……
……
……
――コロス。
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス
殺意が、害意が、暴意が。
その場にある物も、その場にある者も全てを、灼き、犯し、狂わし、壊す。
「――オ、――」
ライダーの口から、苦悶が漏れる。
忠実な骸の兵団は、自分の主を守ろうと無意識的に、強制的にその肉体を曝け出し、城砦の壁を目指すようにその厚みを増していく。
だがそれらを焼く速度は、壁が形成されるよりなお早い。
――否、それは焼いているとも、一線を画すモノだ。
物理にすら影響を与える程の凝縮された呪いは、腐肉を更に腐らせ、灰燼以上の塵芥に変質させていく。
それはもはや、焼失ではなく喪失。
そのモノ足らしめる、本質を超えた概念を破壊しつくすその豪炎は、もはや回復させる気がない。
「グッ――」
ライダーの失われていく魔力が、感覚が。
彼の宝具『
彼の根幹を、揺るがす程へって言っている事が。
「―オォ、ッ」
それでも、ライダーは全力で腕を振るう。
自身という存在を構成する事すら困難になる程の魔力を、その肉壁に注ぎ続ける。
良くはない。
良くはないが、後先を考えられるほどの余裕はなかった。
今この場を防ぎ切らなければ、その呪炎はライダーに深手を負わせるだろう。
いや、深手程度であればサーヴァントにとって問題はない。魔力があれば回復出来るのだから。
それでも、ライダーの直感が叫ぶ。
これは、取り返しがつかない。
魂そのものを物質化する事によって現界するサーヴァント。
ある種の精霊に近いその身は、身体は、呪いという魔術との相性が良い、と燃えいるのだから。
――ライダーにとっては、最悪の意味で。
「――オオォォオオオォォオォォオオォオオ‼」
魔力を振り絞ればする程、何もない空間から腐肉の群れが殺到する。
主を守れ。
主君を守れ。
言外の命令に従わされ、突き動かされ、操られる亡霊が群れを成し、壁を作り続ける。
炎は不意に止む。
何の前触れもなく、ライダーが何をするでもなく、唐突に。
「……カカッ」
意図した訳でもなく、ライダーの口元に笑みが浮かぶ。
「――耐えた! 耐えきったぞ!
セイバー! 貴様の、貴様の宝具は、英霊としての格は、朕(ワシ)の王座を崩すには至らなかったのだ!
ハハハハハハハハハハハハ!」
ライダーの歓喜は、止めようがなかった。
一瞬、自身の死すら想像する程の攻撃からの解放に、歓喜しない者はいないだろう。
「ハッ――、」
――その笑いは、〝流星〟が消した。
◆
――アーチャーは一人、ビルの屋上で弓を構える。
凪子はここにはいない。追跡をする上で彼女がアーチャーの移動について来れないというのも理由だが、それだけではない。
――アーチャーが宝具を使えば、彼女の魔力は尽き、自分の身を守る事さえできなくなる。
そんな彼女を守りながらの移動など、ゾッとしない話だからだ。
……引かれた弓弦の音は鳴らない。
アーチャー自身の魔力で生み出された弓が軋む事など、あり得ない。
引かれたそこに、矢玉はなかった。
――彼の宝具は、弓ではない。
弓はあくまで、彼の神秘を再現する上で必要な物であるだけで、魔力で編まれてはいるもののただの弓だ。
必要なのは、彼が内包する神秘。
彼が身の内に抱いている〝神気〟が。
「――
アーチャーの言霊に沿って、魔力が一つ収縮する。
もしここに他の魔術師がいるならば……あるいは、桜小路凪子でも構わない。そこにもし他者がいれば、その魔力球を見ただけで息を呑んでいただろう。
その魔力球一つだけで、並みの魔術師であるならば、その命を燃やしたとしても生み出せない程、膨大な魔力で構成されているのが分かるのだから。
「
一つ、また一つ。
古の城塞を粉砕しかねない魔力球が、アーチャーの背を支えるように現出する。
これは彼自身の魔力であると同時に、祝福である。
彼を英霊であるという彼そのもの。
彼の出自そのもの。
「――突き崩せ、世界を。
――生み出せ、世界を。
――|梵天(ブラフマー)よ、我が声を聞き給え」
魔力球が帯び意になり、弓に番えられる。
それはもはや、世界を開闢するに等しい力。
同時に、世界を蹂躙する力。
「――『
放たれたソレは空気を切る音すら置き去りにして、狙った目標――ライダーのみを蹂躙する。
◆
理屈では分かっていた、つもりだった。
サーヴァントが普通の人間を、ましてや魔術師すら凌駕する、超常の存在だという事は。
今までの戦いを見て、理解していなかった訳ではなかった。
――それにしても、これは予想外だった。
「――っ」
その呪いの饐えた匂いと、濃い魔力に思わず咽そうになる。
肉の焼ける匂いはしない。
呪炎とはいえあの炎で、相当な量の骸を焼いている筈なのに。
……なんて事はない。
――先程、遠方から迫ってきた魔力の塊の所為で、全てが吹き飛んだのだから。
「……不思議な光景だな」
思わず口にする。
自分の目の前には、広大な更地が広がっている……事はない。
一点.ただ一点のみだ、ライダーがいた場所にだけその衝撃の痕跡が残されているものの、他の場所に被害はない。
むしろ、セイバーの宝具の被害の方が大きいくらいだ。
「――まぁ、相当ヤバい奴だなぁとは思ってたけど、ここまでとはねぇ」
珍しく、セイバーの言葉は固い。
動揺か、あるいは恐怖にも似ているのか。
「将来、アイツと戦わなきゃいけないのかもっていう可能性を考えると、……いや、考えるのもイヤねぇ」
「それは同感だな……けれど、」
周囲を少し探っても、ライダーの姿はない。
これだけ魔力が濃い状況で、探知の魔術は意味がないだろうが……あの砲撃にも近い攻撃を、無事でいられるとは思えない。
ひとまず、
「――勝った、という事で良いんだよな」
そう言いながら、自分の足から力が抜けるのを感じ、重力に従ってその場に座り込む。
緊張していたのは分かっていたが、ここまでだったとは思っていなかった。
「アハハ、お疲れ様。
……ったく、私としてはあんまり素直に褒められないけどね。無茶してるって自覚ある?」
「……どうだろう」
セイバーの言葉に、不意に自信を無くす。
今回の作戦を受ける時に、少し桜小路が動揺していたように思える。
……動揺というか、まぁ、あくまで自分の主観でしかないが、引いているように感じた。
もしかしたら自分を囮にする作戦を即座に了承したのは、良くなかったのだろうか。
「……まぁ、あの方法が一番手っ取り早いのも確かだから、別に良いんだけど、
――取り合えず、第一歩ね」
セイバーが自分の前に手を差し出す。
自分が立ち上がるのを手伝おうとしてくれているのは、想像しなくても分かった。
自分はそれに、
「――ああ、第一歩だな」
素直に受けておく事にする。
遅くなりましたが、楽しんでいただければ幸いです。
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