Fete/Breaking Down   作:鮭漉 鎌太郎

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02 闇は寄り添う C

 

 

 

 

 

 心の奥底が掻き乱される。

 

 そんな経験は、自分にはあまりない事だった。

 これは美綴先生に言われた言葉のせいだろうか?

 それとも朝、慎二さんと口論になったせいだろうか?

 

 ――それとも、朝からずっと違和感を抱いているからなのだろうか。

 

 この生活は、まるで夢のようだ。

 世話を焼いてくれる保護者、仲の良い友人、声をかけてくれる同級生、見守ってくれる先生。

 一人でいる時にはとても感じられない、不思議な暖かさ。

 普通の有り触れたものなのかもしれないが、貴重なものだ。

 

 それを、貴重だと思う(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)事に違和感がある。

 

 自分にとってはこれが日常で、当たり前であるはずなのに。

 これが自分にとっての普通で、普遍なモノであるはずなのに。

 守るべき存在で、何にも代えがたい大切なモノであるはずなのに。

 

 

 

 何故か異常だ。

 何故か異物だ。

 何故か異様だ。

 

 

 

「……疲れているのかもしれない」

 

 夜道を歩く足を止めずに、自分は頭を振る。

 あり得ない事を考えているのは、きっと疲れているからだろう。なにせ昨晩は遅くまで作業に没頭していた。

 今日は、早めに寝た方が良いかもしれない。朝起きれば、慎二さんがまた来ているのだろう。ならば、どちらにしろ布団で寝ていなければ叱られる。

 そう思って横断歩道を歩き始めた時、眼の前の景色に一瞬、

 

「――っ」

 

 息を呑んだ。

 

 

 

 幼い少女が、そこにいた。

 

 

 

 街灯があるとはいえ、薄暗い宵闇の中にぽっかりと空いたように、髪も肌も服も、純白に染まっている少女が歩いてくる。

 その赤い目だけ、年格好に似合わず妖艶で、強い意志が宿っているように見える。

 寝巻なのだろうか、白いワンピースは、このような時期に着るには相応しくない装いだ。

 

 幻覚。

 

 もし自分が不可思議なモノに理解がなかったら、そう連想していたかもしれない。

 それぐらい、眼の前の少女は浮いている。

 

 

 

 物理的にではなく、概念的に――彼女は、世界から浮いている(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)

 

 

 

「………………」

 

 だからと言って自分が気にかける理由にはならない。

 そのまますれ違い、終わっていく。ただそれだけの筈だった。

 すれ違いざま、彼女が言葉を発するまでは。

 

 

 

 

 

「――喚び出したら死んじゃうよ、お兄さん」

 

 

 

 

 

「――っ!」

 

 聞いてから振り返るまで、三秒だって掛かっていないはずだった。

 ――そこにもう少女の姿はいない。

 本当に幽霊だったとでも言うように、向かいの道にもどこにも、彼女の姿はなかった。

 

「……なんなんだ、いったい」

 

 

 

 

 

心に、カリカリと爪を立てられた。

 

 

 

 

 

 




次話は明日の20時頃に更新します。
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