Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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長らくお待たせいたしました。
体調不良やリアルでの都合などが重なり、なかなか更新できず申し訳ありませんでした。
楽しんでいただければ幸いです。


04 衝突 C

 

 

 

 ――機関部からくる振動と排気音が、空気とセイバーの体を震わせる。

 受ける風は以前よりもずっと強い。

 魔術で生み出された二輪車は込められた遺憾なく発揮し、それに応じて速度も上がっていく。

 

 傍で見ていれば、もはや彼女は一つの彗星。

 流れるように動きながら。

 微かなヘッドライトとテールランプが闇を切り裂くように縫っていく。

 

「――くっ」

 

 思わずセイバーの口から苦悶の声が漏れる。

 まるで暴れ馬に乗っているような感覚。

 従来であればきっと、走る事すらできない程の性能は、乗り手の技量によっては振るい落とされても可笑しくない化け物に期待を変貌させる。

 

 ――だが、追いかけてくるモノもまた、規格外の怪物だった。

 

『Buruuuuuaaaa‼』

 

 怨念に染まり切った嘶きが、骨を振動させ闇に木霊する。

 四対の脚が地面を叩く。

 音はもはや、重機のソレだ。

 

 舗装され、多少の威力であれば問題なく防げるはずの道路は蹄によって蹂躙され、アスファルトを砕き巻き上げながら前に進んでいく。

 セイバーが乗っている二輪車。桜小路が用意した魔術の馬車に引けを取らない……否、それ以上の速度で亡者の津波を牽引する。

 

「クハハッ、その程度の神秘で我と競り合おう等と――片腹痛いわ!」

 

 ライダーの言葉と共に、騎馬の脚が早まる。

 息を荒げる事もなく先頭に立った怪馬。

 

 

 速度はそのまま維持しながらも、怪馬は後ろ脚に力を籠め、振り下ろす。

 

 

 走る以上に巻き上げられたアスファルトが、セイバーの目の前に殺到する。

 怪馬の脚力にとって勢いを持った瓦礫は、散弾に等しい。一つの巨大な壁が迫ってくるようなものだ。

 

 なす術はない。

 そのまま瓦礫に圧し潰されて終わりだ。

 

 

 

 ――普通であるならば。

 

 

 

「――フッ!」

 

 鋭い息を吐き、腕の力で無理やり車体を薙ぐ。

 後輪が流れるように滑り、車体は横になる。

 地面を擦る体勢は、そのまま倒れても可笑しくない。

 

 それでもセイバーの天性の運動能力、そして勘による操作。

 両者が噛み合う事により、瓦礫を流れるように回避する。

 

「ハハッ、そのような鉄塊を思うように操るとは!

 さては貴様、騎兵の素養もあると見たッ!」

 

「――チッ、冗談じゃないってぇのよ!」

 

 ライダーの喜々とした言葉に、セイバーは珍しく苛立ちの声色で叫ぶ。

 

 ギリギリだ。

 何度も言うが、セイバーの騎乗スキルは高いものではない。

 

 馬に乗った経験すら前世では少なく――どちらかと言えば、船の方が性に合っているくらいだ。

 それでも、クラススキルとして優遇されているライダーと化け物馬と並べているのは、偏に彼女の乗っている二輪車のお陰だろう。

 

『――これはある意味、変身魔術と同じなんです』

 

 頭の中で、桜小路にされた説明が反芻される。

 

『これは、二輪車ではありません。あくまで、二輪車であるという概念を付与しただけで……言わば、張りぼてです。

 ですが――概念だからこそ、好きなように出来るという部分もあります』

 

 概念だからこそ。

 あくまで作り手と乗り手が認識する『二輪車』を出力しているからこそ生み出される、運動性能と馬力。

 

 それは幻想の一端を再現しているからこそ為し得る事。

 さながらそれは、〝南瓜の馬車〟。

 

 概念を付与する事により、今この二輪車は世界で最高峰のモノを超え、幻想の域に達している。

 故に、ギリギリではあるもののライダーと競い合えている。

 

 だが、それでは足りない。

 二輪車に込められている魔力は潤沢とは言えない。そんな中で、セイバーの力量のみでライダーを所定の場所まで誘導する事は現実的ではない。

 

 

 

 だから早く来い。

 ――セイバーがそう思った瞬間、光弾が辺りを照らす。

 

 

 

「――ッ」

 

 加速の為に舵輪を捻り、機体を左右に振る。

 異形の群れを駆逐する光の降雨を縫うように掻い潜り、その熱に晒されながらもなお前に進み続ける。

 

「ちょっ、多い多い! どんだけ振らせれば気が済むのよ!」

 

 聞こえないのが分かっていても、セイバーは怒声を上げずにはいられなかった。

 セイバーが回避出来る事が分かっているからなのか、それとも多少セイバーに当たっても大丈夫だと考えてでもいるのか。

 どちらにしろ、光弾の手が緩まる様子はない。

 

「――オッケー、私への挑戦状と受け取るんだから!」

 

 怒りはありつつも、セイバーの表情はギリギリを楽しんでいるようにも見える。

 

 

 

 そう、苛烈ならばせめて楽しまなければ。

 セイバーが操る魔術の二輪車は更に加速し、それでもライダーが追えるように巧みな緩急を生み出していた。

 

 

 

                   ◆

 

 

 

 矢の形を象った光。

 固形化された、膨大な熱量と破壊の力。

 

 セイバーに追い縋っていたライダーの雑兵が焼かれる。

 波の陣形であったそれらが、散り散りに切り裂かれる。

 

 現代兵器で言えば、炸裂するミサイルにも似た――否、それ以上の威力を持って地形すら変化させる。

 

「ほう、」

 

 ライダーは驚かない。

 妨害はあって当たり前。

 競争やらと嘯いていたが、セイバーは何か狙いがあって自分を誘っている。

 そんな事は、数多の戦場を駆けてきたライダーには分かり切った事だった。

 

 

 分かっていた――故に、乗ったのだ。

 奸計も含めて飲み下してこそ、皇帝なのだから。

 

 

 感心したのは、その横やりの主。

 恐らくセイバーと共闘関係にあるサーヴァント。

 

「――アーチャーか。

 一度戯れた後、久しく顔を見せなかったが……なるほど、共闘相手が出来たか」

 

 ライダーの笑みは更に濃くなる。

 その姿を垣間見る程度にしか戦っていないが、逃がした獲物が如何に大きかったかは、想像に難しくはなかった。

 

 だからこそ惜しいと思った。

 あれだけの膨大な魔力(恵体)を喰い逃したことを。

 

 

 

「好い、何たる僥倖!

 セイバーも中々に美味そうだが、あのアーチャーもまた好い!」

 

 

 

 ライダーの歓喜に呼応して、怪馬の脚も加速する。

 

 ライダーは皇帝だ。稀代の帝王だ。 

 戦場を駆けるその知啓はとても高く、戦場を楽しみながらも、感性で生み出される軍略は停滞する事はない。

 

 

 

 ――だが同時に、それは本能的な部分を停めないという事だ。

 強者を骨の一端、魂の髄までしゃぶり尽くしたいという本能を、抑え込む事はない。

 

 

 

 

 







読んでいただき、ありがとうございます。
次回の更新は2/22㈰の17時ごろを予定しております。
これからも、拙作をよろしくお願いします。


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