遅くなり、申し訳ありません。
三章の最終話になります。
読んでいただければ幸いです。
川の向こう側。
砂浜のようになっている場所に、影が蠢く。
「クク、カカカカカ、」
特徴的な笑いが、暗闇に広がる。
ライダーの姿は、しかし、見るに堪えないものだった。
下半身は存在しない。
引き裂かれた布のような切れ口からは燐光が漏れ、魔力がその体を再生しきれていない事を示している。
霊核は辛うじて存在するものの、亀裂の入ったそれは現界を維持するだけで精いっぱいだ。
それでも、現界を続けている。
世界を崩しかねない砲撃に耐え、何とかそれでもサーヴァントとしての死は迎えていない。
肉壁がアーチャーの想定以上に厚かったのか、ライダーのサーヴァントとしての性能が高かったのか。
あるいは、王としての気概、執念か。
「――負けぬ、」
這う。
地を擦り、泥が付こうとも、ライダーは動くのを止めない。
その怒りと執着にも似た炎は、彼の瞳に爛々と光を灯す。
「まだ、負けておらぬ……魔力さえあれば、」
ライダーの霊核は無事だ。
消耗しつくし、呼吸にすらその魔力を削られているが、それでも無事だ。
彼の特性上、魂食いを行えば、戦力と魔力を同時に吸収できる以上……彼が生き残る可能性はない訳ではない。
ライダー、チンギスハーン。
本来であれば、この聖杯戦争を余裕をもって制する事が出来る程の大英雄。
もしこの状況で彼が生き残れば、切り札を一部とは言え開示したセイバー達に、勝ち残る可能性はない。
……だが、聖杯戦争は単純ではない。
どこまで強力で、生前世界に覇を唱えた英雄だろうと。
簡単に勝利を掴めるようには出来ていないのだ。
――川岸に、気配が現れる。
一つ、二つではない。
暗闇から浮かび上がるそれは、十数、数十とその数を増やしていく。
餌に群がる鼠のように。
腐肉の匂いを追ってきた
「な、なんだ、」
ライダーの動揺の声に、影は反応しない。
鉄仮面の奥に隠された表情が動いていないだけではなく、その声に身動ぎすらしない。
ただ、その手に持った凶器を構える。
無数のナイフと小銃の群れ。
神秘の香りはごく一部にしかない、現代の凶器。
本来であればライダーに掠り傷も与えないようなその凶刃と銃口の群れは、今のライダーの状態では脅威そのものだ。
「やめろ、やめてくれ、」
少しでも距離を取ろうと身動ぎするライダーとの彼我の距離が縮まる事はない。
野火の広がりのようにゆっくりと、確実に。
鉄仮面の集団はライダーを追い詰め、囲い。詰め寄る。
「――い、いやだ、」
その声は、無様な一言。
大陸の大半を支配した大英霊、不世出の王。
かの征服王にすら匹敵しかねない大偉業を果たした筈の英雄は、地を這いながら己の敗北を否定する。
嘗て自分が蹂躙した存在が、そのように泣き喚こうとも、笑みを浮かべて虐殺した当の本人が。
「まだ
このような情けない姿をさらしても、鉄仮面は何もしない。
笑うどころか、嘲る事すらしない。
――それはそうだろう。元より、彼らはそのような機構だ。
ライダーの宝具であった死人達が何の動揺も見せないように。
彼らもまた、そのような自我を持ち合わせていないのだから。
凶刃と銃火器の切っ先が、ライダーに向けられる。
「い、いやだ――
死にたくない。
――そんな泣き言がその口に昇る前に、刃と発火炎の煌めきがその口を塞ぐ。
どこまでの大英雄であろうと。
どれほどの強者であろうとも。
弱っていれば狩られるのだ。
それが、聖杯戦争だ。
◆
セイバー対ライダーの騎乗対決。
セイバーとアーチャーによる宝具での掃討。
そしてライダーが受けた暗殺。
それら全てを見ている者は、セイバー達やアーチャーだけではない。
第三の勢力もまた、その戦いを見守っていた。
「……驚いた、という言葉は早計か……まさか、セイバーとアーチャーが、あのライダーを倒せるとはな。
いや、厳密には倒したとは言えないかもしれないが……まぁ、彼らのお陰で倒せたと言っても過言ではないか」
男は見下ろしながら、そう呟く。
口元の紫煙は風に流され、虚空に消えていく。
「ライダーの軍勢。いくらセイバーやアーチャーが強かろうと、数には勝てないと踏んでいたが……これは、嬉しい誤算と見るべきかな」
民間人の犠牲に怒りを感じ、街の被害を嫌うセイバーとアーチャー。
それらを一切気にせず、数の暴力を駆使するライダー。
どちらが有利かなど火を見るより明らか……だったが、予想は覆された。
男はそれに、驚きすら見せていない。
予想はあくまで予想。
それに、男にとってみればライダーが生き残らない方が都合が良かった。
我欲に忠実で、傲慢な王。
気分で敵味方を決めるその精神性は、御す事は可能だろうが、いつ起爆するか分からない爆弾を抱えるようなものだ。
対して、セイバーとアーチャー。
観察をしている限り、あの陣営のマスター達は基本的に善性が強いのだろう。
聖杯戦争という闘争の場で見れば弱いだろうが、伊地知的に共闘する相手としては、こちらの方が良いだろう。
少なくとも、後ろから刺してくるような性格ではないというだけでも、充分だ。
「目標を打破するまでは可能だろう。少なくとも遠目だけでは、判断が難しいな。
――そろそろ、接触を図るのも良いだろう」
白衣をはためかせ、男は踵を返す。
「どちらにしろ、見方はいるだろう
――あの、狂戦士を殺すならば名」
男の言葉は意味深に消えていく。
読んでいただきありがとうございます。
これにて、第三章完結になります。
これより、一か月の書き溜め期間を頂いてから、5月19日㈰の17時ごろに更新します。
次回も楽しんでいただければ幸いです。
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