「ライダーは、ある意味で単純なサーヴァントです」
桜小路の真剣な言葉は、寒空の屋上でハッキリと響く。
「貴方達が最初に戦ったランサー、教会近くで戦った、仮想バーサーカー。前者はある意味、武芸者として強いタイプ。
後者は身体能力が高い。恐らく狂化の影響でステータス全体が向上しているからこそなのでしょうか……化け物じみた能力は、サーヴァントらしい。
ですが、サーヴァントの本質は宝具にある。そういう意味では、ライダーの方がよりサーヴァントらしい、とも言えるかもしれません」
淡々としたその言葉を否定的に捉える人間も多いだろうが、自分はそうではないと分かっている。
彼女は、現実的に分析をしているに過ぎない。
「戦闘の様子を見させて貰いましたが、彼はライダーやバーサーカーとは真逆の存在……恐らく、自身の戦闘能力に関しては自信がないのではないでしょうか。
そこに関しては、直接戦ったセイバーも、分かるのでは」
「ん~、」
桜小路から少し離れたフェンスに凭れ掛かっているセイバーが、缶コーヒーを傾けながら答える。
「っ、……そうねぇ、確かにそうかもしれない。直接戦ったって印象も正直ないのよね。アイツ、最初から宝具の軍勢押しだったし」
セイバーの説明に、心の中で同意する。
宝具の圧倒的な武力に気圧されていたが、あのサーヴァントは直接的な戦闘を避けていた。
王としてのプライドなのか。
自信が無かっただけなのか。
その場では判断している余裕はなかったが、確かに自信がない、ととれるだろう。
「彼の真名が本当であれば、無理からぬ事かと。少なくとも私が記憶している限り、彼の逸話に個人の武勇はありません。
世界を蹂躙しようと戦争に明け暮れた彼……そういう意味では、ある意味チンギスハーンらしい。
身体能力な武力等が彼ら自身の能力を象徴するならば、宝具は彼らの英霊としての知名度に由来する場合が多いですから」
チンギスハーン。
世界を征服しかけた、二人目の王。
その戦術と軍略には、多くの国々が苦しめられ、動揺させられた。
彼の宝具『
……とするならば、あの宝具を相手取るという事は、彼が支配した国を相手取るのと同義。
彼が生み出した、モンゴル帝国そのものを、だ。
それがどれ程途方もない事か、想像も出来ない。
「現状を見る限り、彼のあの軍勢の宝具とそれを使った蹂躙戦術が、彼の切り札でしょう。
宝具の多様さがライダーの特徴ではありますが……複数種類の傀儡を大量に操るアレ意外に、宝具があるようには思えません。
アレを突破すれば、ライダーの攻略は容易なのではないでしょうか」
「――そうは言うが、桜小路」
自分は思わず口を開く。
「あれを突破するなど、可能なのか?」
数を数える事すら馬鹿馬鹿しく感じる程の軍勢を何とかするのは、一筋縄ではいかないだろう。
なにより、――。
「出来ないと判断したから、桜小路は自分達に協力を求めたんじゃないのか?」
桜小路はその言葉に、眉間に皺を寄せた。
「……出来ないのではなく、しないというのが正確です。
アーチャーの宝具は……強力ではありますが、燃費が悪い。連続して放てるものではありません」
微かに言葉を濁したのは、アーチャーの手の内を晒したくないという側面も、あるのだろう。
アーチャーはそれに関して、何も返事はしない。
ただ目を瞑り、桜小路の傍に侍っているだけだ。
「ですが、今回の件で分かった事がいくつかあります。それを利用すれば、攻略の糸口は見出せるでしょう」
「分かった事……弱点、か?」
「そこまで明確ではありませんが……例えば、傀儡は水を忌避しているようです」
「水を、忌避」
「はい。ライダーの宝具はあくまで死体を利用した軍勢の操作。船舶などが利用できない以上、移動には大きな制限がかかるのでしょう。
新都を離れないのも、恐らくそれが原因かと」
思い起こしてみる。
最後の戦いでは、自分とセイバーは川を背に戦っていた。
こちらの宝具開帳により逃げる事が出来たのは、セイバーが攻撃の勢いを利用して川に逃げたからだと聞いている。
やってやれない事はないが、無理に進む必要性はなかっただろう。デメリットが存在するなら、猶更だ。
「さらにもう一点……恐らくあの宝具は、無限の兵を生み出せる宝具ではない、というものです。
こちらは、かなり確度があるのではないかと、私は見ています」
「……申し訳ないんだが、根拠は?」
実際に戦ってみると、あの数は異常だ。
自分からすると、ライダーは数を気にして戦っているようには見えなかった。
むしろ余裕があると言わんばかりに湯水の如く、兵士をこちらに差し向けてきた。
「とてもではないが、あれが有限ある者の行動とは思えない」
「それは御尤も……ですが、セイバーや衛宮君の話も合わせると不自然ではありません。
衛宮君はもう分かると思いますが、宝具を使用するというのは莫大な魔力消費を必要とします」
桜小路の言葉に、自分は黙って頷く。
セイバーの宝具は、使えば強いのだろうがその分多くの魔力を使用した。
自分が気絶したのが、良い証拠だ。いくら直前まで魔術をしようした状況であっても、身体の膨大な負担がかかったが故だ。
「勿論、宝具の性質によっては違いも出るのでしょうが。
確信を持ったのが、ライダーはマスターを生かしているという事実を知ったからです」
「? 可笑しい事か? マスターがいなければ、サーヴァントは現界し続ける事が出来ないのだろう?」
マスターは、サーヴァントを現世に留めておく、軛のようなものだ。
故にサーヴァントはマスターを全力で守り、マスターも前線に立ち過ぎないよう注意を図るものだろう。
だが、自分の言葉に桜小路は首を振る。
「それだけの為に必要であるならば、方法は他にもあります。自分に都合の良い魔術師か、それに類する人間を連れてくれば良いだけです。
それを宝具内で生かして魔力供給を求め続けている、というのは必要ありません。彼は魂喰いに躊躇がありませんし、わざわざ生かしてやろうなんて優しさを見せる人物像にも思えません」
依り代が必要なだけならば、方法はいくらでもある。
それでも魔力を生み出し続けるように生かし続け、その上で魂喰いという非効率的な方法を取り続ける理由は、
「……なるほど、ライダーの宝具の燃費が異常に悪い、と判断できるか」
それならば、いくら兵士の数が無限に近かろうと、強制的に限度は設定される。
生み出し、操り続ける魔力を枯渇させる事が出来れば、仮にここで勝てなかったとしても、大きな損失を与える事で次の戦いにつなげる事は可能な筈だ。
いいや、戦いの進め方を考慮すれば、もっと大きな戦火を得られるかもしれない。
つまり、――そこに、勝機がある。
「――ただ、」
桜小路は口を開く。
先程まで淡々と話していた桜小路の言葉に、少しの陰りを感じる。
「相当量の魂を確保し、彼の魔力量は通常のサーヴァントより多いでしょう。
それを一瞬で消費させ、彼の疲労を誘うというのは可能ですが……それには、もう一度セイバーにあの宝具を放ってもらう必要があります。
しかも、相手の目の前で」
「ああ、そうだろうな」
セイバーの宝具の説明は、この会合が始まる前に受けている。
ある意味で強力であり、多くの兵士を消費する事は可能だろう。
だが剣から放たれている以上、いくら威力が高かろうと距離を取ってしまうと効力を半減させる。
接近戦……しかも昨夜以上の近距離で放たなければならないだろう。
「……平気、なんですか?」
「? ああ、大丈夫だと思う。あくまで予想だが」
魔力消費が激しいのは確かだが、準備を怠らなければ、前回のように気絶する事はないだろう。
「そうねぇ、宝具自体は連発出来るもんじゃないからアレだけど、一発当てる分には問題ない筈よ。
もっとも、凪子チャンが心配しているのは、そこじゃない気がするけどねぇ~」
意地悪な笑みを浮かべたセイバーに、桜小路の眉間の皺はさらに深くなる。
……何か、自分が想定したモノと彼女の意図は違うようだ。こちらの宝具が使えるかどうかという心配では、無いような気がする。
こういう所が、もっと敏くなれれば良いのだが。
「すまないが桜小路、ハッキリと言葉の意味を訊いても、」
「ダメです」
「……いやしかし、」
「イヤです」
「……だ、」
「お断りします」
「………………」
どうやら、こういう場面で質問してはいけないようだ。
一つ学べたのは、良い事だろう。
……良い事の、筈だ。
「――コホン。取り合えず作戦上、ライダーの行動を制限する必要があります。
その為には、また場を整えなければいけないのですが……セイバー、」
「ん?」
改めて桜小路が、セイバーを見据える。
「また、鬼ごっこをしていただけますか?」
「――へぇ、面白そう。勿論良いわよ」
セイバーは寄りかかったフェンスから姿勢を正し、空になった缶コーヒーの缶を置く。
楽し気な表情で、桜小路を見つめ返した。
「――
「――ええ、それはこちらが用意出来るでしょう」
セイバーの笑みに合わせて、桜小路も笑う。
……何なんだろう。
こんな所で言うべき事ではないかもしれないが、これほど頼りになりながらも背筋が寒くなるものもないな。
読んでいただいてありがとうございます。
第①巻の電子版が発売中です。
よろしければぜひ。
https://chiri-tori.booth.pm/items/7730129
次回の更新は少しズレまして、1/24(土)の17時頃になります。
よろしくお願いします。