Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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04 衝突 B

 

 

 

 

 

 ――異界と化した夜の街、その道路の中心に再び、影が落ちる。

 セイバーは、既に鎧を纏っていた。呪符で封じられた剣をアスファルトに突き立て、ただ瞠目する。

 セイバーはただ、気配を感じていた。

 

 闇の片隅で蠢いているナニカの音を、聞き漏らさぬように。普段の賑やかな彼女からは想像出来ない程の成熟と気迫を纏っていた。

 

 ハァ、と息遣いが聞こえる。

 

 不遜と傲慢を隠す気もない、獣の嘲笑だ。

 

「――(ワシ)の前に、また立てる気力があったとは。

 平民ながら天晴である、セイバーよ」

 

 闇の中から、ライダーが顔を出す。

 その姿こそ違いはないが、纏う気配は違った。

 慢心――ある意味で油断していたあの時と違い、ライダーはセイバーを正当に認めた。

 

 正当に、自分の獲物と定めた。

 

 草原で野兎一匹を駆り殺すのにも、狼は全力を尽くす。弄ぶのは、蹂躙し終わってからこそ。

 故に、彼は油断をせずに、万全の姿勢で臨んでいる。

 

 

 ――ギ、ギギギギギギギ――、

 

 

 今までにない異音が、闇いっぱいに広がる。

 骨と骨、腐れた肉同士が不自然に擦れある音。

 以前対峙した時には微かだった音が、何倍にも膨れ上がった数の所為で耳に木霊する程の怨霊になる。

 

 既にそこには〝塔〟が立っていた。

 無機物ではない、歪んだ有機物で生み出された摩天楼である。

 

「だが、この前のような追いかけっこでは面白みにかけよう。

 ――切り札を出せ、セイバー」

 

 ライダーが舌なめずりをする。

 

 ライダーから遁走する時に見せた、呪いの炎。

 セイバーの、サーヴァントとしての真骨頂。

 ソレを正面から打破する事によって、ライダーは初めてセイバーを倒したことになる。

 

 負かした事になる。

 屈服させた事になる。

 そこで蹂躙した事になる。

 

 それこそがライダーの目的。

 勝敗など、所詮は彼にとってソレにぶら下がっているおまけでしかない。

 彼にとって、蹂躙が全て。

 手段が目的を凌駕しているのだ。

 

「……良いわよ、」

 

 セイバーは、ゆっくりと目を開ける。

 表情は不敵そのもの。まるでライダーの愉悦も侮蔑も意に介さない。

 

 当然だろう。

 セイバーにとって、目の前の男に恐れる事など、何一つないのだから。

 

「どうせ決着を付けなきゃいけないんだもの、私の手札の一つくらい切ってあげなきゃ、皇帝サマには無礼ってもんでしょう」

 

 剣を抜き放ち、そっと手を刃に翳す。

 効果を発揮指定ははずの巻き布はその光量を失い、一時的に魔力へと変換される。

 

 

 

 ――空気が黒く染まる。

 

 

 

 ただ封を解いただけであり、宝具は発動されていない筈なのに、その呪炎はその外炎を覗かせる。

 空間がチリチリと音を立てて燃え、その呪いはあらゆる方向に振りまかれる。

 

 骨が軋む音は止んでいる。

 自身以上の呪詛。

 神代にその爪先を置く呪炎に、ライダーの宝具で作られている亡霊達は恐れている。

 

「たださぁ、」

 

 その中でセイバー唯一、涼し気な笑顔で呪炎の根源を肩に担ぐ。

 

「私はあんまり知らないんだけど、貴方って騎馬を生業にしている部族の、王様だったのよねぇ?

 それなら、」

 

 そう言いながら、彼女は懐からナニかを取り出す。

 一粒の実。

 乾き切り、もはや芽吹く可能性すらないように見える、古びた一つの果実。

 セイバーはそれを道に投げ、

 

「―――目覚めよ(Anfang)……!」

 

 呪文を告げる。

 魔術ではない。セイバー自身には魔術の才覚どころかその片鱗さえも存在しない。

 しかしその実はただ、その言葉をきっかけにすれば芽吹くように出来ている。

 そのように魔術師――桜小路凪子が生み出した魔術礼装の一種。

 

 

 実は芽吹き、植物ではありえない金属に変貌する。

 車輪を生み出し、駆動系を生み出し、その形相を表す。

 

 

 目の前に現れたのは、一台の二輪車。

 ただしソレは通常の車両以上に厳めしく、それそのものが機械で組まれた魔獣のような様相を見せている。

 

 

 

「我儘言わずに駆け抜けましょうよ。

 追いかけっこなんて可愛い言葉に逃げないで――これは競争よ」

 

 

 

「――カ、カカカカカカカ‼」

 

 不自然な笑いが、闇夜に木霊する。

 その響きの、なんと楽し気な事か。

 

「良い! 好い! 佳い‼ セイバー、流石英霊の一柱、流石この闘争に選ばれ死英傑よ‼

 草原の覇者たる(ワシ)を目の前にして騎馬戦を選ぶか‼

 貴様(剣士)が、(騎兵)に⁉

 

 

 

 ――これほど愉快な事は生きていても味わえん!」

 

 

 

 彼の笑いに呼応し、足元から肉塊がせり上がる。

 

『Gruoooooooooo‼』

 

 骸で作られた騎馬が、悲鳴にも似た嘶きを上げる。

 その四肢のみならず、王の騎馬である事を表す装飾を施された馬具も骨と腐肉で彩られる、異形の怪馬。

 

 姿通り、現世を生きる馬とは違う野性味と畏怖を感じさせる。

 

「お主の誘いに乗ってやろう! 愉快であるが故に‼

 

 

 

 だが、――途中でふるい落とされるでないぞ‼」

 

 

 

 その言葉と共に、再び異形のカーチェイスが幕を開く。

 

 

 

                  ◆

 

 

 

「良いですか、セイバー。

 これは私の魔術を用いて使う、変成魔術を利用して生み出したモノです」

 

 夜の暗がりの中で、桜小路が種を渡しながら告げる。

 

「貴方が望むような形――と言うより、貴方の必要に応じた形になり、一時的に力を貸してくれるでしょう。

 ですが、あくまで一時的です。込められた魔力が消費されるか、一定時間たてばその効力はなくなります」

 

「つまり、制限時間内に、私が必要な場所にアイツを誘導すれば良いんでしょ?」

 

 種を受け取るセイバーが事も無げに語る。

 それがどれほど困難な事か、見ていた桜小路達も、目の前で遭遇した自分も、ましてや接敵しているセイバー自身よく分かっている筈だ。

 それでも、その表情が曇る事はない。

 

「それよりも、貴女達こそしくじらないでね。

 今回は、貴女達の活躍が最後の詰めなんだから」

「心得ていますよ」

 

 セイバーのその様子に反して、桜小路の声には緊張が滲み出ていた。

 当然だろう。桜小路が担っている要素は、今回の作戦では多いのだから。

 

「しかし桜小路、本当に良いのか?」

 

 自分はそんな桜小路に、思わず声をかける。

 

「今回、桜小路に比重が乗り過ぎているような気がするんだが……共闘の意味が無いように、思えてならない」

「じゃあ、衛宮君は得意な事はあるんですか? 私の分担を、少しでも担えるような魔術や技術が」

 

「それは……、」

 

 強い語気に、思わず言い淀む。

 

 ない。

 

 魔術もせいぜい強化魔術程度、セイバーの移動手段を用意出来るわけでもなければ、使える技術はない。

 ……妥当な配分、と言えるのだろうか。

 

「それに何もしてない風に言っていますが……貴方、ちゃんと自分の役割の意味を理解しているんですか?」

 

 言葉も眼光も鋭く、自分に突き立ててくる。

 

「えっと……理解しているつもりだ。

 まずは、セイバーの戦闘と宝具解放に備える、だろう?」

 

 戦闘中の魔力消費を極力抑え、戦闘と宝具に魔力を使用出来るようにする事。

 桜小路がセイバーの移動手段を用意・強化し、自分がセイバーとは別に行動するのはその為だ。

 魔力を供給すればするほど強い、等と言う単純な話ではないが、最高出力を発揮させるのならばそれは必要な事だ。

 

「ええ……でも、それだけじゃないでしょう?」

 

 桜小路の表情は暗い。

 

「貴方は今回、一番危険名前に立ちます。前回同様にです。

 貴方という弱点があるからこそ、ライダーは喜々として狙ってくるでしょう……そこを突くわけですから、当然、」

 

 

 

 貴方は、無防備でなければいけない(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)

 

 

 

 最後の言葉は、桜小路から出なかった。

 言い辛い事、なのかもしれない。

 桜小路は役割上、安全な場所にいる必要性がある。

 対する自分は、役割上最も危険な場所にいた方が良い。

 

 

 

「ああ、問題ない。

 これがあのライダーを倒す為に必要な事ならば」

 

 

 

 命を賭して、勝利を得られるならば。

 命程度で済むならば、安いものだ(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)

 

 

 

 桜小路を安心させる為に、自分は本心からそう言った。

 

 

 

 

 







読んでいただきありがとうございます。
次回は諸事情ありまして、1週間挟んでの2/8㈰の17時頃更新します。

またBOOTHにて、第①巻発売中です。
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