や達成したい事の為に破る事が出来る。
そこに出来る出来ないはない、自分がしたいかしたくないか、という非常に単純なモノだ。
単純だからこそ、戦場をひっくり返す力を持っている。
アーチャーの渡ってきた戦場では、ある意味で日常茶飯事だった。人間の常識を覆す戦力と決断で、あっという間に状況が塗り替えられる。
一番厄介ではあるが、同時に一番見ていて面白い。
口元を緩ませ、そう思ってしまうのは、
「フッ、まるでアイツを見ているようだな」
嘗て戦場で相まみえた敵を思い出したからだ。
自分を倒せないと分かると、実直な自分の教え子に、倒し方を聞かせに行く等という奇策を放ってきた男だ。
結局、アレと直接対決する事はなかったものの、それが無ければ自分が死ぬ事はなかっただろう。
卑怯とは思わない。
むしろ、教え子から『貴方の倒し方を教えてください』等と言われたあの時は、天晴だと声を張り上げそうになったものだ。
規律は守られなければいけない。
誇りは保たれなければいけない。
だが、それはそれとしても――戦いの中で愉快なのは、実に良い事だ。
そういう意味でも、セイバーは好感が持てる。
敵としても、味方としても。
「さて、どこに向かうつもりだ……まさか、このまま敵前逃亡、なんていうつまらない事はしないだろうね」
アーチャーは視線を彷徨わせる。
バイクの挙動は大群に遭遇しないよう、尚且つ攪乱も兼ねた、複雑なものだった。
建物が乱立し迷路にも近い地形になっている事もあるだろう。
どこに向かう気なのか、そもそも目的があるのか、骸の群れは愚か敵対しているライダーにも判断は難しいだろう。
チンギス・ハーンと言えば、草原を駆けた騎馬民族の王。
広大な平原であれば話は別だが、このように入り組んだ場所の索敵は専門外だろう。
しかし、アーチャーは彼らと違い俯瞰して状況を見ている。
故に、セイバー達がどこを目指して走っているのか、凡そながら予想は出来る。
「……面白みは半減するものの、堅実ではある。なるほど。ただ無軌道なだけのサーヴァントではない、という事だな。
――で、我々はどうする? マスター」
〈――どうするもないわ、アーチャー〉
アーチャーの虚空への言葉に、魔力の音波が耳朶を打つ。
〈今回はあくまで、彼らは囮であると同時に戦況分析よ。彼らもそこは、理解しているでしょう。
私達はあくまで状況を見つつ情報収集。それ以外はする必要はないわ〉
「つまり、助けなくても良いと?」
〈……同じ事は繰り返させないで〉
どこか躊躇しているのが、念話越しでも伝わってくる。
素直に『もし何かあれば助けてあげてほしい』とは言わない分、彼女はやはり生真面目だ。
――ならば、その内面まで汲み取って行動するのが、従者たるアーチャーの役割だろう。
「――ああ、了解した、我が主」
そう言うと、アーチャーは中空に跳躍し、闇夜を駆ける。
この戦いの行く末を見守る為に。
少しでもライダーの情報を集める為に。
楽しんでいただけたでしょうか。
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これからも、拙作をよろしくお願いいたします。