Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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02 試練 B

 

 

 

 

 

 ――片や、その影は〝巨岩〟だ。

 

 赤茶げた甲殻は硬く、簡単な刃は通さないと言わんばかり。もはや、多糖類は通常の生命の強固さを超え、宛ら鉄鉱石そのものだ。

 

 姿を端的に表現するならば、巨大な二足歩行の〝蟹〟だろう。

 

 甲殻をはち切らんばかりに隆起する筋肉が見え、甲殻類特有の不気味な顔が、それでも人間のように歪んでいるようにも見える。

 

 ――片や、もう一方は〝百足〟だった。

 

 何本もの足とその背を守る甲殻は、硬さよりも鋭さを持っていた。

 濃い青の持ったそれは震わせるたびに空気を引き裂くような鋭利さがあり、こちらを睨みつけるそれは蟹とは違い、昆虫に近いような気がする。

 前者のような人間に近い形状をしていないが、その動き一つ一つに、普通の生命以上の知性を感じる。宛ら百の剣そのものだ。

 

 どう見ても、原生的な生命ではない。

 どう見ても、魔術的な異形そのもの。

 

 

 

 ――一瞬の様子見の後、即座に動き出したのは、巨岩の方だった。

 

 

 

「■■■■■■■‼」

 

 人間の形をしていながらも、声帯は用意されていなかったのだろう。甲殻類特有の、軋み上げるような叫び声と共に、それは勢いよく突進してくる。

 象や犀などの大型哺乳類の突進にも近い動きは、衝撃だけで言えば大型車両すら粉砕しかねない。

 

 それに最初に反応したのは、セイバーだった。

 

「よっ――っこいしょ‼」

 

 振りは大雑把。剣技に精通するセイバーとは思えない程の、粗雑な一撃。

 それでもその一撃は衝撃を殺し、巨大な陥没を生みながら巨体を押し留める。

 

「――うっそ~」

 

 セイバーは笑みを浮かべるが、それは余裕からくるものではなかった。

 ――セイバーの一撃は、衝撃を殺し、押し留めただけ(﹅﹅)だった。

 いくら宝具として使用していなかったとしても、その神秘性は強力だ。普通の兵器どころか、この世界にある魔術的ものであっても、いとも簡単に両断出来る。

 

 余程の神秘が内包されていない限り。

 

 つまり、神秘という点において、このキメラとセイバーの剣は少なくとも、互角だという事だ。

 

「――どけ、セイバー!」

 

 アーチャーは怒声を上げながら、矢を番える。

 彼の魔力放出で編まれた矢は、瞬時に弓の弦にかかる。

 

 ――しかし、放たれるよりも早く動く影があった。

 

「■■■■‼」

 

 刃を擦り合わせるような甲高い音が、アーチャーに迫る。

 

「ッ!」

 

 防御はたやすい。

 確かに鋭利であり、アーチャーに触れられるだけの神秘を有しているが、傷つける程でもない。

 

 しかし、防ぎ方が悪かった。

 衝撃を逃がす事を前提とした体勢で、彼はそのまま別方向へ吹き飛ばされる。

 

「ッ、アーチャー!」

 

 桜小路の叫びには、無事かという意味合いか籠っていたが、それに返事をする余裕がアーチャーにはなかった。

 

「ッ‼」

 

 即座に標準を巨岩から百足に切り替える。

 矢は即座に、何条もの光線となって放たれる。

 弓の弦を引く残像すら残さない早業は、それでも見た者に不快感を与える程の柔軟さで避けられる。

 

「――――――」

 

一瞬、迷う。

 

 アーチャーは尋常な弓兵ではない。

 弓を扱う英霊の中でも、上位に入る腕前を持っている。

 そんな彼が一度殺そうと思えば、現代の魔術に類するモノが避けられる筈もない。

 

 避けているからこそ、異常なのだ。

 傷一つ付かないのが、異常なのだ。

 

 その結果だけで、アーチャーは一つの結論に行きつく。

 

「……仕掛けがあるな」

 

 神代相当の魔術が働いているのか。

 あるいは宝具の影響下にあるのか。

 どちらにしろ、警戒の段階を上げざるを得ない。

 

「だどすれば……まずいな、」

 

 アーチャーは舌打ちをしながら、次の弓を番える。

 

 それが正しいとすれば、自分が吹き飛ばされたのは意図的だった。

 セイバーとアーチャーを一体ずつ、縛り付ける意図が見て取れるのだ。

 だとするならば、

 

 

 

 敵の狙いは、桜小路と衛宮藤汰(自分達のマスター)だ。

 

 

 

 

 

 

 

                    ◆

 

 

 

「……桜小路、あれは何だと思う?」

 

 自分は目を凝らして、戦い始めた敵を見据えながら訊く。

 

 魔術師……マスターでは、当然ないだろう。

 だが同時に英霊、サーヴァントとは到底思えない。

 

 宝具の副産物の可能性も否定できない。何せ、つい先日まで戦っていたライダーも眷属を召喚する類のサーヴァントだった。

 あんなのが複数いると思うとたまったものではないが、予想としては頭の隅に入れておくべきだろう。

 

 そんな自分の心配をよそに、桜小路は小さく首を振る。

 

「いいえ、気配から見て、英霊でも魔術師でもないでしょう。魔力のようなものは感じますが、そういう風に造られたと思えば自然です。

 ……自然ではありますが、不自然なくらいの魔力量です。感じ取れるだけでも、下手な魔術師より多い」

 

「自分達が、直接戦える可能性は?」

「ありません」

 

 自分の言葉は想像以上にバッサリと否定された。

 

「私が使える魔術は多い方でしょうけど、直接戦闘に使えるものは多くはありませんし、戦う訓練だって受けてません。

 衛宮君は、魔術すら覚束ないじゃないですか。戦える筈もありません」

 

「……辛辣だが、適格だな」

 

 ぐうの音も出ないというのは、こういう事を言うのかもしれない。

 つまり自分は、

 

「今回も、見ているしかないのか」

 

 

 

「いや、そうでもないよ、少年」

 

 

 

 闇の中からの声に、自分と桜小路は身構える。

 いつの間にか、影の中に紛れるように、しかしハッキリと人影が見えた。

 

 闇に溶け込むような全身黒の服装の上に、浮かび上がるように白衣を纏っている。

 掛けている眼鏡の位置を、少し神経質そうに直す所作は、科学者を思わせる。

 

 忘れる筈もない。見間違えようもない。

 

「――ふむ、その様子を見るに、憶えていてくれたようだね。

 それは何よりだ、ここで忘れられているならば相当僕自身の影が薄いのか、あるいは君の記憶能力を疑わなければいけなかったからね」

 

 酷く、場にそぐわない話し方だった。

 だからこそ、頭の隅で怖れが沸き上がる。

 何故いるのかどころか、何者なのかというのも含めて。

 

 目の前の白衣の男は、あまりにも異端だったから。

 

「……衛宮君、知り合いですか?」

 

 桜小路の口調は、警戒心を隠そうともしてない。

 すぐにでも、魔術を使って排除に出かねない。

 それを察してか、男は静かに手を翳す。まるで桜小路を制するように。

 

「勘弁してくれ。僕に直接的な戦闘能力は存在しない。君に攻撃されれば、反撃くらいは出来るだろうが、一矢報いる事すら出来ないだろう。

 ……ふむ、アーチャーのマスターに『一矢』報いる、か。こんな僕にもユーモアのセンスがあったとはね」

 

 どこか寒々しいといった雰囲気で、彼はその場に座り込む。

 

「改めてお願いだ。攻撃は勘弁してくれ。

 僕達の目的が果たされれば、君らにも利益がある。結果がどうなろうとも、な」

「――それは、私達のサーヴァントが倒されても、ですか?」

 

 圧を持った言葉に、男は何も気にしない。

 どこか達観したかのように、双方の戦いを見つめる。

 

 

 

「さて、そんな結果になるかは……戦いを見てからだな」

 

 

 

 

 







遅くなり申し訳ありませんでした。
楽しんでいただけたでしょうか。


来週はお休みをいただきますので、次回の更新は7/26㈰の17時頃になります。
よろしくお願いします。
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