片田舎の剣聖の一番弟子 作:剣術太郎
特務騎士に任命され、更にオーシャンランクに上がって数年。道場を卒業してから、10年と少し経った。
あれから、騎士団の騎士たちと
頻度は減っているが、故郷に帰って、家族と過ごしたり、後輩たちの指導をしたり。
第二の人生を謳歌し、目標に向かって精進するアセム。
そして、別れもあったりする。
「やっぱり、冒険者を引退するんですね。ランドリドさん」
「あぁ、ギルドマスターにも、最後まで続けてくれないかと言われたよ」
バルトレーンの荷馬車の停車場。そこにアセムと、荷馬車に荷物を積み終えたランドリドがいた。
つい先日、ランドリドは依頼先で出会った女性『ファナリー』と交際の末、結婚。更に子供も生まれた。それに伴い、危険な冒険者も引退することも決めたのだ。
「俺と同じオーシャンランクに上がれると言われてたのに、少し残念です」
「いやいや、俺はアセムみたいにはなれないよ。むしろ、プラチナムが俺の限界だって気付けた」
「そうですか……」
それでもやはり、まだ共に冒険者として過ごしたかったアセムは、残念がる。
それを察して、彼の頭を撫でる。まだまだ未熟な弟を諭すように。
「もう一生会えない訳じゃない。ビデン村に帰れば会えるさ。先生と一緒に、土産話を期待してるよ」
「ランドリドさん……」
「あなた、そろそろ出発だそうよ」
そこに、スゥスゥ寝ている赤子を抱いているファナリーが、2人のもとに来た。
「あぁ、分かったよ」
「アセムくん。引っ越しの手伝いをしてくれて、ありがとうね」
「いえいえ。むしろビデン村までご同行出来なくて申し訳ありません」
「依頼があるんだろ。大丈夫、あとは俺に任せとけ」
そう。本当はビデン村まで行ってランドリド達の新居で荷下ろしも手伝うつもりだったが、ギルドから指名の依頼を受け、別の町のギルドへの届け物があるのだ。
「ファナリーさん、お元気で」
「アセムくん、色々ありがとう」
「ランドリドさん、奥さんの尻に敷かれないように」
「お前こそ、しっかり頑張れよ」
「チビすけも元気でな」
ファナリーの腕の中で寝ている赤子を撫で、アセムはランドリドたちと別れた。
隣町へと届け物を届け、今日はそのままその町の宿で一泊。
次の日、バルトレーンへと向かう馬車の護衛をしながら戻り、ギルドへ依頼完了の報告へと向かっていた。
「最近依頼ばっかしてるし、暫くは騎士団の訓練に顔を出そうかな……」
久々にアリューシアと稽古するのも悪くないと考えていた時、件の本人の姿が見えた。
街中で姿を見るなど珍しくない。警邏で見かけることはたまにある。
あるのだが、それよりも目を向けたのは
「なんで、師匠がバルトレーンに?」
ベリルSide
誰か助けてくれないかな〜
「先生、首都に来られたのなら是非冒険者ギルドの方にも寄ってください!私なら色々便宜を図れるし、何なら私が案内を――――」
「いえ先生はこれから私とともに街を見て回りますのでリサンデラの出番はありません。どうぞサッサと帰ってください」
「何だと!?先生は騎士団の特別指南役とやらになったのだろう?なら今後も顔を合わせるだろうがここは久々の再会を果たした私とだな――――」
「いいえ!先生は首都に来るのも久し振りで地理も把握されておりません。ここは首都に拠点を置く我ら騎士団が案内するのが筋というもの――――」
つい先日、久々に会いに来たアリューシアから突然騎士団の特別指南役として任命され。これまた久々にビデン村に帰って来たランドリドに親父が師範を任せ、俺に騎士団の方に専念するよう言ったのだ。
おかげで行き着く間もなく、この歳になって首都に移り住む事になった。
その宿探しの最中、約20年ぶりに元弟子で、現在ブラックランク冒険者のスレナと再会。
だと言うのに……何故かアリューシアとスレナが息継ぎ無しで口喧嘩し始めたのだ。
唯でさえ2人は美女で有名人、しかも街中でこう言い争ってたら注目を浴びる。
「(美女2人に挟まれながら、注目を浴びるのは、このおっさんにはキツイよ〜(╥﹏╥))」
そこに
ベシッ!ベシッ!
「「痛っ!?」」
突如2人の頭が剣の鞘で叩かれた。
油断してた事もあり、痛みに震える2人に
「アリューシアにスレナさん。騎士団長とブラックランク冒険者ともあろう人たちが街中で何やってんだ?自分たちの立場を自覚しなさい。いい歳した大人が」
「「うっ……」」
2人に説教をする1人の青年。
その姿は子供の頃から成長してはいるが、それでもハッキリと分かる。
おふくろが贈った羽織、左目の眼帯、そして腰に差してある剣の1本は、道場を卒業した者に渡す餞別の剣。
「何より師匠の前でみっともない。それでもベリル・ガーデナントの弟子か?」
「「うぐっ……」」
その一言でアリューシアとスレナががっくり項垂れる。
すると、青年……いや
「お久しぶりです。ベリル師匠」
「あぁ……元気でなによりだよ、アセム」
SideOut
街中で言い争いをしていたアリューシアとスレナ、その間でオロオロしていたベリルの3人を連れ、アセムは近くの飲食店に入った。
因みにアリューシアとスレナの奢りである。
注文した料理を待ちながら、経緯を聞いた。
「なるほど……師匠がレベリオ騎士団の特別指南役になって、しかもランドリドさんがビデン村に帰って来たから師範代を任せ、大師匠から嫁見つけてくるまで帰ってくるなと……」
「最後のは余計だけどね。まぁそんな事で、首都に移住する事になったから、アリューシアに手頃な宿を紹介してもらおうと思った時に、スレナと再会してね」
「前々から聞いてはいたが、まさか本当にシトラスも先生の弟子だったとはな」
「まったくです。こんな礼儀知らずなリサンデラも先生もお弟子だったとは」
「「あぁっ!?」」
向かい合って座る2人のぶつかる睨みで、間にいるベリルとアセムはとても居心地が悪かった。
「そ、そういえば!アセムはスレナとも面識はあるんだよね?同じ冒険者だし!」
とりあえず一旦話題を変えようとベリルがアセムに話しかける。
「そうですね。前はギルドで顔を見かける程度でしたが、ある一件で仲良くなりました」
「ある一件?」
ベリルの疑問に、アリューシアに睨みつけていたスレナが答えた。
「偶々互いの依頼で鉢合わせて、そこで私から彼に一勝負仕掛けたのです――――」
それは本当に偶然だった。
お互いに別々の依頼を受けていたのだが、偶々目的地が同じで、そこで鉢合わせたのだ。
しかしスレナの方がアセムを敵と勘違いをして、攻撃したのだ。
その場はアセムが応戦しながら事情を説明、誤解が解けたのだ。
「あの時は本当にすまなかったと、今でも反省している」
「そのまま後悔し続けられば良いのに……」
「なんだと?」
「いえ、別に〜?」
「止めろ2人とも、師匠の前で」
「「うっ……」」
「えっと……それから仲良くなったんだね?」
「えぇ。俺の剣の振るい方を見て、師匠の面影を感じたらしく、そこでスレナさんも師匠の弟子だと知ったんです」
「なるほど……意外と世間って狭いね〜」
そう言うベリルの前に、注文の料理が運ばれ、それを気に3人の料理も机のうえに並んだ。
なんとかこのまま料理を食べながら和やかにしようとするが、目の前の美女2人はそうはいかなかった。
「ところで先生!宿はギルド近くなどいかがでしょう?治安も良く、商店街も近い。なにより私にすぐ会え―――」
「待ちなさいリサンデラ。先生は今後騎士団庁舎へ通うのですよ?ギルド近くよりも、庁舎近くにある私の家の方が好都ご……便利ですよ」
「(アリューシア、今本音出かけてたな)」
相変わらずの同期の師匠大好きっぷりに、半分呆れ半分感服しながら、料理を口に放り込むアセム。
「貴様……調子に乗るのもいい加減にしろよ……」
「それはこちらの台詞ですよ」
「あ、あの〜…ここお店……(オロオロ)」
「はぁ~……ヤレヤレ」
ベリルが仲裁をしようとしても、2人の殺気はもう収まる事を知らず、勢いのままに剣を――――
「2人とも――――」
「やめろ―――」
「「っ!?」」
ベリルとアセムの一声で2人の血気が一気に冷え切った。いや、血気だけでなく、全身が凍えるような冷たく鋭い、そして静かな殺気。
それにより、2人は剣に伸ばした腕をすぐさま机の下に引っ込めた。
「えっとね……喧嘩はよくないな〜?ほら、せっかくの料理が冷めちゃうよ?」
「師匠、ここは酒も旨いんですよ。よくランドリドさんと飲みにも来ましたからね」
「酒か〜、まだお昼だし、宿も探さないといけないからな〜……」
さっきとは打って変わって和やかな雰囲気で会話をするベリルとアセム。
アリューシアとスレナも、この場は大人しくする事にした。
結局のところ、ベリルは騎士団庁舎やギルドとも少し離れているが、代わりに市場や鍛冶場に近く値段もそれなりな所を決めた。
「先生とのご近所計画が……(ಠಗಠ)」
最後にはアリューシアが何か言ってはいたが、特に気にしない事にした。
「みんな、今日はありがとうね」
「気にしないでください、師匠」
「「ムググ……」」
「えっと……2人とも仲良くね?」
「では先生!」
「失礼します!」
互いの顔を見て、フンッ!とそっぽを向きながら部屋を出たアリューシアとスレナ。残ったアセムも部屋を出ようとした時
「また強くなったんだね。村にも届いてたよ、『隻眼の剣豪』の話は」
「師匠に比べればまだまだ未熟もいいとこです。でも、道場に居た頃よりも成長したと自負してます」
「そのようだね……それに比べ俺は歳だけ取っちゃってね(笑)今更騎士団の指南役なんて、とても務まるとは思えないよ」
「いえ、師匠なら容易い事です。俺たち弟子一同、自信を持って言えます」
「……俺は、ホントに良い弟子たちに恵まれたよ。分かった、とりあえず明日から、頑張ってみるよ」
「じゃ、明日騎士団に見に行きますね」
「えっ!?それはちょっと恥ずかしいな〜」
そうして、アセムも宿を後にした。
「師匠が騎士団の特別指南役か……アリューシアも頑張ったな~。まさかホントにやるとは思わなかったけど」
アリューシアとスレナが宿を出たあと
「なぁシトラス」
「なんですリサンデラ」
「ベリル先生、また強くなられたな。再会して抱き着いた時、先生の筋肉が硬く、洗礼されていた」
「(羨ましい!)当然です。先生は鍛錬を決して欠かさず、向上する事を止めない。故に『片田舎の剣聖』は我々の遥か彼方にいる。そして、それに最も近い所にいるのは――――」
「隻眼の剣聖、アセム……食事処で感じたアイツの気配、まるでベリル先生が2人居るかと思った」
「えぇ……私も彼があそこまで至ってるとは思いませんでした……同時に、自分との格の違いも」
「あぁ……悔しいが、アイツこそがベリル先生の一番弟子だな」