Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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遅くなり、申し訳ありません。
三章の最終話になります。
読んでいただければ幸いです。


05 宝具開帳 C

 

 

 

 

 

 川の向こう側。

 砂浜のようになっている場所に、影が蠢く。

 

「クク、カカカカカ、」

 

 特徴的な笑いが、暗闇に広がる。

 ライダーの姿は、しかし、見るに堪えないものだった。

 

 下半身は存在しない。

 

 引き裂かれた布のような切れ口からは燐光が漏れ、魔力がその体を再生しきれていない事を示している。

 霊核は辛うじて存在するものの、亀裂の入ったそれは現界を維持するだけで精いっぱいだ。

 

 それでも、現界を続けている。

 

 世界を崩しかねない砲撃に耐え、何とかそれでもサーヴァントとしての死は迎えていない。

 肉壁がアーチャーの想定以上に厚かったのか、ライダーのサーヴァントとしての性能が高かったのか。

 あるいは、王としての気概、執念か。

 

「――負けぬ、」

 

 這う。

 地を擦り、泥が付こうとも、ライダーは動くのを止めない。

 その怒りと執着にも似た炎は、彼の瞳に爛々と光を灯す。

 

「まだ、負けておらぬ……魔力さえあれば、」

 

 ライダーの霊核は無事だ。

 消耗しつくし、呼吸にすらその魔力を削られているが、それでも無事だ。

 彼の特性上、魂食いを行えば、戦力と魔力を同時に吸収できる以上……彼が生き残る可能性はない訳ではない。

 

 ライダー、チンギスハーン。

 

 本来であれば、この聖杯戦争を余裕をもって制する事が出来る程の大英雄。

 もしこの状況で彼が生き残れば、切り札を一部とは言え開示したセイバー達に、勝ち残る可能性はない。

 

 

 

 ……だが、聖杯戦争は単純ではない。

 どこまで強力で、生前世界に覇を唱えた英雄だろうと。

 簡単に勝利を掴めるようには出来ていないのだ。

 

 

 

 ――川岸に、気配が現れる。

 一つ、二つではない。

 暗闇から浮かび上がるそれは、十数、数十とその数を増やしていく。

 

 餌に群がる鼠のように。

 腐肉の匂いを追ってきた鬣犬(ハイエナ)のように。

 

「な、なんだ、」

 

 ライダーの動揺の声に、影は反応しない。

 鉄仮面の奥に隠された表情が動いていないだけではなく、その声に身動ぎすらしない。

 ただ、その手に持った凶器を構える。

 

 無数のナイフと小銃の群れ。

 

 神秘の香りはごく一部にしかない、現代の凶器。

 本来であればライダーに掠り傷も与えないようなその凶刃と銃口の群れは、今のライダーの状態では脅威そのものだ。

 

「やめろ、やめてくれ、」

 

 少しでも距離を取ろうと身動ぎするライダーとの彼我の距離が縮まる事はない。

 野火の広がりのようにゆっくりと、確実に。

 鉄仮面の集団はライダーを追い詰め、囲い。詰め寄る。

 

「――い、いやだ、」

 

 その声は、無様な一言。

 大陸の大半を支配した大英霊、不世出の王。

 かの征服王にすら匹敵しかねない大偉業を果たした筈の英雄は、地を這いながら己の敗北を否定する。

 

 嘗て自分が蹂躙した存在が、そのように泣き喚こうとも、笑みを浮かべて虐殺した当の本人が。

 

「まだ(ワシ)は負けておらぬ、まだやれる、まだ戦えるぞ、控えろ下郎、失せろッ」

 

 このような情けない姿をさらしても、鉄仮面は何もしない。

 笑うどころか、嘲る事すらしない。

 ――それはそうだろう。元より、彼らはそのような機構だ。

 

 ライダーの宝具であった死人達が何の動揺も見せないように。

 彼らもまた、そのような自我を持ち合わせていないのだから。

 

 凶刃と銃火器の切っ先が、ライダーに向けられる。

 

「い、いやだ――(ワシ)は、まだ、」

 

 死にたくない。

 ――そんな泣き言がその口に昇る前に、刃と発火炎の煌めきがその口を塞ぐ。

 

 

 

 どこまでの大英雄であろうと。

 どれほどの強者であろうとも。

 弱っていれば狩られるのだ。

 

 

 

 それが、聖杯戦争だ。

 

 

 

                    ◆

 

 

 

 セイバー対ライダーの騎乗対決。

 セイバーとアーチャーによる宝具での掃討。

 そしてライダーが受けた暗殺。

 

 それら全てを見ている者は、セイバー達やアーチャーだけではない。

 第三の勢力もまた、その戦いを見守っていた。

 

「……驚いた、という言葉は早計か……まさか、セイバーとアーチャーが、あのライダーを倒せるとはな。

 いや、厳密には倒したとは言えないかもしれないが……まぁ、彼らのお陰で倒せたと言っても過言ではないか」

 

 男は見下ろしながら、そう呟く。

 口元の紫煙は風に流され、虚空に消えていく。

 

「ライダーの軍勢。いくらセイバーやアーチャーが強かろうと、数には勝てないと踏んでいたが……これは、嬉しい誤算と見るべきかな」

 

 民間人の犠牲に怒りを感じ、街の被害を嫌うセイバーとアーチャー。

 それらを一切気にせず、数の暴力を駆使するライダー。

 どちらが有利かなど火を見るより明らか……だったが、予想は覆された。

 

 男はそれに、驚きすら見せていない。

 予想はあくまで予想。

 それに、男にとってみればライダーが生き残らない方が都合が良かった。

 

 我欲に忠実で、傲慢な王。

 気分で敵味方を決めるその精神性は、御す事は可能だろうが、いつ起爆するか分からない爆弾を抱えるようなものだ。

 

 対して、セイバーとアーチャー。

 観察をしている限り、あの陣営のマスター達は基本的に善性が強いのだろう。

 聖杯戦争という闘争の場で見れば弱いだろうが、伊地知的に共闘する相手としては、こちらの方が良いだろう。

 

 少なくとも、後ろから刺してくるような性格ではないというだけでも、充分だ。

 

「目標を打破するまでは可能だろう。少なくとも遠目だけでは、判断が難しいな。

 ――そろそろ、接触を図るのも良いだろう」

 

 白衣をはためかせ、男は踵を返す。

 

 

 

「どちらにしろ、見方はいるだろう

 ――あの、狂戦士を殺すならば名」

 

 

 

 男の言葉は意味深に消えていく。

 

 

 

 

 







読んでいただきありがとうございます。
これにて、第三章完結になります。

これより、一か月の書き溜め期間を頂いてから、5月19日㈰の17時ごろに更新します。
次回も楽しんでいただければ幸いです。



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